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【3】ポンザレとアドバイス


「ポンザレ、少しだけお前のためにおせっかいをしてやる。」


熟練の冒険者であるザーグが瞳に優しさを込めてそう言った。


「ポンザレ、お前はこのままだと十のうち九は近いうちに死ぬだろう。」


「!!??え、な、なんでです、ですか?」


先程まで先行きが全く見えず、薄々そんな可能性もあるのかも…

と思っていたポンザレだったが、改めて言われると慌ててしまう。


「まぁ待て、慌てるな。順に説明してやる。」


「ポンザレ、お前食料は持っているか?」


「あ、あと三日分くらいありますっ!」


「胸はって言うことか。明らかに足りてねぇじゃねえか。

まぁ、俺も元は村を追い出された三男坊だ。村を出る時にたいして

食料を渡されないってのはどこも同じってことだ。」


「おいらのうちは弟も妹もまだいますし…。」


「うちもそうだったよ。ところでポンザレ、お前は森で食べるものを

探せるか?もしくは狩りをして…狩りをする奴ぁそんな体型は

してねぇな。ていいうか、なんでお前は食べ物も少ないのに

その体型なんだ。」


「あぅ…すみません。食べ物も探せません。」


「つまり、まず食料が足りない。このままでは街に着く前に死ぬかもな。

切り詰めれば…と思うかもしれないが、切り詰めたら体力が無くなって

歩けなくなる。切り詰めていいのはせいぜいが二日くらいだ。」


「…。」


「街道では、盗賊なんかもお前を狙うだろう。」


「おいら、逃げます!」


「たいして飯も食ってない体でどれだけ逃げられるだろうな?」


「…。」


「さらに、仮に街まで辿り着いたとしよう。」


「…着けない気しかしません。」


「まぁ、聞け。街についたお前は、キョロキョロ周りを見回したり

なんかして周りから見れば食い詰めて出てきた坊主だとすぐばれる。

そうすると、横からお姉さんとか優しそうなお兄さんが出てきて、

ちょっとだけこっちに来てくれませんか?場合によっちゃ、

どこそこへ案内しますわ、なんて言ってくる。

で、お前は間違いなくそういうのについて行って、スラム街に

連れていかれて追剥ぎにあって、お陀仏だ。」



ポンザレは泣きそうだった。薄々はわかっていた。

それでも、何とかなるかと思って村を出たが、

やっぱり何ともなりそうにない。



ザーグの言う未来予測“ポンザレの死”は、聞いていても

納得できてしまうものだった。

自分の死ぬ場面を予想するポンザレの顔は悲しみに彩られ、

その口は物悲しくゆっくりともぐもぐしていた。


その様子を見て、マルトーとミラの二人は肩を震わせて

笑いを抑えている。


ザーグも心の中では、こいつ本当にハモス(金持ちや貴族の飼う

愛玩用のネズミのような小動物)みたいだなと思いつつ、

声に優しさを込めてこう言った。



「ポンザレ、だからな、そうならないように俺達が少しだけ教えてやる。」




そこからポンザレは幾つもの大事なことを教えてもらった。



このまま小道をバカ正直に進んでも街道に出るまではまだ八日はかかる。

おまけに小道は道幅もせまく往来もないから魔物だって出てくる可能性が高い。どうせ魔物も出るかもしれないのなら、ここから右の森に入って、

少し降りたところに小川があるから、その小川を下っていけばいい。

そうすれば街道手前の道まで数日で着けるだろう。

川沿いは急で道もないから厳しいが、飲み水の確保ができるのは大きい。

後は用心深くすすんで運を天にまかせろ。



今の時期の森では赤い実はだいたい食える。小さいのも大きいのもだ。

だが四角い形の実と黄色い実、キノコ類は絶対に食べるな。

川の魚はお前ではたぶん捕れないだろうから諦めろ。

そもそも体力の無駄だ。とにかく体力を無駄にするような行動だけは避けろ。


あと、これをやる。塩漬け肉の塊だ。薄く削いで唾液で戻しながら食え。

もぐもぐするのは得意だろう。肉があれば少しではあるが元気も出る。


暗くなるまで歩くな。

夕方くらいになったら、川原の休む場所を決めて

枯れ枝を少しでも集めておけ。で、夜はそれで火を炊け。

できれば大きな岩とかに背をつけて正面に火を焚いて休め。

起きている間は火は小さく、寝る前に薪をたくさんくべておけ。

その後は夜の間に火が消えても構わん。


