表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/104

【31】ポンザレと闇で動く者


「もう!本当に!今回だって危なかったんです!」



この世のどこでもなく、どこにでもある空間。


燃えるような赤い髪をしたニルトは、手をぶんぶんと振り回しながら、

無鉄砲なポンザレに怒っていた。


「ええ。でも、ニルト。あなたのおかげで、助かったのですよ。」


銀色のゆるくウェーブした長い髪をわずかに揺らし、

エルノアが優しく微笑みながら答える。


「持ち主の役に立つのは〔魔器〕として、当たり前ですけどー…、

でも、もう少し気をつけてもいいと思うんですっ!エルノア姉さまも

そう思いますよね!」


「そうですね、本当にどうなることかとハラハラしました。」



ポンザレの〔魔器〕、指輪のエルノアとサソリ針のニルトは、

いつもこうしてポンザレのことを話す。


「そういえば!エルノア姉さま…二つ、聞きたいことがあるんです!」


「なんでしょう?」


「ポンザレの作ったあの槍なんですけど、なんか薄くしか存在を感じなくて、

挨拶しても返事もないんですっ。あの槍は私達の仲間なんですか?」


ニルトはポンザレが魔力を込めて作った〔魔器〕のかすみ槍を気にしていた。


「あの槍は、私たちのように自我が、意思が、生まれるほどの魔力が

込められておりません。意思がありませんから、私達の仲間になるのは

難しいでしょう。もし、あの槍が意思を持つことがあれば、わかりませんが…。」


「そうなんですね!残念です。お話とかできると思ったのになーっ。」


「もう一つは何でしょうか?」


「あの金色の腕輪です!あれ、私達の仲間になりませんよね!

あたしは絶対嫌ですっ!」


金色の腕輪は、ポンザレ達を襲った鉄腕猿を操っていた〔魔器〕である。

持ち主の冒険者は既に亡くなっている。


「エルノア姉さまも、あの腕輪が近くに来たとき感じましたよね?

なんか、もやっとしたイガイガした感じの嫌な雰囲気!

