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【80】ポンザレ、ゲトロドの街に着く



「えっと…『メダルを握って“見えなくなれ!”と念じる』

『十数える間だけ!』『一日に一回だけ!』ですよね。」


ポンザレが、口をもぐもぐとさせながら確認する。


「そうです。ポンザレ。それだけを覚えておきなさい。」


「ポンザレ、ちゃんと覚えておかないと、結局あんたが

困ることになるんだからねーっ!」


「なるほど…。こうやってポンザレに教えているのか。

フフッ…、これはおもしろい。」



エルノアが優しくポンザレに何度も教え込む左右で、

ニルトとウィルマがそれぞれの反応を見せる。

青い小鳥のスティラは、ぶつぶつと呟くポンザレの

頭の上で、楽しそうに体を左右に揺らしている。



「ポンザレ、メダルは、あなたが持っていてもいいですし、

誰かに渡してもいいでしょう。」


「はいー、なんだかよくわかりませんが、わかりましたー。」


その後、別れの挨拶をすますと、ポンザレの姿は

光の粒子となって、白い空間に消えていった。






この世のどこにもなく、どこかにある白い空間。

〔魔器〕達の世界。


ポンザレが消えた後、銀色の髪を揺らしながらエルノアは、

改めて仲間の〔魔器〕達と話をしていた。


「先日、ポンザレが仲間の治療をしたときのことは、覚えていますか?」


「うん、覚えているよーっ!」


紫色の瞳を輝かせ、サソリ針のニルトが大げさに頷く。


「あのような…、ポンザレが私から魔力を引き出すとき、

彼の意識はいつも曖昧で、私との会話は、

私から伝えるのみでした。」


「それで…?」


「ですが、先日、ポンザレは、その曖昧な状態のままで私と会話をしました。」


「それは…この私達の世界だけでなく、ポンザレの世界で

私達〔魔器〕との会話ができるようになるということなのだろうか?」



〔魔器〕達と、この白い空間で会っていることを、

現実世界のポンザレは一切覚えていない。



ポンザレ、そしてザーグ達は幾つもの〔魔器〕を保持しているが、

本来、〔魔器〕は非常に珍しいもので、滅多に世に出回ることはない。

高名な冒険者が遺跡調査などで奇跡的な確率で見つけるか、

それを大富豪や領主が高い金を出して買うのみだ。


そうやって〔魔器〕を手に入れた人間は、強力な武器防具、

便利な道具として、時には投機の対象として扱うが、

まさか自分の手に持つ〔魔器〕に意思があるとは、夢にも思っていない。

〔魔器〕と話したという噂や記録もない上に、

そもそも使う人間も極端に少ないからだ。


「あの…、ポンザレがあたし達と話せるようになったら…、

あたし達は、使ってもらえなくなっちゃうのかな!?」


そして人間と話ができることに、〔魔器〕の側でも不安を感じていた。

〔魔器〕達は、武器や道具であるため、その力を使うことに、

自身の意義があると考えている。その道具に意思があると分かったとき、

人間がどのように自分達を扱うのかがわからないのだ。


「ポンザレ、気持ち悪いですーとか言って…、

あたし達を捨てちゃうかな?」


ニルトが顔をゆがませる。


「エルノア殿はどう考えておられる?

ポンザレが我らのことを覚えていられるようになったとき、

彼はどうするのだろうか?」


全身灰色の少女、毛皮の襟巻の〔魔器〕ウィルマが、

エルノアに問いかける。いつもと変わらぬ口調だが、

その頭から生えた三角の獣耳が元気なさげに

ぺたりと伏せっている。


「私は、長い間、人の世を流れてきました。多くの、本当に多くの人間を

見てきました。確かにニルトの言う通り、普通の人間であれば、

〔魔器〕に意思があると知ったとき、…私達に恐れをなしたり、

気味悪いと感じて、使うことを止め、捨てたり、売り払うこともあるでしょう。

…それ以外にも、私達〔魔器〕を研究しようとする人間が現れ、

わずらわしいことになる可能性もあります。ですが…。」


「…。」


「ポンザレに関しては、そこまで心配しなくていいように思うのです。

一つ不安があるとすれば…」


「あるとすれば?」


エルノアは、フフッと微笑みながら言った。


「いらぬ気遣いをしそうだなと…思うのです。」


「あぁ…。…クックック、それは…、わかる気がする。

ポンザレは変に気を使いそうだ。」


「あたしも、わかる!『大丈夫ですかー?いけそうですかー?

