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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop49 迎えた終わり


 竜との戦いに決着をつけた。これで現状わかっている限りの死亡原因を解決した形となる。もっとも今後の死の危険がないとは言わないが。

 今回の竜の復活、およびその討伐に際して問題はかなり多い。

 まず、竜の存在について。竜とはそもそも御伽噺上の存在と言われている。実在を証明できていないというのが最大の理由だが、封印されていたのだから仕方がない。だが、それが復活したと言うことは竜が存在したと言う実が存在すると言うことになる。今回の光の竜以外の五つの竜が。

 今回のような危険、危機がまだあと五回も起きるかもしれないと思うと当然ながら人々の間には絶望感が生まれるだろう。ただでさえ現状で街が幾らか滅んでいるわけである。他の五つの竜が復活すればその被害はいかほどになるだろうか。もはや天災と言ってもいいが、天災とちがって耐えれば消えるものではない。古代人がしたように竜を封印するか、今回のように討伐しなければその事態が収まることはない。

 だが、その点に関しては希望もある。何が希望かと言うと、俺とセリアの存在だ。竜を倒せる者、それが存在している限りまた竜が現れてもどうにかなるだろう。そんな期待を抱くことができるはずだ。当然、国がその人材を確保しようと動くに決まっている。

 竜を討伐した張本人である俺だが、同時に今回起きた戦争を死者無しで終わらせた立役者でもある。実は今までいろいろと忙しくて王宮の方には行っていない。何故呼ばれなかったかは謎だが、多分見つけられなかったのだろう。あの時竜の眠る谷へと向かったし。その時点でも国としては確保しておきたい人材だが、今回の竜の討伐で絶対的に確保する必要が出る。まあ、逃げることはできないだろう。逃げても面倒が増えるだけで得することも少ない。逃げたいところではあるが。


 セリアと共に王宮に向かう。色々と話をしなければならないことも多かったが、概ね重要なことは現状の竜の存在についての確認、竜との戦闘に関しての話、今後の俺たちの扱いに関してなどだろう。特に竜が一体復活した以上、今後も残った五体が復活してくる可能性は極めて高い。それに対抗するためにどうすればいいのかが重要となる。

 それゆえに、竜についての様々な確認だ。存在する場所、竜の性質や能力、戦闘に必要な情報に関して。武器一つとっても、特殊金属でなければ傷をつけることすら難しいことや、魔術の有効性に関しての問題だってある。そう言ったことで分かっている部分を話さなければならない。

 それとは別に、俺とセリアの扱いだ。まず単独、たった二人だけで竜と直接戦い、生き残るどころか討ち取っている。つまり現状の俺たちは竜よりも恐ろしい存在だ。稀少な戦力であると同時に、竜と同じように暴れられれば国が滅びかねない相手でもある。ゆえにこちらを見つめる視線には恐怖や畏怖が混じっていた。それにセリアは少しむっとしている。自分もそれを浴びていて、セリアの感じてきたものが分かる感じだ。


 俺たちの扱いは今のところ王宮に招かれている客人と言う扱いになる。英雄扱いにするにはまだ竜に関しての周知の問題もあるし、いきなりこの二人が竜を倒したと伝えても実際に見ていなければ信用できないだろう。どちらかというと竜の討伐の功労者にするよりは戦争の方での英雄扱いの方が都合がいいだろう。あの時は兵士や騎士、魔術師に冒険者、相手国も含め見ていた人間が多い。

 ただ、今後俺たちの扱いは大きく変わるものになると考えられる。最大の理由はパワーバランスと竜の存在だ。竜を討伐できる人間、二人で一緒に戦ったとはいえ、そんなことができる者がいるだけで他の国に対抗手段がない。つまり、戦争を吹っ掛ければ負けが確実視されるわけである。全面的に降伏し支配下にはいらなければいけないだろう。

 だが、それとは別に竜の問題が出てくる。一応俺とセリアだけで今回は倒したが、今後竜を倒せるかどうかはわからない。竜を倒すには単独の絶対強者よりも、多くの強者の連携が必要になるだろう。また、各国との連絡も重要だ。今後の対竜の戦略のため、俺たちを確保していることを伝えながら、対竜の同盟を組むことになる可能性がある。というかあってほしい。どこかで復活して国が滅ぼされました、となるとこちらとしてもいやすぎる。対竜の最大戦力である俺達を保有するこの国が主導する形で同盟を組む、まあそうすれば発言権も強くなるだろう。自国の利益を考えるなら、無駄な争いも少なくなるしそういう手もありではないか。

