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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop48 新しい神話

 地上に堕とした竜は訳も分からずその場でもがいている。いきなり飛行できなくなったら流石に対応できないか。しかし、結構な高所から落としたはずだが、その肉体の強固さのためかダメージは殆ど無い。大きさ的に高さはそこまででもないとも言えるだろう。

 しかり、竜はうまく動けずその場でもがくばかりだ。それはダメージによるものではなく、ただ体をうまく動かせていないように見える。体を動かすのに慣れていない……恐らくは今まで封印されていたからだろう。ずっと寝たきりの状態だったところにいきなり飛び起きたようなものだからまだ完璧に体を動かせるわけではないのかもしれない。

 ただ、空を飛ぶのはまた別だった。本能か、能力的なものか、あの大きさで羽ばたいて空を飛んでいるわけではないだろうし特殊能力みたいなものだったんだろう。

 セリアと竜に近づいていくと、流石にこちらの気配を察知したようで視線を向けてくる。そして本能的な物か、俺とセリアが今回竜が落ちた原因であると判断した様子で、こちらに向けて怒りを含んだ咆哮を浴びせてくる。どんな動物でも聞いてしまえば震えあがりそうな怒りの咆哮だ。


「行くぞ!」

「うん!」


 こちらに向けてきたのが咆哮だったのは運がいい。相手にとっては悪手だ。あれが光線だったなら、こちらも急な攻撃で避けるのが難しかったはずだ。そのあたり、竜もやはり感情を持つ生物なのだろう。

 咆哮をし、その次に竜は光線、光の吐息を放ってくる。もちろんその予備動作もわかる。撃たれてから避けるのは無理だが、どこを狙うかさえわかれば撃たれる直前に回避することはできる。今まで何度も光線を浴びてきた経験が生きている。避けた光線は街と大地を抉り吹き飛ばす。今回はそういえば上から下へ放たれるのではなく横へと撃たれている。被害がどうなるかわからない。


 竜は今、空に飛べず地上にいる。今までずっと空を飛んできた……恐らくは封印前からそうだったと思われる。だから地上での活動経験が少ないようで、竜の動きはあまりよくない。おかげでこちらも行動しやすい。

 では、有利かと言われれば……違うと答えるしかない。竜体の防御能力は高く、肉体の強さも魔物と比べても桁が違う。まともに競り合えば恐らくセリアと同等か、それ以上の力があるだろう。流石生物種としては最強クラスの力量を持つ竜と呼ばれる存在、それもパティ談では神に作られたらしい力の塊。

 まともに攻撃を食らえばこちらが死ぬ。そして、こちらの攻撃は相手に対して大した有効打にならない。戦闘は緊張の連続だ。


「っ!」


 セリアが振るう大鎌を竜がその腕を振るって防ぐ。それによりぶつかり合った大鎌と腕は大鎌の方が押し負けセリアが弾き飛ばされる。その状態でも冷静に空中で動きを制御し着地した。

 弾き飛ばされたとはいえ、セリアの攻撃は竜の体に傷をつけている。その痛みで竜が咆哮し、それに続き光線を放つ。攻撃としてはわかりやすいサイクルだ。攻撃し、傷つけたら叫んで光線を撃つ。セリアもそのサイクルを理解しているらしく、攻撃後はすぐに光線の射線を避けている。


 セリアの動きは大きい。それに対しこちらの動きは地味だ。そもそもセリアと比べ攻撃があまり有効打になっていない。これは単純に攻撃力がセリアに比べると低いからだろう。セリアと同等に戦えていたのは彼女との戦闘経験あってのものだ。

 とはいえ、使っている武器が武器、世界鉱を用いていることもあって鱗に傷を入れることは出来ている。鱗を少しずつ剥いで、肉を露出させ、そこを斬る。それも一つの戦法だろう。

 ただし、その頻度、攻撃タイミングは重要だ。どうしてもばれればそのあとやりづらくなる。こちらの攻撃で与えられるダメージは大きくない。それならば、セリアの手助けになるような効果的なダメージを狙うのがいい。セリアと打ち合おうとしたところに不意打ち的にダメージを入れるとか。


