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【44】ポンザレと新しい仲間



ポンザレは夢を見ていた。


目の前に、赤い髪をくるくると回しながら、

流れるように踊る少女がいる。

その周りを小さな青い鳥がピーヨピーヨと合わせるように、

さえずりながら飛んでいる。

一人と一羽の声ははずみ、動きは軽やかだ。


「太っちょポンザレ~頼りない~♪ん~ふふ~♪」


「ピーピピーピヨヨー♪」


早々に、踊り疲れたらしい赤い髪の少女ニルトは、足を放り投げて座った。

いつのまにか、その隣には、銀色の流れるような髪を揺らしながら、

透きとおるような緑の瞳で優しく微笑むエルノアが立っていた。

小鳥は、ピヨ!と嬉しそうに一際高く鳴いて、そのエルノアの肩に止まった。



ここは、この世のどこでもなく、どこにでもある空間。



ポンザレは夢としてこの空間にきて、エルノアやニルトと会うが、

目覚めた時には、彼女達の存在そのものさえ、全く覚えていない。

だが、夢の中ではポンザレは過去に会ったことも、話した内容も

覚えている。



「エルノア姉さま、その子、仲間になってくれてよかったです!」


ニルトがニヤニヤと嬉しそうに笑う。


「そうですね、そして、この子は仲間ですから、ポンザレに名前を、

付けてもらわないといけませんね。」


「そろそろ、ポンザレきますかっ!?」


「もう、来ていますよ。そこに…。」


二ルトが紫の瞳に喜びの光を浮かべて、挨拶をする。


「あ!来てる!ハイ!ポンザレ!」


「よく来ましたね、ポンザレ。」


「ピーピピ、ピピー!」


「あ、エルノアさん!ニルト!どうもですー。」


「ピピーピー!」


「…と誰ですかー?」


「ピピーピピピーピッピ!」


「新しくここに来たんですねー。」


「あんた、この子の言ってることわかるの!?」


「いえ、わからないですー。」


ガクッとニルトがうなだれた所で、エルノアがポンザレに声をかけた。


「ポンザレ、この子は、私達の新しい仲間ですよ。

手を前に出してくれますか?」


ポンザレがすっと右手をだすと、そこに小鳥がチョンと乗ってくる。


「さぁ、ポンザレ。その子に名前を付けてあげてください。」


「え、また名前ですかー!?」


指先にとまった小鳥は、首をかしげながら、

黒目をパチクリとさせて、ポンザレを見つめた。

全体は淡い水色をしているが、お腹の部分だけ羽が白い。

小さなくちばしは黄色く、ピヨッと鳴くたびに可愛く動く。


「えーーーーっ!?なんて呼べばいいのか、わからないですー。

………ピ、ピヨオ、ピヨマル、ピヨタ……。」


心なしか小鳥の視線が冷たい。

ついついポンザレは、救いを求める目でニルトを見てしまう。


「なんで、あたしのほうを見るのよっ!」


「いえ、助けてくれないかなーって…。名前つけるの、

むずかしいんですー。」


「ポンザレ、あせらずともいいのですよ。」


「はい!うーん…ティア…レル…ナー…テート…

スト…セト…セテ…ステ…?」


小鳥と目をあわせて、一緒に首をかしげるポンザレ。


「…ステ…スティラ!…スティラってどうですかー?」


「ピヨッ!」


「気に入ってくれましたかー?」


「ピヨ!ピヨー!」


「素敵な名前ですね、ポンザレ。」


「あんたは、なかなか名前に関してはいいセンス持っているわ!」


「はい、ありがとうございますー。」


「それでは、ポンザレ、これからはスティラも私たちの仲間ですよ。」


「はい!よろしくお願いしますー!」


「ピヨピー!」


「ポンザレ、残念ですが、今日はもうお別れです。鳥の声は、

あなたに危険が迫った時に響きますが、そうでない時も、

何かを知らせてくれることもあるでしょう。鳥の声を聞き逃さないように…。」


「よくわからないですけど…、わかりましたー!」


「じゃあねー!」


「ピヨピー!」



満面の笑顔のポンザレはそのまま光の粒子となって

彼方に消えていく。

それを見送りながら、エルノアはいつまでも微笑んでいた。





「温泉だ、温泉に行かないと、俺はどうにかなっちまう。」


いつもの食堂で、満腹になったザーグが、

テーブルをゴンと叩きながら力強く言う。


「俺達は、最近働きすぎだ。ここじゃないどこかに行かないと、

冒険者じゃなくなっちまう。」


「確かに、鉄腕猿から泥人形、その後もザーグは、動きっぱなしですね。」


「あの領主は人使いが粗すぎるぜ。防衛隊は解散したってえのに、

補佐役は後片付けが必要だって、まだいろいろと

仕事振ってくるんだぜ?あれから何日経つと思ってるんだ。」


泥人形との戦いから、既に二ヵ月、四十日以上が経っている。


「あのー。」


「なんだ、ポンザレ?」


「温泉ってなんですかー?」


「あぁ、そうか。あんたわかんないよね。温泉ってのはさ、

地面から温かいお湯が出て、それに裸で全身浸かるのさ。

これがまた格別で、気持ちいいもんなんだよ。」


「それは魔法なんですかー?」


「いや、魔法じゃなくてさ、地面の深くの熱い所から、

温められた水が出てくるところがあるんだよ。」


「なんだか、すごそうです。入ってみたいですー。」


「…たしかに、ゆっくりしたいかも。」


「あぁ、ビリームの手足もしっかりと養生しねえとな。」


「そう聞くと、行きたくなってきますね。」


「じゃあ、決をとるぜ。反対の奴は…、いねえな。よし決まりだ。」