無理なら大丈夫ですー』とか言っておろおろしそう。

いいから使えーって叫んじゃいそう!」



三人はその様子を思い浮かべ、笑いあう。

小鳥のスティラも楽しそうにピーピピと周囲を飛び回る。


「とはいえ…、ポンザレが来たときは、あまり現実の世界を

示唆するような話はしないように、するとしても先ほどの〔魔器〕のメダルの

話のように最低限にして、しばらく様子を見ましょう。」


「はい、わかりましたー!」


「あぁ、心得た。」


「ピピーッ!」






そんな話を〔魔器〕達がしているとはつゆ知らず、

ポンザレはザーグ達と、焚火を囲んでいた。


ザーグが、懐から銀色の鎖の首飾りを取り出す。

やや黒ずんだ銀色の鎖に、幾何学的な模様が掘られた

円形のメダルがついている、どこにでもあるような首飾りだ。

だが、一度見たら目を離せなくなるような不思議な雰囲気は、

それが〔魔器〕であることを示している。



「おう、そうだ、ポンザレ、このメダルの使い方と効果を調べてくれ。」


「はい!それは、『メダルを握って“見えなくなれ!”と念じる』

『十数える間だけ!』『一日に一回だけ!』ですー!

…あれっ!?」


「ん?使い方知っていたのか?」


「いえ、おいら、それ見たら自然に出てきましたー!」


「なんだ、それ。しかし、お前は…相変わらず便利なやつだな。」


ザーグが笑いながら、手に持ったメダルを

焚火にあてて反射する光を見ている

その首飾りは、ミラが倒した『汚泥の輩』の暗殺者から回収した〔魔器〕だった。


暗殺者のもう一つの装備、羽織ると透明になるマントは、

ミラがマントごと短剣を突き刺して破れてしまったため、

その効果は失われていた。念のためと、すでに焚火にくべて

焼却している。それ以外に暗殺者が持っていたのは、どれだけ拭いても

毒がにじみ出てくる短剣だったが、取り扱いに注意が必要なため、

鞘ごと油紙と布で何重にも巻いて荷物の中にある。


「ミラさんの話ですと、眼帯で見ていた相手の暗殺者の姿も、

急に消えたと言ってましたー。肉眼の方では透明のマントで

もともと見えなかったですから、たぶん、その首飾りは、

相手から自分を見えなくするようなものなんだと思いますー。」


「ん?透明のマントの上に、この首飾りでさらに透明になった?

