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【13】ポンザレと魔力



翌朝、ザーグとマルトーがギルドにやってくると、

膝を抱えて落ち込んでいるポンザレがいた。


「あんた、どうしたんだい?」


マルトーが声をかけると、ポンザレはゆっくりと頭を上げたが、

その顔には涙の跡がついていた。


「あ、マルトーさん、ザーグさん…。」


「なんだ、どうした?しょぼくれたツラして。」


「あの…荷物を…取られたんですー。」


「へ?」「あぁ?」


二人が見ると、たしかにポンザレはいつも身に着けている

背負い袋を持っていなかった。


ギルドの中庭は、主に日雇い仕事をする流れ者が集まっている場所である。

屈強なギルドの職員が近くにいるため大きな犯罪が起きることはないが、

たまにこういった盗みは発生する。素性のわからぬ怪しい人間が

たくさん集まっているので、どうしようもないのである。


昨晩のポンザレは酔っていた。ふらふらとほろ酔い気分で帰ってきて、

そのまま横になって、ぐぅぐぅむにゃむにゃと気持ちよさそうに

寝ているのである。盗人から見れば、極上の獲物としか見えなかったであろう。


「ふぅむ…まぁ、命まで取られなかったから良し…とするしかないだろうな。

というか…気をつけるように言ってなかったな…。」


苦虫を嚙み潰した様な顔をしながらザーグがポリポリと頭を掻く。


「あんた、荷物の方は何か大事な物、入っていたのかい?」


どうしてもの場合は闇マーケットで買い戻したりせねばならない。

スラム入口の闇マーケットは盗品や落とし物が売られている。

盗られた品物、全ては無理にしても、一部は買い戻せる可能性がある。


「依頼で使う良い服、替えの服、木の杖、小さいナイフ、小鍋、水筒、マント、

…紐、火付け石…」


「ふぅん…。何か取り戻したいものはあるかい?」


ポンザレは中身を思い出しながら考えた。

荷物はどれもが故郷の村を出た時に一緒に持ってきたものだ。

旅の途中ではお世話になったが、街に来てからはナイフや鍋は

ほとんど使っていない。愛着はあったが、しょうがないと素直に思えた。


一番惜しいのは、依頼で使う良い服だった。

お婆ちゃんの話相手という依頼をポンザレは定期的に受けている。

その際に、その良い服を着て来る様に言われていた。

ちなみにポンザレは良い服と思っているが、ポンザレの普段の服が、

ボロボロのひどすぎる物なだけで、実際は依頼主の家の使用人の

お下がりのシャツとズボンである。



「一番惜しいのは、依頼で使う良い服で…」


と途中まで言いかけたところで、ポンザレはザーグとマルトーの目が

ゾクッとするほど真剣なことに気がついた。

ポンザレは一瞬で理解した。ザーグとマルトーは、自分が言った物を

取り返すための算段をつけようとしている。

自分の不注意のせいで凄腕の冒険者達が動こうとしている…

ポンザレはそれに気付くと、これ以上甘える訳にはいかないと

思いとどまった。


「一番惜しいのは、お仕事で使う良い服だったんですが、なくても大丈夫です。

…だから取り戻したい物とかはありません。指輪も無事でしたー。」


と言って、手袋をつけた左手を見せる。


(何日分かのご飯を減らせば、たぶん似たような服は買えるよね…。)


