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【72】ポンザレとバザール



ゲトブシーの街を出て、ザーグ達の竜車は街道を進む。

目指すはグラゾーの街だ。 


「……おい!」


声をかけられたポンザレは、幌から後ろに流れていく道を、

ぼうっと眺めていた。その目は、どこも見ておらず、

横にいたザーグが不安になるほどだ。 


「おい!ポンザレ!」


「…は、はいー!?」


「お前、どこか具合でも悪いのか?最近、ボーッとしてるときがあるぞ。」 


「すみません一。具合は悪くないですー。でも、なんだか…」


「なんだか?」


「ときどき、誰かの声が聞こえるような気がするんです一。」


「なんだ、それは…。お前、大丈夫か?」


「は、はい、気がするだけなので、大丈夫です一。」


「そうか…。もし、何かあったらすぐに言うんだぞ。」


ザーグは、ポンザレの目を少し見つめると、

ふんと鼻をならした。


「わかリましたー。それで、今は何の話だったんでしょうかー?」


「はい、ポン君。私が、グラゾーに行くのは初めてで、

楽しそうだって話していました。」


ニコが教えてくれる。  


「なんたって、グラゾーの街の名物は、バザールさ!

なかなか他でみることはできない、おもしろい眺めだよ。

何よりさ、ガンッとくるいいものに、出会えるんだよ!」


被せ気味にマルトーが、嬉しそうに入ってくる。


「えー…マルトーさんの選ぶいいものって…。」


「…ポンザレが仲間になる前に、グラゾーに寄ったときは、ひどかった。

依頼の帰りに三日間いて、呪われた木彫りの像とか、変な置物を、

抱えきれないほど買って。…そのせいで帰りは竜車の追加料金を

支払うはめになった。」


「呪われてなんかなかったよ!なんだい、あのときは、あんた達だって

いろいろ買ってたじゃないか。」


「俺達は、依頼や冒険に役立ちそうなものしか買ってねえ。」


「…あたしだって、あたしに必要なものだったんだよ!

はぁ…どうして皆にはわからないんだろうねぇ。」


「今回は買うなよ、マルトー。」


「ふん、知らないよ。」


ザーグの台詞に、マルトーは手をひらひらさせたところで、

ニコが手を人差し指をたてた。


「あ、そういえば!マグニアのお頭に、聞いたんですが…

グラゾーには、犯罪者ギルドはないそうです。」


「ん?そうなのか?」


「はい、バザールの管理は街で行われていて、領主直轄です。

衛兵隊の他に、バザールの運営をする組識があるんですが、

その組識が裏で、街で起こる犯罪の管理もしているそうです。」


「なんだそりゃ、取り締まる衛兵達と、犯罪者どもの上が

同じってことは、完全な出来レースじゃねえか。」


「はい。他の街からお仕事をしにくる盗賊にとっては、

一番つまらない街だって、お頭が言ってました。

ちなみに外からの盗賊や犯罪者は捕まったら、公開拷問の末、

処刑するそうですよ。」


「見せしめなんだろうけど、趣味が悪いね。」


「じゃあおいら達は、バザールの運営している

ところに情報を聞きにいくんでしょうかー?」


「行っても門前払いに決まっているさ。仮に話を聞いてくれたとしても、

〔魔器〕のこと教えてくれなんて言った瞬間に、

盗賊と思われて捕まることだってあるかもしれないね。」


「そうだな。街についたら様子見て、情報を聞けそうなやつを探そう。

街の体制に反抗的なやつもいるかもしれねえしな。」 


「まぁ、なにはともあれ、せっかくのバザールだからさ!

