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第9話:子供達の服を買う魔王様

 結局俺が用意した怨念の鎧は、亮には受け入れて貰えなかった。

 前衛職の亮に是非と思ったのだが。


「いや、その鎧なんかウーウー言ってません?」


 気にするな。

 そういう仕様なんだ。


「しかも、苦悶の表情を浮かべた怨霊のようなものも浮かんでますし……沢山」


 だから、気にするなって。

 そういう仕様なんだから。


「しかも黒って……物凄くあれですよね?」


 あれって言うな。

 黒い鎧ってかっこいいと思うぞ?

 俺は着ないけど。


「私が着てあげても良いけど?」

「本当か? ちなみに、これを着ると毎晩悪夢にうなされるけど」

「やっぱり要らない」

「なんてものを、勧めて来てるんですか!」


 2人ともから不評だった。

 というか、なんで俺もこれを大事に保管してたんだろう?


 確か前の世界で居た部下が、こんな感じで怨霊を司る鎧を身に纏っててカッコいいと思ったんだっけ?

 その世界で一生懸命探して、ようやく見つけた逸品だったんだけどな。


 そういえばオリジナルの鎧に纏わりついていたのは、エインヘリヤルって言ってたっけ。

 しかもそいつに憑いてたんだよな。

 憑いてるとか言わないでくださいって言われたけど。


 怨霊と似たようなもんだろと言ったら、そいつらから非難轟々だった。

 異世界の常識なんか知らんよ。

 

 あの時はカッコいいと思ったんだけどな。


 ということで、取りあえず街で亮と未来の装備を整えることに。

 しようにも金がない。


 無ければ作れば良いじゃないか。


「それは、駄目だと思います」


 亮に止められた。

 魔法でチョチョイとコピーするだけなんだけど?


「錬金術どころの騒ぎじゃない」


 未来のテンションが上がってた。

 バレた時がシャレにならないと言われたので、正攻法で稼ぐことに。

 絶対にバレないと思うんだけどな。


「これ、いくらで買ってくれる?」


 ということで、ギルド推奨の武器屋へ。

 ボッタくり武器屋とは違うお店だった。

 やっぱり信用って大事だよね?


 冒険者ギルド御用達というだけで、売り上げはある程度確保できそうだし。

 まあ良い、まずは現金を手に入れないと。


「え? これ? これですか……」


 店主がいきなり難しい顔をして唸りだした。


「失礼ですが、これはどちらで?」

「家の蔵から持ってきたのじゃが」

「左様ですか」


 ちょっとまずかったかな?

 ルーンの刻まれた鉄の盾。


 ひっくり返して水を入れると、お湯になる逸品。

 なんに使えるかって?

 いや、身体洗ったり料理するのに重宝するかなって。


 前の世界でテンションあがって作ったんだっけ?

 あれ?

 なんで、こんなの作ったんだっけ?

 よく思い出せない。

 確か前の世界で。俺じゃない魔王が配下になった時に下賜する盾として。

 嫌がらせの一環だった。


「少し失礼しても」

「どうぞ、ゆっくり鑑定して良いですよ」

 

 店主が戻ってくる。


「えっと、凄いのかどうなのか判断に困る盾ですが、使い方次第ではとても有用ですね。戦闘の役には立ちそうにないですが」

「わしも、なんでそんなものがあるのか不思議に思っていたところじゃわい」


 店主も判断に困っているようだ。


「魔法の防具ですし、盾としての性能も悪くないですのでこのくらいで」


 そう言ってそろばんのようなものを見せてくる。

 ごめん、分からない。

 分からないけど、正直に分からないというのもダサい。


「それだけにしかならんか」

「ええ、使う人次第で価値は変動しますが、一般的に考えるとこのくらいが妥当かと。まあ珍しいものと考えて、もう少し頑張ってこの辺りで」


 店主がそろばんのようなものをパシパシと弾く。

 木の駒の位置が変わったのは分かるが、相変わらず値段は分からない。


「まあ、仕方あるまい。この子らには使えんし、それでよかろう」

「有難うございます」


 店主の表情は微妙だ。

 ホッとしたような表情でもあるが、取り扱いに困ったなという感情が滲み出ている。

 悪い人では無さそうだ。

 

「うむ」

 

 えっ?