…と、口をもぐもぐさせてポンザレなりに考える。


ザーグとマルトーは、いつものもぐもぐを見て、ふっと息を漏らすと

「んじゃ、しょうがねえか。」と肩をすくめた。




「よし、んじゃあ、魔力の適性検査をするぞ。いくぞ、ポンザレ。」


ザーグが立ち上がりながら言う。


「あ…はい、すっかり忘れてましたー。行きますー。」


ポンザレは気を取り直して、まだ少し固い笑顔で応える。

ザーグに連れていかれたのはギルドのカウンターだった。

受付のお姉さんがにっこりと微笑む。


「あら、おはようございます、ザーグさん。どうされました?」


「あぁ、こいつの魔力適性を調べたくてな。」


「え?ポンちゃん?魔力適性してなかったの?あらら、ごめんねー。

最初にちゃんと案内してなかったのね。」


「いえー、大丈夫ですー。」


「じゃあ、ちょっと待ってね。」


お姉さんは席を立つと、奥の棚から怪しげな器具を取り出してきた。

両手を広げたほどのサイズの台座に、二本の柱が立っている。

柱の上側には横に柱が張られており、凹を逆にした門のような形になっている。

上の柱の真ん中からは、銀色の三角錐の振り子がついている。


「はい、これが魔力を検査する器具よ。この振り子に、手をかざして…

魔力をそそいでみてね。」


「魔力って言われても、どう出せばいいのかわからないですー。」


「そうよねぇ。言われても困るわよね。でも私も魔力持ってないから、

説明できないの。うーん、よくわからないけど、動け~~とか

念じればいいんじゃないかしら?…大丈夫よ、魔力がある人って

数百人に一人くらいだから、そうそう動かないわ。気楽にやってみてね。」


ポンザレは振り子をつついてみたが、紐のように見えた部分は

実は細い金属の棒で、振り子は全く動かなかった。


続いて、手をかざして、動けぇ~~っと念じてみると…

振り子が一瞬だけピクッと動く。


ポンザレが、期待を込めながら、さらに動け!動け!動け!…と

手から何かがでるイメージを強めながら念じると、

振り子は親指の爪の長さほどの距離をゆらゆらと揺れ始めた。



それを見たザーグやマルトー、受付のお姉さんがそれぞれ

ポンザレに話しかける。


「おぉ。ポンザレ、お前魔力持ちだったのか!…ふむぅー。」


「あんた…良かったねぇ。」


「うわぁ、ポンちゃん!おめでとう!ポンちゃん、魔力持ちだったのね!」



ポンザレは嬉しくなって、口をもぐもぐさせながらお礼を言った。



「ありがとうございますー。なんだか、全然実感ないです~。あ、でも…」


ポンザレは目を輝かせて続ける。


「おいら…魔法使いになれるんですよね!?」



あちゃ~という顔をするザーグとマルトーに、苦笑いするお姉さん。

お姉さんが説明を続ける。


「ポンちゃん、魔法使いになるには…もっと特別な才能がいるみたいなの。

だから魔力は持っていても魔法は使えない人がほとんどなのよ。

魔法を使える人はそれこそ何万人に一人しかいないらしいの。」


「そうなんですか~。」


「あと魔力の量も大事みたいでね、振り子がもっとぐんぐん揺れないと

難しいみたい。…ポンちゃんの魔力はほんのちょっとなの。」


「う~ん…難しいんですね~…。」


落ち込み始めるポンザレにお姉さんは、慌てて説明を重ねる。


「でもね、ポンちゃん!そもそも魔力を持っているだけですごいのよ。

なんてたって数百人に一人なのよ!そうそう!この後、魔法の才能が

あるかどうかも、一応調べることになっているからね。気を落とすのは早いわ。

…そしてね、一番大きいのは…魔力を持っている人は、なんと…

専用のお仕事ができるようになるの!賃金だけで言ったら、

今ポンちゃんが受けている仕事の数倍以上になるのよ!」



それは今のポンザレにとって、大きな喜びをもたらす情報だった。


「えぇぇ!そ、そうなんですか!?う、うわぁ…なんて。また…うわぁ…!」


「ポンザレ、それ俺が最初に説明してやったじゃねえか…。」


ザーグが首をポリポリかきながらボソッとつぶやく。


「へへ、すみません、おいら忘れてたみたいですー。」


ニヤニヤ締まらない顔でポンザレが答える。

盗人に持っていかれた荷物のことも忘れ、ポンザレは浮かれていた。


「…で、だ、ポンザレ。」


ザーグが真剣な眼差しになってポンザレに言う。


「はい、なんですかー?」


「お前は、この後魔法の才能の検査をする。さらにその後で、

さっき言われた仕事の話があるだろう。薬草とかを煮込んでいる鍋に

手をかざして魔力を込める仕事なんかだ。確かに賃金もいい。」


「はい。」


「お前はそこで薬師ギルドに所属しないかと聞かれるだろう。

だが…お前が良ければ少し返事を待ってもらいてえ。

で、夕方の鐘が鳴る頃にここにもう一度来てくれ。」


ザーグにしては、珍しく少し歯切れの悪い言い方だった。

ポンザレは少し不思議に思いながらも、「わかりましたー」と了承する。


「じゃあ、また後でな。」


「はいー。また後で会いますー。」



ザーグは片手をあげて、背を向け去っていった。

マルトーもその後に続いていく。



「はい、じゃあポンちゃんは、あっちの扉から入ってね。」



ポンザレはお姉さんに案内されてギルドの建物へと入った。




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