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【61】ポンザレと『悪竜殺し』



大騒ぎの宴が明けた数日後、

街の城門で、街を発とうとするザーグ達を、

『霧の弓』『赤神の斧』のメンバーを始めとした

ニアレイの冒険者達が見送りにきていた。



ザーグ達は長居をするつもりはなかったのだが、

宴の翌日以降も、ギルドでの後処理や領主との会食などで、

引き留められ続け、数日経ってようやく街を出発することになった。


特にギルドでの後処理が混乱を極めていた。

誰も見たこともない化け物の素材は、

何に使っていいやらもわからず、当然値段もつけられないため、

ギルドの職員達は、終始泣き笑いのような顔で

ザーグ達に応対していた。


素材の分配を行った際に、ポンザレが

「化け物の牙だけは多く欲しいですー、マルトーさんの矢に使えるかもって、

朝起きて思いついたんですー」と、主張して譲らなかったため、

数十本あった化け物の牙は全てポンザレ達のものとなった。

大きな爪や翼膜は、半分は『霧の弓』『赤神の斧』のものとなり、

残りの半分は、ザーグ達のものではあるが、

素材の研究も必要ということで、ニアレイに保管していくことになった。



『赤神の斧』のボドゥルが、喜びを抑えきれないといった表情で

ザーグに話しかける。


「しかし、化け物の爪やその他の素材は、

俺達ももらってよかったのか?まぁ、返せと言われても

返さねえが、がはは。」


「あぁ、うまく活かしてくれ。何かいい物でも作れそうだったら、

その時は教えてくれ。」


「もちろんだ。実はなぁ…、あの爪は俺の武器にしようと考えてるんだ。

ちょいとデカいが、見た目よりもかなり軽いし、何より、あの硬さだ、

いいモノになると踏んでるんだ。グハハ、楽しみだぜ。」


「いいですね、完成したら一度ゲトブリバに遊びに来て下さい。

私もどんなものか見てみたいですね。」


「あぁ、ビリーム師匠、それでまた稽古をつけてくれ。」


「ええ、今度は依頼料はもらいますがね。」


目が合ったボドゥルが、ポンザレにも話しかける。


「おうポンザレ坊主、お前はすごいやつだったな。

お前が緑に光ったのは、俺は忘れないからな。」


「なんだか恥ずかしいので、忘れてくださいー。」


賑やかに、それぞれが別れの挨拶を交わしていく。

それも収まると、ボドゥルと、いまだ顔を晴らしたパスカルが前に出る。


「ザーグさん、皆さん、本当にありがとうございました。

皆さんは僕達の命の恩人です。皆さんが呼ぶなら、

僕達は、いつでも、どこへでも駆け付けます。」


「ザーグ、本当に…本当に世話になった。

この借りはなんとしてでも返す。もし、人手が必要な時も

声をかけてくれ。俺がとりまとめよう。この街の冒険者は

あんたらのためだったら、動く。文句を言う奴は俺が許さねえ。」


「ははっ、大げさだな。だが、受け取っておくぜ、ありがとよ。」


ザーグ達が、前回ニアレイを訪れたのは、泥人形に襲われて

間もなくの頃だった。その際に、退治した水竜の素材のほとんどは、

「街の復興の足しにしてくれ」と無料で譲り渡していた。


今回は遺跡に巣食っていた植物の化け物を倒し、

死体となっても操られていたニアレイの冒険者達の魂を救った。


その帰り道で襲ってきた竜の化け物も倒した。

全員死んでもおかしくない程の窮地を、

最小限の犠牲だけで切り抜けた。


「ザーグは隣町の人間だが、ニアレイのために、

俺達のために動いてくれた。そして俺達と同じ冒険者だ。」

ニアレイの冒険者達は、そう言い合って、

誰もがザーグ達を受け入れ、認めていた。


ボドゥルの発言も皆の意見を代弁したのであり、

決して大げさに言ったわけではなかった。


竜車に乗り込んだザーグは、荷台から振り返って手を上げる。

「じゃあな、また会おうぜ!」


「あぁ、また会おう!『悪竜殺し』よ!』



荷台に乗ったマルトーが鞭をふると、

竜車はゴドンと音を立てて動き始め、ニアレイの街を後にした。





「『悪竜殺し』か…。」


ゴトゴトと、車輪の音と振動が響く中、

ザーグが、はぁとため息交じりに呟いた。


「なんとも大げさな名前になってしまいましたね。」


『悪竜殺し』は、宴の席で付けられたザーグ達のパーティ名だ。

パーティ名がなく、ザーグ達を呼びにくいという話題になり、

こだわりがないんだったら、俺達にかっこいいのをつけさせろと

ニアレイの冒険者達が盛り上がってしまった。

幾つもの候補が出されては消え、最終的に

『悪竜殺し』『蒼闇の戦士』で投票が行われた。


「あの時は、説明されませんでしたけど、

どうして、今までパーティ名がなかったんでしょうかー?」


「ポンザレ少年、世の中には名前をつけてはいけない人間というのが

います。そして、その人間が、パーティのリーダーだったりして、

メンバーと意見が合わないと…ひどく険悪になります。」


「…あぁ、わかりましたー。」


「ま、この話はここで終わりだ。パーティ名の話はもういいだろう。」


