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【17】ポンザレ、魔物を狩る



とある日の朝。


ギルドにはザーグ達パーティ五人が勢ぞろいしていた。

受付から戻ってきたザーグが、模様の描かれた木札を見せながら言う。


「今日は、全員勢ぞろいの魔物退治の依頼だ。西三番の肉竜飼育場で、

二日前に小鬼が出た。そろそろまとまった数が来る頃だろうから、

今回はそれの退治をする。ポンザレにはちょっと早いが…まぁ大丈夫だろう。」


「すみません、小鬼ってのはどういう魔物なんですか?」


ポンザレはわからない事はすぐ聞くようにしている。

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、特に冒険者であれば

知らなかった事で自分の命が危うくなる可能性も高くなる。

ただし聞く相手は間違えてはならない。

そうザーグに教わっている。


「あぁ、俺達の腰位の大きさの角が生えた人型の魔物だ。

一匹はそう強くもない。だが数がそろうと面倒くさい。

ちなみに小鬼にやられると喰われるぞ。肉竜ばりに、何でも喰うやつらだ。」


「ザーグさん…」


「なんだ?」


「お、おいらは荷物運び要員では…」


「小鬼なんざ、戦闘とも言えねえなぁ。だから、これは訓練の一環だ。」


「えぇ…お、おいらでも大丈夫なんでしょうか…?」


「お前さんを鍛えているのは誰だ?」


「ザーグさん達です…。」


「それなのに、お前は小鬼なんぞに勝てないと言うのか?」


「…が、がんばります。」


五人は荷物をまとめて準備をすると、すぐに出発した。




街を出て少し歩いた所に西三番肉竜飼育場はあった。

肉竜は悪食で何でも食べるため、肉竜飼育場は街のゴミ処理場の役目も

果たしている。それゆえ飼育場の周囲はうっすらと生ゴミの臭いが漂っていた。


それなりの広さの敷地を粗末な柵が囲っており、

その中に壁のない竜舎が二棟、石造りの一軒家が二棟、

肉竜が太陽を浴びる広場などがあった。


竜舎の中では、数十匹の大きな肉竜がのっそりと動き、

端の方では人間の膝にも満たない体高の子竜達がピゲピゲと鳴いていた。


ザーグ達が街道から歩いてくるのが見えたのか、敷地に入ると

石造りの家から、大柄な飼育場主がドタバタと出てきた。


「いやいやいや、すいやせん、飼育場主のボンヌです。」


「冒険者ギルドから派遣されたザーグだ。よろしく頼む。」


ザーグはギルドから預かった木札を渡すと、

ボンヌは大仰に受け取りながら、その顔を輝かせた。


「おお、ザーグさんですか!あぁ、これで安心だ!ザーグさんの

パーティの話はあっしも街の酒場で何度も聞いてやす!