 ちなみに戦争をするとしても俺達が参加するとは限らない。勝手にやってくれという想いが強い。無理にこの国にいる必然性はないのだから。まあ、仲間の生存確認もしたいし、故郷もあるからできる限りはこの国にいると思うが、それでも嫌なことを強制されるのであれば逃げる可能性もある。

 そういう状況下であるため、俺たちの扱いは宙に浮いている状態で王宮の客人として扱うしかないのが現状と言うことだ。本来ならば貴族にして所領でも持たせ雁字搦めにしたいかもしれないが、状況がそういうわけにもいかないだろう。こちらとしてもそういうのが欲しいというわけでもない。こっちが要求したら断れないかもしれないが。






 王宮暮らしはすることもないので暇だ。冒険者らしく外に出て魔物を狩ったり未探索な場所に行くこともできない。そんな暇つぶしの一環として、また鍛錬も兼ねてセリアと訓練を行う。いずれ竜が復活する危険もあるし、体を鍛えるのも必要だがセリアと一番コミュニケーションをとれる手段が戦闘行為である。もっとも、命がけの戦いになるのだが。今更戦ってもお互いの手の内がほぼ分かっているのであまり目新しさがない。

 そうして戦闘訓練をしている時に声をかけていたのが王宮勤めの騎士である。英雄である俺、それと同等に戦えるセリアに訓練をつけてもらえないかと言うことだ。こちらとしては暇であるし、対竜の時を見越して彼らを鍛えるのは望ましいことである。ただし、セリアには当然手加減をさせなければならない。戦闘訓練で人死にを出すわけにもいかない。

 騎士の剣と自分の剣は違う。騎士が実戦に出ないとは言わないが、想定される戦闘相手がセリアであることが多く、また教えてもらった相手が相手であるゆえに、剣の技術はまったく違ってくる。それはそれで学べることも多いだろう。

 自分に関して言えば、技術やそれなりに鍛えられている身体能力で騎士たちと戦うことになる。魔術は負けた場合に使う。別に負けたのが悔しいと言うわけではなく、想定する戦闘相手の強さを普段の自分で考えてほしくはないからだ。竜は魔術で強化した自分よりもはるかに強いのだから。

 それに対し、セリアは完全に力押しで勝っている。武器はいつもの大鎌ではなく、木の棒にしているがそれでも余裕でセリアの勝利だ。手加減してもこれだから困る。それではいけないということで、セリアの戦い方を回避しながら相手の動きを読み、その動き方や県の技術を学ぶように指示する。セリアの武器は大鎌なので役に立つかはわからないが、セリアに重要なのは技術の習得だ。一応以前教えて入るのだが。

 騎士に関しては、自分には魔術を使い身体強化した後で勝てるように、セリアには一撃でいいから当てられることを目指すようにと指示している。流石に技術を教えるのは難しい。セリアは特に決まった戦闘流派のようなものはなく無色で教えやすいのだが、彼らの場合は既に既存の剣を学んでいるため直接戦闘力を鍛えるくらいしかできない。特にセリアに一撃を与えられるようになるのは重要だ。それができなければ昔の俺よりも弱いことになるだろう。


 騎士から声がかかれば当然自分たちも、と魔術師側から声がかかる。セリアの魔力量は大きいし、俺も魔術を多様に扱える。普通ならば声をかけてきてもおかしくはない。

 もっとも声をかけてきたのは白鋼の魔術師一人だけだ。つまり師匠である。恐らくはセリアの使う古代人の力、先祖返りについての詳しい情報が知りたいのだろう。一応俺の使っている魔術、特に身体強化に関して訊ねられたがそもそも普通に身体強化を使っているだけなので答えようもない。

 どうせならば自分のところに来ないかと誘われ、師匠の普段使っている部屋へと向かいそこで様々な詳しい話をする。魔術開発、研究に関して、古代人関連の話してもいい知りえている内容に関して、セリア自身を調べ先祖返りについて直接調査したり、また俺たちの持っている世界鉱が使われた武具や魔術具に関しても。

 その他様々な俺たちの持っている知識について聞かれたりもして、最終的に竜の眠る谷にあるアルベルドの住んでいる遺跡の話にもなった。師匠は興味があるようだが今はいけそうにないと残念がっていた。いつか行きたいとも言っていた。問題は行っても入れてもらえるかどうかわからないことだろう。アルベルドが竜の眠る谷に調査に来た人間にどう対応するかわからない。






