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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop44 託された物

 同じ時間を何度も繰り返すループにおいて、頑張っても倒せないだろう相手、対処できない様な事態、勝てそうにない戦い。立ちはだかる壁はいくつもあるが、回避も含め対処手段はある。ただ、どうしても倒さなければいけないような物事に対しできることは、対処手段を整える事、何をすればいいのかを試す事が必要である。

 例えばセリアとの戦いのときは、セリアを倒す手段を講じた。普通に考えれば戦いを回避することが一番いいのだが、仲間を生かすなどの諸問題があってその手段を選ぶことは出来なかった。もっとも、セリアとの戦いで戦闘能力をあげていたからこそ、後の竜相手に詰まずにいられたわけだが。

 もともと大きな壁であったセリアとの戦いの後、さらに大きな壁として封印されていた古代の竜が復活し、戦争後に立ちはだかってきた。これは逃げてもどうしようもない。ゆえに倒すしかない。

 そのため、竜と戦うしかないわけだが、どのような戦い方が有効なのかを探ることから始めている。一方的にやられる状況下から、いくらか攻撃を加えダメージを与えられるようになり、飛行手段を模索しながら戦闘して探り探りの現状だ。どうしても一度に行える戦闘期間とそこに到達するまでの時間が長いゆえに、苦労が絶えない。

 竜を相手にするうえで最大の障害は相手が飛行していることにある。地上にいる人間ではどうしても取り得る手段が限定されてしまう。それゆえに飛行の魔術で空を飛ぶことを画策するが、飛行の魔術の制御の問題故になかなか難しい状況である。


「よし……行くぞ!」

「うん、いつでもいいよ」


 飛行の魔術を使いセリアを飛行させる。魔術による飛行は単純に、浮遊させたものに一定方向への推進力を加えるものだ。魔術的には風の魔術、風とは空間を流動する物であり、その流動の作用によるものか、もしくは一定の空間、空間内の対象を特定の方向へと移動させるものなのだろう。

 単純に風の魔術による、風での浮遊や飛行は普通の飛行の魔術より難易度が高い。下から吹き上げるような風での魔術を試してみたが、バランスが不安定に過ぎる。空中に土台はない。吹き上げる風は押し上げる力となっても土台の代わりにはならない。まあ、飛行の魔術でもふんばることはできなさそうだが。斜めに押し上げることもできるが、結局のところ風での移動は不安定すぎる。ゆえに飛行の魔術が現状では一番いい。


「っと」

「やっぱり難しいか?」

「うん! 足場がないと全力出しづらいー!」


 飛行の魔術でセリアの一撃、全力での一撃をどの程度で出せるかを試す。やはり足場がないため踏ん張りがきかないためか、威力はかなり落ちる……というか、セリアが全力を出し切れないでいるようだ。

 飛行の魔術の途中で武器を震わせること自体には成功している。もちろん威力は落ちるが、それでも通常の人間の実力と比べると雲泥の差である。竜相手には不足しているとしても。飛行の魔術の速度を高めそのうえで一撃を加えることを考えてはいるが、セリアの全力の一撃とはまた通常攻撃は別なのでやはり難しい問題だ。


「近づいて間近で放てればよかったんだけどな」


 セリアが竜の間近で全力を発揮できれば勝ち目は増える。飛行で駄目ならば、足場を飛行先で作る方法を考えるべきだろうか。もしくは竜の背に乗るという方法。問題は竜がそれを許してくれるかだ。セリア自信も脅威ながら、俺自身も竜には脅威として見られるはず。そもそも、近づいてもあの光による防御の方はどうなるか。自分たちが竜に触れた場合、あの光はどう作用するのかがわからない。一度死んで調べると言うのもありかもしれないが……

