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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop6 死を掃う

「うおおおおおおおっ!!」


 落下しながらクルドさんに攻撃を仕掛けてきた樹上の人物。わかる限りではがっしりとした体つきをしているが装備が少しボロボロで装備を整えられる生活をできていないと思われる。こちらに発見されたこともあり、隠れることを放棄し力を籠めるために大きく叫びながらクルドさんに襲い掛かってきた。


「くっ!」


 上を見上げ、落ちてくる人の影を見てクルドさんは転がるように攻撃を避ける。もしこちらが樹上にいる人物を見つけて警告を叫ばなければ……恐らくはクルドさんが殺されて前回のようになった可能性が高い。

 ざっ、と音を立てて枝をかき分け落ちてくる影が他にもあった。先ほどの男のように上からいきなり襲ってきたりはしてこない。しかしみすぼらしいながらもきちんと装備をしており体格もそれなりで武器も持っている。


「ベジューは俺と一緒にこいつを殺るぞ! ギムはそっちの雑魚どもを相手にしろ!」

「おお!」

「いよっしゃあ!」


 全部で男たちは三人。そのうちの一人は立派な体格にそれなりの武装、残りの二人に対し指示出しを行っている。恐らくはこの三人は盗賊みたいなもの……冒険者崩れの輩だろう。

 冒険者という職種はよく聞くお話の内容に対し実際にやってみると意外と難しい仕事だ。期日の指定であったり、討伐でも討伐対象以外の過度な狩りを禁止したり、依頼した人物に対しての対応であったりと単純に力だけで解決できることばかりではない。それを理解せず、腕っぷしだけで何とかやっていけると思い冒険者になる者も少なくない。腕っぷしも重要だが、それなりでもいいのでまともな頭がなければやっていけない。簡単なルールすらわからない人間は冒険者をやめさせられたり、あまりに酷いことをしている場合は賞金首などになる場合もある。

 恐らくはこの三人もそういった冒険者としてやっていけずに盗賊になった口だろう。もしくは、単純に初心者狩りの方が実入りがいいと思ったか……または冬の間にまともに過ごせず金欲しさに盗賊を始めたか、色々と考えられるがあまりそんなことばかり考えても仕方がないだろう。


「へへ、三人か……まあ所詮成り立てのやつらだ。俺の剣の錆に」

「ふっ!」


 油断しているうちに剣を抜き切り込む。突然の攻撃に向こうは驚いた様子だ。


「うおおおっ!?」


 相手が剣を構えこちらの一撃を防ぐ。いつもの攻撃速度よりも若干遅い。イメージ通りであれば問題なく攻撃が通ったと思う。失敗……いや、これはこの世界での俺の身体能力がイメージに一致していないからだろう。死に戻りの結果、昔の自分の肉体に意識が戻ってきている。前の自分が振るってきた剣のイメージのままで振るっていたが肉体の差ゆえにどうしても速度は遅い。猿は本当に弱い相手だったから問題なかったが、実際の人間相手では厳しいか。

 剣を何度か振るうが、あまり有効打にならない。冒険者に成り立ての田舎者とドロップアウトしたとはいえ今まで冒険者をやってきた相手ではどうしても身体能力の差がある。一年間の経験ゆえに一応相手できるといったくらいだ。


「そろそろ返すぜ!」

「っ!」


 向こうが剣を力で押し返す。そのままこちらに攻撃を仕掛けてくる。盾を持っていれば受けられるのだろうけれど、自分にとって攻撃は剣で受けるもの、盾は持っていない。それは向こうも同じなのだが。

 先ほどはこちらが攻撃で相手が防御という形だったが相手から攻撃が行われ攻守が逆転する。相手の実力は前回の自分よりも下ではあるが今の自分よりは上だ。経験と感覚などの精神的なものに由来する部分は十分だが肉体がそれに追いつかず、防御一辺倒になる。


