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【101】ポンザレの花



遠くで群衆のあげる歓声が地鳴りのように響いていた。

口々に何かを叫んでいる様子だったが、

その内容までは届いてこない。



頭に王冠をつけ、赤いマントをつけた男が、

二人の老人を引き連れて石造りの廊下を歩いていた。

男は数歩歩くごとに、わざとらしくため息をつき、

付き従う二人の老人はその様子に苦笑を浮かべている。



「くそっ…いまだになれねえ。っていうか、あいつら俺の名前叫びすぎだろ。

手振ったら泣いて倒れているやつもいたぞ。どうしろってんだ?」



そう愚痴る男は、ザーグだった。



「まだ言うておるのか。もう建国して三年、この建国記念祝賀の儀も

三回目だというのに。いい加減あきらめて笑顔でも向けてやればいいじゃろ。」


老人のうちの一人は、ゲトブリバの街の元領主ボンゴールだ。

ため息をつきながらボンゴールは続ける。


「ザーグ王よ、早う、わしを引退させてくれ。そもそもじゃぞ、わしは、

お主をわしの後釜…、ゲトブリバの領主にして楽隠居を決め込むつもりで

おったのに…、それを飛び越えて国じゃからのう。まぁ老い先短い人生の最後で、

こんなおもしろいことになるとは思っていなかったがのう…。ハハハッ。」



「全くですね。ボンゴール老。ですが、我らともに老い先短い等とは

言っておられません。このエイルザーグは、これからの国ですからな。」



もう一人の老人は、ゲトロドの街の元領主アルゴシアスだった。

百年以上昔に、悪獣によって滅ぼされた王国の諜報部門を担っていた

アルゴシアスの一族は、王国が無くなってからも、各街の情報を裏で

収集し続けていた。その中で得た『汚泥の輩』に関する情報を、

ザーグ達に提供したことがあった。

また冒険者だった自分の孫が、ザーグの世話になったことで恩義もあり、

ことあるごとにザーグ達を助けていた。



ボンゴールとアルゴシアスは、ザーグという王を支える大臣で、

建国された間もない若い国を実務的にまわしている。



「そういえば、ザーグ王。平原の開拓は順調だ。汚泥の沼は肥沃な土に

生まれ変わった。開墾するだけ収穫量が上がっていく状況だ。

今年の麦の収穫高は昨年の二倍までいけそうだと報告がきている。

そうだな、来年からは、本格的に大穀倉地帯としてまわしていけそうだ。」



「そうか、それはよかった。今まではどうしても街の周りの狭い土地を

耕すだけで終わってたからな。」



「うむ、それで、ザーグ王よ、念のための確認じゃが、遷都はどうする?」


「なんども言わせないでくれ。ここじゃないとだめだ。

ここ以外を俺の住む街にする気はない。」


「そうじゃのう。いや、平原にあった方が各街からの交通の便がよいのでな、

どうしても定期的にそういう声があがってくるのだ。」


「なら、平原の中央に作った宿場町をもっと発展させりゃいいだろ。」


「それが一番なのだがな。うむ、わかった、まぁ、うまく調整しよう。」



悪獣が倒されてから四年が経ち、ザーグは王となっていた。

国の名はエイルザーグ王国という。

エイルは、古い言葉で英雄を表す言葉だ。

元ミドルラン、つまり悪獣を倒した場所に王城を建て、王都とした。

王都の名はエルノアと言う。







あの悪獣との戦いの日。


光る雲に映った満身創痍で戦うザーグ達の姿は、

全ての街の人々の目に触れた。雲が薄れて無くなったことで、

戦いの最後までは映されなかった。だが、ミドルランの生き残りの冒険者達が

各街で悪獣が倒されたことを伝えてまわると、人々は歓喜した。



戦争や魔物の襲撃など、『汚泥の輩』の行いにより、

どの街も多くの不安や悲しみを抱えていた。



そんな中、神話の悪獣が現れ、もはやこの世の終わりだという所で

その悪獣をザーグ達が倒したという話は、人々の心を深く熱く震わせた。

しかも多くの人間が、実際にその戦いの様子を見ている。

吟遊話士たちが酒場や街角で語るたびに、誰もが悲しみを飛ばし

不安も忘れて興奮した。

そして、無くなるはずだった未来を与えてくれた存在として、ザーグを称えた。


『英雄』と。



ザーグ達は、その後ゲトブリバへと戻り、戦いに疲れた体を癒していた。

ポンザレがいなくなったことは、ザーグ達の心に深く大きな溝を作った。

特にザーグはひどかった。

気が抜けてしまい、依頼を受けることも止めた。

鍛錬などをしても身も入っておらず、ただ、何もせず日々を過ごしていた。



そんな頃、高まり続けるザーグの名声は衰えることを知らず、

結果、各街からザーグへの勧誘競争が熾烈を極めた。

「うちの街に永住してくほしい。毎年、大金を与える。」

「一度訪れてほしい。望むがままの生活を保障する。」

などと、どの街もザーグを呼ぼうとやっきになった。


唯一冷静だったのはゲトブリバの領主ボンゴールと、

ゲトロドの領主アルゴシアスだった。

この二人はもともと各街の領主の間の中でも切れ者として名高く、

