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【56】ポンザレと遺跡探索の依頼



ガタガタと規則的に車輪を鳴らしながら、

竜車は、ニアレイの街に向かって街道を進んでいた。

幌の中では、ザーグ達が依頼について話をしている。


「ニアレイのギルドから、あたし達への指名依頼ねぇ…。」


ため息交じりにマルトーがもらす。


「泥人形の一件で結ばれた、ニアレイとゲトブリバの協定には、

人材の貸し借りも含まれていますからね。断りづらい…のは確かですが、

受けると決めたわけではないのでしょう?ザーグ。」


「あぁ。最終的にどうするかは、ニアレイで詳しい説明を

受けてからだな。何よりこの依頼は、どうも話が、よく見えねえ。」


「未発掘の遺跡で、操られている冒険者がいると言っていましたー。」


「未発掘なのに、操られている冒険者とか…訳わかんないよ。

普通に考えればおかしいものを、そのまんま言ってくるあたり、

明らかに、この依頼はヤバイって言ってるようなもんじゃないか。

そもそも、ちょっと危険なくらいだったら、未発掘の遺跡だなんて、

おいしい依頼を、隣町の冒険者に出すことないからね。」


マルトーの言うことはもっともだった。


未発掘の遺跡は、魔物や罠などの危険も多いが、

貴重な財宝や〔魔器〕が眠っている可能性が高い。

そのため、領主が破格の報酬で調査依頼を出し、発見された品は

価値に応じて買い上げる決まりになっている。


依頼を受けずに勝手に遺跡に行き、死んでしまうものや、

依頼を受けても、発掘品を持って逃げるものなどがいるため、

領主は自分の街に長く住む、ある程度信頼ができる

高位の冒険者にしか依頼は出さない。


「操られてるってのが、どういう状態なのかも、

いまいちよくわからねえな。」


「…なにかの〔魔器〕なのかもしれない。」


「そうなんだよな…、〔魔器〕の可能性もあるから、

余計に無視しづらい。」


「…。」


それぞれに苦労をした記憶がよみがえり、皆が口を閉ざした。

左右に小刻みに揺れる振動と、車輪のガタガタまわる音だけが

車内を満たす。


「お!おいら、ニアレイで、また、塩茹でのエビを食べますー!」


突然、ポンザレが口をもぐりとさせてから、大きな声で宣言する。


一瞬、きょとんとしたザーグ達だったが、

その意図を察して、すぐにポンザレに乗る。


「あぁ…そうだな、あのエビは美味かったなぁ。」


「…塩とハーブの焼き魚も、脂がのってて美味しかった。」


「油で揚げた小魚は、シャクシャクして最高だったよ。あれは、いいね、

酒に何よりもあうよ。」


「あぁ…私も早く食べたいですね。前回は骨折の治療でニアレイに

来れませんでしたからね。」


「じゃあ、全員で、一皿ずつ注文しましょうー!」


もぐもぐと口を動かしながら話すポンザレを見て、

ザーグは、頬を緩めた。





翌日の午後、ザーグ達はニアレイの冒険者ギルドにいた。


ギルドの職員は、非常に丁寧な物腰で、並んだテーブルの一番奥に

ザーグ達を案内すると、「どうか!今しばらく…こ、こちらでお待ちください!」

と言うと慌てて去っていった。


蒼闇色の揃いの革鎧をつけたザーグ達を、

ニアレイの冒険者達が遠巻きに見て、声を潜めて話をする。


「おい、あれが…噂の山オロの鎧か…。」


「不思議な色だ。青くて黒い。正直、すげえかっこいい…。」


「あれが、〔魔器〕の剣か…鞘から抜いて見せてくれないかな…。」


「あの太っちょもパーティメンバーか?あの体型で冒険者なのか?」


「でも、あいつも山オロの鎧つけてんぞ?」


「あの太っちょは、ポンザレって言うんだ。あいつも〔魔器〕使いだ。」


「お前、えらい詳しいな。」


「あぁ、酒場で散々聞いているからな。なんでも俺に聞いてくれよ!」


「しかし…全員えらい雰囲気でてんな…。」


冒険者達の好奇と尊敬の入り混じった目に、

ザーグがイラつき始め、落ち着かないポンザレの口のもぐもぐが

最速になった頃、ようやくギルド職員がバタバタと早足でやってきた。


「も、も、申し訳ありません!お、お待たせしました!

今回ザーグさんと一緒に依頼を行う二つのパーティを連れてきました!」


職員の後ろから、同じくドカドカと足音を立てながら

冒険者達が総勢十人ついてくる。


「す、すまねえ、こんなに早く来ると思ってなかったんだ!

