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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop47 竜を堕とす

 竜の眠る谷のアルベルドのところに魔銀製の剣を受け取りに行く。魔銀製の剣は先に作られていたようで受け取ることができたが、どうやらまだ世界鉱の加工は済んでいないらしく、パティの頼んだ魔術具はまだ作られていない。現時点ではセリアを仲間にしていないので構わないのだが、流石にアルベルドでも本当に加工できるのか。世界鉱は未知なので不安だ。

 風の季節。戦争が行われ、セリアと戦い倒して従える。しかし、その過程で今回はセリアを担いだまま竜の眠る谷へと直行した。途中でセリアを降ろし、事情については道すがら話して作ってもらったものを貰いに行く。流石に二人のセリアの融合は降りてからだ。


「ああ……よく来たな」


 いつもと同じく、こちらが来たことを察知して出迎えてくれるアルベルド。今回は二つの物を持っていた。一つは以前頼んでいた魔術具と思われる簡素な杖のようなもの。もう一つは自分の持つ魔銀製の剣にかなり近しい剣だ。


「魔術具を取りに来たんだけど」

「これだ…………そっちの連れ、持っている物は神鉄製の武器だな。それも、最近作られたものではない。ふむ……先祖返りか。これはそっちの娘のための物みたいだな」


 あっさりとセリアの素性と持っている武器の性能についてアルベルドは推測してきた。観察眼が高いのは知っているが、ちょっと凄すぎるんじゃないか。

 世界鉱でできている杖を受け取る。指揮棒に近い短い簡単なつくりの杖だ。武器として使うのは無理な大きさ、体を支えるために地面を突くこともできないが、魔術の使用のための杖みたいな物、セリアの場合は古代人の力を使うための物だ。とりあえずこれで力を扱う練習ができる。


「作ってくれたようで感謝してる……けど、そっちの剣は何なんだ?」

「ん? ああ、これはちょっとな。その魔術具、世界鉱を全部使っているわけじゃないんだ。そこまで必要じゃなくてな。余った分をどうしようか、と思ったんだが……そのまま使わずにいるのももったいなくてな」

「まさか……その剣に?」


 勝手に使ったことに関しては抗議してもいいような気がするが、そもそもの目的としては魔術具を作ってもらえればよかったし、仮に返してもらっても使い道がない。でもやはり勝手に使われるのは少々癪だ。


「ああ。まあ、勝手に頼まれていたこと以外に使用したのは悪かったよ。もっとも、これはお前の物だ。受けとれ」

「……え?」


 アルベルトが剣を差し出してきた。俺の物?


「世界鉱を取り扱える貴重な機会の礼だ。ここにある神鉄と魔銀、余った世界鉱を用いて合金にして作った剣だ。単に世界鉱単体で取り扱うのではなく合金にすると言う初めての試みだが、思いの外うまくいったみたいだな」

「……えっと、ここに魔銀とか神鉄とかあったのか?」

「ああ。持ってくる奴は稀にいるし、全部が全部使われるわけでもない。余った分をちょっともらってるんだ。まあ、もとからここには幾らか特殊金属が残されているんだがな」


 初耳だ。というか、それは横領とかそういうものなのでは?


「こっちは加工しても報酬をもらっていないんだ。代わりみたいなものだと思え。どうせ殆どの鍛冶師に加工できる代物でもないんだしな」


 確かにそうだけど、そうだからここにきているわけだけど。でも、ちょっと納得は行かない。いや、待て。今重要なのはそこではない。


「これを受け取るのはいいんだが……俺に扱え切れる物なのか?」

「形状としてはお前に作ってやったものと同じにしてある。魔力に関しては魔銀を使っているから通りがいい。神鉄を使っているから外からの魔力を弾く。なんというか、いいとこどりみたいな感じになっているな。ついでに、強靭さは神鉄以上だ。これは世界鉱のものだろう」

「とんでもないなそれ」


 世界最強、世界最高の剣ではないだろうか、それって。


「受け取れ。お前の物だ。それに何かするつもりなんだろう? 世界鉱なんてものを持ってきて、先祖返りを連れてきて。役に立つだろう」

「……ありがとうございます」


 剣を受け取る。確かにこの先、竜との戦いがあるのだからこれはとても役に立つだろう。持った途端、吸い付くようにぴたりと手に収まる。重量はたしかにずしりとした重みを感じているのに、なぜか軽く感じる。微かに魔力が流れていくのを感じる。

 振るう。微かな揺らぎもなく、イメージ通り、振りたいように剣を振るうことができる。なんというか、性能がやばいぞこれ。魔力を大きく流す。わずかに流れる分もあるが、なんというか自然に流れる分では発光はしないようだ。魔力を流すと色の無い輝きを示した。なんというか、オーラのような……そこにある、光り輝いているようなものを感じるのに、色がない。見えない。


「気に入った……いや、気に入られたみたいだな」

「本当にありがとうございます」

「何、お遊びで作った物だ。それに武器は戦いに使われることこそが本分だしな」


 そう言ってアルベルドは建物の中へと戻っていく。こちらも、これ以上この場にいる必要はない。むしろ急いで戻ったほうがいいだろう。セリアに力の取り扱いを学んでもらう必要がある。いや、その前に。二人のセリアの融合を行わなければ。