「くそ……カイザ! クーゲル!」


 相手から視線を外せないため、後方にいる二人に対し叫ぶことくらいしかできない。後ろの二人が動く気配は今のところない。魔物、テナガザル相手でも躊躇や初戦闘ゆえの戸惑いみたいなものがあったと思う。魔物でそれならば人間を相手に戦うことができるか、それ以上に殺害することができるかと言われれば……難しい所だ。自分も人殺しを経験したのはある程度冒険者を続けてからだ。

 ソロだから受ける依頼の問題もあったが、成り立ての冒険者に人を殺さざるを得ないような依頼を受けさせることは基本的にない、という話だ。そのあたりの事情はなんとなくわかる。戦いにも慣れないうちに人を殺すことで精神的に潰れたり性根が曲がるみたいなところはあると思う。冒険者としていつか必要なのだろうけど、まだ経験の浅い状態で体験させるのは問題があるということだ。


「ほらほらっ! 防戦一方か?」

「舐めるな!」


 うまく剣を弾き攻撃を仕掛けようとするも、対応速度は相手の方が速い。最初のうちはこちらが初心者だという油断もあったが、今はそれもなく相応にできる相手として見られているようである。

 目の前の相手から視線を外すことは出来ないが、軽くクルドさんのほうに意識を向ける。

 クルドさんの方は二人が相手だった。二人相手でも一歩も引かずに戦っている。その後ろには同じ出身地の二人の姿がある。足手まとい付き……と考えるのはよくない思考だろう。ただ、あの二人がいなければもう少しやりようもあるのではと思ってしまう。


「おらあっ!」

「っ!」


 すれすれを剣が掠る。目の前の敵から少し意識を外しすぎた結果だ。後ろに下がりつつ、剣を受ける。


「よそ見かあ? まあ先輩におんぶにだっこのガキじゃなあ」

「冒険者になったばかりの田舎者すら殺せないくせによく言うよ」

「んだとぉっ!」


 攻めが苛烈になる。受ける分には問題ないが……このままずっと続けるのは難しい。いくら途中で冒険者からドロップアウトしたとはいっても冒険者を続けていた向こうと田舎から出て冒険者になったばかりの自分では地力の差が大きい。たとえ一年間の経験があったとしても、体力差だけはどうしようもない。

 どうするべきか、このまま続けてもいい未来は見えない。最悪の場合、後ろにいる仲間のところまで退いて巻き込むのも……いや、流石にそれは人として良くない行いだ。かといってずっと戦い続けられるわけでもなく。迷いながらほとんど防御に移行しつつ戦う。少しだけクルドさんの方に視線を移すが状況はほぼ変化がない。よく二人を抑えられるものだと思う。結構な熟練冒険者なのだろう。剣が迫る。あまり目を逸らしすぎると力も緩む。向こうも気になるが、まずはこちらをどうにかしなければどうしようもない。戦いは停滞気味で微妙にこちらの分が悪い……そう思っていて矢先、唐突に動きが出る。


「うわああああああっ!」

「っ!?」

「なんだっ!?」


 見えないまでもなんとなく感じられる変化。動きが感じられる方向に視線をやり同時に体をその方向からずらす。視線を向けた先ではカイザが剣を構えて突進してきていた。それは相手を攻撃する明確な意図があるものではなく、やけっぱちに近い剣を突き出しての突進だ。それでも叫んだとはいえ唐突なものでその攻撃先にいる相手は避ける余裕がなかった。

 突き出された剣は冒険者崩れの男を突き刺した。一撃で死に至るほどのものではなかったが、腹を破り深々と剣が突き刺さった。


「ぐあっ」

「ううあ……」


 それを行ったカイザは剣から手を離して後退る。突き刺された男の方は腹を刺されその痛みからよろりと後方にさがるが、こちらはふらりとしていて体勢を維持できない感じだ。このまま放っておいてもいずれ男は死ぬだろう。だからといって放置してもよくないし、死ぬまで放置というのもひどい。またカイザに殺人による精神的な影響が残るのもいいものではない。


「べっ」


 脳天から思いっきり剣を振り下ろして切り裂く。単純に重力を利用した、農家が鍬を振りおろすような感じのもの。もともとの家での手伝いもあり、経験と筋肉の付き具合を考えればこれが最大威力となるだろう。真っ直ぐちゃんと切り裂くことができたかはわからないが確実に致命的な一撃……恐らくは止めに出来ていると思う。できていなくともこれで完全に無力化されているはず


