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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop50 死を超える

「スィゼ、もう大丈夫? また精神的に危ない状態になったりしてない?」

「大丈夫だって」

『本当に大丈夫?』

「だから大丈夫だって……」


 ギルドでの登録を終え、宿を取りそこで休息をとっている。セリアとパティ、両名に心配されながら。それもパティの方は実体化までしてこちらを心配している。

 何が起きたのか。

 自分は正しく、寿命によって死に至った。あれが寿命でない可能性もある。単に病気になっただけと言う可能性もあるが、それもそれで寿命といえるだろう。少なくとも誰かに殺されたりなどの外的要因ではない。

 そういう死に方をしたはずなのに、自分は最初の日、成人した日の朝へと戻っていた。精神状態がこの時期のもの、若い時のものになっているのはありがたいが、それ以上に寿命で死んだはずなのにループしたと言うのが問題なのである。寿命で死んでもループする、それはすなわち……


「もしかして無限ループなのか?」


 死に戻りというものはどういう原理で成り立っているのか、この世界に来る前に神に何か与えられた結果であるという推測は出来ているが、その原因や要因までは特定できていない。自分にわかっていることはループの起点、戻される場所が成人した日の朝になると言うだけだ。

 そもそもこのループ現象に関しては神が俺の願いをかなえた、ということが発端だ。そのループにより自分は永遠のループで生きなければならない。それは恐らく死なないと言うことに繋がるのだろう。それ自体は多くの人間が望むことだと思うが、こういう形での永遠を望む者はいないと思う。


「このループをどうにかするにはどうしたらいいと思う?」

「え? スィゼ、この状態をどうにかしたいの?」

「当たり前だろ」


 誰だって何度も同じ時間を繰り返す、それも寿命で幸福のまま死んだとしても、それがなかったことにされてまた初めからやり直しはきつい。


「でも……スィゼの願いだよね? 『永遠を生きる事』は」

「……それは否定できないけどな」


 その願いはなかったとは言わないだろう。心の奥底で、永遠に生きたいと願っていたところはある。だが、その成り方の問題がある。


「だけど、こういう形での成就ってのは違うだろ」

「そう?」

「ああ。同じ時間を生き続けるのはつらいだろ」

『そうなの?』

「……セリアはつらいとは思わないのか? ずっと同じことの繰り返しでも」

『どこでも、いつでも、どんなことになっても、私はスィゼと一緒なら大丈夫だよ?』


 セリアの意見はあてにならない。彼女の人生基準はもう完全に俺にあるんだろう。同時に前回の最期でセリアがどうしたかも、なんとなく予想できる。あの時でも十分予想できたけど。


「セリアちゃんの意見は予想できるからいいとしてー。ま、スィゼの意見もわかるよ? 同じ時間を繰り返すとなれば、どれだけ頑張ってもできることには限度がある。スィゼの場合、今後どうするかはほぼ決まってる。セリアちゃんや竜みたいなどうしようもない事例に立ち向かい、その結果その後も半ば人生が定められてしまう。だからスィゼが自由にできる事って言うのは少ないよね」

「そうだな……」


 竜に対処するのは必要だが、それ以外に関しては自由にやろうと思えばやれるのだろう。その代わり、他の多くが犠牲になる可能性は高い。そこに、かつての仲間が含まれる可能性も。だから竜を被害少なく討伐できる手段の確率は必要だろう。


「ループ現象自体はどうにかできないのか……?」


 正当に死ぬ。積極的に死にたいとは思わないが、ちゃんと人生を最後まで生きて死ぬのならば構わない。セリアやパティに関して思う所はあるが、死は本来不可避なものだ。

 そうでなくとも、なんとか対処した事象にまた挑まなければいけないことの繰り返しはどうにかしたい。最善を追求できるかもしれないが、何度もやり直すのは大変だ。


「できるよ」

「っ!? 本当か!?」

「本当だよー。でも、スィゼなら思いつくことはできると思うけど?」


 そう言われても、困る。


「だって、スィゼはすでにその願いを、答えを持っているでしょ?」

「……何?」

「死んだら戻されるなら、『永遠に生きる事』をすればいいんだよ」


 パティの言っていることが理解できなかった。


「どういう……ことだ?」

「今の状況が、スィゼの願いから外れている。厳密には、間違っていないけど……正しく望む者ではなかったでしょ? それを本来の物に戻せばいい。永遠に生きれば、死なないからループすることはないよ」


