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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop7 新しい一年間

 自分が加入したチーム、自分の経験した一年間には存在しなかったクルドさん達。そのチームにとっての最大の鬼門は最初の依頼における冒険者崩れ達だったのだろう。少なくともあの時自分が叫ばなければクルドさんが死んだ可能性は高い。その場合、チームは壊滅的な結果になったと思う。本来の場合なら他の五人は完全な初心者、元冒険者の三人に適うはずはない。誰かがあの場から逃げられたなら運がいいくらいだ。運が悪ければハンナだけは生かされた可能性はあるくらいだ。

 あの後、テナガザルを狩る教導依頼の終了の報告と一緒に森にいた冒険者崩れに襲われたことの報告がギルドに行われた。もっともギルドからは調査不足に関して謝られたくらいだった。もともとギルドから受ける依頼でそういった依頼内容に含まれない色々なことは珍しくはない。依頼要項に存在しない魔物がいたり、最初に言われていた数よりも魔物が増えて至り、逆にその場所からどこかに移動していなかったりと、今回のような冒険者崩れのような流れ者が存在していることも珍しくはない話だ。依頼の場所によっては依頼がギルドに届き冒険者が向こうにたどり着くまで十日以上ということもある。それだけの時間があれば大きく状況が変化していることは多く、一々全ての事に対処することは難しい。

 ただ、教導依頼は初心者を含むものでギルド側から厳しい条件が指定されている依頼と言える物。そのためある程度ギルド側も今回のことを問題視し譲歩してくれたのか、こちらが受ける教導依頼の必要数を半減してくれたようだ。命の価値がその程度であると考えるべきか、それとも普通は対応すらしてくれないギルド側が譲歩してくれただけでも十分と思うべきか。以前に色々な経験をしたことのある自分からすると色々と思う所はある。


 春、風の季節。二度目の冒険者生活の始まり。前回よりも早く街へと到着し、ギルドへと訪れた結果、前回の時には見かけることのなかったクルドさんがリーダーを務めるチームに加入することになった。そしてそのチームでの最初の依頼で何故前回の時に彼らを見かけなかったのかの理由を知り、同時にその問題を解決した。これが今後どういう結果になるかわからないのが少し不安だ。

 そのことはともかく。それによる結果としてチームへの加入や初心者を含むチームでの教導依頼の必要数の減少という恩恵もあった。それ自体は別に悪いものではないが……自分にとっては正式なチームへの加入ということで前回経験したソロでの冒険者の経験が生かせないのは厳しい所だ。

 教導依頼の必要数が減ったとはいえ、それでも決して楽にこなせるほど少ないわけではない。そもそも教導依頼の必要数が減ったのは対人間の戦闘を経験した、人間を殺したという大きなものをチーム全体で経験したからだろう。それでもまだ自身での戦闘や殺害に関わる経験をしていない仲間もいるのでまだその手の依頼を受ける必要はあるが、それはまた教導依頼を受けることとは別だ。

 教導依頼は冒険者として必要な経験をするための依頼であるため、その報酬は通常の依頼よりも若干少ない。そのあたりは依頼の報酬を比べてみればすぐにわかる。報酬が少ないということはお金を稼ぐために他の依頼も受ける必要があるということであり、教導依頼を受領する必要があるうちは多めに依頼を受ける必要があると言うことでそこそこ忙しくなった。

 それでも……必要数が少なくなったこともあり春の内に教導依頼を片付けることができたのは大きい。それが最初の依頼の命がけの戦いの結果あってのものではあるが、多くの冒険者は最初の依頼で帰ってこないことも多いので別に変な話ではない。本来ならありえないような譲歩があったと考えれば悪いものではなかったと考えることもできるだろう。


 夏、日の季節。何度かチームで依頼を受けた結果、自分の実力不足を痛感する。前回の経験はあるが、それはあくまでソロの冒険者としての経験。複数人向けの依頼となるとチームでの連携が必要となったり、内容そのものの難易度が上がる。前回の戦闘経験に身体能力が追い付いてきたが、それでもまだまだ能力は圧倒的に足りていない。

 ゆえに依頼を受ける最中、自分はクルドさんに戦闘指南を頼んだ。今回と前回における大きな違いはチームに加入したことであり、その利点を最大限利用するべきである。前回はソロ活動ゆえに冒険者の仲間の伝手がなく、自分よりも実力のある人に訓練を受けられる機会が存在しなかったが、今回はその先輩冒険者がリーダーをしているチームにいる。ならば先輩に戦闘に関して指導してもらうのは何もおかしな話ではないだろう。

 剣の指南を受けることになったが、クルドさんの扱う剣と自分の扱う剣が同じというわけでもなく、そもそも実剣を用いて訓練するわけにもいかない。木剣などを用意するにしてもずっと持ち歩くわけにもいかず、主にクルドさんの剣の扱い方を参考にして振り方を変えてみたり、剣を使った防御や受け流しの訓練などを主とした。戦闘訓練そのものはそれによって実力が上がればチームの戦力の増強につながることもあり特に断られる理由もなかった。ただ、その戦闘訓練を見て他の仲間も訓練に参加することになるのは少し予想外だったが。


