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【12】ポンザレ、魔器の話を聞く



ポンザレとザーグ達との話は続く。


「そうだ、ポンザレ。あんた、その左手どうしたのさ?」


木の実を炒めたおつまみを口にほうりながら、マルトーがポンザレに尋ねる。


ポンザレは、数日前から左手に薄い革の手袋を着けていた。

盗品や落し物を売っているスラムの入口の闇マーケットで、

左手だけの手袋をわざわざ買ったものだ。

ただでさえお腹を空かしているポンザレが、

食べる量を減らしてまで捻出したお金で買ったものだ。


ポンザレが左手に手袋をしているのはザーグ達も気になっていたが、

まずは飯、落ち着いてから話というのがパーティの

暗黙の了解のため、今になって聞いたのだった。


「はいー。実はなんですが、おいらが街に入る前に乗った竜車が、

街道で盗賊の…」


ザーグが手を上げてポンザレを制止する。


「待て。…ミラ。」


ザーグが目で合図すると、ミラはすぅっと息を吸い周囲の様子を探る様に

耳をすまし薄く目を閉じる。


「…ん、大丈夫。」


ミラが言うとザーグは言った。


「ポンザレ、俺達は聞こえるから、声を小さくして喋れ。ここは俺達が

いつも使っている食堂で、席も俺達がいつも座る最奥だ。それでも

警戒するに越したことはないからな。」


ザーグ達は凄腕の冒険者である。酒を飲んでいても頭は明瞭である。

ポンザレの話の出だしを聞いた瞬間に、ザーグはこれが他者に聞かれたら

危険度の高い話だと判断した。しかも、その危険度は

ザーグ達ではなくポンザレ本人に対してである。



もちろんポンザレはそんなことに気がつかない。

ポンザレは素直にザーグに従うだけだ。

従ったから、生きて街にたどり着けた。

何も疑うことはない。


「わかりましたー。声を小さくしますー。」


口をもぐもぐとして、返事するポンザレにミラとマルトーの女性陣は

笑いそうになるのをこらえ、ザーグとビリームはやれやれという顔をする。


ポンザレは声を小さくして、盗賊の襲撃現場後で木の指輪を拾ったこと、

その指輪がなぜか左手薬指にしか入らず、しかも入ったら取れなくなったこと、

おまけに一晩寝て起きたら新芽が出ていたことを説明した。


ザーグに言われ、手を上には上げないようにして

ポンザレは手袋を取り皆にその指輪を見せた。


「ふ~む、これはなんとも不思議な話ですね。」


「これは…〔魔器〕なんじゃねえのか?」


「確かに何とも言えない…こう、何度も見たくなる不思議な雰囲気が

あるねぇ。」


「…最初からこういうデザインに見える。」


「あんた、この指輪をしてから何か特別なことができるようになったり、

不思議な現象が身の回りで起こったりしていないかい?」



「…あの〔魔器〕ってなんですか?」



ポンザレはザーグ達が何を言っているのかがわからなかった。



「あぁ、そうか、そこから説明か。ビリーム頼む。」


「はい、ポンザレ少年。君は悪獣殺しの英雄バウキルワの話を

知っていますか?」


「おとぎ話ですー。子供の頃は、聞いていましたー。」


英雄バウキルワは子供の頃なら誰もが聞いたことのあるおとぎ話である。

子供の時のなりきりごっこでは、ポンザレは敵の悪獣ヤクゥの役だった。


「ポンザレ少年は、バウキルワの持つ武器とか鎧を覚えていますか?」


「全ての火をはじくマント…みなぎる力の鎧…斬れないものはない『流線剣』

…空を踏めるブーツ…水晶の檻のネックレス…?」


「正解です。よく覚えていますね。そして〔魔器〕とは、それらです。」


「えぇー…でもそれはおとぎ話ですー。」


「確かにおとぎ話で、バウキルワの〔魔器〕が本当に存在するのかも

わかりません。ですが、実際に武器や防具や指輪などで、普通では

考えられないような特別な効果を起こすことのできる〔魔器〕は

存在するのです。」


「おいら、全然知らなかったですー。」


「〔魔器〕は、便利だったり強かったりするわけです。

そんな物を持っているのが他人に知れ渡ったら…どうなりますか?