『赤神の斧』のボドゥルだっ。」


髭面の筋肉質の大きな斧を担いだ身長の低い男が前に出て、ザーグに詫びる。

その後ろには四人の斧を腰に下げた屈強な男達がおり、

うち二人は大盾を担いでいた。


「す、すみません、用意が遅れてしまって!!

『霧の弓』のパスカルですっ!」


弓を背中に背負った、線の細い男が続けて詫びる。

後ろには、弓と小剣を装備した男女四人がいる。



「ちょっと待て、他のパーティ?依頼は俺らだけじゃねえのか?」


「は、はい、領主様からの依頼では、ザーグさんをリーダーに

ニアレイの二つのパーティを加えて、

三パーティでの依頼を行うようにと…。」


「それは、聞いてないぞ。」


「え!?いえ、私達ギルドとしては、伝えたつもりなのですが…」


ザーグは深く息を吸い込んで、少しの間溜めると、

ふぅと大きく息を吐きだした。伝達ミスはよくあることで、

それを今責めてもしょうがない。


「わかった…受けるかどうかは聞いてからだ。

俺がザーグだ。よろしく頼む。」


集まった三パーティ、計十五名の冒険者は、

ギルド職員に連れられるままに、奥の部屋に案内された。

大きなテーブルに全員が座ると、ギルド職員が口火を切った。



「では、ギルドから、改めてここまでの経過をお話します。

パスカルさん、補足をお願いします。」


「はい。」


「まず、遺跡が発見されたのは八ヶ月、およそ半年前の話です。

ですが、泥人形の件があったので、それが落ち着いた五ヵ月前、

領主からの調査依頼が出されました。」


「ふむ。」


「最初に向かったのは、パーティ『湖の守り手』です。

この街で五本の指に入る実力者でした。ここから、遺跡までは、

海へと続く細い街道を一日半下った所から、森林に入って二日…

あわせて三日半というところです。ですが、『湖の守り手』は1ヶ月…

二十日経っても、帰ってきませんでした。」


「それで?」


「はい、念のため、一ヵ月を待って、再度、調査依頼をかけました。

そこで調査をしてきたのが、この『霧の弓』です。」


「はい、僕ら『霧の弓』は、弓使いと斥候からなるパーティで、

とにかく情報収集、そしてその情報を持ち帰ることを一番に

活動しています。それで、三ヵ月前に依頼を受けて

遺跡に行きました。」


全員がパスカルを見つめ、続きを待つ。


「で、僕らは遺跡に着いたのですが、まず全体が小山をくり抜いて

作ったような形をしていました。ぐるりと回って調べたところ、

中に入れる入口みたいなところが合計四ヵ所ありました。」


「ずいぶん変わった遺跡だな。」


「はい、一応周囲を一周する形で、ボロボロですが広い石畳みが、

敷かれています。それぞれの入口は、周囲の壁面に装飾が彫り込まれて、

厳かな雰囲気というか、神殿や墓のようにも思えました。」


「中には入ったのか?」


「いえ、それが…。僕らは、その小山をじっくりと一周した後、

一つの入口の近くまで行きました。入り口から様子を伺っていたら、

中から、『湖の守り手』のメンバーが出てきたんです。」


「出てきた?」


「はい、それが…首とか腕とか背中に、植物のつるみたいなものが

くっ付いて、その蔓みたいなのは、遺跡の中へと続いていました。

足取りもおぼついていなくて、目も白く濁って虚ろでした。

呼びかけても、何の返事もありませんでした。」


「…。」


「その状態で、僕達の方に向かって襲ってくるんです。

まぁ、その、攻撃はそんなに素早いものではないので大丈夫でしたが。

あと、動けるのは蔓が届く範囲までのようでした。」


「武器は握っていたか?」


「いえ、握っていませんでした。」


「いたのは冒険者だけか?」


「穴から出てきたのは冒険者と、中型の獣ですね。

獣にも蔓がついていました。」


「マルトー、どう思う?」


「さぁ、生き物がそんな風にされちまうなんて、聞いたことがないね。」


「ふむ…依頼は、どこまでを含む?」


ザーグがギルド職員の目を見ながら、話を振る。

ずっとあたふたしていた職員は、この時ばかりは、しっかりと

落ち着いて、おそらく既に取り決めてきたであろう内容を話した。


「領主様からの依頼では、可能であれば、

冒険者達が助かるかどうかを探ってほしい、

もちろん無理な場合は諦めると。また原因の解明と、

場合によっては討伐を。」


「遺跡や、その中にあるものを優先しろとかは言わないよな?」