 秋、実の季節。半年以上冒険者としてチームで活動していれば相応に実力もつく。所詮半年、されど半年。依頼は毎日受けると言うわけでもなく、移動にかかる時間などもあるので実働時間はそれほどでもないことが多く、単純な経験で言えばずっと仕事をしていたわけではないだろう。一度依頼を受けた後、数日体を休めるということで休日になったこともある。もっとも休養中も完全に休んでいると言うわけではなく、多くの冒険者はある程度自分で体を鍛えたり修練したりするものである。もちろんパーッと酒場で酒を飲んだり、女を買ったりして遊ぶ冒険者もいるが、それはそれで彼らにとっては必要なことだろう。自分は一晩寝るだけである程度回復するのでその手の経験はないが。

 さて、そんな風に相応に頑張ってきたチームだが、実の季節に入ってからしばらくして一大事件が起きる。チームの紅一点であるハンナと、同じ村の出身であるロックがくっついたことである。いわゆるチーム内恋愛だが、これが結構大きな騒ぎとなった。場合によってはチーム内での恋愛はチームの不和を招き、チームの解散となる可能性もあるほどのもの事だ。特にこのチームではハンナは紅一点、女性一人だけだ。ハンナを狙っていたチームメンバーは少なくない。明確に彼女に興味がないと言えたのは俺とクルドさんくらいだろう。そういう意味合いではチームが大きく荒れてもおかしくなかった。

 ただ、年の功というか、クルドさんの存在がチームの解散のストッパーとなった。クルドさんは結構長い間冒険者をしておりその中でいくらかのチームに加入した経験がある。その自分の経験した内容を話として語り、その中には冒険者同士のチーム内恋愛とその顛末に関しての話なんかもあった。クルドさんの苦労話の結果、今回のハンナとロックの恋愛をとりあえず祝おうということになったのである。なんだかんだでチームとして一緒に活動し、苦労も共にしてきたのだから。

 別に失恋と言うほどでもないが、そもそもハンナしか女がいないというわけでもない。他のメンバーも新しい恋の相手を探し頑張ろうと奮起したようだ。それらに全く関与せず外野から見ていた自分に対し、クルドさんがお前はどうなのかと訊ねられたが、どうにも恋愛関連は難しい。その理由に、その時は気付かなかったが。


 冬、雪の季節。雪の季節と言ってもこの国においては雪はそこまで極端に積もることはない。それでも雪が積もると色々と大変だ。移動が困難になるしそもそも寒く、魔物も動物もある程度冬眠し活動しなくなる。野山に生える草木も枯れ、多くの動植物が活動を停止する季節である。

 必然的に冒険者に対する依頼も大きく減る。一応街や道の上の雪掻きの依頼もあるが、そもそも雪がそこまで積もることがないので定期的にあるとはいえそこまで人数が求められることもない。この季節の冒険者は今まで依頼で貯めた貯金を崩して生活することが多い。それを理解せずにお金を貯めなかった冒険者は場合によっては盗賊や強盗になることもあり、それらの対処にまた冒険者が動くことになることもある。世知辛い。

 活動が少ないというのは自分にとってはそこまで悪いということもなかった。その間、体力をつけたり戦闘の訓練に励んだりと依頼がないゆえにできることも多かった。流石に依頼の無い日全日休養というわけにもいかない。ずっと休んでいれば冒険者の体も鈍る。依頼を受けずとも体の維持は必須である。依頼がないゆえに疲労が残る可能性のあるような訓練も可能である。体を温める意味合いもありクルドさんやチームの仲間と訓練をしつつ、なんとか貼られる依頼を確保し受けながら冬は生活することとなった。


 自分の生活は冒険者としての生活である。しかし、そんな中自分でも気が付かないある偏りが存在していた。それは明確に自分自身意識している物であり、同時に無意識化の物だったのだろう。チームに加入し、新しい冒険者としての人生を歩み、そういったこともあってまるで考えなかった……もしかしたら意識の外に放り出して全てを忘れていたいと言う願望があったのかもしれない。

 ずっと、自分は戦闘訓練や肉体の鍛錬を続けていた。冒険者として自分を鍛えるのはおかしな話じゃない。しかし、一年かずっと体を鍛えることを意識し続けると言うこともないだろう。冒険者としての生活を行う人生、生き急ぐには意外と長い。クルドさんだって長く続けていた。それを一年の間に性急に鍛えていたのはなぜか。

 自分の意識の外に追いやった事柄であっても、その物事を本当の意味で考えないでいることは出来なかったのだろう。今回は前回とは違った流れを進み、その結果のバタフライエフェクトも期待していた。だが……小さな変化が大局を変えることは少ないだろう。そもそも、クルドさんのチームが生き残っても生き残らなくても運命に影響があるとは思えない。所詮たくさんいる冒険者の立った六人だったのだから。


 春、風の季節。冒険者を初めて一年経った頃。隣国からの宣戦布告があり、冒険者ギルドは可能な限りすべての冒険者の招集を行った。小さな蝶が羽ばたいたとしても、本当に決定的な運命が覆ることはないのである。

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