表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

第12話:おじいちゃん魔王様

「ほれ、そんなに慌てずともよいぞ」


 結局、ルキアとルナのことも考えて基本的に老化のスキルを使うことにした。

 理由はいくつかあるが。


 老化のスキルというのはデバフの、じつは敵にかけるジャマー系のスキルなのだが。

 俺の場合は、色々と出力が尋常じゃないところがあるので、自分に対する枷としても使っている。

 いざというときに真の姿を見せて、「ふふふ、この姿で戦うのはいつぶりだろうな?」とかってやる訳じゃない。

 やる訳じゃない……

 たぶん。


 いま俺の前では、ルキアが水を汲んでいる。

 別に魔法で作り上げることもできるが、身体を鍛えるという意味も込めてルキアの仕事にした。

 水を汲む場所は、敷地の中に使った井戸だ。


 この水は主に、床の拭き掃除に使う。

 

「はいっ、このくらい平気です」


 さすが獣人の子供というか。

 大人でも辛いと思う作業を、楽々こなしている。

 もっと、厳しくした方が良いかな?


「ごしゅじんさま! こっちのおはなのみずやりおわりました」


 ルナにはじょうろを渡して、花壇の水やりを頼んでいる。

 花が好きなのか、とっても楽しそうだ。


「そうか、だったら今度は庭の掃き掃除じゃな」


 俺は浴衣を着て縁側に腰かけて、その様子を眺めてひがな一日過ごしている。

 いや、無為に時間を浪費しているわけじゃないぞ?


 これでも、リアハルド王国の情報を集めているんだ。

 現在進行形で。

 いまは遠見の魔法で、リアハルドにある魔法書を盗み見ている。

 開いて居るのは、俺が精神支配した使用人の一人だ。


 そういえば配下の召喚は出来なかった。

 いや、出来たとしても送り返せるかが不明だから、使う気は無かったけど。

 取りあえず魔王城周辺に居る白蛇でも呼んでみようかと思ったが、何かに阻害されて途中で魔法陣が霧散してしまった。

 宝物殿からは物が取れるのに。


 そう思って、何か無いかと手を突っ込むと誰かに掴まれる。


「うわっ!」


 慌てて手を引っこ抜くと、細い女性のような腕がついてくる。

 うん……俺の配下のアジ・ダハーカ的な蛇女だろう。

 このままにしておくと、なにかが釣れそうな気がしたので取りあえず摩擦係数が0になる魔法を腕にかけて蛇女を振り落とす。


「魔帝様!」


 声が聞こえた気がしたけど、すまんな。

 お前がこっちに来ると色々と問題が。

 そっちの世界に。

 主に女関係と言えばいいのか、雌関係と言えばいいのか。

 

 きっと、次から次へとやってくるのが目に見えている。

 意外と俺はもてたのだ。

 人外からは……

 特に姿形が、人から掛け離れれば掛け離れるほどに……

 嬉しいけど、少し辛い思い出だ。


「どうされましたか?」

「いや、ちょっと静電気がな」

 

 心配そうにこちらの様子を伺うルキアに、なんでもないと手を振ってこたえる。


「どれ、そろそろお昼にしようか」

「はいっ!」

「はいっ!」


 俺の言葉に、2人が元気よく返事をする。


 本来なら主と一緒の食卓は……なんて遠慮もあるはずだが。

 この子達は人に仕えた事が無い。

 だから、一緒に食事をとることに何の疑問も抱いていない。

 それで良い。


 流石に幼い子供達に「待て」を掛けて1人で食べるのは、色々と心が痛むし。

 普通の獣人の家庭のルールとして、家長が手を付けるまで食べてはいけないという程度のきまりはあったが。

 俺が一口食べて、良いぞと言えば2人とも食べ始める。

 最初は手づかみだったのを、フォークとスプーンを使う練習をさせ。

 いまではルキアは箸まで使える。


 亮と未来は俺が作ったサンドイッチを食べている頃かな?