「で、魔術具を入手したわけだが」

「使い方がさっぱり」


 まあ、セリアが頼んだものでもない。


「パティ」

「はいはい。教えるよー」


 パティが姿を現す。セリアに魔術具を与え、その力を扱えるようにするのはパティの役割だ。そもそも魔術とは別物であるみたいだし俺が教えるのも難しい。パティ頼りである。


「パティ、どうやるの?」

「えっと、まずそれ持って。持ち方は……まあ、あまり気にしなくていいけど普通の杖のように……えっと、持ち手を持っていればいいよ。できれば使いたい方に向けるほうがいいけど」


 言われてセリアが魔術具を持ち、その先端をあらぬ方向に向けている。その先には何もないのでとりあえず安全だとは思うが。


「持ったよー」

「よーし。なら、えっとー、大鎌にやる時みたいに力を込めてー」

「うん……わっ!」


 ばんっ、と破裂音がする。それと同時に周囲に風が吹き荒れ、周りを荒らす。音を聞いたと同時に少し下がったので大丈夫だったが、結構な範囲に届くようだ。危ない。っていうか、パティがばらばらになっている。セリアは……流石に防げないか。でも、発生地点に近い割には直撃を受けてはいないみたいだ。先端を別の方向に向けていたからだろうか。


「セリア、大丈夫か」

「……ちょっと痛い」

「じゃ、治すぞ」


 水の魔術でセリアの傷を治癒する。


「あれ……パティは」

「ああ、すぐに入れ替えるから」


 ばらばらになったパティだが、使い魔だ。魔力で形作られている物であり、作り直すのは容易。自分の中にパティを取り込み、再度出現させる。


「大丈夫でしたー。うん、まあ、流石に初めてだったから暴発したみたいだねー」

「みたいだねー、じゃないだろ……」


 怪我をするような危険があるならかなり不安だ。


「んー、セリアちゃんには向き不向きがあるみたい。ちょっとした力を取り扱うのは苦手みたいだね。手加減とか」

「むう」


 セリアが少し頬を膨らませて抗議している。しかし一応自覚はあるのだろう。直接文句を言うことはない。


「全力の時は扱える、のか?」

「大鎌だと方向性が定まってるから、全力を籠めても問題なかったんだろうね。魔術具で力を使う場合、どうしても自分で決めなければならないし、明確なイメージや安定した力を籠めないと半ば暴走した形で発現するんだね」

「……よくわからないけど、どうすればいいの? ちゃんと使えるようになりたいんだけど」


 セリアが心配そうにパティに訊ねている。使えるようになるかどうかは今後に大きくかかわる。だからこそ、しっかりと使えるようになりたいのだろう。


「使えるようになって、スィゼの役に立つの。だから、教えてほしい」

「うんうん、その気持ちわかるよー。私も全力で教えるからね、セリアちゃん! そうだね……そっか、無理に外から教えようとするか駄目なんだろうね。私は使い魔、闇の使い魔、精神の使い魔、精神寄生体。ふふん、本気を見せてあげようじゃないの! スィゼはセリアちゃんの怪我を治すために見守っててね! 私、この子を全力で鍛えるから!」

「ああ、うん、頑張れ二人とも」


 何かパティが熱くなっている。シンパシーなんだろうか。なんだかんだでパティの根底には俺のために、というものがある。セリアも俺のために、というのがあるからそこで共感したんだろう。

 しかし、見守っていてと言われても。こちらとしてもすることが何もない状態でのんびりするのもちょっと困る。武器が新調されたわけだし、少しどういう感じか、どこまで扱えるか、セリアに気を払いつつ試してみよう。本当はセリアと戦闘訓練をできるのがいいのだが、今はちょっと無理だな。






 最初に行われた訓練は力の扱い方。大鎌の時のように、ただ力を流し込むのではなく一定量を維持する形で流すこと。セリアの基本的な力の使い方は膨大な力の量に任せた強引なものだ。そもそも、大鎌は神鉄製で魔力とは本来相性の悪いもの。だから力がどれだけ籠められても問題はなかったが、世界鉱はそうではない。そのあたり繊細というか、精密と言うか、そういうものであるらしい。

 ちなみにセリアの魔力量、まあ魔力量と言っていいだろう。この力の総量は師匠以上の物であるらしく、ランク付けで言うと魔銀。先祖返りと言う特異性があるからとはいえ、その魔力量は羨ましい所だ。自分の場合、何度もループを繰り返してようやく金に至ったのだから。代わりにセリアは寂しい人生を送ることになったのだからそうなりたい、それがいいとは言えないけど。


 次に属性に関して。セリアの属性適性は魔術で言う風、本質的に空間に干渉する物であるらしい。残念ながら、セリア自信の性質か、性格か、風や音、防壁の魔術みたいなことはできないようだ。代わりに鎌鼬はあっさりと使えるようになった。攻撃への適性が高いのだろう。