 それは確かにそうだろう。だが、前提がそもそもおかしい。


「どうやるんだよ、それ……」


 単純な問題だ。人間はいつか死ぬ。永遠に生きることのできる人間はいない。


『私みたいになればできるかな?』

「それは……」


 セリアは先祖返りだ。寿命は不明だが、少なくとも俺が死んだ時はまだ若い体だった。二十代くらいの年齢に見える程度には。たしかに先祖返りになれば不可能とは言えないかもしれないが、結局寿命の問題が立ちはだかるだろう。そもそも先祖返りに後天的になるのは無理だ。


「んー、例えば魔術で延命するとかね。水の魔術なら、生命への干渉ができるから肉体の改造や生命維持で長生きするのは無理じゃないでしょ」

「それでもずっとは無理だ。どれだけ魔術を使えばいい? 魔力が持たないし、出力の問題もある」


 金の魔術師でもそれだけの魔術を使うのは大変だろう。そもそも出力的に足りるかもわからない。そしてずっと使い続けるのも魔力的に無理だ。結局のところいずれ限界がきて終わりだ。仮に肉体改造で魔術に頼りきりにならなくてもいいとしても、寿命を伸ばすのがせいぜいで限度がある。


「これはまあ、一例だね。他にも、闇の魔術で精神を体から剥離して、精神体で生きるとか。ほら、私とかセリアちゃんとか物理的には死なないでしょ?」

「それって今の俺のループ状態とどれほど違いがある?」


 肉体的に死ななければ死なない。確かにわからなくもないが、それでループを回避できるものだろうか。そもそも肉体の喪失後、精神が最初の日に戻るのだから精神が剥離した時点でループする可能性もあるだろう。そもそも原理が不明なのだから。


「まあ、確かに違いはないかも?」

「……結局、どれも本当に永遠に生きられるわけじゃないな」


 パティの言っていることは結局のところ確証の薄いことや延命行為でしかない。根本的に永遠に生きるという事象を叶えるものではない。


「じゃ、そろそろ本命ね。前に話した二つはあくまでこの世界、魔術を基本にしたものだから。本来なら、それでどうにかするべきなんだけどね……私がスィゼに提示する解答はね、スィゼが神様になることだよ」

「……は?」

「ちょうどこの世界には神様がいないから、管理する神様がこの世界で生まれるとかなり面倒が減るだろうからね」


 パティの言っていることは本当に理解できない。意味は分かる。ただ、その内容があまりにも突飛的すぎる。以前パティに色々と聞いた時もそうだったが。


「ちょっと待て……なんで神様になる、という話が出てくる?」

「神様は死なないから。死ななければループしない。わかりやすいでしょ?」

『そうだね』

「セリア、納得するな」


 確かにそうなのかもしれないが、いや、そうだとしてもだ。それ以前の問題だろう。


「そもそもどうやって神になる? それ自体が不明なんだからどうしようもないだろう」

「そうだね。普通は誰だって神様になるなんて不可能だよ。普通はね。まあ、スィゼならいずれ、最後にはなれるだろうけど」

「……どういうことだ?」


 いずれ、最後にはなれる。パティは俺が神になる、そう言っている。それは一体どういう理由でそうなるのだろうか。


「スィゼは、今までのループで疑問に思ったことはない? ある日から、銀の魔術師になったり金の魔術師になったり自分の魔力が増えたこと。本来魔術師の魔力は生まれつきのもので増えるものじゃないよね」