ありがとうごぜえやす!」


「…さっそくだが、状況を聞かせてくれ。」


「へぇ、二日前の夜に、森側の竜舎にいた子竜が二匹襲われやした。

一匹はその場でバラバラにされて小鬼に持っていかれやした。

あっしとうちの従業員達で大声上げて、鍋とか鳴らして何とか

追い払いやした。後は…襲われたもう一匹の子竜はダメだったんで、

そのまま肉竜のエサにしやした。」


「追い払えたのか…その時いたのは何匹だった?」


「た、たぶん三匹だったと思いやす。いや、もう…ぎゃあぎゃあと

うるさく鳴いて、恐ろしいったらありゃしなくて…。」


「だとしたら今晩か明日の晩には来る頃か。昼の内に準備もしたい、

手伝ってもらっていいか?」


「へ、へぇ、そりゃもう、もちろんでさ。皆さんさえよろしければ、

後でうちの肉を焼きやすんで食ってくだせえ。」


「お、わりいな!片付いたら、遠慮なくいただくぜ!」


ザーグは、牧場主の肩をバンと叩いて笑った。





そこからザーグ達は、飼育場の従業員達と小鬼を迎え撃つ準備を始めた。

小鬼はたいした知能がなく、常に自分の欲望に忠実に従って動くため、

動きを誘導しやすい。


それを知るザーグ達はまず、簡単な誘いこむための仕掛けを作ることにした。


最初に、森側の柵を一時的に取り払い、戦いやすい広場をまず作る。

広場には、油をたっぷりと染み込ませた布を巻きつけた即席の

大きな松明を何本も立てておく。


次に、広場を囲むように、荷車や荷物などで簡単な防壁を設置する。

最後に広場の真ん中に肉竜の内臓や肉を撒いておく。


作戦は単純だ。

森から来た小鬼が広場に来たら火矢で松明に火をつける。

そのまま矢で何匹か射止めたら、斬りこみ隊が中に入って、

殲滅して終わりだ。


念のため防壁には、飼育場の従業員を待機させておき、

必要に応じて鍋などの金物を叩き鳴らさせて小鬼を威圧する。


準備ができ、後は夜を待つだけになった。


牧場主から、肉竜のテールスープが振舞われる。

塩味が少し足りなかったが、よく煮込まれた肉竜の尻尾は

口に入れるとふわっとほどけて、とても美味しかった。

皆がお代わりまでしてたいらげると、最終的な作戦の確認を行い、

ザーグ達は仮眠をとった。



大きな夕日が丘の向こうに沈み、藍色の空に星が瞬き始める。

隣にいる人の影も見えなくなり、暗闇があたりを包み始めた頃、

真っ暗な森の奥から、小さく「ぎゃば!ぎゃば!」と鳴き声が聞こえてきた。


鳴き声はだんだん大きくなり、やがて森から大人の腰ほどの、

小さい小鬼が出てきた。


ザーグ達は防壁の陰に隠れて、小鬼が入ってくるのを待った。

夜の森から染み出すように出てくる小鬼は、

通常では全く見えないところだが、暗闇に目を慣らしているザーグ達には、

数を数えられる程度には見えていた。


「ぎゃば!ぎゃば!ぎゃば!ぎゃば!ぎゃば!ぎゃば!ぎゃば…」


小鬼は肩を左右にひょこひょこと揺らしながら、どんどん入ってくる。

ユーモラスで、見ようによっては愛嬌のある動きだが、

うっすらと赤く光る眼と不気味な鳴き声で、

かえって薄気味悪く感じさせるだけだった。


次から次へと出てくる小鬼にザーグがポツリとつぶやく。


「うーむ、思ったよりも多いな…。」


だが、ここまで来たら作戦を変えも、撤退もしない。

今退いたら、飼育場は襲われ大きな被害が出るだろう。

仮に尻をまくって撤退するにしても、もっと後…

それこそ命が危うくなってからでいい…とザーグは考えながら、

全ての小鬼が出てくるのを息をひそめて待った。


最終的に森から出てきた小鬼は二十四匹になった。


「…まぁ、なんとかなるか。」


そのほとんどが柵のあった場所より中に入った所で、

ザーグはピュイッと鋭く短い口笛を吹いた。


ミラが、防壁の影で光がもれないように用意してあった火矢を

次々に飛ばしていく。火矢は、大きな松明に突き刺さると、

瞬時に燃え広がる。数秒もすると、あたりが一気に明るくなった。


「ばぎゃあ!」「べぎゃあ!」「びぎゃあ!」「ぎゃば!」


一番初めの松明が燃え始めたのと同時に、