「おっと!?」


 こちらの動きも流石に竜は気付いている。周りをちょろちょろちくちくされるのはウザったいのだろう。しかしセリアに意識は集中しており、あまりこちらに向けられる攻撃はない。だから簡単な攻撃手段として尻尾による薙ぎ払いが飛んでくる。

 剣で受け、弾き飛ばされながらその場から離脱する。蠅を追い払うように腕を振り回す感じで攻撃しようという意識が低く、威力が低い。おかげでその程度で済む。しかしその程度でも意識をこちらに向けたのは大きい。わずかな隙になったようで、セリアが大きな動きを見せる。


「っと!」


 セリアが地を蹴って竜の体に跳び、その体をさらに蹴って登り上がる。そして竜の背に乗った。背中にいる相手はまともに攻撃する手段がない。竜の手では届かないし、首を向けるのも大変だ。

 セリアが全力を大鎌に込め、竜へと振るおうとしている。背に存在する翼は背中にたたきつけることはできないのか、ばさばさと動いているだけでセリアには当たらない。だが、一つ。背に届き得る攻撃手段が存在していた。


「セリア! 後ろ、尻尾だ!」

「えっ、わっ!」


 竜が自分の背に尻尾を叩きつける。自分の体に自分で攻撃したところで竜に対してはあまりダメージはないだろう。しかし、その場にいたセリアは違う。まともに受ければ肉片に代わっていたことだろう。こちらが叫んだことで一応の回避は出来たようだ。

 もっとも完全な回避は出来ておらず、尻尾が叩きつけられた後にずれた動きが直撃して背から弾き落とされた。落ちたセリアを全力で追い駆け、その体を受け止める。流石に致命的な一撃ではないが結構な大ダメージだった。


「うぐ……」

「まず回復……大鎌が何処かに行ったか」


 水の魔術でセリアの治療を行う。とはいえ、あまり時間もかけていられないので完全には治療できない。戦線復帰できる程度になる。


「ありがと……」


 セリアが腕から逃れ、地上に立つ。まだ少し覚束ない様子だが、すぐに復帰できそうだ。問題は大鎌が何処かに行ったことだろう。


「大鎌を見つけないと」

「そんな余裕ないよ。スィゼ、前に使ってた剣をちょうだい」

「……使えるのか?」

「壊しちゃうと思うけど。ごめんね」


 以前使っていた魔銀製の剣はまだ持っている。セリアが使うには心もとないし、大鎌と比べると性能は落ちるだろう。それ以前にずっと大鎌を使ってきたセリアが剣を使えるのかという不安の方が強い。だが他に何かあるわけでもない。


「わかった。存分に使え」

「うん、ありがと。スィゼは無茶しちゃだめだからね! 行ってくるよ!」


 剣を受け取ったらすぐにセリアは竜との戦いに戻る。竜の視線は既にこちらに向いており、その口には光が溜まり始めていた。


「っ! 危なっ!」


 セリアの近くにいたから一緒に巻き込まれるところだった。射線から逃れるが、少し余波を受ける。大したダメージではないのでまだよかったが。


「……流石にきついか」


 剣でもセリアは十分戦えるようだ。しかし、あくまで戦える程度に過ぎない。まず大鎌と比べるとリーチが違ってくる。セリアの間合いが僅かに縮まっており、そのせいで竜に攻撃が届いていない。そして威力も大鎌と比べると弱い。剣の素材、魔力の問題、そして剣であること。神鉄と魔銀の性能差やセリアの魔力の膨大さが大きな問題となっている。武器の形状に関しては慣れの問題だから今の状況では仕方がない所だが。


「このまま戦っても無理だ。なんとか大鎌を見つけて渡さないと駄目だ」


 剣で戦っていても埒が明かない。いつも使っている大鎌を見つけて渡さないといけない。セリアは背中にいる状態から尻尾が当たって吹き飛ばされた。その時はまだ持っていた、なら吹き飛ばされている最中に落としたはずだ。

