loop45 古の力
また竜に敗北し最初の日へと戻る。今回もセリアは一緒に戻っているが、また同じことの繰り返しと言うこともありセリアも前のように騒がしくなることはない。だが、それ以上に今回はパティの口数が少ない。いつもはなにやらセリアと一緒に精神の奥に潜り話しているみたいな感じなのだが、今回はそれすら少ない状態だ。なので俺がセリアの話し相手となっている。
セリアとは普段から別に話さないと言うわけでもないが、あまりお互いの深い部分には踏み入らず、そもそも戦闘に関しての話が多めで語り合う機会が少なかった。なので今回は結構色々とお互いのことを話し合った。もっとも、お互い人生経験はそこまで多彩ではない。年も二つほどしか違わないし、セリアの人生もある。こちらのことが話す内容の主となり、そしてそこまで話題性の多いものでもなかった。
そうしてセリアと話していると、そういえば自分には前世、ループとは違うこの世界に来る前のこともあったなと今更ながら思い出す。そのことについては殆ど誰にも話した覚えはない。パティは恐らく知っているはずだが。
そんなふうにセリアと話しながら、いつもとは違う雰囲気で日々を過ごしていく。やるべきことはどう生活していても変わらない。竜を倒すそのために、まず対セリアの準備を進めていく。その中でもちろん竜対策もやるが、やはり肝心なセリアが肉体の無い状態ではできることも少ない。
「ふう」
そしていつも通り竜の眠る谷に来た。ここも竜が封印された場所であるようだが、いつかここでも竜が復活するのだろうか。そもそも竜の復活がどの程度起こるのかわからない。今回だけの復活で勘弁してもらいたいと思う。でも後々に禍根を残すよりは復活したところを倒せる自分やセリアがいたほうがいいのかもしれない。まあ、それも光の竜を倒してからの話だ。
「ようこそ客人。こんな山の上までよく来たな」
『この人の言葉、いつも一緒だね』
アルベルドがこちらに対して言ってくる言葉は毎回同じ。本来なら、同じことをすれば同じ結果になる。このアルベルドがいい例だろう。それに対しセリアは毎回違ってくる。セリアの場合は言葉もそうだが戦闘内容も毎回違う。そう言うこともあってアルベルドの言葉が毎回同じなのが気にかかるのだろう。そもそもそういう点ではセリアの方が異常なのだが。
「武器の」
「ちょっと待った」
「……パティ?」
いつも通り武器の作成を頼もうとしたところにパティが割り込んできた。今まで……今回の周回ではパティはほぼ自分から喋ることをしてこなかった。それに話してくるだけならともかく、姿まで現すと言う唐突ぶりだ。
「なんだ、小さいな。何かあるのか? そっちの男は武器が作ってほしいようだが、お前は何か違う目的で現れたんだろう。何を頼む気だ?」
アルベルドはパティが突然現れたことに動じない。知識的にもしかしたら使い魔関連のことも知っているのだろうか。それとも本当に気にしていないだけか。
「これを見てほしいんだけど」
「それは」
師匠から貰った石を、パティがアルベルドに提出する。それは以前の、前回の周回で師匠から貰ったものである。パティがそれを食べたことにも驚いたものだが、それ以上に今回の周回にその石、前回の物を持ち込んできたと言うことが驚きだ。
確かに精神であるセリアやパティをループに引き込むことができるので不可能ではないように思えるが物質は話が違ってくるはずだ。肉体を持ってくることができるならばこの世界のセリアの肉体を必要とするはずもない。
一応、パティが体内に取り込んだことで精神体に変換された可能性も考えるが、そもそも俺はそういう能力をパティに付加していない。闇の魔術でそのようなことができるのか? 答えは自分にはわからない、というものになる。パティは使い魔、闇の属性の魔術そのものに等しい。であれば、そういったことができると確信していた可能性はある。
「それは……」
パティのしたことを考えていたせいか、ふるふるとアルベルドが震えていた。パティの差し出した意思を見て興奮している感じだ。
「世界鉱だと…………」
「そうだよ。これを使って、魔術具を作ってほしいの」
「……魔術具だと?」
魔術具を作ってほしい。鍛冶師に頼むことだろうか。いや、それ以前に世界鉱? あれが?