 まあ、まだまだ試さなければわからないことも多い。試行錯誤していかなければならない。


「面白いことをやっておるのう」

「っ!?」


 不意に声をかけられて驚いた。王宮では特にこれと言って危険がないので周りに対し意識を向けていなかったがゆえに完全な不意打ちだった。そして、同時にその声をかけてきた相手も驚いたり理由である。

 そして、驚いたことで手中が乱れてセリアが落ちそうになった。


「わわわっ!? スィ、スィゼー!?」

「っ! 悪い、セリア!」


 すぐに魔術を制御しなおし、セリアを下に卸した。流石に人が来ているのにセリアと戦闘訓練をしているわけにはいかないだろう。


「うむ……悪いことしたかのう?」

「いえ、大丈夫です。ところで……何かご用ですか?」

「いや、ただの通りすがりじゃな。歩いておった所に何かやっているのが見えて見に来たのじゃよ。飛行の魔術……それと、飛行の魔術を用いた戦闘訓練かな? 戦争の英雄は魔術も達者じゃな。それにまだまだ己を鍛えるか。相当なものじゃのう」


 戦争の英雄、か。自分としてはセリアを生かして皆を守りたいという想いで戦っただけだ。結果的に戦争が終結したからそう呼ばれるだけだ。まあ、死者がゼロというのは結構大きなことだけど。

 この英雄と言う呼ばれ方は安易な行動ができないようにするためだろう。つまりこの国に繋ぎとめるための画策である。まあ、他所の国にいきなり行くことはできないだろう。

 あと、恐ろしい程の戦闘能力を持つ自分に悪い印象を持たせないようにするため、畏怖ではなく憧憬や尊敬を抱かせるようにするためかもしれない。セリアのことを思うとあり得ないとは言えない。

 まあ、そうするというのならばこちらは構わない。セリアとそれなりに良い生活ができるのであれば十分すぎるくらいだ。


「ええ。まあ、金の魔術師相当ですけどね」

「そうか。しかし……何故飛行の魔術を使った戦闘の練習をしておるのじゃ? 戦争もつい最近起きて終わったばかり、お互いの消耗がないとはいえまた吹っ掛けてはこんじゃろう。それに、人間との戦闘を想定しているとも思えん。人は空を飛ばんからな。何を目的にしてこんなことをしておる?」


 的確にこちらの事情をついてくる。


「それは……」

「いや、よい。人には踏み込まれたくない部分もあろう。おお……そういえば、自己紹介がまだじゃったか」

「白鋼の魔術師で宮廷魔導士の長であるメハルバ様の事を知らないわけないでしょう」


 知らなかった時期もあるが。今は自分の魔術師の師匠だった人間だから当然詳しく知っている。まあ、普段師匠と言っているせいか名前に様付けは違和感があるが。


「むう……まあ、有名になると仕方がないのう。自己紹介の楽しみがなくなるか」

「スィゼー。この人誰?」

「あ」


 地上に降りて来たセリアが近くまで来て俺に訊ねてくる。それを見て面白そうに師匠が笑う。


「儂はメハルバ・ケルネオスじゃ。この国の魔術師じゃよ」

「ふーん」


 興味がなさそうである。師匠の方は自分の名前を言えて嬉しいようだが。


「セリア、少しこの人と話があるから離れた所で待っててくれるか?」

「うん、いいよ」


 あっさりとセリアが離れていく。素直なのはいいのだが、離れてくれと言う言葉にも素直に対応されるとちょっと寂しい。


「……あの少女は先祖返りなのじゃろう?」

「……わかりますか?」


 セリアのことは師匠ならばわかってもおかしくはないのかもしれない。師匠は博識であれこれと魔術関連は調べている。そういえば、パティの知識の中にも師匠のところでちょっとだけ情報があった……みたいな話があったか?


