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【73】ポンザレと新しい〔魔器〕の仲間



「ポンザレ、あなたの新しい仲間に名前をつけてあげてください。」


ポンザレは、また夢を見ていた。


「名前ですかー…おいら、苦手なんですー。」


ポンザレは少しだけ困った顔をして、口をもぐもぐさせながら、

目の前にいる灰色の少女を見た。


光を柔らかく反射する薄灰色の髪がふわりと揺れる。

濃い灰色のワンピースと、そこから出た手足は白く長い。

整った細い顔についた長い灰色のまつ毛と、黒い瞳がポンザレを

正面から見つめる。頭の上には、小さくとがった三角の獣耳がついており、

それが時々、くいっと動く。


「名前…なまえ…う~~~~んっ…」


眉をしかめて、ひたすらもぐもぐを繰り返すポンザレ。


「アル…、サナ…ターニ…ナエ…う~~ん…」


灰色の少女の後ろには、優しく微笑むエルノアと、

どんな名前が付けられるのかと目を輝かせるニルトがいた。

二人は共に、ポンザレの〔魔器〕で、それぞれ指輪とサソリ針にあたる。

もう一つの〔魔器〕、小鳥の鈴のスティラは、青い小鳥の姿で、

今はポンザレの頭の上におり、ピヨッピーと楽しそうにさえずっている。


「ポンザレ!はやく、考えなさいよ!」


ニルトが握った両手を、ぶんぶんと振る。


「さぁ!はやく!」


「ま、待ってくださいー…ラ…ル…ア…ウ…ウィ…ウィル…ウィルマ…!

ウィルマでどうでしょうかー?」


灰色の少女が初めて口を開く。


「ウィルマ…我の名前…ウィルマ…うん、ウィルマ…。

…ポンザレよ、ありがとう。いただいた名前は大事にしよう。

エルノア殿から話は聞いている。我もこれからポンザレを、

皆と共に助けることを、ここに誓おう。」


ウィルマは細いが芯のある声で告げると、

口元をわずかにゆるめ微笑んだ。連動して頭の耳もピクリと動く。


「ウィルマ!いい名前だね!ね、あたしの言ったとおりでしょ?