「そう。この場所は古代人の残した遺跡でしょ? ここなら先祖返りの使うべき武器、先祖返りの持つ力を引き出せる魔術具、それらを作る知識があるはず。それを使ってそのための魔術具を作ってほしいの」
「…………どこまで知っている? いや、まあ、いいか。世界鉱、これを俺が取り扱っていいんだろう? なら色々知っていることには何も言わないでおこう」
「お願いね。魔術具さえ作ってもらえるなら、他のことはどうでもいいし」
「そうか」
二人の話はそこで終わる。アルベルドはなにか幼い子供の用にわくわくどきどきしたような表情を浮かべている。いや、それはいいのだが。
「こっちの頼みも聞いてほしいんだが」
「ああ? そうだな。武器を作ってほしいんだろう? 持っているのは魔銀か。いいだろう、お前の実力を測ってすぐにとりかかってやる。さあ準備をしろ」
「え? あ! ちょっと!?」
世界鉱をすぐにでも弄りまわしたいからか、かなり雑にあれこれと行われた。とはいっても、流石にプライドの高い専門職、仕事はしっかりとやるようである。
「はあ、疲れた」
アルベルドに振り回される形となって本気で今回は疲れた。
『お疲れさまー』
『スィゼよりも強いんだ、あの人……』
「まだ俺が弱い状態だからな」
魔銀を取って来たばかりの現状ではセリアと戦う時の強さと同等ではない。とはいえ、技術も学びそれなりに戦えるようになっているが、まだあちらの方が強い。魔術ありでわずかにこちらの方が弱いというのが現状だろう。あと何周回かすれば今の段階でも勝てるようになると思う。
『セリアちゃんはスィゼよりも強いあの人の方がいい?』
『え? ううん、私はスィゼの方がいいよ』
『今のスィゼはセリアちゃんよりも弱いんだけどなー』
『でも、強くなるんだよね? それに、私はスィゼの物なんだし』
『ふーん』
なにやら人の精神内で女子トークが開催されている模様。聞く限りでは別にセリアは強ければだれでもいいと言うわけではない、のだろうか? もっともあの人の強さでセリアと戦っても勝てるとは思えないのでそこがわかっているからこその判断なのかもしれないが。まあ、セリアの心情とかあまり深く考えるとドツボにはまりそうなので考えないでおく。自分の心の安定のためにも。
「ところで、パティはなんでセリアの使う魔術具を作ってもらおうと?」
『セリアちゃんの力を十全に使うため』
『私の?』
どういうことだろうか。
『セリアちゃんの魔術、正確には古代人の使う力は本来は今使っている限定的な力の発揮じゃないの。大鎌を通じてただ空間を斬り裂く斬撃としてその力を使っているけど、本来はもっとすごいものなんだよ? 多分セリアちゃんの資質は空間を斬り裂くことから考えて属性では風の資質、魔術では空間干渉だけど古代人の力を持つセリアちゃんなら限定的な空間支配、世界支配ができるはず。でも、それは本来の力を正しく扱えれば。そもそも神鉄は魔術具のような魔力を取り扱うものとしては適した物じゃないんだよ。金属としては魔銀以上で世界鉱よりもはるかに数が多く、有用な金属だけど魔力を排除する性質を持ってる。そのせいもあって、無理やり力を使えるようにしても限定的な力しか取り扱えない不完全なものとなっているの』
あれで不完全なのか。不完全であれほどなら完全ならどれほどになるのか。
「じゃあ本来はどういうものなんだ?」
『古代人の力は現在の魔術よりもより属性の持つ根幹の性質の深い部分に触れているものだよ。火属性なら世界の起源のエネルギーに通じるし、水ならば限定的に死者の蘇生や新生物の誕生ができる。土属性なら錬金術のように物質を自由に変換できたり、セリアちゃんの風だったらさっきもいったけど空間の支配、世界の支配、情報や法則の改変も可能とする。光や闇なら精神どころか魂に近いところまで干渉できるかな? まあ、そんな感じに今の魔術よりもすごいことができるね』
「へえ……」
パティの語った内容はあまりにも詳しすぎる。師匠でもそこまで詳しく知っている物だろうか。もし、この情報源が師匠のところではないならば。一体どこで知った? まあ、一応アルベルドのところでパティが資料を漁っていた。でも、あれはたしか古代人の使っていた文字だから読めなかったような。ならばやはり別のところか?