 やっぱり俺の目から離れた未来が買い食いをして、すぐにヘルプ要請が来たのは良い思い出だ。


「お前は学習しないのか?」

「そろそろ身体がこの世界に馴染んだかなと思って……」

「僕は止めたんですけどね」


 淑女の尊厳がぁとかって言ってたが、一度盛大にやらかした方がこいつの為になるんじゃないかと思ったり。

 それはそれで、後処理が大変そうだと思ったので治してやるが。


「亮が早く、食中毒を治せるようになれば良いのに」

「まだ、食べるつもりなのか?」


 ほとほと、未来には呆れる。

 呆れるが……手のかかる子ほど可愛いというのは、本当だな。

 いや、亮が可愛くないわけじゃないぞ?


「気にしなくても良いですよ。行きずりで面倒を見て貰っている身ですし。田中さんには迷惑しか掛けてないですからね」


 うんうん……

 立派だ。

 ただ、亮からは迷惑を掛けられた記憶が殆どないな。

 森で迷子になった未来を追いかけて、うっかり食人植物に食われかけた時は焦ったが。

 あれは、光を放つ蝶々を追いかけて行った未来が原因だし。

 その蝶々も、人を森の奥に誘い込んで集団で襲い掛かる魔獣の尻尾だった訳だし。


 珍しい魔獣が見られたのは未来の手柄ととるべきか、亮の手柄ととるべきか。

 

 目の前の獣人の兄妹を見る。

 美味しそうにハンバーグを食べているのを見て、色々と癒される。

 気が付けば4人を養う事になってしまったが、この2人は色々と家の事を手伝ってくれるし。

 未来と亮も自立に向けて、努力しているところだ。

 1人でこんなところで生きていくことを考えれば、とてもありがたい存在だと思う。


 まあ1人だったら1人で、とっととこんな世界からおさらばしてるのだが。


「よく食べるな。わしのも食べるか?」

「いいの?」

「こら、ルナ!」


 あっという間にハンバーグを食べ終えたルナに、俺の皿に残ったハンバーグを渡す。

 遠慮なく受け取るルナに、ルキアが注意しているが気にすることはない。

 もしかしてルキアも食べたかったのか?


「お兄ちゃんにも分けてあげるんだよ」

「うん! ちょっとまってて」


 俺の言葉にルナが元気よく返事すると、俺があげたハンバーグをナイフで上手に切り分ける。

 少しだけ大きさに差が出てしまったが。


「こっち、あげる」

「俺は……はあ。ありがとう。でもこっちの小さい方でいいよ」


 一瞬遠慮しかけたルキアだったが、俺が楽しそうに見ているに気付いてひとつ溜息を吐くとルナが差し出したハンバーグをもらっていた。

 まあ、小さいうちはたくさん食べて、少しでも大きくならないとな。

 でも……あんまり早く大きくなってほしくないとも思ったり。

 親心は複雑なのだ。

 親じゃないけど。


 子供の成長を喜ばしく思いつつも、いつまでも可愛いままで居て欲しいという葛藤が。


 昼からはルキアに格闘術を教える。

 食後の運動に丁度いい。

 ルナはお昼寝タイムだ。

 食べたら眠くなるのは仕方ないことだと思う。

 特に小さい子ならなおさら。


「ほっほ、ルキアはなかなか筋が良い」

「ありがとうございます! はあ、はあ……でも、体力が全然」


 10分間ノンストップで、俺に攻撃を仕掛けさせている。

 当面の目標は俺に1撃当てること。

 かといって考えなしに突っ込んでくると、デコピンやしっぺで反撃している。

 