 これだけで考えると空間支配は使えないのでは、と思う所だったが。そもそも大鎌での全力の攻撃を使う時点で空間に対して上位に立てると言うこと。ならばそれを攻撃、破壊に向けるのではなく法則改変に向ければなんとかなるらしい。とはいえ、セリアの性質的に向いていないので特訓が必要であるらしい。






 セリアの力の取り扱い能力は日が進むごとに上がっている。現時点で金の魔術相当の力の取り扱いができるようになっている。もっとも、まだ攻撃以外は慣れていない感じだ。目的の世界法則の改変はまだ先らしい。

 とはいえ、セリアも一生懸命頑張っている。その懸命さには頭が下がる思いだ。こちらの期待に応えられるように、俺の望みを叶えるために、それだけのために頑張ってくれている。こき使っているようでこちらの方が少し精神的に落ち込む感じだ。


 ようやく空間支配を扱えるようになったらしい。実際に魔術を使えない状態にされたのを確認した。あの時は本気でこちらもあせった。とはいえ、まだ時間制限の問題や改変できる内容や大きさには限りがあるらしい。まだまだ練習必須、もっとも時間はあと少ししかない。

 だが、零と一の差は大きい。扱えるようにさえなれば、あとはもう少しと言った所だろう。


 そして、刻限が訪れる。


「っ!」

「竜か」

「そう、みたい」

「ギリギリ! 本当にぎりぎり間にあったー!」


 今の今まで練習していた。消耗はいくらかあるが、セリアの魔力量は膨大なので消費はそこまで不安に思うものではない。空間支配に関してはなんとか目標レベルに到達した。後は竜に挑むだけだ。


「セリア、竜のいる方向はわかるか?」

「うん。まあ、一応ね」

「よし、そっちに行くぞ」

「あれ? 待たないの?」


 残念ながら竜と戦う舞台はいつもの場所と言うわけにはいかない。そもそもいつも通り王宮にいるわけでもない。


「被害が増える前に何とかしたいし、それに墜とすわけだから」

「あー、確かに」

「そっか、落ちたら下にある物壊れちゃうもんね」


 竜が全部破壊するとはいえ、竜を下に堕としても下にある者は破壊されるわけである。基本的に竜は街を破壊するために街の上に陣取るみたいだ。だから堕とすと必然的に街が破壊される。

 セリアは一応竜の居場所はわかるようだ。おおまかにでもわかれば、直線ルートの捜索でどうにでもなるだろう。直線ルートの街に移動しそこで待機、竜が来たら墜落させる。概ねそれでいいはず。


「とりあえず話しながらでもいいから移動しよう。時間は待ってくれないからな」

「うん、そうだね。行こうスィゼ!」






 竜は復活してから王宮まで一日で到達する。さて、ここで問題になるのが戦いの時間だ。


「来たな」

「うう……眠い」

「朝だもんねー。竜の行動時間を考えなかったからしかたないけど。ま、戦ってれば眠気は覚めるよ。それくらいに強い相手だしね」


 セリアの戦いたい強者とはまた違うと思うが。


「さ、準備しよう、セリアちゃん」

「うん……」


 まだ眠そうだが、セリアはすぐにしゃっきりとする。そして杖を構える。


「…………………………」


 その杖に膨大な量の力が籠められるのを感じる。竜が着た場所は空、其方に向けてセリアは杖を向ける。別にそうする必要性はないが、向けたほうがやりやすいらしい。


「私も制御、手伝うね」

「うん、お願いパティ」


 パティがセリアに寄生する。自分の時と同じ、精神に寄生し補助をするのだろう。


「えっと、我世界をすべる者なり……空にあるものよ生きる者は地にありて生きるべし……その大空にうかべしおんみ、世界のことわりに従い地に落ちよ!」


 すごく不安な台詞だ。パティがセリアに詠唱を伝えているのか、かなりたどたどしい感じになっている。しかし、それでも発動はする。多分駄目な部分はパティが補助しているのだろう。かなり苦労を掛けているのではないだろうか。

 空に存在していた竜が、空間の支配、世界の法則の改変により空を飛べなくなる。飛べなくなればその体は地上に落ちるしかない。セリアの力により、竜は大地へと引きずりおろされた。そして街を巻き込み大破壊を起こす。


「…………」

「…………」

「わー、ひっどいー」


 パティが惨状を見てつぶやく。竜を落とせたと言うのに、喜びよりも街の被害の方が気になる。


「まあ、しかたないな」

「そうそう。ああしないとどっちにしろ光線を撃って破壊されるしね」

「そうそう」


 今は無視することにする。そもそも、言わなければセリアがやったこととはばれないだろう。どちらにせよ、竜を倒せば問題はなくなる。


「さ、竜を倒しに行くぞ!」

「うん!」


 竜の移動音、竜の姿、それらを見た街の人が警報的な鐘を鳴らすなどして街の人はいくらか逃げていたはず。竜も別に逃げるのを待っていたわけではないが、すぐに光線を撃ち破壊するようなことはしていない。だけどそれでもまだ逃げていない人はいただろう。巻き込んだかもしれないが、今回は諦めてもらう。こちらも竜を相手取るのだから、気にしていられる余裕はない。

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