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プロローグ:巻き込まれ召喚された魔王様

ひっそりと、新作を投稿

「よくぞ、参られた勇者様方……よ?」


 目の前ででっぷりとしたいかにもな王様が、こっちを見て首を傾げている。

 醜い。

 そのたるみ切った腹も。

 豪華に彩られたこの無駄にゴテゴテした部屋も。

 その身につけられた、装飾品の数々も。


 贅を尽くした生活を送っていることが、この場にある様々な物から見て取れる。

 目の前の王の傍に仕える神官風の男達や、王の横に同じように着飾った王女達が唖然とした様子でこっちを眺めている。

 こっち見るなと言ってやりたい。

 アホが雁首並べて、片っ端から頭をハリセンで叩いてやりたい顔してる。


 ふと横に目を向ければ、こちらは懐かしい恰好をした子供が。

 日本の高校生を彷彿させる制服に身を包んだ少年と少女だ。

 その瞳はどこから虚ろ気で、はっきりとした意識を持っていないことが分かる。


 先の豚の言葉と照らし合わせるに、これはあれだな……

 異世界勇者召喚ってやつだな!

 勇者?

 どっちが?

 どっちも、そんなにハイスペックな印象を受けないが。

 

 というか……よりにもよって異世界勇者召喚に巻き込まれ召喚かぁ。

 溜息が出る。


 ただでさえ異世界転生で他の世界で魔人として生まれ変わったことで、散々苦労してきたのに。

 いきなり俺を召喚した魔王を倒したせいで、その世界で魔王をやる羽目になったし。

 最終的には大魔王とかってのをボコボコにしたあげく、創造神との戦争にまで駆り出されてようやく落ち着いたから日本にちょっと行ってみようと次元の狭間に飛び込んだら。

 まさかの、勇者召喚に巻き込まれるとは。

 トホホだ。

 

 てか勇者召喚に巻き込まれたのが、魔王で魔神ってどうなんだろうね?

 そりゃ、みんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になるわな。

 知らんがな。

 そんな迷惑な事をする奴等の都合なんて。

 なんでこんな羽目に……


 取りあえず目の前のアホ共を無視して俺を……俺達を召喚したであろう魔法陣に視線を送る。

 鑑定のスキルを使って読み解くに、異世界と繋がる門を開く魔法陣。

 それに強制的に人を攫って来る式も組み込まれている。

 

 何故異世界を渡ると強力なスキルや魔法の適性が得られるのかも、魔法陣を見ればよくわかる。

 肉体を一度完全にバラバラにしたあとで再構築する際に、この世界に必要なスキルやジョブ適性が与えられるのだろう。

 元々あった適正に、この世界で産まれた時に得ることが出来る職業やスキルを強制的に割り当てる魔法陣。

 

 これによって、召喚者は勇者や賢者、聖女などといった特級のジョブを得られるのか。

 元がジョブも適正ももっていない空っぽの肉体だ。

 ある程度は融通が利くのだろう。

 魔法陣自体は本来ならこの世界の人が誕生とともに得られるはずの、そういった適正を後天的に付与する魔法陣か。

 

 魔法陣の上で出産すればいいだろうにと思わなくもないが、そうもいかない事情があるのだろう。

 色々と憶測は出来るが、どれも予想の域を出ない。


 何よりも、外側に描かれた魔法陣が特にいただけない。

 意識を混濁させる効果のある魔法陣。

 それに加えて、部屋の中で先ほどから匂う鼻をつく甘ったるい香り。

 これで、本人の意思を一時的に封じているんだろうな。


 王の横に控えた従者の持つお盆の上には、腕輪がいくつかある。

 そちらにも鑑定を使うと、隷属の腕輪という結果が出た。


 どうやら、これは完全にアウトだな。

 このタイプの勇者召喚は、メインの召喚者と一緒に巻き込まれたおっさんや、冴えないたまたま居合わせた同じ学校の生徒がユニークスキルを駆使してハチャメチャにするような感じの展開がお約束かな?

 ……ちょっと待て。

 それって俺のことか?

 巻き込まれたの俺だし。

 

 思わず額を押さえる。 

 けど、俺は異世界に関する知識や経験は相当に積んでいる。 

 それこそ1000年近く。

 だから、わざわざこんな茶番に付き合う事も……隣の少年少女を見る。

 かといって、子供を見捨てるのも後味悪いし。


「はぁぁぁぁ……」

 

 簡単にままならない状況に盛大にため息が出る。

 仕方がない……

 こいつ等も連れて帰る方法を探すしかないかな?