小鍋を持っているのなら温かいものを飲んでおくといい。

さっきの塩漬け肉を細かく刻んで煮れば薄味のスープにもなる。

とにかく疲れたらこまめに休め。


小道から街道に出たら右へと数日も歩けば街だが、すぐに歩き出すな。

二台以上の竜車隊を見つけたら事情を伝えて乗せてもらえないかお願いしろ。街まで荷竜だと二、三日の距離だから、そのくらいであれば乗せてくれる

可能性も高いだろう。

もし断られても半日もしないうちに次のがくるだろう。

ちなみに、竜車が二台以上だとだいたい護衛が一緒にいるんだ。

そうなると少人数の盗賊だと襲いにくくなるっていうのが理由だ。

あぁ、大人数の盗賊がきたら諦めるしかないな。


街の門は朝から夕方までしか開いていない。

門には門番がいるから、冒険者組合…冒険者ギルドっていえば伝わるから

そこの場所を聞いて、とにかく行け。

ギルドまでは門番以外の他の誰とも話をせず、他の誰の目も一切見るな。

お前の持ち物など二束三文の価値しかないだろうが、それでも狙う奴は多い。

そういう連中にとっては、その二束三文の方がお前の命よりも

重かったりするんだ。


あぁ、そうだ、ギルドは日雇い仕事の斡旋をしている。

後はもう自分で仕事を選んでやればいい。ただし…忠告するぞ。

冒険者にだけはなるな。


受付で冒険者登録をしますか?と聞かれるから、きちんとしませんと答えろ。

日雇い仕事だけお願いしますと言えば大丈夫だ。

ちなみに冒険者になった瞬間にお前は、周りの冒険者のカモにされるからな。


あぁ、それと受付で魔力の適性検査をお願いしますと言え。

魔力を持つ奴なんざ滅多にいないが…もし、お前に適性があれば

日雇いよりも一つ上の仕事につけるようになる。

ちなみに魔力があっても魔法を使える訳じゃねえぞ。

魔力を持っていれば、ぐつぐつ沸き立つ鍋に魔力を込め続ける…

なんて仕事ができるようになるんだ。これは日雇いの数倍の金になる。

ダメもとで受けてみても損はないだろう。タダだしな。



途中で仲間と交代しながら、ザーグは大事なことをたくさん教えてくれた。


ポンザレは全部を覚えられたか自信がなかったが、とにかく一生懸命聞いた。

自分の生き死にがかかっている。ちなみに紙と鉛筆のようなものはない。

例えあっても字を書けないポンザレには意味がない。



少し下を向いて、言われたことをボソボソと片言で繰り返すポンザレ。


「赤い実OK…魚、ダメ…盗賊、怖い…」



そんなポンザレを見るザーグ達の目は温かかった。



座り込んで話し始めて既に三時間はたっていた。

ザーグが、そろそろ行くかと声をあげ、仲間達と一緒に腰を上げる。


ポンザレは改めて、背筋を伸ばして改まって皆にお礼を言った。

「ザーグさん、ミラさん、ビリームさん、マルトーさん、本当にありがとうございます。おいら、何もお返しできるものがないんです。ごめんなさい。」


「いいよ、気にするな。」

ザーグがにやっと笑いながら答える。


がっしりとした大柄な金髪の女性マルトーが、手を大きく開いて

ポンザレを抱きしめた。


「やだ、あんた、柔らかくて抱き心地がいいね。ハハッ。まぁ、とりあえず、がんばんな。」



小柄な女性ミラが握手をしながら、ぼそぼそとアドバイスを伝えてくる。

「…何かおかしいと感じたら、腰を落としてすぐ動ける体勢になる。でも動かない。…落ち着く。目で探そうとしないで音を聞くようにする…。」


棘付きこん棒をもったビリームも、ポンザレの持った堅い杖を

見ながらアドバイスを重ねてくる。


「ポンザレ少年、もし何かと戦わないといけなくなったら、

杖の細いほうで相手の胴体を狙って思い切り突きなさい。

その堅さであれば充分武器になります。振り回すよりかは

当てやすいしダメージになりやすいのです。まっすぐ正面に

勢いよく突っ込めばいいだけです。

まぁ…がんばっていきましょう。」



ポンザレは既に号泣していた。


「あでぃがとう、あでぃがとぉ、ございまずっ!!

おいら、がんばびますっ!」



「おう、がんばれー。」


そう言ってザーグ達はポンザレの来た道を進んで行った。

ポンザレの出てきた村のさらに向こう側、

大青山脈を目的とした依頼を達成しにいくためだ。



ポンザレは少しだけ泣いた後、口をもぐもぐさせながら

森の中へと入っていった。



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