「先祖返りについての知識はいくらかあるのでな。英雄のお前さんの戦利品じゃろう? 手を出したりなぞせんよ」

「はあ……」


 別に手を出すような人だとは思っていない。だが、いったいどういう意図で話を始めたのだろう。


「先ほど空中での戦い方を模索しておったな。飛行の魔術を使うのは面白いが、そもそも人間は空中で戦うのに向いておらん。相手次第じゃが、空で戦うことを考えることがそもそも間違いじゃ」

「間違い……ですか?」

「うむ。空で生きる生物と、普段地上で生きる生物では空での戦いへの慣れが違う。仮に慣れたとしても根本的な在り様から違うのじゃから、地上で生きる我々が空で生きる者に勝つのは難しかろう。たとえ魔術を用いて飛行下で熟練させたとしても、な」


 確かにそうなのかもしれないが。そもそものやり方からも、自分での飛行ではなくセリアを飛行させてのもの、制御も難しいし慣れても大変さはさほど変わらない。頑張ったところでやはり問題の多くが残るだろう。


「ではどうすればいいのでしょう?」

「相手と同じ土俵で戦おうとするのがそもそもの間違いじゃ。相手を自分の土俵にあげるのが一番じゃよ。つまり、地上に引きずり降ろし地上で戦う。わかりやすい図式じゃな」


 確かにそれができれば一番いいわけだが。実現できるものとは到底思えない。


「苦い表情じゃな……英雄であるお前さんをしてそのような表情をするとは相手は一体何者じゃ?」

「…………」

「言えぬのなら、言わんでもいいぞ?」

「いえ。言った所で信じてもらえるかも怪しいんですが……事実として聞いてくれますか?」


 師匠なら、話して信じてくれる可能性は低くないだろう。何度も師として教えを乞うてきた立場だからこそ、信頼できる相手だという想いがある。


「聞こうかの。しかし、そこまで言うほどの事なのか?」

「はい……竜が復活するんです」

「……………………竜じゃと?」


 竜は伝説、神話、御伽噺の存在。その内容に出てくる存在が復活すると聞いて流石に師匠も泥いているようだ。師匠でも竜の存在に関しては疑いの方が強いだろう。それゆえに、この内容何処まで信じてくれるかもわからない所だ。そもそも普通は信じない。


「……ふむ。流石に英雄であるお前さんじゃ。冗談ではなかろうな。先ほども本気で空中での戦闘訓練に勤しんでおったしの」

「信じるんですか」

「証明はできんゆえに、眉唾ものではあるがな。しかし……そうか。竜に挑むつもりか。ふむ」


 何か考え込む師匠。何を考えているのやら。


「少し待っておれ」


 返事をする前に師匠がこの場を立ち去る。早歩きだ。結構な年なのに動きが速い。師匠がいなくなったところでセリアが寄ってくる。


「スィゼの知り合い?」

「あー……えっと、魔術の師匠なんだ。今までの周回での。今まで様々な魔術を教えてくれた恩人だよ」

「……そうなんだ」


 セリアが師匠の去った方向に視線をやる。自分の師匠だと言ったからか少し興味があるようだ。流石に師匠でもセリアと戦ったら負けると思う。隠し玉くらいはあるかもしれないが。


「あ。戻って来たみたい。ちょっと下がってるね」

「あ……うん、悪いな」


 セリアが気を使ってくれている。心遣いは嬉しい。ただ、セリアに気を使わせてしまうと言うこと自体が、ちょっと心苦しい。


「うむ…………英雄よ、いや、スィゼよ。お前さんにこれをやろう」


 戻ってきたスィゼは姿勢おく俺の前に立ち、何かを手渡してきた。雰囲気が先ほどまでとは違い、まるで戦場に赴くかのような。そんな雰囲気の師匠から受け取ったのは手のひら大の鉱石だった。鉱石と言っても、金属の混じったようなもものではなく、迷宮でもらった魔銀のような純金属の鉱石のように見える。


「これは……」

「この金属は儂も調べてみたのじゃが、わからなかったものじゃ。いずれ何であるかを調べる気だったのじゃが……これはお前さんが持っている方がいいと、そう直感してしまってな」


