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【19】ポンザレと強盗団(1)


その日、いつもの食堂でザーグ達は、揃って朝食をとっていた。

まず食べる。食べ終えてから話をする。

ザーグ達パーティの暗黙の了解である。


簡単な食事を終えて、ザーグが気になっていた話題をふる。


「ポンザレ、そういえばお前が手に入れた、サソリ針だったか?

それの具合はどうなんだ?」


「ザーグさん、これすごいんですー。ちょっとでも刺すと、

だいたい五十数える間くらい、ずっと相手が痺れているんですー。」


ポンザレはサソリ針を手にいれてから、数回ほど冒険者ギルドで依頼を受けて

街の外に出ていた。薬草採取や簡単な狩りの合間を見ては、サソリ針が

どれほどの効果があるのかを、実際に魔物や動物を刺して試していた。

一人で依頼に行くのは、まだ許可されていなかったので、

常にザーグ以外のメンバーと一緒だった。


「ほう。それは生き物の種類や体の大きさなんかで違いはあるのか?」


「肉竜くらいのすごい大きいのでも同じくらい痺れて動けないですー。

体の小さい動物とかも時間は一緒でした。小鬼ですが、魔物にもちゃんと、

効いてましたー。」


「…人間は試したか?」


「…。」


ばつが悪そうにマルトーを見るポンザレ。

その視線を受けたマルトーが説明する。


「ポンザレから借りて、あたしが試したよ。

酒場でいつもあたしの尻を触ってこようとする馬鹿がいるだろう?

あいつを後ろからちょっと刺したら、しっかりと痺れて効いていたよ。」


さすがのザーグも言葉を失い、やや間があってから返す。


「おま…試すにしても相手を…はぁ…姿は見られてないだろうな。」


「あたしが、そんなへますると思うかい?」


マルトーは、鼻を鳴らして笑った。





その後、二つ三つの雑談をし終えると、今日の本題をザーグが切り出した。


「お前ら、『透明の強盗団』は知ってるか?」


ポンザレ以外のメンバーはすぐに見当がついた。


「もしかして…昨日のあれかい。」


「ふむ…あれは、『透明の強盗団』の仕業だと?」


だがポンザレは何の話かわかっていないので、素直に聞く。


「『透明の強盗団』ってなんですかー?」


「昨日、この街の生地商の店が襲われたのは知っているか?」


「はい、今朝聞きましたー。」


それは今まさに、街中の人間が噂している事件だ。

昨日の夕方に生地商の店員と護衛の数人が、店の裏口付近で

数日分の売上げを奪われて殺された話である。

犯人の強盗団は、相当な手練れなのか、目撃者もおらず、

極めて短時間に行われた犯行だという話だった。


事件が明るみになった時点で街の門は封鎖され、

現在、人の出入りは制限されている。


「情報元は巡回商人で、隣町から戻ってきたやつなんだが、

隣町でもこれに近い手口の事件が二十日ほど前に起きている。二件だ。」


巡回商人は街と街を定期的に行き来する、竜車を店舗とする商人で、

街々の情勢や流行などを伝える役割も果たす。中には冒険者にとって

生命線となる、より生きた情報の売買を手掛ける者もおり、ザーグの

情報源もそのうちの一人だった。


「隣町で襲われたのは、武器屋、織物屋だ。武器屋では売上げだけでなく、

十数振りの剣なども奪われている。手口は同じように極めて短時間での襲撃。

傷は刺し傷と矢傷だ。犯行メンバーは最低でも数人はいるだろう。」


身近な、おまけに街中での殺人事件とあって、

ポンザレの体は強張り、もぐもぐが加速する。


もぐもぐもぐもぐ…ごくり。


「さらに他の街でも同じような強盗事件があった。あまりの手際の良さ、

目撃者のなさに、ついた通り名が、『透明の強盗団』だ。隣町の門の封鎖が

解けたのが十日前。そして、昨日この街で事件が起きた。」


「はふ…なんだか怖いですー。」


「そのうち、ギルドに正式な依頼があがってくるだろう。もちろん、

依頼は受けるつもりだが、待ってから動くのでは遅いと判断した。

俺達は今のうちから動いとくぞ。殺された護衛もギルドの冒険者だしな。」


全員が緊張した面持ちで無言でうなずく。


「…で、ザーグ。どういう風に進めるんだい?」


「俺は、スラムの犯罪者ギルドに情報がないか、聞きに行ってみる。」


「犯罪者ギルド…ですか?」


「あぁ。でかい街には、たいてい犯罪者ギルドがある。

盗賊や暗殺者なんかの集まる裏の組織だな。街での悪事ってのは、

目立ちすぎると取り締まりが厳しくなったり、犯罪者は完全撲滅だ!