互いに認め合う仲でもあった。


二人は共謀して、「各街が自分のところの利益だけを考えるのは

非常によろしくない」「それが新たな争いの種になる」と主張し、

悪獣も倒し平和が訪れた今だからこそ円環街道の全ての街を統べる存在が

必要だと説いた。すなわちザーグを王に推し立てようと提案したのだ。


しかもアルゴシアスは旧王国から続く諜報組織の一族だ。

ザーグを説得しにきたときには、既に各街の調整も終わっており、

これは民衆の総意であると、お膳立ては全て済ませてきていた。


ザーグは、その話を聞いて当然断った。

いまだに気の抜けた日から抜ける様子はなかったが

この頃には、時々思い出したように依頼も受けずに

森に入り黄金爆裂剣を振って魔物などを討伐していた。



何度もボンゴールやアルゴアシアスは説得に訪れた。

『英雄』と呼ばれているからだけではない、二人共にザーグの中に、

王たるものの器を見出したからだ。



そして、ザーグも二人と何度か話をするうちに、悩み始めていた。

ポンザレのいない今、冒険者にも戻る気もない。

〔魔器〕を使い続けることを考えて、時折魔物狩りなどをやってはいるが、

それをいつまでも続けるかと言われると、そうではないと自分でも思っていた。



ザーグ達は、パーティメンバーで定期的に集まって食事をしていた。

この集まりもポンザレがいなくなってからは、なんとも華にかけた、

どこか寂しいものになっていた。無邪気な笑顔で、もぐもぐと食べる存在が

いないことがザーグ達の心に陰を残しており、どうしても盛り上がりれなかった。



その日も、いつものようにポンザレのことが話題に上がった。

このとき、誰かが口にしたのは、

「ザーグが王になったら、ポンザレだったら何ていうだろうか?」だった。



「ザーグさん、すごいですー。」



マルトーかニコか、誰が真似したのか、酔いのまわったザーグは覚えていなかった。

だが、間延びしたポンザレの物真似が、本当にそう言っているように

ザーグの心にするりと入ってきた。



「…そうか、すごいか…。…ハハハッ!」



突然の笑いに、皆がザーグの顔を見る。



「ハハハッ…しょうがねえな、あいつなら、そう言いそうだしな。

俺は…すごいと思われねえとな。ハハハッ。」



ザーグは泣きながら、杯をあおった。







翌日から、ザーグは人が変わったように動き始めた。

パーティを再度集めて宣言する。


「…俺は王様をやってみるぜ。それでな…、そもそも俺は、

あいつのパーティ脱退は認めていなかったんだが、それも今日までだ。

俺は、ここでパーティを正式に解散しようと思う。…それでもいいか?」



皆は前日のザーグの様子から想像していたので、何も言わずに頷いた。

ザーグがようやく動く気になったのだ。皆、心から喜んでいた。



「それでだ。俺が王になるにあたって、やっぱり皆にも少し助けてほしい。

これからいろいろと相談をしていくから、よろしく頼む。」


ザーグがそう言って頭を下げると、全員が笑みを浮かべながら頷いた。



こうしてエイルザーグ王国が建国され、

ザーグが王になるための条件の一つで、王都はエルノアと決まったのだった。








建国記念日となる初春のこの日、

王都エルノアには大勢の国民が集まっていた。

王城の前に大きく開かれた広場を埋め尽くした国民が、

ザーグ王の姿を見て涙を流し、口々に万歳を叫んでいた。


興奮の渦が収まらぬ中、顔見せと挨拶をすませたザーグと

二人の大臣は、広場と反対側の大きなバルコニーに入ってきたところだった。


大きく空中に突き出たような形で作られたバルコニーから空は見えない。

顔を上げたザーグの顔に木漏れ日がうつる。



バルコニーの中央には円形の白く大きなテーブルが置かれている。

テーブルの上には、目まぐるしく動く給仕たちの手により、色とりどりの料理や

飲み物が並べられていた。それはザーグ達が冒険者時代に食べてきた

各街の名物料理の数々だった。


そしてその料理を目の前にしてくつろいで座っているのは

ビリーム、ニコ、マルトー、だった。



「遅いじゃないか、料理が覚めちまうよ。」


眼帯を付け、長い金髪をゆるく後ろでまとめたマルトーが、杯を掲げる。



「全くです。熱いものは熱いうちに食べないといけません。」


ビリームがザーグに爽やかに笑いかける。



「お久しぶりです。ザーグさん!」


ニコが微笑みながら軽く手を振る。



「ではザーグ王よ、わしらは下がるぞい。また後でな。」


「あぁ、よろしく頼む。」


「うむ、ではの。」



大臣二人が下がり、それにあわせて給仕達も一斉に下がる。





「…遅くなった。ごめんなさい。」



入れ違いに入ってきたのは、紺色のドレスに身を包み、

片目に白い眼帯をしたミラだった。肩口ほどの長さだった黒髪は長く伸び、

美しさに加えて、ザーグよりもよほど王妃としての威厳を漂わせていた。

そして、何よりも目立つのはその大きなお腹だった。



「ミラ!久しぶりだねぇ!お腹、だいぶ大きくなったねえ?

