loop46 パーティキュラー
「私? 私はスィゼの作った、スィゼの使い魔、だよ?」
「…………確かにそうなんだけどな」
パティは確かに俺の使い魔である。ただし、それはパティの一面に過ぎないはずだ。今までパティは色々とこちらの意思から外れた行動をしているし、目的とは別の能力を持ち、俺も知らないようなことを知っている。知っていることに関してはどこかで情報収集してパティが有しているだけかもしれないが、それにしても明らかに普通とは違っている。
そして、今判明しているもっともおかしな現象として前回の周回の物を今回持ってきたと言う事実がある。セリアのように精神だけを引き込むならばまだ理解できるのだが、世界鉱は物質だ。それを持ちこむことは本来ありえない。
「聞きたいことはそういうことじゃない。パティは俺に対して色々と隠し事をしているはずだ。例えば、前回の時世界鉱を飲み込んだ。それを今回まで引き継いだうえに、どうやってか知らないが取り出した。世界鉱は物である以上ループの中に持ってくることはできない。パティの属性はが土なら物質を取り込んで、ということもできるかもしれないがそもそもループに引き込めているのはパティが闇の属性、精神に寄生する使い魔であるからこそだ。色々とありえないことだらけだろう」
「そうだね。まー、流石にわかっちゃうよねー」
「師匠の下で色々と学んできたからな。普通の魔術師よりは詳しいと思うぞ」
まあ、使い魔に関しては師匠もそこまで詳しいわけではない。だからパティがしていることが本当に常識外れの物事かは断言できない。しかし、こちらの問い詰めに対してパティは観念したように大きく息を吐いた。
「はあ。しかたないなー。スィゼには教えるしかないかー」
「……改めて聞くが、パティはいったい何者なんだ?」
「私はスィゼの使い魔であることは事実だよ。ただ、通常の使い魔とは別物だけどね。私はスィゼの持っている、内にある天より落ちてきた欠片の力の一端。スィゼの持つ才能、能力、資格、それらの根源たる大いなる力の塊から現出した能力存在起源。ちょっと特殊な生まれの力の存在かなー? 正式な私の名前はパーティキュラー。神の持つ能力の一端にして、知識と倉庫の管理者」
パーティキュラー。普段呼んでいるパティはその名前の略称か。しかし……言っていることの意味がイマイチわからない。
「ごめん、何を言ってるかわからない」
「それもしかたないかなー。スィゼの知っている世界はこの世界と前世の世界だけ。だから私の存在に関わるような知識は持ってないだろうね。基準世界なら知る必要もないし。えーっと、つまり……スィゼの中にはちょっと特殊な力の塊があって、使い魔を作る時にその力の塊から私を取り出して使い魔にしちゃったの。で、その力の塊である私は普通じゃない特殊な力を持っている。今まで見せたちょっと変わった能力はそういうこと」
パティの言っていることはやはりわからない部分も多い。ただ、今の発言から読み取ると……つまり俺の中には何かがあって、そこからパティが生まれた。その何かの影響でパティは特殊な能力を有している。大雑把だけどこんなところか。
知識とか怪しい所は多いが、つまりパティは俺から生まれた存在だと言うことだ。パティにはやはりまだまだ分からない点が多い。だけど、ひとまず聞くべきことを聞いておこう。
「……じゃあ、パティが俺を裏切って敵になると言うことはないのか」
「当たり前じゃない。私はスィゼの使い魔であり、スィゼを主とする存在。そもそも使い魔としての縛り上、主人に逆らうことはできないよ。まあ、ある程度自由は聞くんだけどね」
「おい」
「スィゼにとって悪い結果を招くようなことは……まあ、できるだけしないよ。結果はやってみないとわからないんだけど」
少なくともこちらを裏切る気はないようだ。その点に関しては信頼していいのかもしれないが……そもそもからして信用できないような性格をしているのではないだろうか。
「……まあ、あまり勝手に動くな、と言っておくとして。詳しく聞きたいんだが、世界鉱を持ちこめたことはどういうことなんだ? あと、セリアに古代人の力の扱い方を教えることに関しても」
「はいはーい。一つずつ話そうか。まず、私の特殊能力に関して。私は物を食べることで食べた物を保管することができるのです! 実際にその時の様子は見ていたでしょ?」
「ああ、まあ、確かに」
「保管したものは私自身が保管するわけではなく、本来の私の管理する倉庫に送られて保管される。物理的に私がいなくなっても保管した場所が変わるわけでも、消えるわけでもないから次に呼び出された時に取り出せば問題なく持ちだせるわけ」
異次元に保管する。ループする世界において、ループするのはその世界のみ。異次元は別の次元であり、そこはループの影響を受けない。それならば確かに取り出すことはできるのかもしれない。
「……本来の私?」
「私は本来のパーティキュラーとは別、神様とかで言う分御霊とかそういう存在に近いかな。本当はもっといろいろとできるんだけど、その機能は多くが制限されていて、かなり使い魔として扱える力に限定されてるの。だからほんとはもっとスィゼの手伝いが色々とできるんだけど、残念ながら今の私にできるのは周回で失われるものを持ってくることくらいかなー。まあ、実はこれ結構世界法則に喧嘩売ってるからルール違反になりかねないやり口なんだけどねー」
「はあ……」
パティの言っていることはわからないことが多い。もう少しこちらでも理解できるように話してほしい所だ。いや、意味が分からないのではないのだが。理解が及ばない、別世界の話になりつつあるというか。
「ルール違反って……いいのか?」
「んー、ま、問題ないよ。あったら今の私は消えてるから。たーだー、過剰にはできないね。やりすぎると警告くらいは来るんじゃない?」