 初めて組手をしたときに、デコピンで吹き飛ばしてしまったのは良い思い出だ。

 空中で回転して上手に受け身を取ったあとで、おでこを押さえて転げ回っていたが。

 あれは、悪い事をしたと今でも思う。


 それが終わるとルキアに休憩を与え、ルナと遊ぶ。

 追いかけっこや、お絵かきなど。

 遊びながら色々なことを教えたり、身体を鍛えているのだが。


「キャハハハハハ! こっちこっち」

「ルナは早いなー。そのうち大陸で一番速くなるんじゃないか?」

「ほんと? だったら、もっとがんばる!」


 このくらいの子は、褒めて伸ばすのが大事だ。

 捕まえられるかどうかという距離を維持して、追いかけ続ける。

 それにしても、体力だけは無限にありそうなくらいに元気だ。

 楽しい。


 そして夕方になると未来と亮を迎えに行く。

 帰って来ると、亮とルキアが組手をする。 

 お互いの進捗状況を確かめるためだ。


 亮のポテンシャルは流石、異世界からの召喚賢者といったところか。

 ルキア相手に、上級者としての戦いが出来ている。

 指導をしながらの組手というか。


「軸がぶれてるよ」

「うわっと……はいっ!」


 蹴りを放ったルキアに対して、軽く腕の甲を当てるだけでバランスを崩させる。


「確かに速度の乗る蹴り方だけど、重心の配分が甘くて軸が少し蹴り足に引っ張られてるからバランスを崩しやすいんだと思うよ? もう少し踏み込みを強くしてみようか?」

「はいっ! もう一度お願いします」


 うん……賢者だからね。

 俺より説明が上手だと思うけど、賢い者と書いて賢者だから当然だよね?

 

 一方で未来はというと……


「待てー!」

「キャーーーー!」


 ひたすら、ルナを追いかけ続けている。

 魔法職なのに……

 一仕事終えて来たはずなのに。

 その体力はどこから?


「可愛い可愛い!」

「たすけて―」


 あっ、ルナが捕まった。

 未来が高速でルナに頬ずりして、本気で嫌がられているが。


「嫌よ嫌よも好きのうちよ」

「ちがう! ほっぺが、ほっぺがこげちゃう!」


 楽しそうで何より。

 うむ……夕飯の支度をしないとな。


***

「長!」

「うむ……なんだろうなあれ?」


 わしを呼びに来た若い衆の言いたいことは分かっている。

 突如森に現れた謎の建物。


 たまたま空を飛んでいる時に見掛けた。


 人の住んでいるであろう建物。


 だけど、住んでいるのは本当に人かあれ?


「どうされるので?」

「うむ……暫くは放置でよかろう」

「しかし!」

「くどいぞ? 何かをしている訳でもないし、放っておけと我は言った!」


 若い衆はあれだけ目立つ建物を作っておいて、わしに挨拶に来ないことを腹立たしく思っているのだろう。

 うむ、わしもそう思う。

 こちらだって、相当に目立つ山の上に居を構えているのに……


 中を覗こうと遠見のスキルを発動させたが……あっさりと、防がれた。

 竜のわしが使ったスキルがだ……


 なんだろうな?


 仕方なく相当に離れた場所から覗こうと、上空に飛び上がったのだが。

 目が合ったんだよなー。

 絶対に、見える距離じゃないんだけどなー……


 確かに目が合ったんだ……


「賢明な判断です。無暗に刺激する相手では無いかと」

「主もそう思うか」


 わしの右腕ともいえる、1000年を生きる竜が横に立って頷く。


「少しだけ中を見て見たくて、ウサギに意識を移して近づいたのですが……」

「ですが?」

「堂々と本来の姿で、正面から訪ねてこい。そしたら、もてなしてやるからと言われて、意識をここに残した身体まで吹き飛ばされました。」

「そうか……」

「そうです……」

「若い奴等が、勝手なことをしないと良いな」

「そうですね……」


 未だに納得のいかない様子で、不満を漏らしている若い竜を見る。

 あー……いつかあれ、突っ込んでいきそうだな。


 

明日の投稿分で、ストックが切れます(;'∀')

そして……本日未明に原稿を送ったので、採点待ち状態です(*´▽`*)

原稿作業からは解放(∩´∀`)∩


が、次はキャラクターシートを作らないといけないので、まだまだゆっくりできそうにありません(;´・ω・)

取り敢えず、明日の投稿の後は週一投稿で、ストックを溜めてまた毎日更新にしようかなと♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