草原の影
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大抵のことは半分に分けることができる。例えば、世界の半分を海が支配し、もう半分を陸が支配している。海と陸を合わせて、一つの世界だ。
しかし魔物は陸にも海にも棲むが、人間は陸のみに暮らす。人間にとっての住む世界とは、陸の他にありえない。ありえないと考えるから、海に暮らすという考えは認めない。
どれだけ複雑な意見の対立も、結局は異なる意見を認めない姿勢から生まれるのだろう。
統歴814年。
草木が茂る草原にも意見の対立によって齎された出会いがあった。物々しい武装をした兵士に囲まれた馬車の一団と、その一団を監視しながら息を潜める二人。
対立には平和的な解決と平和的でない解決法がある。どちらも解決法に違いはないが、前者は武装をしていない者同士が屋根の下で行われる。端的に言えば、馬車の一団と息を潜める二人は後者の解決法の当事者にされたのだ。まったく迷惑な話である。
「そろそろ時間になります。こちらは準備が整いましたが……」
「こっちももう終わる。というかお前、どういう作戦でいくつもりだ」
通常の傭兵は多くの場合で人数差を武器にできない。そのため戦場で生き残るために対策をする。対策といっても、魔法か道具を使ってリスクを減らす程度だ。
「突撃するだけですが?」
「お前に作戦立案を任せた俺が間違いだったか」
「いえ、リグル。あの程度の連中に小賢しい策を練るのは、時間の無駄です」
これでも彼女は真面目に主張している。必ず勝てるという絶対の自信があるのだ。あらゆる依頼をそつなくこなす彼女の傭兵としての唯一の欠点である。何度も頭を悩ませてきたが、未だに解消される予兆が見えない。
「お前の意見はわかった。突撃はやめて、指示に従ってくれ」
「了解しました」
こういうとき彼女は表情ひとつ動かさずに頷く。もう初めて彼女と組んでから短くない。不服そうな顔を見せないのは、信頼の証であると思いたい。というか、そもそも嫌な顔をしているところをほとんど見たことがないのだが。
「それじゃわかってくれたところで、もう一度仕事の確認だ――――」
人間種は魔法によって発展した。魔法によって魔物対抗する力をつけ、広い世界を開拓してきた。たかだか千年にも満たない歴史である。しかし多くの人間たちが繋いできた確かな軌跡である。
この物語は、歴史の裏側で自らのために奔走する一人の傭兵とその相棒が動乱の歴史を歩んでいく。そんな彼らの英雄譚にも似た史実を語る奇譚であり、数々の人生が意思を超えて交錯する運命譚である。