調ベながら楽しもうじゃないか。堀り出しものとかも、あるかもしれないしさ!」


「はい、楽しみです!」


ザーグ、ミラ、ポンザレの冷たい目にも負けず、

マルトーはアハハと笑い、その悪趣味の実態を知らないニコだけが、

笑顔で返していた。





盗賊に会うこともなく、翌日には、

竜車はグラゾーに着いた。


丸太を縦に何本も埋めこんで作られた城壁が、

ゲトブリバを思い出させポンザレの胸をキュンとさせる。

城門で検問を受けて、竜車は街の中へと入る。


グラゾーの街は大きな円を描いている。

城壁の内側には、同心円に大小の何本もの通りが配置されており、

そこに円の中心から八方向に伸びた通りが合わさった構造をしていた。

上から見ると、きれいに作られた蜘蛛の巣のような形状をしている。


「よし、じゃあ、バザールを見に行くぞ。」


ザーグ達は、宿屋に入って一休みすると、

皆で連れ立って中央広場へと向かった。





街の中心は建物一つない、広大な市場になっており、

グラゾーの名物の大バザール市となっている。

商人は、大人数人が寝ころべるほどの大きさの青い敷物を与えられ、

そこに品物を並べて商売をする。

古道具、日用品、消もう品、薬などの材料、武器武具、

野菜や肉、加工された食材…、あらゆる商品が売られていた。

各商店は、品物によって販売できる区画が決められており

雑多な印象の割に、買い物はしやすい。

火を使うのは厳禁なため屋台などはない。


「うわぁ、青いのがバーッて広がってますー!」


「うわー!たしかに、これはすごいですね!」


所々抜けている箇所があるものの、

それでも数えられないほどの青敷物が並ぶその光景に、

ポンザレは鼻をフスフスとさせながら、興奮した声を上げ、

ニコも目をキラキラさせながら喜ぶ。


さっそくザーグ達は、バザールの中へと入っていった。


「さあ、そこの坊ちゃまごー行!お探しのものはここにあるよ!」


「そこの皆さま!冒険に使える便利な雑貨類はこちらだよ!」


「はい!金髪のお姉さん!お姉さんの運気が上がる、

古代の遺跡から出た置物なんかはどうだい!?」


左右の商人達が、親し気に呼び込みを行なってくる。

これもバザールの特徴だ。


呼び込みの全てに反応しようとするポンザレを止めつつ、

ザーグ達は、広場を何回か横切って、下調べを行った。

フードを頭から被って先頭を歩くミラは、警戒態勢を維持したままで、

その後を続く皆も、なごやかに受け答えはするものの油断はしていない。


「今日は、軽く様子見だけだからな、もう宿に戻るぞ。」


「わかりましたー。」


「おい、マルトー!いつまでも、その奇妙な置き物を見るな。帰るぞ!」


「ちぇっ!ケチだねえ、ザーグ。この、ぐぎゃん!とした置物、

かわいいと思わないかい?ふふ、やっぱりいい物が

たくさんあるじゃないか…。」


ぶつぶつと呟くマルトーを最後尾にして

ザーグ達は宿屋へと引き上げた。






「ということでだ。バザールをのぞいて見たわけだが、どうだ?」


「はい、いろんな物がおいてあって、すごく楽しい場所でしたー。」


「まずいね…かわいい小物、置物がありすぎるね。」


「…各区画毎に、仕切っている顔役ぽいのがいる。

商人達の目線が時々向かう人物がいた。」


「あれですね、円の中心に近い方の角に出しているお店の人が、

たぶんその顔役、まとめ役ですね。」


「そこの店主から少し探ってみるか?まぁ、ぶっちゃけ、

街側の人間でも、俺達に情報をくれる人間であれば、

誰でもいいんだがな。」


「…できれば二~三日ほど、もう少し様子を見ておきたい。」


「私もミラさんに賛成です。数名に絞ったら、私、魔法を使って

探ってきますね。」





それは、ポンザレとニコが、バザールを歩いているときだった。


ポンザレの腰につけた小鳥の鈴が、ピヨピヨと鳴く。