しかも、あたしが挨拶しても、返事も返さないというか、

モゴモゴ、ゴボゴボ変な音が返ってくるだけで話もできませんでしたっ!」


〔魔器〕同士は、ある程度近くにいれば、人間のあずかり知らぬところで、

今まさにニルトとエルノアが話しているように、会話をすることができる。


「そうですね。私もあの腕輪には良くないものを感じています。

ですが、あの腕輪に関しては、少し考えていることがあるのです。

今、ポンザレを呼ぶのでそこで説明しますね。」




少しすると、二人の目の前に、光が風のように集まってポンザレの形になった。

ポンザレは、くりっと目を開けると二人に気づき、口をもぐもぐさせると

嬉しそうに笑って言った。


「あ!エルノアさん!ニルト!また会いましたーっ」


「ふん!頼りないポンザレじゃない!よく来たわねっ!」


「ふふ、ポンザレ、また会いましたね。」


もう何度目かの、ポンザレと〔魔器〕達の会合が始まった。

ポンザレがエルノアやニルトに出会うのは、常に夢の中である。

そして目覚めた時、ポンザレは彼女達の存在そのものさえ、全く覚えていない。


「ポンザレ、今日はあなたに伝えたいことがあります。」


「はいー。なんでしょうかー?」


ニコニコして口をもぐもぐするポンザレ。


「あの金の腕輪ですが…あれは、あまり良いものとはいえません。

そうですね…溶かすか、壊すかした方がいいのですが…。

もしできるのなら、あなた以外の誰かの武器でも作るといいかもしれません。

もし武器を作るのなら、槍を作ったときのように、

あなたが魔力を込めるのですよ。」


「なんのことだか、よくわからないですー。」


「わからなくても大丈夫ですよ。でもこれは、大事なことですから、

何度でもあなたに伝えますよ。だから、きちんと覚えておいてくださいね。」


微笑みを浮かべながら、顔を近づけて話をするエルノアに

顔を真っ赤にしながら、ポンザレはか細く答える。


「…はい、が、がんばりますー。」


夢の中のポンザレは、現実世界と記憶がリンクしていない。

それを知っているエルノアは、大事なことは何度でも伝える。

そうしておけば、朝起きたポンザレが、

「なんか、そうした方がいい気がするんですー」などと言いながら、

エルノアから伝えられたことを実行する。


ポンザレはもぐもぐしながら、エルノアから伝えられたことを、

何回も繰り返しながら覚え終えた。

そのタイミングを見計らったかように、ニルトが横からスイッと出てきて、

いたずらっ子のように陽気に笑いながら、ポンザレに言う。


「ポンザレ!はい、あたしを誉める!今回もよく頑張りましたーって!」


「ええ?突然なんですかー?」


「いいから早く言うっ!はいっ!」


「は、はいー。ニルト、今回もよく頑張りましたー。」


自然と手が伸びて、ニルトの頭をなでるポンザレ

突然のポンザレの行動に、ニルトは最初ビクっと体を固くしたが、

すぐに目をキラキラ輝かせると、自分の薄い胸を拳でトンと叩いた。


「!…よし!じゃあ、これからもあたしは、あんたの為に頑張ってあげよう!」


「では、そろそろ今日はお別れですね。ポンザレ、また会いましょう。」


「まったねー!」


「はいー。またですー!」


エルノアとニルトは光の粒子となって消えていき、

ポンザレも強烈な眠気に襲われて目を閉じた。





街に帰ってきたザーグは、ポンザレを自宅待機にして治療に専念させ、

マルトーを看病役にあてた。

それ以外の三人で、ギルドや領主への報告、持ち帰った遺品の整理などを、

片っ端から片づけていった。


数日経って、久しぶりにいつもの食堂で全員が揃うことになった。


「ポンザレ、腕の方はどうだ?」


ザーグが尋ねると、ポンザレは添え木をあてて、

布でぐるぐる巻きに固定された腕を見せながら元気に答えた。


「はい、大丈夫ですー!もう痛みもないですー。」


「…マルトーはちゃんと看病してくれてる?ご飯とか作ってくれた?」


ミラが目を細めながら聞くと、一瞬の間があってからポンザレが答える。


「…は、はいー!看病してくれていますー。」


会話に入らず目を逸らすマルトーと、その様子にため息をつくザーグ達。

パーティにいつもの調子が戻ってきていた。


「…ごほん。さて、いろいろ細かいことも含めてだいぶ整理できた。

分配もあるぞ。それぞれ報告頼む。ビリームからいいか?」


「はい。私は領主の館に行ってきました。依頼の報告ついでに、

鉄腕猿の腕を見せてきました。結果、あの腕を1万シルで買い取るそうです。」


「けっこう金出すな。まぁ、買ってくれる分にはこちらは嬉しいがな。

あれ、何かに使えるんだっけか?」


「いえ、素材としては何も使えません。買い取った後は、

しかるべき処理をして館のどこかに飾りたいそうです。

もう片方の腕も取ってきてくれないか?依頼を出すぞと言われましたが、

ザーグが言っていた通り、断りました。」


「あぁ、もうあそこには行きたくねぇな。

あの爺さん、孫のことは何か言ってたか?」


「何も痕跡はなかったと報告しましたが、予想はしていたらしく、

何も言いませんでしたね。」


「まぁ、しょうがねえよなぁ。遺跡に無事にたどり着けたかも

怪しいもんだしな。」


冒険者気取りの領主の孫は、遺跡に着く前にどこかで亡くなったのだろうと

ザーグ達は結論づけていた。



「次は俺だな。あのパシャラのとこの裏切ったやつ…名前がもう

思い出せねえが、あいつ。あいつがパシャラのパーティ全員分の

ギルドプレートを持っていた。あいつは、たぶん自分だけが

生き残ったことにして、メンバーの分の謝礼金を手に入れようと

していたんだろうな。」


ギルドに登録すると、冒険者の証である小さな金属のプレートが渡される。

プレートの中央には持ち主の名前が彫られ、

名前の周りには冒険者の実力を記録する小さい穴や凹みがつけられている。


そしてこのプレートを、本人以外がギルドに提出するということは

持ち主は既に亡くなっていることを意味した。


冒険者ギルドは普段から冒険者のお金を預かり、その冒険者が亡くなった際に、

遺言があればそれに従って実行する。その際、ギルドは冒険者の遺産の中から、

プレートを持ち込んだ人間に、口座の割合に応じた謝礼金を支払う。

当然ギルドも少なくない割合で管理費を差し引く。

ちなみに、冒険者の遺言がない場合は、全額徴収される。


パシャラのパーティの裏切り者、名前すら忘れられたボジョムが狙っていたのは、

その謝礼金だった。結局は、鉄腕猿が片時も離れず、街に戻れなかったため、

金を受け取ることもできなかったようである。


「で、パシャラのパーティ計五人分の謝礼金は、3万2千シルになった。

鉄腕猿の腕が1万シル、元々の依頼の報酬が5千シル、

合計すると4万7千シルだ。」


「わりとしっかりした金額になったんだねぇ。」


「あぁ、だがちょっと思うことがあってな。」


「なんでしょうか?」


「パシャラの遺言なんだが、パシャラはこの街ではないが、

もともと孤児でスラムの生まれだ。パシャラは身寄りがなかったらしくてな。

残されていた遺言は、ギルドの口座の金が続く限り、スラムの子供達に

炊き出しをするってもんだった。」


「あたしは、あんまり深くは知らないけど、ニ~三回酒を飲んだことあるよ。

姉御肌の明るい人だったねえ。いい…遺言じゃないか。」


「…そうだな。とりあえず、俺は、今回のうちの稼ぎ4万7千のうち、

1万7千を冒険者酒場でパシャラ達の送り出しに使ってやりてえんだ。」


「では、一人あたりは六千シルになりますね。」


「…私はそれでいい。」


「あたしも、賛成だよ。何の異論もないさ。」


「おいらも、賛成ですー。」


「すまねえな…。」


ザーグは鼻の頭をポリポリと掻くと、少しだけ頭を下げた。




それから数日、冒険者酒場ではパシャラ達の追悼会として、

冒険者や日雇い、街の住人にも訪れた人間には分け隔てなく、

料理と飲み物が用意された。


パシャラを知るものは、その悲しみを酒と共に流し、

知らないものは、あちらこちらで話されるパシャラの生い立ちや生き様に耳を傾け、

敬意を表して乾杯し、感謝と共に料理を食す。

人々はこの追悼会を通じて、冒険者パシャラを今後も語り継いでいくだろう。

冒険者の送り出しとしては、これ以上ないくらい最高のものだった。




その冒険者酒場の隅で壁にもたれている人物がいた。

黒いフードを目深にかぶり、上半身をマントで覆っている。

そのマントを押し上げる、なだらかな胸のふくらみを見れば、

女性であることがわかる。


誰もが互いに声を掛け合い、肩をたたき合って飲み食いする中で

女の周囲には誰もおらず、誰もが避けているようにも、

また誰にも見えていないかようだった。


「ふん…街で付けて暴れてくれると思ったんだけどねぇ。

期待外れだったよ。」


唇に塗られた真っ赤な口紅が、何か不吉な生き物のように、

街の明かりを反射していた。


「…腕輪を持っていかれたのはよろしくないけど…まぁ、いいさ。

まだ〔魔器〕はあるんだ。」


小さな声で呟くと女は夜の闇に消えていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