「……そうらしいな」

「でも、スィゼはループで魔力量が成長してるよね」

「……そうだな」

「それを疑問に思ったことはないの?」


 ある。あるが……考えてもわからないし、別に増える事自体は得だからあまり考える必要もないと思っている。


「謎には思う。でも、ループしているのだからそういうこともあるんじゃないか?」

「答え、出てるよね」

「っ」

「私に隠し事は出来ないんだよー? 寄生している間、スィゼの記憶も思考も全部管理しているんだからね?」


 確かにパティはそういう風に作ったのだが。


「自分にとって認めたくないことだからって、拒否はいけないよ? セリアちゃんのことで答えが出たんでしょ?」

『え? 私?』


 それを認めるのは、自分にとってつらいことだ。だから認めたくはない。それをセリアに強いていることも……セリアは俺の望み通りに、と言うだろうけど、やはり本来ならばやりたくないことだ。それがループで強制的に成されているというのがまた嫌すぎる。


「こういう時、スィゼは本当に自分から言い出すのは嫌いだよね。だから、私から言うよ。そうすればスィゼは否定できない、認めるしかないでしょ?」

「言わなくていい。はあ……セリアと同じ、精神の融合、上書き。そういうことだろう? セリアも……ループを繰り返す中で魔力が増えてる。元々の量が多いから自覚はないと思うけどな」


 セリアの魔力が増えていることは全体量がもともと多いこともあってわかりづらい。だけど、自分との共通性などを考えた上でちゃんと自分もセリアも調べればはっきりする。セリアの場合、こちらとは少し違う感じだが似た感じで近いことには変わりない。


「ループで俺は精神……恐らくは魂も一緒に戻ってるんじゃないか? そしてそれはあの日、成人した日の朝の俺と融合している」

「正解! と、言いたいところだけどねー。その答えだと状況説明としては半分かな?」

「何?」


 半分正解? いや、正解だが内容が半分ということか。


「ま、スィゼの魔力量が増えることには直接は関係ないんだけど。そもそも……スィゼは時間逆行はしていないんだよ?」


 時間逆行をしていない? 最初の日に戻ってきているのに?


「そうだねー。じゃ、セリアちゃん。スィゼが病気で死んだあと、どうしたの?」

『私? スィゼが死んで……あの後? スィゼがいないなら生きててもしかたないから、近くに置いてあった刃物で死んだけど』

「っ!」


 セリアが自殺することは予想できていた。だから……だけど、やはり本当にセリアがそうしたということが少々つらい。だが、このセリアの発言の問題点はそこではない。あの時、自分が死んだ後もセリアが行動するだけの時間があった、それが問題だ。

 そもそもこういった過去に戻ることは色々な時間的な問題がある。タイムパラドックス、パラレルワールド。だからあの後、セリアが生きていてもおかしな話ではない……のだが。そもそも、セリアがループに引っ張られるタイミングはどこなのか? セリアが死んだあと? では死んだ時間に違いがある場合、セリアが一緒に来るとは限らないのか? 深く考えると訳が分からなくなってくる。


「セリアちゃんの行動は予想できるけど、スィゼが死んだ後も、セリアちゃんがいた時間は続いてた。だけどスィゼは死んだ時点でこの最初の日に来ている。それならセリアちゃんの状態はどう説明するのか。契約でセリアちゃんとスィゼはずっと一緒になっているのに。そもそも、昔に戻った場合、その未来はどうなるのか? そういった諸々の問題は、別の世界を利用することで解決しているみたいだね」

「別の世界? つまり……平行世界とかなのか?」

「この世界の成り立ちを、ここの世界観の世界の成り立ちを説明すると、この世界は同じ世界観で構成されている二つの世界を使っているの。正確に言えば、スィゼが成人した日の朝、ループの始まりを起点にして世界の内容をコピーして、そのまま用意した別の世界に張り付けて同じ世界観を作ってる。その情報自体は別に保管しておいて、その世界はその時点で時間停止。スィゼが成人した日の朝から世界は続き、スィゼが死んだ場合、その世界はその世界の終りまで時間を加速させ、滅んだ時点で停止、スィゼは精神と魂をコピーした世界のスィゼへと上書き融合する。滅んだ世界は残しておいた成人の日の朝での記録で上書き、時間の巻き戻りに近い状態だね。それで、スィゼが移った世界はその時点で時間停止を解除、そこからまた同じように世界が続く。後はその繰り返しをするだけ。スィゼは記憶の違和感を感じなかっただろうけど、戻る地点までの記憶に変化がないから当然だね。それ以後の記憶はずーっと連続してるわけだし。まあ、これがスィゼの経験したループ現象の真実ってことだよ」