「そういうものなのか……?」
「まー、何とかなると思うけどねー。気にしても仕方ないよ。やれることをやろうね」
まあ、そうだな。今やるべきことをやるだけか。
「えっと、あとは力に関してだったっけ? まあ、こっちもこの世界の知識ではなく、本来の私の持つ能力の方かな」
「……知識か?」
知識と倉庫。世界鉱を保管するのが倉庫なら、もう一つの力に関しては知識の方が関わってくると言うことか。
「その通りー。まあ、知識と言っても本来は書庫なんだけど。んー、なんというか、あらゆる世界のあらゆる知識、そういうものが存在する場所かな。オカルトで言うアカシックレコードみたいな。まあ、本当の意味でのそれは私じゃない気がするかな」
「あらゆる世界の知識……」
「とはいっても、過去現在未来全ての情報が記されている場所、というよりは様々な世界を観測した結果の情報の集積によるものだけどね。見届けた世界の情報を紙片として集め、その紙片をまとめて本へと編纂し、それを保管する。いつでも本来の私が分身して整理をして、どこか別の世界で集めた知識が必要になれば私がその本を取り出し読み直して知識を再度取り入れ、他の私に引き渡す。そんな感じのことをしているんだけど」
「……なんというか、途轍もない話だな」
パティ、パーティキュラーというものは本来使い魔として呼んでいいものか。それほどまでに言っていることが普通ではない。
「まあ、パティの事情に関してはいいか。知識を引き出せるなら、この世界の情報もあるよな?」
「まあね」
「じゃあ、竜の情報を」
「教えないよー?」
「おい」
主の言うことに従うものじゃないのか、使い魔。
「世界は正しく運行されるべき。この世界にもう神様はいないけど、それでも私はこの世界のすべての情報を何も知らない人に何もかも教えるのはよくないと思う。本来なら、スィゼも私もこの世界においては異物だしね。ただ、スィゼはこの世界の人間として生まれているし、私は使い魔として成立している。その限りにおいて、私はその力を行使するのは構わないと思う。倉庫に関してはちょっとルール違反に近いけど。知識に関しては、私自身の引き出せる知識とは別に……あの場所で見た、古代の文字を使われている知識の中に含まれている物もある。それがあるから、セリアちゃんに力の扱い方を教えても構わないということになるわけ」
かなり好き勝手しているのにそういう点では妙に大人しくしている。いや、そもそも力の知識があるなら竜の知識もあっておかしくないはずでは? 古代人の残した資料なんだろう?
「………………」
「竜に関しては、教えたら面白くないし」
「それが本音か? こっちは散々死んでるんだが」
「そもそもー、真っ向から戦うしか策はないのー。あの光線とか知ってたから避けれるものでもないでしょー。防ぐのだってー、一度実感しなければわかんないしー。空飛んでるのだってー、どうやって対処すればいいかー、私だってどうしようもないんだからしかたないじゃんー、だーかーらー口引っ張るのやめてー! 痛いー!」
ちょっと遊んでいるパティにお仕置きをする。まあ、痛みがあるかもわからないのだが。わりとノリがいいので言っているだけだと思う。
「はあ……まあ、しっかり使い魔らしく仕事をしてくれるならいい」
「はいはい。もちろんですとも」
「ところで、物の保管は解禁されているなら自由にやってもいいんだよな」
「駄目です。世界鉱は特例処置! 入手が難しい故の特例処置です! だってそうしないと下手したら変なことになるじゃない! セリアちゃんの大鎌とか二つあったらやばいでしょ!」
国宝が増えるな。まあ、確かに奇妙なことになるが。
「私がそのあたりは判断します。これは次回にもっていっても大きな影響はないなー、ってものだけ持っていきます」
「……使い魔なのに言うことを聞かない」
もうちょっと使い魔らしくしてほしいものである。
「もー、スィゼが私に望んだのは記憶の管理でしょ。それ以上のことは本来ならおまけ、そもそもはありえないことなんだから」
「……確かにそう言われるとそうなんだけどな」
そもそも、パティを作った目的はループを繰り返すことで蓄積されて増えすぎた記憶をどうにかして保存、整理することだ。そのために闇属性で精神に寄生し、記憶に干渉する能力をする使い魔を求めたわけだ。今のパティは確かにその役目をはたしている。そしてそれ以外のものは少々領分を超えているものなのだろう。
「はあ、まあしかたないか。竜を倒すのにちゃんと力を貸してくれるなら、そこまで無理は言わないよ」
「うん、ありがとう」
パティを信頼する。信用はちょっとできないが、信頼できる相手ではある。隠し事も多いし、勝手に動くし、あれこれこちらに文句を言ってきたりもする。でも、確かにパティは俺の使い魔であり、こちらのためになることやろうと頑張ってくれているのだから。それはちゃんと認めてやるべきだろう。ちょっと言いくるめられている気もするが。
「じゃあ、今後の私はとりあえずセリアちゃんにばっちりと魔術を教えるってことで」
「ああ、頼むぞ」
「合点承知の助! と、まあ話すことはこれくらいでいい? いいなら私は戻るよ。セリアちゃんもずっと一人でいると寂しいだろうしね」
「……まあ、そうだな」
「よし、じゃあ戻るね」
そう言ってパティは俺の中に消える。
『お話終わったー?』
『うん、終わったよ』
『ちょっと長すぎるよ!』
『まー、色々と話してたからねー』
パティとセリアの会話で精神内が少し賑やかになる。この二人が自分の精神の中にいるのにも慣れたものだ。だけど今回でこの状態も最後にしよう。パティがその特殊な力も見せて、世界鉱を持ちこめた。こんな幸運が続くはずもない。今度こそ、竜を倒す。パティもセリアも頑張ってくれているのだから。