「…ザビミマの凱旋。…いえ、今ならザビミマポの凱旋。」


ザーグが慌てて話を終わらせようとしたところに、

ミラが被せて発言する。


「…ザビミバッ、し、舌噛みましたっ。」


「おい、本当にもういいだろ!?」


「あいたたた…ザビミマポって何ですか?」


「…私たちの名前の最初の字。パーティに入った順。」


「ザビミマポ…言いにくいですー。凱旋も…なんだかよくわからないですー。」


「そのザビミマは、私達が徹底的に拒否しました。

それでは…と、私達がパーティ名をどれだけ提案しても、

ザーグは首を絶対に縦に振りません。話し合った結果、

パーティ名は良いのが出るまで付けないことにしていたのです。」


「…しかし、本当にそこまで悪い名前か?皆の頭の文字だし、

凱旋ってのは、つまり、栄光の勝利を常にもぎとって、街へと

帰って…」


「ザ、ザーグさんは、『悪竜殺し』はどうなんですかー?」


ぶつぶつ言い始めたザーグに、慌てたようにポンザレが質問する。


「うーん、いまいちピンとはこねえがな。まぁ、でもどうせニアレイの

奴らしか呼ばねえだろうし、まぁ、しょうがねえってところだな。

何より酒の勢いか、あの場の流れは断れなかった。わかるだろ?」


「はい、最後の二つで票が分かれて、喧嘩する人もいましたー。」


「ということで、俺達はニアレイでは、『悪竜殺し』だ。」


はぁ、とため息を大きめについて、ザーグは外を向いた。





「エルノア姉さま!ほんっとうにーすごかったんですっ!

あたしっ!初めてでしたっ!姉さまの魔力がっ!ぶわーっって!」


この世のどこでもなく、どこにでもある、白い空間。

赤い髪を右へ左へと揺らし、腕をぶんぶんとまわしながら、

ニルトが興奮した口調でエルノアに伝える。


「あれは、エルノア姉さまが、ポンザレに命令したんですか?」


ニルトが言っているのは、ニアレイでの合同依頼時、

化け物=悪竜を退治した時の話だ。


サソリ針が、敵に刺さると、ニルトは相手の存在、魂を縛りつける。

魂そのものを縛られた相手は、驚きで硬直し、現実世界の肉体は

麻痺する。魂には大きさがあり、現実の肉体の大きさには

比例していない。その相手の魂が小さければ、

ニルトは拳で握りしめ、大きければ腕や全身を使って縛る。

縛られた相手は、やがて驚きからも慣れてきて、しばらくすると麻痺は解ける。


それゆえ、サソリ針は、悪竜のような強大な生命力を持った存在は、

効かないこともある。それを分かっていたニルトは、

ポンザレがマルトーに手渡した際に、小鳥の鈴に鳴いてもらい、警告をした。

だが、その警告は伝わらなかった。


サソリ針が悪竜に刺さった時、ニルトは、相手を痺れさそうとがんばった。

だが、ニルトが抱えるにはあまりある、はるかに大きい悪竜の魂は、

最初こそ驚いたものの、すぐにニルトを振り払おうとした。


ニルトが心の中で、「ポンザレ、ごめん!あたし、これ無理っ!」と

あきらめかけたその時、ポンザレを通じて、エルノアの魔力が

ゴウッと流れ込んできた。


その瞬間、ニルトの体は大きく膨れ上がり、

悪竜の魂の二倍ほどの大きさになった。

大きくなったニルトの体は、緑色の心地の良いエルノアの魔力に

包まれて光っていた。


ニルトは大きくなった全身を意識すると、ニマリと笑いながら

その腕に、脚に力を込めて、悪竜の魂を完璧に抑え込んだ。

こうして悪竜は麻痺にいたり、ザーグ達に敗れることとなった。


「エルノア姉さま?」


考え込むエルノアをのぞき込むように、ニルトが声を上げる。


「…いえ、あの時、私はポンザレに何も言っていません。

あれはポンザレが一人で考え、行動したのです。」


「えぇーーーっ!ポンザレ、すごいですねっ!」


「はい、ポンザレはすごいですね。」


微笑みを返しながら、エルノアはポンザレの顔を思い浮かべる。

その心に浮かぶ、ふにゃんと柔らかく笑う少年がとった今回の行動は、

エルノアが全く思いもよらなかったことだった。


発動中の〔魔器〕に、むりやり魔力を流し込む。


悠久ともいえる長い時間を流れてきたエルノアでも、

見たことも、考えたこともないことだった。

しかも、その効果として、流し込んだ〔魔器〕の力を大きく引き揚げた。


「エルノア姉さま、ポンザレは、ここにきますか?」


「はい、少ししたらきてもらいましょう。」


「えへへっ、また頭撫でてもらおっと!」


くるくると嬉しそうにまわるニルトを見ながら、

エルノアは嬉しそうに、ほうっとため息をついた。


ポンザレの体を通して、自分ではない誰か…〔魔器〕に魔力を送るのは、

初めてだったが、新鮮で楽しい感覚だった。

それは、自分が確実に何かの役に立ったという、

エルノアが今までに味わったことのない喜びだった。


それを持たらせてくれたポンザレと出会えたことに、

改めて感謝を感じつつ、エルノアは目の前に光が集まって

ポンザレになっていくのを見守っていた。




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