 国同士の話し合いが終わり、自分たちの扱いが決まったようだ。各国にとって重要な戦力としての立場であり、それぞれの国の王都に別荘を提供された。そして各国を移動できる特殊な冒険者となった。もっとも、冒険者ギルドに普通に持ち込まれるような依頼を受けることは出来ず、国から直接俺に依頼されるものを受けるようだ。

 そして、重要な内容として竜が復活したときについての話となる。現在わかっている竜の居場所は火の竜、竜の眠る谷に存在する竜だ。こちらは復活するようなことがあればアルベルドが恐らくは予兆を伝えてくれるだろう。それくらいの仕組みはあると思う。問題は他の四つの竜だろう。竜についての話は御伽噺と思われているほどに古く、信じられていない。ゆえに伝承としてもあまり伝わっていないと考えられ、あまり情報として得られるものが少ないだろう。それでは困る。

 倒すにしろ、最封印するにしろ竜への対抗手段は色々と必要になる。倒せる戦力もまた育てる必要があるだろう。俺たちが生きている間に全て終わるとは限らない。封印時期は恐らく同一だが、封印された個体の強さが同一とも限らない。復活時期にばらつきが出る可能性は大いにある。そもそも今回一度に全部が復活していないのがばらつきのあるいい証拠だろう。

 先祖返りと言う特殊な存在と竜のかかわりについても話したが、そもそも先祖返り自体あまり見つかることの少ない事例である。大抵は気味悪がられて捨てられたり、隠されたりすることもあり、いても絶対に見つかるとは限らない。そもそも竜が復活していないときにも出てくることから竜が復活するときに確実にいるとも限らないだろう。一応対竜の存在なのだが。

 そういった対策もあり、俺を伴って竜討伐や最封印の手段を模索するためのチームが竜の眠る谷のアルベルドの下へと向かった。もちろん師匠も一緒である。竜の眠る谷には現存している古代人の遺跡が存在し、そこには様々な資料がある。もちろん古代人の文字を読めなければ解読できないのだが、それは師匠がいるので不可能ではないだろう。アルベルドに話をつけ、一応建物に入る許可をもらった。実際竜が復活したわけだし対処する手段は必要だと彼は思ったのだろう。なお、師匠は入って大興奮し、資料を見て喜びの涙を流していた。もっとも、解読には時間がかかるとのことだ。師匠でもそれほどに大変らしい。


 竜の対策を練っているうちに、対抗策が出てこないまま竜の一体が復活する。復活した場合すぐに俺に連絡を取れるよう、封印場所である可能性のある場所や各街や村などに国所属の魔術師がおかれ、連絡を密にしているらしい。俺が冒険者として国を跨ぎ仕事をしなければならないのも仕事ができる魔術師が減ったからというのも理由にあるのかもしれない。

 復活した竜は地の竜だ。竜の眠る谷とは別にこの国に封印されているらしいもう一体。ある程度この竜が眠っている場所に関しては見当がつけられていたのですぐにこちらへと復活の連絡が来た。そしてまだ対策もないまま、俺とセリアが対応することとなった。

 地の竜は地上に存在する竜だ。光の竜のように空を飛ぶことはできない。セリアの魔術具による制限をかける必要がなく楽、だと考えられるわけもない。地上で生きる竜であるがゆえに、地上での行動はお手の物。また、その名前通り大地に縁深い竜だ。属性の本質的にも物質方面への作用が強く、身体能力は強靭で強大で強固。そして地上を移動する速度が速い。

 攻撃手段も豊富にあるようで、爪、噛みつき、その移動速度を生かし死角へ移動してからの攻撃、跳び上がって上から、尻尾、穴を掘ったり、掘った土を駆けてきたり。地面の下にもぐりそこから攻撃してきたりもする。縦横無尽の多彩な攻撃だ。

 それでも、確かに強くはあったが、絶対的な戦闘能力があったわけではない。とくに光の竜の光線のような圧倒的な破壊力を持つ攻撃はなく、きちんと相手の攻撃に対処できればなんとかなった。とはいえ、勝利を得るまでかなりの苦労があった。未だに力不足を実感する。