この鳥の声は、ポンザレはとくにしっかりと、

ザーグ達にもそれなりにちゃんと届くが、それ以外の人間には、

うっすらとしか聞こえていないという不思議なものだった。

ポンザレに危険が迫った時には激しく鳴き、それ以外でも

何かある時には、今回のように鳴く。


鳥の鈴の声に気づいたポンザレは、

人混みの中、立ち止まって周囲をきょろきょろと見回した。


「ポン君、どうしたの?鳥の鈴も鳴いてるみたいだけど。

なんか、危険な感じとかする?」


ニコは、小鳥の鈴が鳴くときは、

危険が迫ったときだと説明を受けている。

腰をわずかに落として、いつでも動ける体勢になっている。


「…いえ、危ないとか、そういう鳴き方ではないみたいですー。

うーん…なんでしょうか?呼ばれているような気がしますー。」


「え?どういうこと?ポン君?どこいくの?」


ポンザレは、「こっち?」「あー…あっちの通りみたいですー」と

首を捻りながら、ぶつぶつと人を器用に避けて歩いていき、

しばらく歩いたところで足を止めた。


「ここ…ですー。」


追いついたニコも、ポンザレの横に立ち、

目の前の青敷物に置かれたものをみた。



「ふぇふぇ、婆の雑貨屋にようこそ。」



青敷物の真ん中に、歯の抜けたお婆さんが座って、

ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


折れて柄だけになった剣、欠けた櫛、先のつぶれたナイフ、

よくわからない染みのついた布、ひびのいった木の杯、

得体の知れない置物…、良く言えばガラクタ、普通に見ればゴミ

としか言えない、雑多なものが置かれている。


「ここは、わかる人にしかわからない…

そういうものを売っている店だよ。ふぇふぇふぇ…。」


店主のお婆さんの説明を聞き、店の品揃えを見て、

ニコはすぐに理解した。ここは、いかにも何かあるかも?と臭わせて、

ガラクタを、そこそこの値段で買わせる…そういう店だ。


人間は不思議なもので、最初は嘘だと思っていても、

説明する人間の雰囲気がそれらしければ、いつのまにか信じて買ってしまう。

ニコが注意深く見ると、年寄りの格好と姿勢、表情の作り方をしているだけで、

お婆さんは見た目ほどの年は取っていないようだった。


「坊や、気になるものがあるのかい。この店の商品は、

本来ならばあまり世に出るものではないんじゃ。

うまく力を引き出せれば、坊やのお役に立つかもしれないねえ。」


店主はどうとでも取れるような言い方で、

さもガラクタに価値があるかのようなことを言う。


ポンザレは、

自信がないような困ったような顔をしながら一つの商品を指さした。


「お婆さん、これは幾らですか?」


それは、薄汚れた灰色の毛皮のようなものだった。

垢や何かの液がついて染みとなってこびりつき、

毛は固まってごわごわで、異臭がした。

洗えばどうにかなる域をとうに越えており、

今すぐにでも焼いて捨てたくなるようなものだった。


「ふぇふぇふぇ、坊主、お前さん目が高いね。

これは、いわくつきの毛皮だよ。いわくについては、私の口から

言うのははばかれるから聞かないでおくれ。でもこれを手に入れたら、

坊主の何かが変わるかも知れないねえ。ふぇふぇふぇ。

…この毛皮は。1千シルだよ。」


薄汚れた汚いゴミの毛皮に、1千シルとは、ものすごい吹っ掛けようだ。

人は25シルもあれば、美味しいものを食べて、

ゆとりをもって一日暮らせる。


ところがポンザレは驚いたことに、「うーん」等と悩むそぶりを見せた。


(まずい、この態度ではさらに吹っ掛けられて、極上のカモになる!)


焦ったニコは、ポンザレの前に進み出た。


「お婆さん!確かに、何かいわくのあるもののようですね!

ここの品揃えを、見てるだけでぞくぞくします。すごいです!

