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Episode.33:燕は静かに殺す



 かつての友同士が視線を交えている。片方は状況を理解できず、もう片方は全てを知っている。


「俺も驚いてんだよ、まさかこんな第二の人生が貰えるなんて思ってなかった。あそこで消えて終わりだと思ってた。だけどよ、気がついたら目の前に────


 突然、悠太の顔から血が少し飛び散った。彼はその傷口を撫でると、困ったように顔をしかめる。


「ああ、すまん。そういえば、”アイツ“の話をすると俺の身体が爆散する呪いかけられたんだった。だから、黒幕は自分の手で探してくれ」


 消える前と変わらない軽い口調。健人は未だに理解ができなかった。

 どうして、友が敵として立っているのだろうか。いくら考えても答えが出てこない。


「俺自身がこんな事に巻き込まれるなんて、ありえねぇと思ってたし、今でも信じられねえ。今じゃ武装集団のトップで周りにはかわいらしい化け猫達。こんな幸せな事があると思うか?」

「よく分からない事を言わないでくれよ、俺も悠太が何を言っているか分からない」


 困惑しながら、健人がかつての友を見つめていると、遠くの方から地響きが聞こえてきた。足元が少し揺れている。


「また侵入者か、最近多いんだよなぁ」

「はぐらかさないでちゃんと説明しろ!!」


 健人は、とうとう堪忍袋の緒が切れた。青筋立てて見境なく、悠太に向かって突っ込んでいく。だが、悠太はそれに怖じず、半身を引いて受け流した。

 健人の身体がふわりと宙に浮く。そのまま彼は背中からドスンと着地した。


「すまん、なんか知らんが“こっち”に来る前と違って、なんか強くなってんだよ。だから、ここのボスになったっていうのもあるけどな〜」


 相変わらずの軽口に、健人は苛立ちを隠せなかった。

 背中に走る鈍い痛みを押して、健人は立ち上がった。その眼はじっと友──だったものを見据えている。


「まぁ、殺したくはないんだが、手合わせくらいはやってやるよ」


 “悠太”は半身に構え、薄ら笑いを浮かべながら健人を見据えている。

 互いに“技を受けて”から動く者。敵の一挙手一投足を見逃さんと、無音の探り合いが続けられていた。

 一息に詰めたのは健人の方。腰低めに拳を握りそのまま正拳突きを繰り出す。

 突きの手は払われ、鳩尾に鈍い衝撃が走る。怯んだところでもう一撃。

 健人は後ろに倒れそうになる身体を、上手く踏ん張りなんとか姿勢を正した。そこに動と静が入り乱れる拳の乱打が襲いかかる。


「冷静に──!」


 気を惑わさず、あくまでも平常心で。健人の父の教えだ。自分の身を守る為に、自分が焦ってどうする。そう言われ続けてきたが、その教えが役に立つとは、健人も予想外だった。


 腰を落とした姿勢の悠太に足払いをかける。生半可な払いは効かぬと言わんばかりに、悠太はそれを躱し、掌底を振り下ろした。

 鎖骨が折れる音、激痛が脳を醒めさせる。声なき悲鳴をあげて健人は後ろに下がった。


 ────守りが固い。


 一切の攻撃を許さず、的確に反撃する。まさに鉄壁の守りだった。


 ────発想を変えろ!


 立ち上がり、健人は敵に向かって駆けていく。それを、悠太はまたいな──すことができなかった。

 背中で悠太の身体ごと吹き飛ばす。靠撃こうげきと呼ばれる類のものだ。相手の防御ごと態勢を崩して、次に繋げる。

 倒れかかった悠太に追撃しようとしたその時、



「危ないっっ!!!」



 女の叫び声と共に、健人の頰を何かが掠めた。


「ぐっ…………“父上”、この場は私にお任せください。からくり仕掛けが暴走しております!」


 忍び装束に眼帯の男が、左腕を垂らして立っている。腕にはクナイが何本か刺さっている。


「ありがとう、キサラギ。ナエとハヅキはどうした」

「ハヅキは侵入者の排除、ナエ様は昨日さくじつ“この山”を任務の為発たれましたが、もう半刻あれば戻るでしょう」

「すまない、健人。続きはお前が生きてたらまた後でだ。じゃあな!」


 悠太は壁を蹴りからくり扉を颯爽と出現させ、中に入っていった。残されたのはキサラギと健人、そして碧眼の化け猫だった。




***健人が脱獄する六時間前***



 