 その地の竜の復活の後。すぐにではないが、風の竜が復活した。こちらは別の国で復活した様だ。その連絡が来てからそちらの国に向かおうとしたところですぐに遭遇した。

 風の竜はその属性のとおり風を操り支配する存在である。翼を持ち空を飛行、それも超高速で空を駆け巡るのである。その移動速度は目でぎりぎり追える程度で、まともに戦う手段が存在しない。光の竜と違い空のかなり高い所にいる。移動速度も速く、攻撃は届かない位置にいる相手をどうやって倒せばいいのか。最初はそう考えた。

 対処手段として、光の竜と同じことをしようと考えた。セリアの空間支配で移動ルートに飛行を禁止する地帯を作ったのである。そこに風の竜が入る。そうすると今まで超速度で飛行していた竜が飛行できなくなる。その結果どうなるかと言うと、超高速で地上へと落下してきたのである。

 風の竜の移動速度は音速近いと考えてもいい。超えていたかどうかはわからないが、確かめるすべもないので気にする必要はないだろう。そんな速度で移動している竜が地上へ落下するとどうなるか。肉体的に強靭な竜とは言え、その速度で地面へと激突すれば死んでもおかしくはない。だが、一応瀕死とはいえ竜は生き残っていた。腕や足が捥げ、翼が折れていたが。倒すべき相手である。少し可哀想にも思ったが、容赦なく討ち取った。

 ちなみに、風の竜は空を移動するだけだったようで被害報告はない。






 そういった活動をしながら、日々を過ごした。ずっとセリアと一緒に過ごしていたためか、特殊な立場であったためか、婚姻話もなく平穏に過ごせていただろう。誰かと一緒に過ごすと言うことがないというのも残念だったが、セリアが一緒なので構わなかった。まあ、そのせいでなかったのかもしれないが。

 どれだけ強靭でも、どれだけ頑張っても、人はいつか死ぬ。年を重ね、老い、体も衰えれば病気になる。そして床に臥せることになった。


「スィゼ、大丈夫?」

「ああ……大丈夫だよ、セリア」


 セリアが甲斐甲斐しく看病をしてくれている。自分よりも少し年齢的に若いセリアだが、先祖返りという特殊性か老化は遅かった。寿命に関しては不明だが、未だに二十代にしかみえない。


「……セリア、多分私は死ぬと思う」

「えっ……そんなこと言わないでよ、スィゼ」

「寿命は流石にどうしようもない。私が死んだら……その後は自由に生きなさい」


 自分はずっとセリアを縛り付けている。看病させている状態というのもあるし、そもそも契約としてそうなっている。だが、自分が死ねば契約は終わるだろう。その時セリアは自由になるはずだ。今のセリアは二十程にしか見えない。自分の望むように、好きに生きてほしいと思う。

 もっとも、セリアがその選択肢をとるとは少しも思っていなかった。わかっていて言うのだから自分も酷い人間になったものだと思う。

 今になると昔セリアと戦っていたときが懐かしい。あの時、何度もループを繰り返して生きてきたことはもう昔のことだ。あの時間の方が、今生きてきた時間よりも長かったはずだと言うのに。

 だが……ようやく自分はまともに死ぬことができる。これで終わりを迎えることができるだろう。本来ならば、最初にセリアに殺された時に終わっていたはずなのに。神様も何故ループ能力を与えたのだろうか。まあ、あのおかげで生き延びられたのだから感謝するべきかもしれないが。

 ああ、それでセリアに会えたのだから、感謝するべきだろう。自分は幸福だった。


「スィゼー、大丈夫? まだ生きてるー?」

「……久しぶりに見かけた気がするよ、パティ」


 最期の時の前にパティに会う。最近は何処に行ったのか、精神内でも見かけず話すこともなかった。昔から色々と隠し事や勝手なことをしていたが……今では懐かしいな。最初の、いちばん長い付き合いの心の支えになってくれた相手だ。それもこれでお別れになるのだろう。


「パティは綿足が死んだらどうなる……?」

「私はスィゼの使い魔、つまりスィゼの魔術。スィゼと一緒に行くだけだよ?」

「そうか……」


 パティは自分と共に失われるのだろう。そうなるのが少し悲しいが、使い魔であるのだから仕方がないことなのかもしれない。


 そうして、パティとセリアと一緒に最期の時間を過ごす。恐らくはこれが寿命というものだろう。初めて迎える正しい死、最初で最後の本当の意味での死だ。

 自分は最後に、こちらを見つめるセリアの姿を脳裏に焼き付け、死んだ。
































「…………っ!」


 そして目が覚めた。成人の日の朝、ループの最初の日で。


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