『すごいねー』
『もう、セリアちゃんは自分の力を自覚してよ!』
セリアとパティのやり取りが軽い。ちょっと抱いていた疑念が薄れる。うん、自分の使い魔なんだからちゃんと信用しないとな。
「それで、魔術具を必要とする理由は? 完全な力で使うためか?」
セリアの力を完全な力で使うことはわかるが、その意図は一体どこにあるのか。パティの考えることはよくわからない。
『さっきも言ったと思うけど、セリアちゃんの資質は風。そして説明したけど風の根幹、その性質には空間の支配、世界の支配がある。そして、世界の支配をした状態ならある程度の世界法則を改変できる。それが使えるようになればなー、って思ったからだね』
『なにそれ? 面倒くさそう……』
「世界法則の改変……? えっと、それをしたらどうなるんだ?」
世界法則と言われてもよくわからない。
『スィゼでも推測は難しいことかなあ……? あるていど世界について知っていれば予想はできると思うけど……まあ、いっか。世界法則って言うのは、物理法則も含めた世界にとって当たり前のルール。例えば、重力を失くしたり、ある一定範囲での魔術の使用を禁じたり、その場にいる全員の右腕が動かなくなったりとか』
えっと?
『そうだねー。じゃあ、こう考えればいいよ。この世界で当たり前のようにできる事。それは世界がそれができると取り決めしているから。それが世界法則。それに干渉し、ある物事を禁じれば当たり前のようにできていたことができなくなる、って』
当たり前のようにできていたことができなくなる。それは……つまり……
「竜ができていることをできなくする……」
『空に浮かんでいるから攻撃できない。なら、空から引きずりおろせばいい』
師匠の言っていたことか。自分の土俵に引きずりおろす。
『えっと、どういうことなの?』
「竜が空を飛ぶ。そんな当たり前のようにできる基本的なことを、世界を支配し法則を書き換えて禁じる。そうすれば竜は空を飛べなくなる。そういうことか」
竜が空を飛んでいるからこちらも手を出しにくく面倒な状態になっているが、地上に引きずり下ろした状態ならばいくらでも戦いようはある。根本的な竜の強さが変わるわけではないので確実に勝利できるとは言えないが、それでも空にいる時よりははるかに勝ち筋が見えてくるだろう。セリアが地面にいる状態なら全力を振るうこともできるし、自分もセリアの飛行の制御を行う必要性もないから攻撃に参加できる。やりようはいくらでもある。
『よくわかんないけど……私は何をすればいいの?』
『セリアちゃんには私が力の使い方を教えるよ。まあ、今のセリアちゃんの状態じゃ何もできないわけだから、セリアちゃんの魔術具を入手して、セリアちゃんの体の確保が済んでからになるだろうけどね』
確かに今はまだセリアには何もできない状態だろう。魔術具だって頼んだばかりですぐにできるはずもない。もっとも、いつもよりも早く作ってくれるらしいのだが。あの興奮具合、恐らくは世界鉱を取り扱うのに熱中するのだろう。寝る間も惜しんで食事も惜しんで。それほどまでに世界鉱とは稀少な金属であり、鍛冶師にとっては垂涎ものなのだろう。
しかし師匠はあれを持っていて調べていたが、結局あれのことはわからなかったようだ。でも、師匠の事だから推測は出来ていたと思う。ただ、加工できる鍛冶師がいるかも怪しいし、あれだけ有していてもしかたないから保管していたのではないだろうか。そして、俺はあれを託された。あの時点では結局どうしようもなかったが…………今、それは役に立つようだ。
「……………………」
ただ、そのことを考える前に。一つのことを俺はパティに聞かなければならない。
「セリア。少しパティと二人で話したいことがあるんだが……精神の内の方にいてくれないか?」
『…………うん、いいよ。パティお願い』
『はいはーい』
パティがセリアを精神の奥へと誘い、自分だけ内から出てくる。これで今、セリアには何を言っても伝わらない。パティと俺だけだ。
「パティ。姿を現せ」
『…………』
少し迷ったような雰囲気を感じたが、こちらの言うことに従い姿を見せた。
「はい、出たよ。何か用?」
「…………………………」
いつもと変わらないように見える。しかし、それが逆に奇妙に見えてしまう。これから俺がパティに聞くことは今のパティとの関係性を大きく変えることに繋がるかもしれない。だけど、これ以上パティに何も聞かないでいることはできない。あまりにも、パティは隠していただろう物事を出し過ぎているから。
「パティ。お前は一体何者なんだ?」
自分の作り出したはずの使い魔であるパティ、その存在の真実に手を伸ばす。