マルトーは柵の外にいる小鬼を弓で射ぬいていた。

大ぶりな弓から撃ち出される矢は、小鬼の小さな頭部を正確に捉え、

二呼吸ほどの間に四匹が絶命していた。

うち二匹は、森の木に矢ごと突き刺さっていた。



そしてザーグ達も防壁の陰から、広場の真ん中へ飛び込んでいた。

ザーグとビリームとポンザレが、背中あわせに三角形を作っている。


短槍を手にしたポンザレに許可されている攻撃は突きのみだ。

これまでポンザレの行ってきた訓練も、当然突きのみである。


ポンザレが突きしか行わず、武器を振り回したりしないため、

片手剣と棍棒を使うザーグとビリームも動きを制限されることなく、

得物を振り回していた。


さらに二人はポンザレのいる側を意識し、

ポンザレが複数を相手にしなくてもいいように

フォローをしながら動いていた。


そんなことにポンザレは全く気付かない。

ポンザレは、初めての戦闘で完全に頭が真っ白になっていた。


視界に飛び込んできた小鬼は、真っ赤な目を激しく光らせながら、

「ぎゃば、ぎゃば」と鋭い爪でポンザレを襲う。


ポンザレにできることは、突いて引くだけ。


初めの一突き目は、なめらかな感触でトスリと刺さった。

二突き目は骨に当たってガツッと来る感触だった。

ポンザレが覚えていたのは、そこまでだった。

三突き目以降は、もう何も覚えていなかった。



真っ直ぐに突く!


突いたら引く!


体ごと勢いは込めない!


全力で突かない!


突く!


すぐ引く!


突く!


すぐ引く!



短槍の刃は、小鬼の喉に、頬に、腕に、腿に、胴に、

胸に刺さっては抜かれていった。



「ぎゃぼばっ!」


肩を突かれた小鬼が、踏み込んできてガジリと

ポンザレの右腕に噛みついた。


乱れて生えた小さな牙、頭に突き出たこぶのような角、

細長い体に突き出た腹、長めの手足の先に大きくついた爪…

灯りの下で改めて見た小鬼は、醜い魔物だった。



あらかじめザーグに言われて、ポンザレは腕に荒縄を巻いていた。

荒縄は小鬼の鋭く尖った牙をしっかりと防いでいた。


(ザーグさんってやっぱりすごいな…。)


右腕を噛みつかせたまま、ポンザレは妙に冷静な頭で

槍を握っていた右手を放し、左手のみで短槍を引くと、

小鬼の胸に突きさして絶命させた。


小鬼がドシャッと地面に崩れ落ちる。

これでポンザレが倒した小鬼は四匹目だった。


ポンザレがぜはぁと息を吐きだして周りを見ると、

もう動いている小鬼はいなかった。



ザーグ達はにこやかに笑いながらポンザレを褒めた。


「よくやったポンザレ、小鬼なんざ楽勝だったろう?」


「ポンザレ少年、最後の動作はスムーズでとてもよかったですよ。」


「…なかなか、いい動きしてた。」


「あんたも男の子だね、きっちりやったね。」


「はぁ、はぁ、ぁ…はぁ~~~…」


小鬼の血にまみれた地面に、両膝をついたポンザレは、

息を整えるのに精一杯で、何の返事もできなかった。



目の前に出てくるから倒した。


ひたすら突いた。


終わった。


それだけだった。



「いやいやいや!ザーグさん!ありがとうござえやす!

それにしても本当にすごい!今日は、もう家の中で寝ていただいて、

明日、うちの肉をたらふく食ってくだせえ!」


「あー、とりあえず、小鬼どもの死体だけ片づけた方がいいだろうな。

どうせ、こいつらも肉竜のエサにするんだろ?だがその前に、

小鬼の右耳だけ回収させてもらうぜ。数もけっこういたから、

そこそこいい稼ぎになるな。」


右耳を切り取った後の小鬼の死体を、飼育場の従業員が

タルに入れて持ち去っていく。ザーグ達は武器や防具の返り血を拭き、

家の中に入った。



「よし、とりあえず魔物退治は終わりだ。念のためだ、

交代で見張りをしながら、朝まで休むぞ。んじゃ俺から見張り番するぜ。

ポンザレ、お前はよく眠っておけ。」


「はい、おいら寝ますー…」


そう答えて、横になった瞬間ポンザレはストンと眠りに落ちた。




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