「さて、この洞穴を抜ければ奴らのアジトなんだが、ここがどこだか分かるか?」


 ハットを指でグルグルと回しながら、アンドレは陽気に言い放った。松明に照らされたユリの顔が険しいものになる。アスカはいつも通りの疲れたような顔をして、フラフラと立っている。


「どうして地図も何も持たずに突っ込んだのよ!!」

「まぁ、誰だってトライアンドエラーを繰り返して正解に辿り着くだろ?」

「かっこいいこと言って逃げないでよ!」


 眉を逆立てて激怒するユリをよそに、アンドレは洞窟の分かれ道をどんどん進んでいく。足元は決してよくない為、時々蹴つまずきながら進んでいく。

 ふと、獣の唸るような声が聞こえ、すぐさまカチャリと音が重なって聞こえた。


「何の音だ」

「知らぬ」


 鯉口を切ったアスカと撃鉄を起こしたアンドレが、周囲を探っている。


「“Bewegungserkennung”」


 アスカの足元から何か糸のようなものが伸ばされたのが、松明に照らされて見えた。


「いや、特にいないわ──

「伏せろ!!」


 三条の死線がユリの身体を貫く。彼女の肩と腹、太ももに穴が空いている。何か鋭利なものが貫いたような後だった


「“Behandlung”、少し立ち上がるのに時間がかかるわ、気にせずに戦ってちょうだい、できる限りの援護はするわ」


 ユリは岩陰に隠れて、治癒魔術を行使し始めた。

 アスカとアンドレは自然と互いに背を合わせるような姿勢になった。全く見えない“襲撃者”を相手に、隙を見せない態勢を取っている。

 松明に照らされた刃が振るわれると、その下にクナイが転がり落ちた。


「火を消すぞ」


 突如、アスカは近くにある松明を斬って捨てた。火種は水面に落ち、辺りは完全に闇に包まれる。

 闇の中に足音が交わる音、鉄の打ち合う音が響く。アンドレは、夜目を凝らして状況を見据えた。

 アスカが何か黒いものに斬りかかっている。アスカが繰り出す必殺にして神速の刃は、心眼を以ってしても躱す事のできぬ速さだった。

 だが、“黒い者”はそれをすんでのところで躱している。元々、”一秒先を行く刃“には、武練を超えた修行、練達、研鑽を積んでも届き得ない。だが、黒い者は違う。


 己の身体を熟知し、間合いを見切り、刀筋を見切る。“眼の良さ”と“勘の良さ”で避けていた。


「ちょこまかと動きよって、目障りだ」


 その動きの一秒後に向かって斬りかかるアスカ。だが、その“結果”はいとも簡単に覆されてしまう。


「お姉さん、おそいね!」


 後ろから声がしたと思えば、前に黒い“娘”がいる。前に一閃振るえば、後ろに気配がある。

 アスカは一切手応えのない状況で──後ろから羽交い締めされた。


「すごい、お姉さんって冷たそうに見えたけどすっごくあたたかい!」

「離せ、離せ……!」


 必死にもがくアスカをよそに、黒い“娘”は手印を結び何かを唱えた。突然締まりが強くなり、アスカは普段とは似ても似つかない声が出てしまった。


「もう、ダメだよ、お姉さん。静かにしてないといたいよ?」

「ひっ、触るな、離せ!!」


 小袖の胸元にひんやりとした手が入ってくる。襦袢を、サラシを超えて、指が左胸をそっと撫でる。


「あのね、“術”と“法”ってちょっと違うの、今から見せるのは“法”の中でも門外不出の物なの。だから、お姉さんだけに見せてあげる!」


 黒い“娘”はフニフニとアスカの左胸を押して、何かを探っている。そして、その指を止めると、また何かを呟き始めた。


「第三忍法、開帳。物のことわりを我が指に、いざ、忍法“心凍血華しんとうけっか”の術」


 アスカの胸の中でパキンと音が鳴った。

 胸の詰まるような苦しみがやってくる。身体に血が廻らなくなる。


 ────苦しい、苦しい苦しい苦しい!!!


 血を、空気を求めて肺が喘ぐ。身体がもがく。脳が叫ぶ。

 だが、空気は吸えている。何故身体に空気が通らないのか理解ができなかった。

 周りが炎に包まれていく。何だろう、この景色は。身体がとても重い。


 見覚えのない建物、聞き覚えのない悲鳴、身に覚えのない痛み。身体が焼かれている。

 まだ死にたくない、生きて兄に会わねばならぬ。それがアスカの悲願であり、宿願だった。


 ふと、アスカは右手に固い感触を感じた。固く丸い石。

 アスカはその石に己が想い、生存への想いを込めて握りしめた。無駄だと思いつつも、握りしめ続けた。


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