「はい、すべてはザーグさんにまかせる、そしてニアレイの冒険者は、

全てザーグさんに従うように、とのことです。」


「状況はわかった。まず、俺達のパーティでしっかりと

話し合って結論をだすから、少し待っててもらっていいか?」


「わかりました。隣に別室がありますので、お使いください。」





ギルドからの説明の後、ザーグ達は皆で話し合い、

依頼を受けることにした。その翌日は、丸一日かけて

必要なものを準備すると、翌々日の早朝にはニアレイの街を発った。

斥候の役割以外の全員が、荷物を背負っている。


総勢十五名の人間で、共に進み行動するのは、

ポンザレにとって初めての経験だった。

おまけに『赤神の斧』『霧の弓』達は、自分達に敬意を払い、

なにかと気を使ってくれるので、

ポンザレは何とも言えないむず痒さを感じて、

しょっちゅう口をもぐもぐさせていた。


細い道を一日かけて歩いた平原で、一団は野営に入った。


「いやぁ、しかし不死身のザーグと、一緒に依頼を受けられるとは、

本当にいい経験をさせてもらっているぜ、グハハ。」


『赤神の斧』のボドゥルが、嬉しそうに笑う。


「おい、なんだ?その不死身ってのは?」


「いや、あんたら、本当に有名だぜ?吟遊話士 (ぎんゆうわし)達が

冒険者酒場はじめ、あっちこっちで、毎晩のように、

あんたらの話をしているぜ。」


吟遊話士は、街を巡って酒場などで、物語を語って銭を得る人間である。

とある街の、何某が、すごい魔物を退治した…などの話は、

格好の酒の肴で、誰しもが心躍らせながら聞きいり、楽しければ金を払う。

吟遊話士のほとんどは巡回商人を兼ねており、話の前後に

営業活動も行う。


その吟遊話士の話で、今一番熱い、盛り上がる話しが、

ザーグ達だということだった。


「不死身のザーグ、不死鳥のザーグ、爆裂剣のザーグ…

あんたには、そういう二つ名がついているんだ。」


「なんだ…そりゃ。」


「ちなみに、あんたは剛腕ビリーム。鉄鎖のビリーム、武道師匠

って呼ばれている。」


「二つ名…いいですね。しかし武道師匠ですか。」


ボドゥルに言われた二つ名に、ビリームが苦笑をうかべる。


「あぁ!そうだ!今回の依頼から帰ってきて、もし時間があったら、

あんたに武道指南の依頼を出させてくれ。あんたに教えを受けると、

強くなるって聞いたんだ。頼む!」


「えぇ、まぁ考えておきましょう。」


「おう!お前ら、聞いたか!武道師匠が、

稽古をつけてくれるかも知れねえぞ!」


「「「「うぉぉ!それは、すげえ!」」」」


『赤神の斧』のメンバーが口々に盛り上がる。



「ふーん、いいね。もしかして、あたしにも、あったりするかい?」


「はい!マルトーさんは、必中の矢マルトー、流星弓マルトー、

あと、姐さんと呼ばれています。」


『霧の弓』のパスカルが、マルトーの二つ名も披露する。


「おぉ、いいね!姐さんはともかく、流星弓なんて、

ずいぶん盛ったもんだね。ハハハッ。」


「いえ!ぜんぜん盛られていないと思います!

それぐらいマルトーさんはすごいんです!

僕も、下僕しもべに加えてもらいたいくらいです!」


『霧の弓』のパスカルは自身も弓使いであるためか、

ここにいたるまでに、草原の獣を射ったマルトーの弓の腕前や

人柄を見て、心酔している様子だった。

ちなみに下僕というのは、泥人形との戦いの時に、

弓使いのマルトーのために、御輿をかついだ屈強な冒険者達が、

自らをしもべと呼んだことによって広まった噂のようだ。


「ハハッ、下僕ってのはどうかと思うけど…ありがとよっ」


「…私にもある?」


ミラがその目に期待を浮かべて、小さく聞くと

『霧の弓』のメンバーが割り込んできた。

チームの斥候であるらしく、ミラを見る目に尊敬の色が込められている。


「ミラさんは、片目の鷹ミラ、鋭眼ミラです!」


「…かっこいい。いいと思う。」


「あの…おいらは、おいらにも何かあったりしますかー?」


ポンザレが恐る恐る片手をあげて聞いた。


やや間があって、ボドゥルがポンザレに応えた。


「坊主は…霞みのポン、緑光のぽっちゃり、玉のポンザレだ。」



「…。おいらも、もっとかっこいいのが、よかったですー。」


パチッ


ポンザレのぼやきに、焚火が応えた。



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