ポンザレは太っちょだけど、名前だけはいいのつけてくれるって!」


「太っちょって関係ないと思いますー。」


ニルトが、まるで自分のことかのように

ふふんと鼻息を出しながら、胸をそらす。


「あぁ、ニルト殿、全くだ。あなたにも感謝を。

これからもよろしくお願いする。」


「うん!がんばろうね!」


「さて、それではポンザレ、あなたは今日はここでお別れです。

また会いましょう。それまでは、十分に気をつけ

息災に過ごすのですよ。」


「はい、わかっていますー!エルノアさんも息災にですー!。」


「ふふ、ありがとう。ポンザレ。」


「ニルトも、ウィルマもスティラも、またですー!」


「ばいばーい、太っちょポンザレー!」


「ピーピピ、ピヨー」


「また会おう、ポンザレ。」


半透明になって薄く消えていくポンザレの姿を、

皆は微笑み、手を振り見送った。





「エルノア殿、偉大な魔力を持つ、旧きものよ。

改めて礼を言わせていただく。ただ消えゆくだけだった我を救い、

そして、再び我が〔魔器〕として使われる機会を与えてくれ、

心から感謝する。しかも…、名前まで与えられるとは、

全く思ってもいなかった。」


「ウィルマ。あなたに仲間となってもらったのは、

私達にも利があることなのです。それも全ては…、

ポンザレを守るためです。」


「心得ている。我もポンザレを気に入った。

縁をつないでいただいたことに改めて感謝を。」


「ねぇねぇ!ウィルマはどういう感じでポンザレを助けるの?」


「我は、もともと主を守るマントとして作られた。

主をあらゆる火から防ぎ、主が戦う時に、その動きを補佐する。」


「でも、マントのひらひらがないよ?」


「…我は引き裂かれたのだ。」


「え…、ど、どうして消えずに済んだの?」


〔魔器〕は、その形が壊れ、道具としての機能を失ってしまうと

効果を失う。当然、そこに宿る〔魔器〕の精神も消滅する。


「…わからない。火を防ぐのはマントであり、

主の動きを助けるのは襟であった。我は気がついたら、

襟だけの〔魔器〕となっていた。」


「…大変だったんだね。」


「だが、エルノア殿、ニルト殿、スティラ殿にこうして会え、

再び我は主となるものを持つことができた。

マントがないゆえ、ポンザレを炎から守ることはできないが、

彼が戦うとき、その動きを支え、守ろう。」


「うん、一緒にがんばっていこうね!」


「あぁ、ニルト殿。」


ニルトは、歯を見せてにんまりと笑い、

ウィルマも薄く笑って、それに応えた。


「その、エルノア殿が仰っていたことで、一つ気になるのだが…、

ポンザレは、ここで我らに会ったことは、覚えていないと。

我のことを、どのように彼に伝えればいいのだろうか?」


ウィルマは白く長いまつ毛を伏せ、

顎に手を当てて考え込む。


「それならば大丈夫です。ポンザレがここにいないときでも、

私がポンザレに話しかければ、気づかぬ間に伝わっています。」


「そうか、それで安心した。我ができること、まずはエレノア殿に

改めてお伝えさせていただこう。まずは、ポンザレが…」


〔魔器〕達は、使い手であるポンザレをいかに守り、

その役に立つのかを意見を重ねていった。





「ザーグさん、見てください!こんなになりましたー!。」


そういってポンザレがテーブルの上に置いたのは、

灰色の艶めいた毛皮だった。


「お?これは、お前が昨日買ってきたものか?」


「はい!昨日、お湯で洗って、振り回して、乾かしたんですー。」


「えー…、ポン君、これってあのボロボロで、臭いもちょっと

きつかった、あの毛皮だよね?」


「そうです、大変でしたー。」


「洗うだけでこんなに落ちるもんかい?ごわついて、毛も固まって、

そんな簡単に落ちる状態じゃなかったけどねぇ?」


「実は、洗う時も、乾かすときも魔力を込めてみましたー。

なんだか、そうした方がいい気がしたんですー。」


「ふーん、こうして綺麗になったところを見ると、

ポンザレが欲しがった理由がわかるな。この雰囲気は、

まごうとなき〔魔器〕だな。これは襟巻の〔魔器〕なのか?」


「…これは、何の毛皮?」


「なんだろうねぇ。ちょっと、見せとくれ。」


マルトーが手に取った毛皮を引っ張たり、ひっくり返したりしながら、

丹念に調べる。幅は手首から指先ほどの大きさだが、

長さは大柄なマルトーが両手を広げたの同じほどだった。


「これはうまく切ってあるけど、一匹の獣だね。四本脚で、

胴が異様に長い…何だろうねぇ、あたしの知らない生き物だね。」


「私、毛皮そんなに詳しくないんですけど、

お金持ちさんの持つ毛皮とかはもっと毛が長くて、艶々してますから、

そんなに高いものじゃないんですかねぇ?」


「…確かに、毛皮の質としては、高級ってものでもなさそう。」


「これさ、ほら、こっちの側は縫い跡があって、赤い生地の

切れ端みたいのがついてるんだよ。これは、毛皮の襟巻じゃなくて、

元はマントとかだったんじゃないかねぇ。」