意味が分からねえぞ。」


「ザーグさん、ちょっと貸してくださいー。」


首飾りを受け取ったポンザレがメダルの部分を軽く握って目を閉じる。


「うぉ!?なんだっ!?」


ザーグを始め、マルトーもニコも眉間にしわをよせながら、

目を細めてポンザレを見る。いや、見ようとしていた。

ザーグ達の目には、すぐ目の前にいるポンザレが、

突然意識から消えるような感覚を覚えた。

そこにいるにも関わらず、精神をかなり集中させないと、いることを認識できない。

ゆっくり十数えるほどの時間が過ぎて、

ポンザレが急にはっきりと認識できるようになった。


「あぁ、なるほどな。納得した。透明のマントは、姿は隠せても

気配までは消せないが、この首飾りがあると完全に消え去ることができると。

あの暗殺者の女が、多くの人間を殺せてきた理由がわかった。

…ミラが手を焼くわけだ。」


「本当に、すごい効果だねぇ。戦いの最中にこんなもん使われたら、

どんな手練れでも簡単にやられちまうよ。」


「だが、メダルを触る予備動作が必要なのが、面倒くさいな。

…ポンザレ、なんとかできないか?」


「おいらには、わからないですー。っていうか、おいらには無理ですーっ。」


「いくら何でもそこまで便利じゃねえか。むくれるな、ポンザレ、冗談だ。

ポンザレ、これはお前以外にも使えるのか?」


「なんとなくですが、誰でも使えそうな気がしますー。でも『一日一回』

になるので、明日また試してみるしかないと思いますー。」



「じゃあ、明日以降で皆で試してみるか。」



その後、三日かけて効果を試した結果、

首飾りは、パーティの情報収集・諜報・折衝役となっている

ニコが所持することになった。


ザーグは「戦いの最中にメダルを使うには隙があり、

手練れ相手にはそこまで通用しないだろう」と言い、

マルトーは「弓は両手がふさがるからね。かえって使いづらいよ」

と言い辞退した。そしてメンバーの生存率をあげる意味でも、

ニコに持たせることに賛成だった。


「じゃあ、私が預かりますが、皆さんが必要になるときは、

すぐ言ってくださいね。」


そう言って、ニコは首飾りを受け取って首にかけた。

メダルは服の内側に入れて、「ありがとうございます」と笑った。


同時に、暗殺者の持っていた毒の短剣もニコに渡された。


「うーん私は短剣使いですが、毒付きは遠慮しますね。

毒は扱いが難しいんです。戦いの最中に自分を傷つける可能性もありますし。」


「俺のもつ毒抜きの指輪しながらだったら、どうだ?」


「ん~、ザーグさんの毒抜きの指輪は、あくまで防御のためのものです。

それこそ、先日のインフォレの街のときのように。なので、この短剣と

セットで使う…私が毒抜きの指輪を持つというのは、

やめた方がいいと思いますねー。」


「あれ?でも、暗殺者の人って、毒抜きの〔魔器〕みたいのは

持っていませんでしたけど…大丈夫だったんでしょうかー?」


「確かにな…もしかすると短剣の所持者には効かないとかあるのかもな。」


「じゃあ、ニコさんも使えるかもですね。」


「うーん、そうかもですけど…、ポン君、私はやっぱり毒なしでいきますね。

ぶっちゃけて言うと…、昔、お頭に言われて、毒つきの短剣で

練習してたこともあるんです。そのときに、自分を傷つけて、

しんどい目にあって以来、どうしても苦手なんです。ヘヘッ。」


「あぁ、それわかります…。おいらもザーグさんや皆に、

痺れ薬や毒の効果を自分で確かめろってやられた記憶があります…。」


ポンザレは駆け出しの冒険者時代に受けた、ザーグ達の訓練を思い出し

遠い目になった。


「そのあと、ろくに動かない手足を無理やり動かして、毒消しを自分で

調合して、自分で飲んで、動けるようになるまで待って…それを違う種類の毒で

何度も、何度も…」


光を失った目でぶつぶつ呟くポンザレに、ザーグとマルトーは目をそらした。


「と、とりあえず、私の荷物の中には入れておきますね。

これも必要なときは言ってくださいね。」


そう言ってニコはぐるぐる巻きにされた短剣を預かり、

荷物の中に仕舞い込んだ。





翌日、ザーグ達はゲトロドの街に着いた。

川と森に隣接して作られたゲトロドの街は、

丸太を組んで作られた城壁で囲まれており、その佇まいは

ポンザレ達の街ゲトブリバに非常によく似ていた。


一瞬、帰ってきたかのような錯覚に襲われて

ポンザレの目に涙が浮かびかける。


なんとなく、シュンとした気分のまま、ポンザレ達は、

城門から伸びた旅人や商人達の列に並ぶ。


「思ったよりも、並んでいる連中が少ないな。」


「インフォレの街が疫病かもって噂が流れていたからねえ。

解決はしたけど、まだ影響があるんだろうさ。」


「最近は物騒なので、ここだけでなく、どこの街の人も

街を出ようとしませんでしたからねー。でも、これからは並ぶ人も増えて、

もとに戻っていきますよ。」


「なんでだ?」


「え、だって、私達がその原因を取り除いていっているじゃないですか?

まぁ、頑張ってるのは私以外の皆さんですけど。」


「えっと…おいら達がしたのって…。」


「まず、荒れに荒れたゲトブシーの街の犯罪者ギルドの頭と幹部を

結果的につぶしましたねー。次にグラゾーの街の街道を荒らしていた

四ツ目の魔物を退治しました。今思えば、グラゾーのギルドにでも行っていれば、

報奨金もらえていたかもしれないですねー。そしてインフォレの街で、

例の泉の毒を抜いて…ここ最近の物騒の原因を、解決していますね。」


「そうか。正直、『汚泥の輩』のことだけ追っていたから、

あまり考えていなかったが…そうか。」


「ハハッ、街がまた活気あふれるようになっていくのは、何よりさね。」


「おいら、なんだか皆さんと一緒にいるのが誇らしいですーっ!」


「うるせぇ、恥ずかしいからやめろ。」


「ポンザレも。ニコも。皆で一緒に苦労してるんだ。

あんた達だけ他人事みたいな顔したら、蹴り飛ばすよ!」



皆でわいわいと話を続けていると、あっという間に順番がくる。

ニコが前に進み出て、とある大商店の若旦那ポンザレとその護衛であり、

行商と社会勉強を兼ねての来訪だと、衛兵に告げる。


その時、衛兵達の奥にいた、黒い服を着込んだ初老の男が、

ザーグ達の前に進み出て、上半身をきれいに曲げて礼をした。

足運び、動きから、ある程度腕が立つことがわかる。

それでいて所作に粗野な様子もないことから冒険者上がりの人間などではなく、

幼少の頃より、何かの専門教育を受けた人物であることがわかる。



「失礼いたします。ゲトブリバの街のザーグ様でよろしいですね?

私はこのゲトロドの領主アルゴシアスに仕えておりますハルファルと申します。

領主より来訪の際は、館にご案内するように仰せつかっております。

どうぞ、そのままおいでくださいますよう、よろしくお願いいたします。」


   



長らく更新が滞っておりましてすみません。

知人の依頼で、ダブルワークしておりまして

少しポンザレから離れてしまっておりました。


ワークがダブるな状況がまだ続いているため

また少し更新に時間がかかってしまうかもしれませんが、

生暖かい目で見守っていただけると助かります。

よろしくお願いいたします。


m(__)m

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