 先ほどの竜の位置とセリアの落下地点を視界の中で結び、その間を探す。場所が街の中と言うこともあって瓦礫もあって探しづらい。


「…………あれか!」


 発見した。建物の一つを突き破ってその中にあるらしく、柄だけが辛うじて見えている。幸い今はセリアと竜の戦っている場所から外れているので近づくのは難しくない。

 竜の視線、気づかれないかどうか注意しつつ移動する。まあ、セリアと戦っているので気づかれないとは思う。建物の中に既に人はいない。竜との戦いが始まってからか、始まる前になんとか逃げられたのだろう。もしかしたらどこかの瓦礫の下にいるのかもしれない。

 中の物が散乱している。ただ、一応まだ使える物や建物自体は残っている状態だ。


「この後も残ってるなら運がいいだろうな」


 街は竜の落下、セリアや俺との戦闘でかなり破壊されている。まだ残っているだけ幸運なのだろう。少なくとも竜の光線で消し飛ばされるよりはいいと思う。もっとも今後も残っているという保証はないが。

 そんな気にしても仕方がないことを思いつつ、すぐに大鎌を回収して外へと向かう。セリアにこの大鎌を渡さなければならない。しかし、すぐに近づいて渡すのは難しい。今のセリアは竜との戦闘中、それも慣れない剣で戦っている。すぐに離脱できるとは思えない。


「セリア!」


 大鎌を掲げ、セリアの名前を呼ぶ。その声にセリアはちらりとこちらに視線を向けるが、すぐに竜へと視線を戻す。大鎌の発見が分かってもすぐにこちらには来れないようだ。そのまま竜との戦いを続けている。

 しかし、それも長くは持たなかった。竜とセリアではなく、それ以外の物に終わりが来た。


「あっ!」


 竜の攻撃を受け、その衝撃で限界に達したのか魔銀製の剣が折れる。今のセリアに武器はない。


「っ! セリア! 受け取れぇっ!!」


 叫びながら、セリアに向けて大鎌を投げる。あまり武器を投げることに慣れていないのでうまくいくかは不安だったが、どうやらうまく飛んでいったようだ。回転しながら飛んでいく大鎌をセリアが空中に跳び上がりながら受け取る。セリアと戦っていたときの大立ち回りお思い出す。


「ありがとっ!」


 大鎌を受け取ったセリアに竜が腕を振るってくる。セリアはその攻撃を防ぐが、空中ということもあって弾き飛ばされた。だが竜の攻撃は恐らく今の攻撃でセリアを倒すことではなく、弾き飛ばすことが目的だったのだろう。

 竜の口に光が集まるのが見えた。今のセリアは空中にいるため、回避ができない。


「っ! させるかっ!」


 竜の攻撃を止めさせる方法は一つ。大ダメージを与えて意識を散らさせること。咄嗟に自分に飛行の魔術を全力で使い、超速度で特攻する。剣を構え、それが竜の腹へと大きく突き刺さった。深々と竜に突き刺さる剣、それにより竜が苦痛の声を上げた。当然口に集めていた光は消えている。


「ぐっ!?」


 竜が体を地面に押し付けるようにしてきた。力をうまくかけられていないためか、そのせいで死ぬことはなかったが、竜の巨体であれば単純に体重をかけるだけで落ち潰されかねない。竜の体の硬さもあり、なかなかにきつい。まだ耐えられるがすぐに押し負ける。


「スィゼぇぇっ!!」


 セリアの叫びが聞こえ、そのすぐ後に竜の苦痛の声。そして刺さったままの剣につられ一瞬体が浮き上がる。


「っ! 今っ!」


 突き刺さった剣をしっかりと握り、竜の体に足をつけ、そのまま蹴って剣を引き抜く。そして地面と落ちる。その途中で飛行の魔術をかけ、自分の体を竜の側から遠ざけた。練習してきたかいがあるというものだ。こんな風に使いたくはなかったが。