 なければ、せめてこいつらがここで生活できるような基盤くらいは用意してやるべきか。

 大人として、そして異世界の先輩として面倒見てやろう。

 

 まずは、この状況から脱するか。

 チラリと周囲の人たちに目を向ける。

 目の合った連中がビクッと肩を震わせる。

 そんなビビらなくても。


「ま……魔族?」

「何故、魔族がここに!」


 ようやく動き始めた人間共が、俺の正体に気付いて慌て始める。

 騎士達に庇われるように後ろに下がる王と王妃。

 

「お! お前ら、そいつを殺せ!」

「ひいっ、陛下! 早く逃げないと!」


 王が騎士に命令を下し、王妃が王の袖を引っ張ってその場から離れるように促す。

 醜い。

 本当に醜い連中だ。


 だが、俺が召喚されたのは本当に僥倖だった。

 罪の無い子供達を、こんな血生臭い世界で戦いに身を落とさせずに済んだわけだし。

 いやまだ目的聞いてないけど。

 おそらく魔王を倒せーとか、敵国を倒せーみたいな感じだと勝手に予想。

 独断と偏見で。

 

 取りあえず送還の魔法陣は無さそうだが、ここにある召喚の魔法陣を基に再構築できるかな?

 無理だな。

 鑑定で魔法陣の効果は分かるが、法則がさっぱり分からない。

 俺が転生した世界とも、どうやら仕組みが違うっぽい。 

 なら、俺の世界の魔法で……転送魔法というか、異世界を渡る魔法は結局見つからなかったんだよね。

 だからわざわざ次元の狭間なんかに飛び込んで、サーチのスキルでそこから知り合いの気配を探して地球というか日本への道を辿ろうと思ったわけで。

 普通の人間のこの子らが次元の狭間なんかに飛び込んだら、身体が粉々になるだろうし。

 結界でどうにか出来る保証も無いし。 

 となると、元居た場所に渡る魔法を探すしか無いか。

 

 可能性として俺が来た世界に連れて行くことが出来れば、あそこなら他の日本人もいるしここよりはましだと思う。

 ただ、世界渡りが出来るかどうかが、まず不明だ。

 最悪は申し訳ないが、ここで一生を終える覚悟をしてもらえれば、俺一人なら移動は可能だと思う。


 という訳で、まずは……


 風を操って部屋に充満する匂いを全て吹き飛ばす。


「ひいっ!」

「なっ!」


 荒れ狂う暴風を前に、王とその配下達が壁際まで吹き飛ばされる。

 だらしない恰好であちこちに変なポーズで転がっている王族を見て、ちょっと笑える。


 次に魔力を解放して、魔法陣を全て消し飛ばす。


「なっ! 王家に伝わる儀式の魔法陣が!」

「そんなっ!」


 どうやら床に直接描き込まれているらしく、魔法陣が消え去ったことで神官と王が目に見えて狼狽している。

 今回の為に作ったのではなく、大切に昔から保管してきたものなのだろう。

 再現できるかどうかは知らないが、再現できないと良いな。

 そしたら、今後のこの世界に召喚される可哀想な人は出てこないだろうし。

 

「こっ……ここは?」

「一体、何が?」


 魔法陣と匂いが消え去ったことで、子供達が意識を取り戻す。

 まだ混乱しているようだが、取りあえず説明はあとにしてまずはこの子達を連れてこの場から離れるか。


 元居た世界に渡るための転移陣を創り出すが、すぐに消え去る。

 やはり、何かの阻害を受けるようだ。

 面倒なことになった。

 まあ良い。


「大人しくしてろよ」

「えっ? 角? きゃっ!」

「化物! ミライに何を、えっ?」


 俺の存在に気付いた子供達が悲鳴をあげているが、無視して両手で抱きかかえるとこの世界の適当な場所に転移する。

 この世界の中での転移なら、問題は無いと。

 ただ、世界を隔てるような転移は無理……

 もしかしたら宇宙にまで飛びだせば、元の世界に転移できたりしないかな?

 一人でやってみて、戻って来られないのも困るけど。

 やっぱり、暫くはこの世界で様子見かな?


あっ、小生の作品の左手で吸収した者を右手で出す物語が書籍化決定しました!

詳細は、追って報告致しますm(__)m

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