あとどのくらいだい?」


「…えぇ。あと二~三ヵ月。…最近すごく蹴ってきて痛い。」


「ミラ姐さん、お久しぶりです!あたし今度、栄養のつく薬草採ってきますね!」


「…ふふ。ありがとう。ニコ。」


ミラは軽く息を吐きながら、お腹をさすって席に着いた。


「お、おい、ミラ、ちょ、調子悪いなら…」


「…大丈夫。あなたは心配しすぎ。」


ミラが笑い、皆もザーグのおろおろとした様子にまた笑った。



「…はい、この子も持ってきた。」



一つだけ開いていた席に、ミラが青い小鳥の鈴を置く。

それはポンザレが持っていた〔魔器〕の一つで、

ポンザレが光の中に消えた後に唯一残っていたものだった。



「では…、久しぶりの再会に。乾杯!」



「「「「「乾杯!」」」」」」




毎年、まだ寒さの残る初春のある日、建国記念日にあわせて、

ザーグ達はパーティを振り返り、語り合う会を行っていた。



それぞれが次のステージで活躍をしているが、

ポンザレを中心としたパーティの記憶は、全員の心の真ん中で

色あせることなく輝き続けている。




「ポンザレ少年の短槍の構えは、今思い返しても…、

なかなか美しいものでした。私の今教えている人達でも、

あそこまで伸びる可能性、素直さを持つ人間はいませんね。」



ビリームは、酒場『武道道場』の店主をしている。

様々な武器の扱いに長けたビリームは、武道師匠の二つ名を持っており、

冒険者時代から、武道指南を冒険者達に行ってきた。

ビリームが武器の扱いを教えたことにより、

独学で学ぶしかなかった冒険者達の生存率は大きく上がっている。


その経験から、練武場を併設した居酒屋『武道道場』を開いた。

指南をしてもらえ、汗を流した後に出される美味い飯と酒で

『武道道場』はあっという間に冒険者御用達の人気酒場になった。

しかも今では、引退した高位冒険者を店長や店員に雇い入れて、

経営を拡大しており、全部で五つの支店が他の街にもあるという。


ビリームは、ボンゴール大臣の縁戚にあたるため、

ことあるごとに大臣職を継ぐように言われているが、

ビリームは商売が順調で楽しいため断り続けているとのことだった。


「いや、ビリーム本当に、いつでも来てくれ。高給、高待遇で

両手をあげて歓迎する、頼むぜ…。ぶっちゃけ、ちょっときついんだよ。」


「フフッ…まぁ、そのうちですね。」


「あぁ、本当だぞ!絶対だぞ!」


「はい、そのうち。」


「くっそ…。まぁ、それはそれとして、ビリーム、家族は元気か?」


「ええ、おかげさまで、姉弟ともに冒険者になると鼻息を荒くしています。

今はニコが憧れの人のようですよ。」


「そうか。今度は家族も連れてきてくれ。久しぶりに会いたいしな。」


「そうですね。皆も温泉に入りたいでしょうし、すぐまた来ますよ。」



もともと温泉の町として有名だったミドルランは、

王都になってからも、変わらず温泉は湧いており、人々の、

そしてザーグの活力のもとにもなっている。



「で、そのニコは、冒険者をまだ続けてるんだな。」


「はい、そうです!毎日なかなか忙しいですねー。」


ニコは、高位冒険者として活躍しており、パーティのリーダーでもある。

慎重かつ大胆な動きで、依頼の達成率は相当高いと評判のようだ。

特に、犯罪者相手の捜査や荒事解決などで高い達成率を誇るとの話だった。



「今は、どの辺の依頼をやってるんだ?」


「最近、旧王都の発掘が一部区域に限って、

解禁されるようになったじゃないですか?」


「あぁ、国の依頼として出しているやつだな。」


「あの辺りの未調査区域の初期調査ですね。」


「どうだ?冒険者は面白いか?」


「ええ、やっぱりおもしろいです!いまだに受付や酒場で絡まれることも

ありますが、痛い目みてもらって追い払うのも、また楽しいですね。」



物騒なことを楽しげに笑うニコは、以前よりも少し日に焼けて、

逞しくなっていた。全身からあふれ出る生命力は、

まさしく強い冒険者の証だった。




「そういえばマルトー、新婚生活はどうですか?」


ビリームがにやりとしながらマルトーに話を振る。



「し、知らないよっ!あのバカ、そもそも、あんまり家に帰ってこないんだよっ!