「くっ……」

「スィゼ! 大丈夫っ!?」


 竜から離れたところでセリアが寄ってくる。竜は既にこちらの方に視線を向けている。さっきはなかった顔への傷が見える。恐らくあれのおかげで脱出できたのだろう。


「っ!」


 竜の口に光が溜まり始める。光線を打たれたら今の状況でよけようがない。セリアがすぐに竜へと向かうが、流石にこの距離では間に合いそうにない。間に合わせるのは、先ほどと同じ方法しかない。同じ愚は犯さないが。


「飛行の魔術っ!」


 自分を飛ばさず、持っていた剣だけを飛ばす。本当は自分の体もあったほうが威力はあるだろう。だが今回の目的は意識を散らすのではなく、方向を逸らす事。竜の口、頭、光線の向きを逸らせば直撃はしない。

 狙いは竜の顎。そこへ向けて飛行の魔術で剣を飛ばした。維持時間、制御なんかは無視して速度に傾倒した全力の飛行の魔術で。魔術の出力的な問題はともかく、魔力を籠めて少しでも長く維持できるように。

 飛行して竜へと向かう世界鉱を交えて作られた剣。それは狙い通り竜の顎へとぶつかる。竜の下方から飛ばしたからか、それは竜の顎へとあたり、そのまま口を無理やり閉じさせた。そして、そのまま頭を上方へと持ち上げる。これには竜も予想できなかったからか、光線が撃ちだされることはなかった。そして、頭が持ち上がり首を晒している。頭を下へと戻そうとも、飛ばした剣が刺さったまま竜の頭を上へと持ち上げ続けている。

 視線を下に向けることもできず、竜はこちらの動きに対処できない。つまり今は絶好のタイミングである。しかも、光線を止めるためにセリアが向かっていったのだから。


「セリアっ! 首を狙えっ!」

「わかったあああああっ!!!」


 こちらの言葉に応えながら、セリアは全力の一撃を頭が持ち上がり晒されている竜の首へと放った。大鎌から放たれる空間を裂く強力な斬撃が、竜の首に届く。

 光による防御が存在しても、その上で遠距離から大きな傷をつけられる斬撃。それを完全に無防備な状態の首に、この近距離から放たれた。その一撃は竜の首を斬り裂き、その巨体から斬り離した。頭は剣が刺さったまま飛んでいき、ようやく剣にかかっていた飛行の魔術が解けたのか落下する。


「………………」

「………………」


 頭が落ちても、まだ竜の体は先ほどの状態のまま維持されている。しかし、少しして、ようやく自身が死んだことを理解したのか、それとも血が抜けたからか、その巨体は鈍重な音を立てながら地面に倒れこんだ。


「……勝った?」

「……勝った、勝ったよスィゼー!」


 大鎌を放り投げてセリアが地面を蹴って跳んでくる。すごい勢いで抱き着いてきた。流石にセリアでもこれほどの戦いは未経験、そして竜のような本当に強大な相手との戦いに勝てるかもわからなかっただろう。感極まったと言うか……そういえば、セリアとしては二回目の殺し合い、本気の戦いだ。初勝利が嬉しいと言うのもあるのかもしれない。


「よくやったな」

「うん! うん!」


 セリアの頭を撫でてやる。ただでさえ嬉しそうなのにもっと嬉しそうな笑顔を向けてくる。セリアはしばらくこのままでいいだろう。

 しかし、竜を倒したと言う事実はかなり大きい。今後何らかの問題が起きるのは間違いないだろう。倒された竜の扱い、そしてそれを倒した俺たちの扱い。少なくとも今まで通り、というわけにもいかないだろう。

 まあ、いきなり御命頂戴にはならないだろう。仮にも竜を倒した相手だ。まともに戦って勝てるわけもない。とはいえ、命を狙われないとも限らないが。無難なところで英雄扱いか。半ば化け物扱いになりそうだけど。しかし、せっかく竜を倒して勝ち得た未来だ。やれることをやるしかない。

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