お婆さんの名前は何ていうんですか!?あたしはニコって言います!」


無知を装って、明るい声で話すニコに、

ポンザレとあわせていいカモだとでも思ったのか、

お婆さんは警戒の色も見せず答える。


「あぁ、あんたも坊主と一緒で物を見る目があるようだね。

ふぇふぇふぇ。あたしの名は、ヒルダだよ。」


ニコはしゃがんでヒルダの手を取ると、

その目を見つめながら名前を呼んだ。

ニコの動作は極めて自然で、手を取られたヒルダも、

何も不思議に思っていない。


「ヒルダさん!」


「なんだい?」


「“このボロ毛皮、1シルで売ってくれますよね?”」


「あぁ、もちろんだとも。」


「お婆さん、ありがとう。あぁ、そうだ。“本当のことを教えて。

この毛皮、どうやって手に入れたの?”」


「こないだ、街の外でゴミを漁っていたときに拾ったんだよ。」


「そう。はい、1シル。じゃあね。」


「あぁ、買ってくれてありがとうよ。ふぇふぇふぇ。」


ニコが、指先でつまんだボロ毛皮を渡すと、

ポンザレはそれを大事に抱えこんだ。


「ニコさん、ありがとうございますー。おいら…、よくわからないんですけど、

これ大事な気がするんですー。」


「どうしてポン君が、それを気に入ったのかわからないけど…、

まぁ、役に立てたんなら良かった。さ、宿に帰ろう。」





「ふむ、ではニコや、皆が取ってきた情報を整理しよう。」


ザーグが木杯をあおりながら言う。


「まず、得られた〔魔器〕の情報は二つ。一つは、行方不明になった

この街の冒険者が、数年前に使っていたという、戸惑う二剣と

呼ばれる二本の小剣だ。左右の手にした小剣が入れ替わるらしいが、

これはあれだな…、ポンザレが倒したやつのものだろうな。」


「はい、そうだと思いますー。」


以前に、ポンザレはアバサイドの街で、

逆恨みして決闘を申し込んできた冒険者パーティ『死神の剣』の

メンバー一人を返り討ちにしたことがある。

そのときに使っていたのが、長さの異なる二つの小剣を

瞬時に入れ替える〔魔器〕だった。



「そういえば、あの時、その小剣はどうしたんだ?」


「あの後すぐにザーグさんが大変なことになったので、

わからないですー。たぶん、あの『死神の剣』の人が

持っているんだと思いますー。」


「ふん、まぁ、いいか。たいした脅威でもねえ。

で、もう一つは、不滅の岩塩と言って、ここの領主の持ちもんだ。

どれだけ削っても、翌朝には戻っているんだとよ。」


「うわぁ、それ便利ですね!そういうの、私も欲しいなぁ。」


「抱えるほどの大きさらしいぞ。」


「なんだ、そりゃ、冒険者向きじゃないね。」


「〔魔器〕の情報はそのくらいだな。二つの小剣あたりは、

『汚泥の輩』が手に入れて、『死神の剣』のやつに渡したんじゃねえかと、

俺は踏んでいるが、ま、推測だ。」


「後は最近の噂話だな。隣街のゲトブシーの治安の悪さの件。

街道沿いの盗賊と、でかい魔物の目撃例。四ツ目のでかいやつだとよ。

マルトー知ってるか?」


「あぁ、草原の魔物で滅多に出てこないやつだね。

角と硬い体で突進してくる、やっかいな魔物だよ。」


「そんなのと会いたくないですー。

ザーグさん、絶対に会わないようにしましょうー。」


「当たり前だ。戦う理由もねえ。」


「…インフォレの話もあった。街のほとんどが奇妙な病に

かかったんじゃないかって話。」


インフォレもグラゾーの隣町で、

ゲトブシーとは反対側にあたる。


「はぁ、どっちを向いてもいい情報なんて、どこにもないねぇ。」


「『汚泥の輩』が言っていたのは、大いなる存在とやらが、

人間の不安や恐怖や絶望が好きだから、もっとそういうので満ちた

世の中にしたいって話だったな。」


「改めて考えるとさ、ゲトブシーの暗殺、ニアレイやゲトブリバを

襲った泥人形や、魔物の大群…、『汚泥の輩』は、いろんな手段で、

世の中を荒らしているんだね。」



「おいら、なんだか本当に悲しくなってきますー。

どうしてそんなことができるんでしょうかー。」


「あぁ、全くだ。本当に、むかつくな。」


「まぁ、今はしょうがないね。けどね…軽口男は、

次こそ仕留めてみせるさ。」


「もちろんだ。ビリームの分も上乗せして、

やつらをぶっつぶしてやる。」


「…私も許せないやつがいる。」


「おいらも、戦います。」


「私に懐いていた子供達や友達も、魔物の大群が来たときに

たくさん殺されました。…私も、皆さんと一緒に戦います。」



ザーグが、無言で木杯を前に差し出す。

マルトーが、ミラが、ポンザレが、ニコが、それぞれ木杯を手に取り、

無言でガチリと合わせた。



2019/03/02

一部の魔物の表現を修正しました。

(牛のいない世界なのに、牛と書いてしまいました)

お話には影響ありませんm(__)m


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