こうして、パーティの次の目的地が決まった。

温泉は、ゲトブリバから逆時計回りに、街道を進んで二つ目の街、

ミドルランにある。竜車で片道十四日間、向こうでの滞在期間を加えると、

二ヵ月以上はゲトブリバの街には帰ってこれない予定になる。


しかし、今やザーグは領主お抱えの補佐役であり、

本人の意思とは裏腹にその任を解かれることはない。

ボンゴールは隙を見てはザーグにあれこれと相談し、

断り切れない賢い方法で依頼を出し続けている状態だ。

ザーグ達が二ヵ月という長い期間、街を不在にすることに、

いい顔をするわけがなかった。

その点を、マルトーが指摘すると、ザーグはニヤリと笑った。



「こないだな、ビリームとも話したんだが、鎧の将軍と戦った時、

ビリームが将軍のパンチを受けただろう。」


「あぁ、本当にヒヤヒヤしたね。」


「あの時、ビリームが体に巻いてた鎖が砕け散っただろう?

要はあのおかげでビリームは骨折で済んだと言える。」


「そうかもしれないね。…で?」


「あの軽口野郎、シュラザッハによれば、相手はまだ何人もいそうだろ?

念のためではあるが、もう少し強い防具の素材を揃えたらどうかと考えた。」


「あぁ、そういうことかい。」


冒険者の装備は驚くほど軽装だ。

重い鎧をつけて長時間の活動はできない。

戦闘でも少しでも早く相手を倒して、自分の命を守ることを第一とする。

そのために、速さと動きやすさが重要視される。


ザーグとビリームは、肩当てのないノースリーブの革の鎧に、

腰と手足に、同じく革の腰当てや腕当てなどを着けている。

部位によってソフトレザーとハードレザーを使い分け、

防御力よりも、何よりも軽さ、動きやすさを一番に考えられた

オーダーメイド品である。


ポンザレも同じく革の胸鎧を着けている。ただし、腹回りの関係で

その鎧は胸までしかカバーできていない。腰当ての代わりに、

ベルトをつけ、それ以外は腕当てと脛当てを着けている。

売られていた中古品を、街の革職人に体型に合わせて調整してもらったものだ。


弓使いのマルトーと斥候のミラは、近接攻撃のザーグ達以上に、

敵に近づくことはない前提なので、胸当てしかつけていない。


「北方の街のいい素材と言うと…、狙いは山オロの革や、

千甲虫の甲殻かい?」


「さすがだな、マルトー。その通りだ。」


魔物や生物に詳しいマルトーにはすぐにわかったようだった。

どちらも山岳地帯に住む希少生物で、非常に良い素材になる。


「ただ、そんなにひょいひょい出てくる生き物じゃないはずだよ?」


「構わねえさ、素材は、手に入ればラッキーくらいでしか考えてねえ。」


「では、準備を始めましょうか。領主の説得は、まかせましたよ。」


「あぁ、わかった。」





翌日の夜、ザーグは少し遅れて皆の待つ食堂に入ってくると、

だるそうにイスを引き寄せ、憮然とした表情を隠そうともせずに、

話始めた。


「お前ら、準備の方はどうだ?」


「あぁ、しっかりやってるけど、ザーグ、あんた酷い顔してるね。」


「領主を納得させたのはいいが、せっかく行くのならと、あれやこれや、

依頼を重ねてきやがった…。あれは領主じゃねえ、領主の顔をした魔物か

なんかだ…。くそっ俺は商人じゃねえんだぞ…。」


「ザーグさん、今日は解散したほうがいいかもですー。」


「大丈夫だポンザレ。ありがとよ。だが、今は…、

おぉい、こっちもう一杯、おかわりくれっ!」


「…飲みすぎないように気をつけて。」


「あぁ。…で、まず一つ目に、こないだの足の早い頑丈な荷竜を

貸してくれることになった。」


「それはいいですね!」


「二つ目、途中の街のアバサイドで、領主への親書と贈り物を渡す。

三つ目、目的地のミドルランでも同じく、親書と贈り物。」


「まぁ、そのくらいは…しょうがないかねえ。」


「…まだありそう。」


「四つ目、ミドルランで幾つか購入を頼まれたものがある。

ミドルランの領主宛の親書にも、便宜を図るように書いとくそうだ。」


「てんこ盛りじゃないかいっ!」


「しょうがねえだろう…、こっちが断れねえギリギリのところで、

あぁ、わしはこの街が心配じゃ…、とか嫌味たらしく混ぜ込みながら、

押し付けてくるんだぞ。しかも、それぞれ領主からの指名依頼と言う形で、

全部報酬を出すとか言いやがるから、断るには温泉行き自体を

取りやめないといけねえ…。くそ、やり手だよ、あの爺さんは。」


「なんだか…大変ですー。」


「よし、改めて、パーティの賛否をとるぞ。今回のミドルラン行き、

賛成のやつは?」



全員が手を上げながら、一言ずつ意見を述べていく。


「まぁ、でもしょうがないね。依頼はちゃっちゃと終わらせて、

なるべく温泉でのんびりしようじゃないか。」


「おいらは、皆と一緒に出掛けるの好きですー。」


「…依頼自体は危険度の高いものはなさそうだし、受けていいと思う。」


「そうですね、領主に恩も売れますし、ミドルラン、アバサイドの両方の

街でも顔をつなげられることにもなるでしょう。」


「わかった。じゃあ出発は二日後だ。もう少しで冬が来る。ミドルランあたりでは

雪も降るだろう。防寒の用意も怠るなよ。」


「わかりましたー。」


「…了解。」


「あぁ、しっかりやるさ。」


「わかりました。」



こうして、ザーグ達は温泉の街ミドルランに向けて

ゲトブリバを発った。



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