しかも帰ってくるときは、だいたい一杯ひっかけてきてるんだ。」


「それ、マグニア親分照れてるんですよー。」


ニコが笑いながらつっこむが、マルトーは不満げな顔を隠さない。


「でもさぁ、夫婦になったんだから今さらなんじゃないかい!?」


「ハハハッ…あー…でもあれか、傍から見ると冒険者ギルド統合本部長と、

底辺冒険者の結婚だもんな。意外にマグニアの方も、やっかみとか受けて

動きづらいとかあるかもしれねえな。」


マルトーは、冒険者ギルド本部の統合本部長をしている。

つまり前冒険者ギルドの中で一番偉い人間だ。

本部は、ここ王都エルノアにあり、全ての街の冒険者ギルドを管理している。


マルトーは冒険者時代から「姐御」「姐さん」と恐れられ、敬われていた。

今では各街のギルド支部長になった手下達(マルトーは認めていないが、皆が勝手に手下と名乗っている)がいるため、冒険者ギルドは風通しがよく、

より信頼できる組織になっている。


例えばマルトーが本部長になって最初に行った改革は、

ギルドの運営する併設酒場を閉めて、食い詰めた子供達に

きちんとした食事と仕事をセットにして提供することだった。

貧しい村で捨てられたり、食い詰めた者達が街にたどり着き、

冒険者ギルドに登録し、仕事を得るという仕組み自体は

社会の受け皿として存在する意義は高い。

だが、少しでも食えるようになった冒険者達は、

冒険者しか利用できないギルドの併設酒場で美味そうに食事を取る。

…餓死寸前の子ども達の前でだ。

これまでのギルドはそうすることで、加入者を増やす方針だった。

また例え加入者が死んでも、幾らでも食い詰めた子供たちは来るだろうという

考え方をしていた。


そういった負の流れを断ち切り、

ギルドを改革し続けているのがマルトーだった。



そして対する旦那となったマグニアは、ザーグの旧友であり、

実際にはゲトブリバの街の犯罪者ギルドの長だった。

今ではアルゴシアスから諜報組織を受け継ぎ、

王国の諜報部門を裏から支えている。

だが、表立って責任ある立場には絶対に出たくないらしく、

今でも表向きはしがない冒険者の一人だ。



それゆえ、冒険者ギルドのトップであるマルトーと、

しがない冒険者マグニアの結婚は大きな話題となった。

だがマグニアの裏の顔を知っている人間は、マグニアの情報で

マルトーがギルドのやっかいな人間を排除して改革を進めていることも知っている。

結局は夫婦が手を組み、裏と表で動いているのだ。


今度、マグニアの愚痴でも聞いてやるかなと、

話を聞きながらザーグは考えつつ、先ほど大臣から出た話を口に出した。



「おぉ、そうだ、平原の開墾は順調だ。不足がちな食料にも目途が立ちそうだ。

なんで、そのうちまた麦畑の害獣討伐依頼出すからな。開墾して広げた分だけ、

今年の依頼は増えそうだ。」


「あぁ、そうなんだね、それは嬉しい話だねえ。

腹空かして倒れる子が減るのは何よりだよ。でもね、ザーグ。」


「ん?なんだ?」


「あんた、あたしを家でゆっくりさせてやろうって気持ちはないのかい!?

だいたい、国からの依頼だけで山ほどあって忙しすぎるんだよっ!」


文句を言うマルトーに、ザーグは自分の王冠を指さしてニヤリと笑った。


「俺がこんなのつけて苦労してるんだ。ハハッ、お前らも、もうちょっと苦労しろよ。」



「充分してるよっ!!!」



マルトーの叫び声に、笑い声が上がった。









「ピーピヨ!ピピー!!」