売ってくれとか、殺してでも奪い取るとか…なりますよね。ですから

〔魔器〕を持つ人は、誰にも言うことはありません。」



ポンザレは口をポカンと開けて聞き入っていた。



「ポンザレ少年、口が開きっぱなしです。…話を戻します。

そんな滅多に出てこない〔魔器〕ですが、幾つか有名になっている物も

あります。指輪『紅い虜』は、その指輪をつけた人を魅力的に見せて惚れさせる。

『濡れ槍』は穂先から水が滴り続け刺した相手の血を流し続ける。

『輝きの松明』は鉄製の松明で持ち主の念じるままに光ったり消えたり

するそうです。全部、各地方の領主などが所持していますね。」


「すごいんですねー…」


「…で、ポンザレ少年のその指輪も〔魔器〕なのでは?という話なのです。」


「こ、これは、ど、どういう効果があるんですか?」


「ふむ、私達には分かりませんし、取れないのであればポンザレ少年自身が

いろいろと試していくしかないでしょう。特に指輪は判別が困難だそうですが。」


「そ、そうですかー。」


「ポンザレ、手袋で隠しといたのは、良い判断だったな。日雇いのお前がちょっと

目立つ指輪でもつけていれば狙われた可能性もあるからな。」


ザーグも再び会話に入ってくる。


「いえ…なんか汚すのが可哀そうだったからですー。」



「汚すのが可哀そうって…あんたはバカというか優しいっていうか…。

っていうかポンザレ、あんた…知らないで動くわりに結果いい動き

してるんだねぇ。ポンザレは運を持ってるのかもねぇ。」


「…ふっくらしてるから、福を呼ぶのかも。」


「そいつはいいな。ハッハッハッハ…」


ザーグ達が陽気に笑い、ポンザレもよくわからないながらも、えへへと笑う。


「そうだポンザレ。ついつい〔魔器〕の話ばかりになっちまったが、

お前、魔力適性検査はどうだったんだ?つっても、あれか、日雇いで

金がないってことは、魔力はなかったんだろうが。」


「…魔力適性検査?…!あー忘れてました!おいら、それ受けてないですー。」


「まぁ、普通は魔力なんてほとんど持ってないしな。」


「ここまで生き延びてきたのです。私もポンザレ少年は、なかなか運を

持っていると思います。…もしかすると魔力も持っていたりするかもしれませんね。」


「そうだとしたら、多少はあんたの暮らしも楽になるだろうねぇ。」


「まぁ、明日にでもギルドの受付にいってお願いしてみろ。」


「はいー。明日、適性検査受けてみますー。」


その後もザーグ達とポンザレは楽しい時間を過ごした。

ザーグ達はポンザレに冒険者や自分達のことを色々と教えてくれた。


ザーグは片手剣を得意としており冒険者歴が一番長い。

リーダーとしてパーティの方針を決めているが、ザーグの判断で事前に

危機を回避できたり、窮地から脱する場面も多いという話だった。


ビリームは様々な武器の扱いに精通しており、得意なのは棍棒などの

打撃武器だという話だった。なぜ打撃なんですかと聞くと

「生き物は、骨が折れれば動けなくなりますからね」という返事だったので

ポンザレはぶるっと震えてしまった。


体格の良いマルトーは、草原の部族の出身だという話だった。

得意な武器は弓で、その腕前は間違いなく街一番だという。

なぜか恋人ができないのが悩みだと、真っ赤な顔でぶつぶつと

本人がつぶやく。気が強すぎるのが原因だと、他のメンバーは

突っ込んでいたが、流れる金髪に目鼻立ちも通った美人のマルトーに

恋人がいないというのはポンザレには信じられなかった。


小柄なミラは、スカウトと呼ばれる探索・斥候役でパーティの目と耳である。

その能力に他のメンバーからも全幅の信頼をおかれている。

得意な武器はなく、短弓をよく使うという話だった。

ザーグとは恋人であることを説明されると、マルトーがチェッと言って

杯をあおった。ちなみにビリームには奥さんと子供がいるそうだ。



生まれて初めてのポンザレの酒が、三杯目の終えたところで解散となった。



ポンザレは、真っ赤な顔をして何回もお礼を言った。

ニヤニヤしたザーグ、目を細めたビリーム、ハハハと笑うマルトーに、

微笑みを浮かべたミラ。



「おう、ポンザレ、明日の朝は中庭で待ってろ。魔力の適性検査に

つきあってやるからよ。」


「はい、わかりました~。ひっく~。」



ほろ酔い気分でポンザレはお辞儀をして別れる。

既にだいぶ夜もふけているが、通りは明るく人通りもあり、

ギルドは歩いて一分ほどの場所である。


店の前で別れを告げて、ポンザレはとてもいい気分で歩き、

ギルドの中庭にたどり着くと適当な場所を見つけて横になった。



(あぁ、なんて今日は素敵な日だったんだ。おいら、こんなに幸せで

いいのかな。んふふふ。おやすみぃ~……)



ポンザレは、今日の幸せを噛みしめながら目を閉じた。


〔魔器〕の話が出てきました。ポンザレにもだんだんと明日が見えてきました。

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