「真っ赤なマントか…、実用というよりかは、金持ちとか

権力者のマントだな。派手すぎる。あれだな、悪獣殺しの

バウキルワの使っていたマントだったりしてな。」


「バザールのお婆さんがごみ箱から拾ってきた毛皮の襟巻が、

もとは伝説の〔魔器〕…なんだかワクワクしちゃう話ですね。」


「…マントだったら、それはそれでポンザレには似合いそう。」


「ぷっ…」


皆が赤いマントを身に着けたポンザレを想像し吹き出して笑った。


「ひどいです皆、笑いすぎですー。」


「ハッハハハ…すまんすまん、想像したら、ずいぶんはまっててな。

…でポンザレ、これはどうするんだ?役に立つのか?」


「はい、おいら首に巻きます。暑いときは腰で結んでおきます。

まだ…、わからないですけど、たぶん役に立つと思いますー。」


「そうか。まぁ、お前が決めたんならそれでいいか。

ただ、戦闘中に相手に掴まれたり、手足に絡まることが

ないようにだけ気をつけろよ。」


「はい、わかりましたー。」





「…それで、ザーグどうするの?この街を出る?」


「うーん、俺はもう少し滞在した方がいいと考えている。

これから向かうインフォレに病気が流行っているって話、

あと街道に出るでかい魔物。そのあたりの情報をもう少し、

この街に来る巡回商人や吟遊話士あたりから拾っておきたい。」


「それがいいかもね、本当にインフォレで病気が流行っているんなら

最悪、インフォレには寄らないことも考えて準備しないといけないしね。」


「まぁ、どこで『汚泥の輩』が出てくるかわからねえからな。

安心はできねえが、警戒だけはしつつ、少し休もう。」


街から街を移動するのは、神経を削り、非常に疲れる。

盗賊や魔物の危険性があり、夜も深く眠ることはできないためだ。

そのため巡回商人や冒険者は、一度街に入ると最低でも十日、

通常で二十日以上は滞在する。

ザーグ達は、犯罪者ギルドと揉め、ゲトブシーの街を、

わずか二日で出ることになっていたので、まだ疲れていたこともあった。


マルトーが変わらず変な置物を買おうとするのを止めさせたり、

情報を集めている内に、あっという間に十数日が立ち、

ザーグ達はバザールの街グラゾーを後にした。





汚泥の沼の奥深く、石杯の置かれた臭気漂う小島。

泥水で満たされた四つの石杯が会話を交わしていた。


「ラムゼイ、さらってきた石の魔法使いの方はどうだ?」


「ワシオよ、主には目上のものに対する敬意が足りんのう。

…、まぁいい、この娘…、ニーサと言ったかの。聖泥を飲ませ、

今も浸からせておる。ふむ…、まだ、生への執着、希望が

わずかに残っておるようでのう。仕上がりは八割ってところじゃのう。」


「使えるのかい?」


「うむ、大いなる方の御声を聞き、信徒となるまでには

まだ時間もかかろうが、既に生者としての意識は薄れて、

命令は聞くぞい。まぁ、使えるじゃろう。」


「シュラザッハは?」


「うーん、僕はまだ療養中だよー。」


シュラザッハの気怠い声が石杯から響く。


「サリサ、ゲトブリバの方はどうだった?」


「石使いをさらった後、少し調べてみたよ。

でかい棍棒使いは、片脚を無くしてからは家から出てこないね。

ザーグと斥候役の女は、二人で魔物狩りに精を出しているらしいけど、

今どこの街にいるかは、わからないね。小さいデブは出てきた村に

帰ったって話だ。弓使いは、草原の部族を探しに出てるそうだ。」


「ふむ…なんとも疑わしいが…、今は放っておくしかなさそうだな。」


「消息は追い続けるさ。消えるわけはないからね。」


「あぁ、新しい情報が入ったら教えてほしい。

それと、サリサ、王都経由で石使いを拾ってから、

インフォレに向かってくれないか。そこで石使いに、

人をたくさん殺させておいてくれ。」


「ふぉふぉ、それはいい考えじゃのう。人をたくさん殺して、

禁忌がさらに薄まれば、信徒にも近づいていくじゃろう。」


「…わかったよ。で、ワシオ、あんたはどうするんだい?

これだけ、あたしらに働かせて自分だけ何も動かないつもりかい?」


「いや、私は、領主らしく動く予定だよ。とりあえず、来月辺りに

お隣のリバスターと一回交戦する予定だ。」


「普通に戦争したって、あんたの街が買ってすぐ終わりじゃないか。」


「いや、無能な司令官をたてて、初回はわざと負ける予定だ。

相手方に、それなりの〔魔器〕も渡す予定だしね。

そして、戦争も起これば、いよいよだ。」


「あぁ、ようやくじゃのう。」


「悲鳴と怨嗟に満ちた街々が円環となって共鳴すれば、

大いなる方が顕現される。あぁ、今から胸が震えるねぇ。」


「そのためにも、あと少し、最後の詰めを今まで以上に、

丁寧に、重ねていく必要がある。」


「あぁ、わかっているさ。じゃあ、あたしは王都に向かうよ。」


「僕も動けるようになったら、連絡するねー。」



会話を交わしていた石杯はそれきり、しんと黙り込んだ。

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