…なんていう余計な動きが出てきて、面倒くさいことになる。

だから犯罪者ギルドは、やりすぎないように調整をしているんだ。

今回の生地商の強盗も、犯罪者ギルドの管理下にいる盗賊だったら、

絶対にここまで派手な殺しはやらねえ。」


「ザーグさんは…犯罪者ギルドの人ではないですよね?」


「心配すんな。俺はギリギリ違うぞ。」


「ギリギリ…。」


「ごほん。ま、俺は犯罪者ギルドにちょっとした伝手があるから、

行ってくるぜ。」


巡回商人や、スラムの犯罪者ギルド…

ザーグの情報網やつきあいは幅が広い。

ポンザレは、ザーグが一流の冒険者であることを

今さらながら実感するのだった。


「ビリームは宿屋のほうをあたってくれ。マルトーは商人ギルドと

冒険者ギルドの両方で、次に襲われる可能性のある店を調べてくれ。」


「了解しました。」


「あぁ、わかったよ。」


ビリームとマルトーは返事をすると、すぐに席を立って店を出て行った。

さらにザーグは指示を続ける。


「ミラは武器屋前で張り込みだ。ポンザレと一緒に行って、

いろいろと教えてやってくれ。」


「…了解。ポンザレ、いこう。」


「わかりましたー。」



こうしてザーグ達は強盗団退治に乗り出した。





ポンザレとミラは街に数件ある武器屋のうちの一軒を選び、

その斜め向かいの食堂でお茶を飲んでいた。

通りに面した食堂のテーブル席に座る二人は、

知らない人から見たら姉弟に見えることだろう。


「ミラさん、おいら達はここで何をするんですか?」


「…武器屋に剣を売りに来る人間を見張る。怪しいのがいたら…尾行する。」


「どうして、この武器屋なんですかー?」


「…ここが一番大きくて、人の出入り、持ち込まれる武器の数が多い。」


「あー納得ですー。あ、でも、おいら尾行とかしたことないですー。」


「…ポンザレは目立つから、尾行しなくていい。

…私が尾行した対象を覚えて、ザーグ達に伝えて。」


「わかりましたー。」


ミラはパーティの斥候である。

パーティの目であり耳であり鼻であり、誰よりも早く危険を察知し、

罠を見破る。ザーグ達もミラの能力には、絶大の信頼を置いており、

ミラのおかげで幾つもの危機を回避してこれた。

そんなミラから、お前は目立つ、尾行するなと言われたなら、

ポンザレはただただ、従うだけである。


ではせめて、怪しいやつの目星だけでもつけよう…と、

ポンザレが考えていると、再びミラから話しかけられる。


「…ポンザレ。」


「はい、なんでしょうかー?」


「…普通にして。キョロキョロして怪しい。」


「はは、はい、わかりましたー。」


緊張で身を固くして微動だにしなくなるポンザレは、

やっぱり怪しいのだった。



しばらくすると数テーブル隣に、薄汚れた白い眼帯をした、

長髪の冒険者風の男が座った。冒険者の多いこの町では、眼帯をした男は、

そう珍しくない。顔や目に受けた傷を隠している人間などたくさんいるのだ。


うっすらと微笑を口元に浮かべるその男は、飲み物を頼むと、

何をするでもなく、通りをボーッと見ては時々目を閉じていた。



「ポンザレ…マルトーと一緒の生活はどう?」


「なな、なんですか?き、急に何を聞くんですかー?」


急にミラに話を振られ、ポンザレは慌てる。


「マルトーは…かなり、ルーズ。一緒に暮らしていると苦労は多い…あたり?」


「いや、そんなことは…少しだけ…いや、少しじゃないかもです…」


マルトーは、流れる金髪は美しく、目鼻立ちも整い…相当な美人である。

スタイルも相当なものだ。そのマルトーがきわどい格好だったり、

時には裸で目の前を横切って、いろいろと見えてしまうこともあり、

健全な少年であるポンザレには、非常に目の毒なのだ。

しかもマルトーは、ポンザレを弟のように思っているらしく、

まるで気にする様子もない。


だがポンザレがドキドキしていたのは、最初の数日までだった。


マルトーはとにかくルーズでだらしなく、着た服は脱ぎ散らす、

ゴミはその辺に置いておく、使ったものは出しっぱなしで仕舞わない、

さらには変な趣味の置物をよく買ってくる…など、

ポンザレがすぐに片付けをしないと、あっという間に部屋が汚れてしまうのだ。

村にいた頃に小さい妹の面倒を見ていたポンザレとしては、

年の離れた大きな妹を世話している気分でもあった。



もぐもぐしながら話すポンザレに、微笑みを浮かべながら聞くミラ。

その後も、最近の訓練の話やポンザレの街での暮らしなど、

様々な話を二人はしたのだった。




肉を焼く香ばしい匂いにポンザレの鼻がひくりと動いた。

気がつくと太陽は真上近くまで昇っており、通りを見ると

昼食の時間が近づいたからか、行き交う人々が増えていた。


テーブルに座っていた白い眼帯の男が店員を呼び、

会計をして、店を出ていく。


ミラは席を立ちあがりながらポンザレに言った。


「…ポンザレ、私は今の眼帯の男を尾行する。…少し遅くなるかも。

…ザーグにもそう伝えて。」


それだけ言い残すと、ミラは店から出て、あっという間に人混みに紛れて

姿が見えなくなった。




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