 直感とはまた不可思議な。師匠としては珍しいと言うか。そもそも、師匠が調べてわからなかった鉱石? 正直言ってありえないものだろう。まあ、師匠も万能ではないはずだ。ありえないとは言い切れないものかもしれないが。


「スィゼよ。お前さんにはお前さんだけにしか見えないものがあるのかもしれん。しかし、お前さんの周りには手助けしてくれる者が必ずおるはずじゃ。決して独りで頑張るのではないぞ」

「……なぜ」

「儂もその一人じゃな。お前さんを見ておると放っておけんでのう。隠し事もいっぱいあるのじゃろう? 簡単に人間が戦争の英雄に慣れるはずがないからのう。何を隠しているのか、何を持っているのか儂にはわからんが、竜の復活を見越し鍛えているのを見れば抱えている物の重さもわかろう。儂にはこれくらいしかしてやれんのじゃがな」


 やばい。心に来る。なんというか、これが年季の違いか。生きた年数……正確には、培ってきた経験の年数というか、そういうものの差だろう。ちょっとしたことだけでこちらの事情を汲むことができるなんて。

 師匠は俺にその言葉を告げ、去っていった。この石を渡しに来ただけのようだ。でも、なんというか、今までとは違う想いが湧く。師匠は本当に師匠だった。


「スィゼ」

「っ!? パティ……?」


 師匠が去って、この場にセリアと自分しかいなくなった途端、いきなりパティが姿を現した。そういえば今まで無言だったなあと今更ながら思う。


「その石を私にくれない? スィゼは……その石、使えないでしょ?」

「……確かに何に使えばいいのか、と思うが。でも何で渡さなきゃいけない?」

「それは……スィゼには、今必要ないものだから。だから、ちょうだい? 竜を相手にしたら、今回も死に戻ると思う。そうなったらそれも受け取った意味がなくなるでしょ?」


 確かにそうだが。それにしても、パティの雰囲気が普段と違う」


「……スィゼ、お願い」


 縋るような、懇願するような超え。ただのパティの我儘と思うには、ちょっと違う。そもそもパティが何かを欲しいと言う我儘を言いだすわけもない。


「スィゼ……ダメかな?」

「セリア」


 セリアからも言ってきた。セリアはパティがどうしてほしいのかは知らないが……その気持ちに同調しているのだろう。セリアとパティは仲が良いから。


「スィゼが最後に決めることだけど……パティは、スィゼのことを一番に考えてるよ」


 違った。単に仲が良いから、ではなく、パティの気持ちを組んでいるのは確かだが……パティにとっての一番は主である俺だ。つまり、パティの行動は俺のためであると言うこと。俺のためであるなら、セリアがそれに否定的になるはずもない。だから、パティの望み通りにした方がいい、ということを言ってきたんだろう。


「確かに使い道もないし、どう使えばいいかもわからないから。パティが欲しいと言うのなら、渡すよ」

「ありがとう、スィゼ」


 パティが石を受け取り…………そのまま大きく口を開けて石を飲み込んだ。


「えっ!」

「えっ?」


 その光景を見て俺もセリアも驚く。当り前だ。いきなり石を飲み込んだのだから。


「ふう……まさかこいうことをしなくちゃならなくなるなんて。まあ、私が生まれたのもそういうことが理由なのかな」

「……パティ?」

「パティ、石とか食べてお腹壊さないの?」

「もー! 大丈夫に決まってるよ! 私そもそも生物じゃないんだよ!? さー、話してないでさっきの続きしよっか。竜との戦いの訓練は必須だよ」


 そう言ってパティは俺の中に消えて姿を消す。そして……それ以降、パティはその周回で話してくれなかった。さっきしたことが一体何なのか聞いても教えてくれない。一体どうしたというのだろう。なんとなく…………パティが押し黙る理由はわからなくもないが。

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