 マジで?

 こんなにくれんの?

 

 なんとか平静を装って受け取ったが。

 店主が用意したのは金貨で15枚。

 150万円……じゃなくて150万カネル。


 おおおおお!

 やべー!

 すげー金持ちじゃん!


「すごっ!」


 未来が横で声をあげているのを、片方の眉だけ上げてはしゃぐなと合図する。

 おじいちゃんっぽいだろう?


 店主も微笑ましそうに見ている。


「それでじゃな、このお金でこの子らに装備を見繕って欲しいのじゃが」

「なるほど、お孫さんへのプレゼントの為の資金稼ぎでしたか」

「まあ、そのようなもんじゃ」


 店主がうんうんと頷いているが。

 俺の持ち物で良ければ、いくらでも用意出来るんだけど。

 この世界のものを使った方が、最初は目立たないかなと。


「わざわざ買いそろえなくともお客様の倉庫に、良い物がまだまだ眠ってそうですけどね」


 なかなか鋭い。

 敢えて、反応はしないけど。


「せっかくの初めての装備なのじゃから、新品が良いかと思ってのう」

「なるほど、初めての装備にうちを選んで頂けるとは、大変光栄ですな。ちなみに2人の職業をお聞きしても?」

「うむ、男の子の方が剣士で、女の子の方が魔法使いじゃな」


 俺の言葉に、亮と未来が頷く。

 

「なるほどなるほど。まだ2人とも初心者のように見受けられますし、ここは予算全部使い切らずにまずは2人に見合ったものから選びましょうか」


 先ほどから亮がフルアーマーを見ているが、正直それはオススメしないかな?

 重たいし。

 動くとカチャカチャ五月蠅いし。

 どこにいるか目が見えなくても分かるから、冒険には向かないんじゃないかな?

 何より暑いし、蒸れるだろう。

 憧れるのは分かるけど。


 憧れる対象も、やっぱり普通の男の子だな。


 未来は……お前魔法使いだって教えたよな?

 なんで、ビキニアーマーなんか見てるんだ?


「なるほど、アンダーガードですね。確かにローブの下に着こむ方はいらっしゃいますね」


 ですよね?

 流石に、これだけを着て戦闘したりとかしないですよね?


「ええ? こんなのローブの下に着てる人居るんですか? しかもかなり面積少ないですよね? ローブの下がほぼ下着姿って」

「五月蠅いぞ」

「痛い」


 うわぁ! うわぁ! と言いながら頬を染めてはしゃぐ未来の頭を軽く叩く。


「勿論、薄手の服の上から着て、さらにローブを纏うものですよ? 流石に肌に直接それを身につけられる方はいらっしゃらないかと……金属部もあるので、擦れると痛いですし」

「ですよね」


 ですよね。

 うん……ちょっと、異世界だからって馬鹿にしてた。

 だって、前の世界で普通にそんなふうな鎧着た女剣士に襲われたことあるし。

 

 残念とかって思ってないからな。

 もしかしたらとかなんて、思ってないから。


「じゃあ、こちらとこちらでどうでしょうか?」

「うん、良いと思います」


 ちょっとだけ残念そうな表情を浮かべたが、すぐに納得した笑みを浮かべる亮。

 確かに全身鎧は、よくよく考えたら無理だと思ったのだろう。

 レベル的には動けると思うが、わざわざ敏捷を落とすのもな。


 店主が持ってきたのは、鉄のプレートメイルだ。

 胸当てと腰当のみのタイプ。

 それとは別に皮のガントレットと、皮のレガード。

 