皆が、今と昔を行き来しながら歓談していると、

テーブルの上の小鳥の鈴が鳴いた。


「お、小鳥の鈴が鳴いたな…」


ザーグが小鳥の鈴を見て、そしてそのまま視線を上にあげる。

頭上に広がるのは、視界いっぱいに、どこまでも広がる木の枝と、

その茂った葉の隙間から差す木漏れ日だった。



あの日、ポンザレが光の中へ消えた後、光輝く木は見る見る間に、

どんどん大きくなっていった。幹はどこまでも逞しく太く成長し、

高さも見上げきれないほどに伸びて、卵型の葉が無数に茂った。

大人が百人手をつないでも幹をまわり切れないほどの大きな大樹、

いや巨大樹となって、ようやく光は収まった。


この巨大樹を高い城壁でぐるりと囲った上で、

街側に城を配置して作られたのが、現在ザーグ達の住む王城だった。



巨大樹は、あますところなく王都の空を埋めているが、

半透明の葉は、陽を優しく通すため、どこかが暗くなることもなく、

むしろ夏の強い日差しや、冬の山から吹き降ろす寒風から街を守っていた。



「ピピーピーーッ!」




再び鳴いた鳥の鈴に、ザーグ達が目線をやると、

いつの間にか…そこに花があった。




その花は、とても不思議な花だった。



五枚の花びらの、手のひらに収まるほどの花。

中央にいくほどに黄緑色に変わっていく乳白色の花びらは、

全体に透けている。そのため、ふっくらとしているにも関わらず、

とても軽そうで、柔らかそうだった。わずかに魔力を含んでいるのか、

淡く光を発しており、その表面で、内部で様々な光を生み出しては、

ゆっくりと変わっていく。


生命の息吹にあふれたその花からは、

ひたむきさ、優しさ、温かさが伝わってきた。

ザーグ達が一緒に歩いてきた少年の面影が、確かにそこにあった。



「今年も…また咲いたんだな。…ポンザレの花が。」



その言葉を合図とするように、

王都エルノアの空に花びらが一斉に舞った。



半透明の花びらは、空中で舞いながら光を反射し

王都の空を七色に染め、消えていく。

その幻想的な景色に、街中のいたるところから歓声が上がり広がっていく。





ザーグ達は、舞い散る花びらをいつまでも見ていた。










~~完~~






















長い間、『ポンザレの花」にお付き合いいただき、

ありがとうございました。

読んでいただいた皆さまのおかげで、

終わりまで続けることができました。



ご意見、ご感想、そしてレビュー等をいただけましたら

次回作(?)の励みになりますので、お時間のある方は

なにとぞ…よろしくお願いいたします。



活動報告も書かせていただきました、

お時間ある時にでもお読みいただけましたら嬉しいです。



それでは皆さま、またお会いできる日を楽しみにしております。

ありがとうございました。




南星りゅうじ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れさまです。 なんというか、おとぎ話のようなゆるさがありながら、設定もしっかりしている隠れた良作だと思います。 [一言] 次回作もがんばってください。
[良い点] 完結お疲れ様でした。 とても楽しく読ませていただきました。 長い間、更新を楽しみにしていた作品でした。 [一言] 誤字報告機能があれば使いたい時がありました。
感想一覧
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