「クルドさんの方に応援を……!」


 二対一で長々と持たせている状況だ。自分が加勢すれば勝敗がどちらに傾くか自明の理だ。






 数の時点で有利だったのにクルドさんを倒せなかった冒険者崩れたちは俺たち側を抑える仲間がいなくなったことで勝敗が決したと言える。仲間の一人……ギムと呼ばれていた男がいなくなり、俺やカイザたちが自由になり戦闘に合流。二対一で拮抗していたところに俺が参加し二対二になったことでこちら側がゆうりになる。そうなれば二人と同じくらい強いクルドさんがいることもあり決着は簡単についた。

 結果として、盗賊三人が屍に変わった。教導依頼を受けに来たのに少ないとはいえ盗賊を相手に戦うことになった。どう考えても初心者向けの仕事とは言えないだろう。本来は人間を相手にした戦いはもっと後に行うべきなのである。


「……っ」


 人を刺したと言う事実……死んだ盗賊の一人、カイザが自分が刺した相手の屍を見て微かに震えている。止めは俺が刺したがそれは介錯に近く、致命傷を負わせたのはカイザだ。冒険者が初めて人を殺した時何らかの心的障害を負うことは珍しくない。ある程度戦闘を経験していてもそうなることは多く、成りたての人間ならばトラウマ確実と言ってもいいだろう。こういう場合、多くの冒険者は別の何かをして精神的に切り替えて対処するものだが……今この場ではどうしようもないし、戻っても解消するために使えるお金もないだろう。自分の場合は一晩寝ることである程度払拭できてはいたが……まあ後に引くものであったが。カイザも同様に、とは流石に思えない。どう対処するべきか。


「カイザ」

「……なんだよ?」


 クルドさんがカイザに声をかける。答えるカイザの声は少し震えや怯えが混ざっているように聞こえる。


「よくやった」

「……え?」

「お前が動かなければどうなっていたかわからない。よく戦った」


 なるほど。


「カイザ、俺からもありがとうって言っておく」

「何?」

「あの時カイザが助けてくれなければ負けていたと思う。だから感謝するよ」

「……ああ、別にいいぜ」


 人を殺すことは当然だが褒められるものではない。しかし、今回のように人間相手の殺し合いは珍しいものではなく、盗賊退治や戦争の類で人を殺すことはあり得る。そういった時、人を殺すと言う行為をするのは確かにそうなのだが、重要なのはそれを行う理由である。殺すために殺すのではなく守るために殺す、つまりは人を殺したことではなく仲間を護ると言うことがその行動の結果になるのである。悪い方向、自身の残した結果を意識させるのではなく良い方向、行いによって守られた物や助けられたものに意識を向けさせる。咎めや責めではなく感謝や称賛などで悪感情を失くさせる。

 もちろんあまりこういった方向性でやりすぎるのはよくない。場合によっては人を殺して称賛されると勘違いし、逆に自分が人殺しに成り果てる可能性もある。今回の場合は緊急的な措置としてはいいが。それでも助けたこと、そうする意思に対しての感謝であると意識させた方がいいだろう。


「……ところで、死体はどうします?」

「燃やすのがいいが……埋めるか、森に放置するかになる可能性が高いな」


 死体は重いし村に持ち帰ったところで葬儀するものもいない。森の獣の餌にすると言う形で捨てていくか、それとも死体を燃やして処理するかくらいだ。埋めたところで掘り返される可能性が高いし、燃やすにも手間がかかる。結論は死体を放置していくことになった。

 その後、残りの分のテナガザル狩りを行い、村に戻り結果の報告となった。その時冒険者崩れの人間が森にいたことも報告したが、これに関しては特に何かがあるわけでもない。賞金首でもない単なる冒険者崩れだ。依頼要項にも存在していない相手に払われる金はない。ある意味こちらの襲われ損だ。そういうこともある。

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