 絶句する。パティの言っていることが正しいのであれば、このループ現象には二つの世界を用いていると言うことだ。俺をループさせるそのためだけに。正直ありえないと言いたくなる。ただ、今回のループ現象の仕立て人のことを考えると、誰が仕組んだかは予想できる。


「そういうことが、できるのか?」

「神様によるね。今回、スィゼを送り込んだ神様の管理する世界と、ここの世界観の世界、神様が逃げ出した世界だからどうにかできることだったんじゃないかな?」

「……そうか」


 スケールが違う。一介の人間の考えの及ぶ範囲じゃない。


「まあ、そういう詳しい事情はさておくとして。俺が神様になる方法ってのは結局何なんだ?」

「乗り気になった? まあ、乗り気にならなくてもいずれスィゼは神様になるよ。神様になる手法はね、いくらかあるけど、単純に強くなる、それだけでいいんだよー」

「……強くなる、だけ?」

「そ。スィゼの場合、ループを繰り返せば強くなるでしょ? 魔力量が増加するから。まあ、神様に到達するまで何千回、何万回ループしなければならないかはわからないけど」


 その回数のループは遠慮したい。しかし、つまりは魔力量が増えるからいずれ神に到達する……先ほどの話を加味すれば、魂と精神の上書きで魂の総量が増えるから、だろうか。


「強くなる……でも、正直何千回もループしたくはないんだが」

「ふっふーん。確かに普通なら、普通の子だけなら、ループできても何千何万と回数が必要になるけどね。セリアちゃん、先祖返りの力に、私、パーティキュラーという使い魔、世界鉱の武器と魔術具、そういう例外事案の多い状況下だからこそできる無茶ぶりなんだよ! 自分だけで力を増やそうとするから問題なの。だーかーらー、スィゼには竜の力をえいやってぶ千切って、その千切った力を取り込んでもらうことになるかな」

「……ごめん、理解の範疇外なんだが」


 パティの言っていることは相変わらず突飛すぎる。


「セリアちゃんの世界法則の改変、私の闇属性の根幹を利用した干渉、世界鉱という特殊性の高い金属を含んだ武器、そういうものをうまく利用して、竜から力を奪うの。竜はそもそもこの世界の力の要素、今でこそあの形をとっているけど、ばらせば力そのものにできる。それをスィゼが取り込んで

レベルアップ。竜の力を吸収できるからすごく強くなれるよ」

「……そうか」


 言っていることの理解はできるが、もう深く考えても仕方のない所にある内容な気がする。パティの色々な事情があるから、それができると信じることはできる。その目的が何かはわからないが、そこにあるのは俺の力になる、という一つの行動理由があるだろう。そういう意味では信頼できる。色々な点で信用できないが。


「深く考えるのは辞めよう。パティの案に乗っかることにする」

「それでいいよ。これはスィゼのためになることだからね。願いはかなう、このループ状態からは抜けられる。セリアちゃんも一緒にいられるしね」

『本当? それなら確かにいいことだね』


 まあ、いいのかもしれないが。これはこれで問題がある。そもそも前提に含めないことだと思うが。


「でも、世界鉱の武器も魔術具もないだろ。世界鉱も確保してないし」

「はい。スィゼの剣」


 パティが前回使っていた俺の剣を渡してきた。


「おい。どこから持ってきた?」

「世界鉱と同じだよー。保管してただけー。セリアちゃんの大鎌も、魔術具もあるよ? 後で加工してもらおうね、大鎌は」

『確か見つからなかったんだけど……パティが持っていったから? もー、後で怒るよ!』


 パティを怒るのならば、後で精神の奥の方でやってほしい。しかし、武器があるのであれば……パティの言っていたこともできるだろう。

 神になると言うのは少々壮大すぎる話だ。だが、それ以外に手立てがないのであればやり遂げるしかないだろう。今回でどうにかできるものではない。後何度ループすることになるかわからない。だけど……いつか、必ずこの状況から脱出してやる。

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