「どちらかというとスピードタイプのように見受けられましたので、動きを阻害しないものから選んでます。金属鎧が重たいようでしたら、全て皮で揃えても良いかもしれませんが」


 店主が言うには、皮は手入れが少し大変らしい。

 かといって、鉄製品は強いダメージを受けて変形したりすると、見た目が悪くなるのでまだ皮の方が見た目に拘る新人には良いとのこと。


 大事な部分は出来れば金属で覆っておいた方が生存率はグッと上がると説明を受けた。

 当然亮はそれを身に着けても普通に動けたので、店主が持ってきたものを購入。


 剣は両刃のショートソードだ。

 ショートソードと聞いた亮が、一瞬えって顔をしていたが剣を見てホッとしていた。

 たぶんだが、ショートソードだから短剣というかナイフ以上剣未満の物をイメージしたのだろう。

 ショートソードは立派な剣だ。


 ロングソードに対して短いからショートソードで、ロングソードが歴史に出てくるまでは普通のソードだったんだってさ。

 ちなみにロングソードは馬上から敵に届かせるためのものや、両手で扱うものを指すんだぞ。

 と亮に説明してやる。


 キラキラとした視線が、気持ち良い。


 未来には皮のローブが……


「可愛くない」

「まあ、戦いに使うものですし。そこに、可愛さは必要無いですよ?」

「でも、可愛くない」


 子供か。

 子供だった。

 店主が言い聞かせるように見た目よりも、命が大事だと伝えているが。

 どうも納得がいかないらしい。


「少し値が張って、新人さんが纏うようなものじゃないですが……」


 渋々店主が他のローブを持ってくる。

 今度のは、布製。


「値段はその皮のローブの10倍ですが、防御性能はそれと一緒ですよ?」

「うーん、こっちが良い」


 人の金だと思ってこいつは。

 素材の頑丈さをあげる魔法が施されているらしい。

 効果は微増。


 厚手の布のローブだが、皮と同等の防御力があるとか。

 一応普通に水洗いというか、洗濯も出来ると。

 見た目は濃い水色だ。

 襟元と裾に刺繍が施されていて、確かにファッション的要素が高そうだ。

 

「でもお高いんでしょ?」


 人の話を聞いてたか?

 店主がその皮のローブの10倍の値段だって言ってだろう? 

 皮のローブが5万カネルだから、50万カネルだぞ?


 まあ、亮のプレートアーマーが11万カネルで、ガントレットとレガードがセットで2万カネルだったからどれだけ高いかが良く分かる。

 

「杖は旦那さんが勧めてくれたものを買うのじゃぞ?」

「やっぱり同じ孫でも、おじいちゃんからしたら女の子の方が可愛いですか?」


 孫のおねだりにあっさりと許可を出した俺に、店主がニコニコと尋ねてくるが。

 まあ、孫じゃないんだけどな。

 ちなみに、どっちも可愛いもんだけどさ。


 50万もする買い物をポンと許可すれば、店主の機嫌もよくなるってもんか。


「杖はこちらのもので、まあ補助的なものですし」

「なんか、魔法の木とかってわけじゃないんだ」

「やはりある程度は耐久性が無いと」


 鉄のロッドに魔石のようなものが嵌められたものだったが、こっちはちょっとだけ不満があったみたいだけど素直に決めていた。


 ちなみに亮の剣は8万カネルで、未来のロッドは12万カネル。

 魔石の加工分、少しだけ値段が高いらしい。

 魔法使いってのは、金が掛かる職業っぽいな。


 全部で83万カネルだったが、80万カネルまで安くしてくれた。

 ちなみにヘルムは、亮は嫌がったので買ってない。 

 頭の守りも大事なんだぞと言ったが、そもそも帽子みたいな頭にかぶるものが苦手なんだと。

 それなら仕方ないか。


 いっぱいお金が余ったが、取り敢えず何かあったときのために残しておくことにした。

 これで、冒険に出る準備は整ったな。

 

 もう少しだけ、家に帰ってスライムでレベル上げとこうか?





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