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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop43 少女の想い

 セリアと契約をした。前回においてこれまでと大きく違う点はその一つだけでしかなく、結局竜を相手に敗北して最初の日に戻ってきた。


「っ!!」


 今まで通り精神的な影響、竜の放つ光線による精神に対する正の影響を受けた状態。何度も経験しているためそうなってしまうことを既に理解している。しかし、その対策のとりようもなく、戻ってきた後にパティに回復してもらうしかないのだが。


『スィゼ、大丈夫?』

「……ああ、セリアか」

『そうだよ。でも、なんか変な感じ……』

『私はいつもこの状態なんだけどなー。変ってひどくない?』


 自分の精神内でパティがセリアの発言に突っ込んでいる。今のセリアの状態はパティの状態に近く、精神に寄生して存在している状態となっている。どうやらセリアをループに引っ張り込むことはできたようだ。精神内にセリアがいる理由は、他のどこかに存在できないから……だろうか。そのあたりはパティがどういう風に契約して規定したのかを訊かなければわからないだろう。

 肉体は当然ながらない。精神しか持ってこれていない状態である。なのでセリアがいるとしても、今のところ何かの役に立つことはない。しかし……精神だけとはいえ、セリアと共にいられるというのは少々嬉しいところではある。肉体がない状態なので望ましいとは言えないが。


『まー、そこはしかたないところだよねー』

『どうしたの?』

『あ。えっと、うん、こっちのことー。セリアちゃんと私は厳密にはちょっと違う状態だからなー』


 同じ精神に寄生している状態でも、セリアはそこに存在するというだけだがパティは本当の意味で寄生し、精神や記憶に干渉している。そもそも使い魔としてパティには記憶の管理の役割を担ってもらっている。ゆえにこちらが語り掛けずとも精神内にある思考を読み取れるが、セリアはそうではない。その差が今の会話の内容に繋がっているのだろう。まあ、セリアに伝わると困るのだが。


『そろそろスィゼのお母さんが来るから、ちょっと下がってるね。ほらー、セリアちゃんこっちー』

『わ。どこに行くの?』


 パティがセリアを連れて精神内部の奥の方へと沈み込む。恐らくはセリアではそこにいることしかできず、パティのように自由に精神の移動は出来ないのだろう。精神内の移動ってどういうことなのか正直よくわからないが。






 いつも通りのやり取りを家で行い、ギルドへと向かう。当然この過程はいつも行われていることであり今ではほぼ内容が固定されている行動なのだが。今回に限っては、いつもと少々勝手が違った。何故なら、今の自分の精神内にはセリアが存在するからである。


『わー! 見たことない風景! ここどこ?』

「……うちの実家の近く、ただの街道だけど」

『そうなんだ! へー』

「……セリアは」


 続く言葉に窮する。セリアはただ街道や、そこにある風景、人々などを見て楽しんでいる。それはセリアがそれらの物をほとんど見たことがない故の反応だろう。その反応だけでセリアの今までの人生が想像できる。その内容を聞いてもいいものか、とセリアに対して遠慮する必要は自分にはないはずだが、それでもやはりセリアの内面に踏み込むのには躊躇がある。


『ねえ。セリアちゃんは今までどういう風に暮らしてきたの? そんなに面白い?』

「パティ」


 自分がセリアにどう訊ねるか、躊躇したためかパティが勝手に訊く。パティが悪者になる形で踏み込むのは正直あまりやってほしくはない。そもそも、別に無理に知る必要性だってないはずだ。


『面白い……かはわからないかな? でも、こういう普通の村とか、道とか、もうほとんど覚えてないかなー。私はたしか村で生まれて育ったんだけど、小さい頃に王宮に引き取られたから。それからはずっと王宮の離宮で暮らしてたし』

「…………」


 セリアの生活は一般的なものではない。それは彼女と一緒に過ごした時期もあって知っていたつもりだが、やはり本人から直で詳しい事情を聴くとなかなか重いものだと思う。もっともセリアはそのことに対して特に思う所はないようだ。少なくともこの言葉の雰囲気からすれば。


『ふーん。じゃ、今はどう?』

『結構楽しいかな? 見たことがないものを見られるし、行ったことのない所に行けるんだよね。私が自分で行くわけじゃないけど。あ、でもスィゼと一緒にいられるんだから、私にとってはそれが一番楽しくてうれしいことだよ』

「……そうか」


 セリアは純粋に自分に対して好意と信頼を向けてくれる。その想いはどういうものなのだろう。彼女の想い自体は彼女と戦った時に色々と聞いて居るが、やはりかなり歪んだものだと思う。もっとも、彼女のそういう部分を考えるのは今更だろう。セリアと自分は契約で結ばれており、それはこれからずっとのものだ。そもそも、解けるのだろうか。そのあたりは契約の内容次第かもしれないが。流石にちょっと短慮だったかもしれない。


『もー、スィゼー』

『また。どうしたのいきなり?』

『あ、セリアちゃんはいいのいいの。今のはスィゼの方に問題があったからだよー』

『ふうん…………』


 考えた内容に対してパティが咎めるように声をかけてくる。セリアとの契約はお互いが望んだものだ。それが間違いだと言うのなら、その時の想いも間違いだと言うことになる。そう思ってはいけないということなのだろう。

 それに、もし契約をしていないければ。今自分といセリアはいなかった。竜との戦いで死に、失われループを共に歩めていない。今、精神だけになっているとはいえ彼女は生きている。それだけでも十分すぎる。セリアの心情については……彼女に直接聞くのが一番なのだろう。


「…………」


 と、そこまで考えてある一つの問題に思い至った。セリアの現状は精神だけの状態、つまりこの世界においてセリアの体は存在しないと言う状態である。パティと話してどう対応するべきか、どうやって肉体を得るのかは決まっていたのだが。それについて、自分はまだ迷っている部分がある。でも、いずれはやらなければいけないのだろう。それこそ契約した意味がなくなってしまう。


「はあ……」


 迷いは晴れない。色々と憂鬱である。






 あっという間に時間は過ぎ去る。セリアが自分の精神内に存在し、旅路に加わったところでやるべきことが変わるわけではない。今までの流れ通り進めていく。途中途中でセリアがいろんなことに驚いたり楽しそうに、嬉しそうにしているのが見られるくらいだ。セリアが楽しそうなのは今までのセリアの辿ってきた人生、大変さを思うと、少し微笑ましいと言うか、嬉しいと言うか。

 さて、そんな話は置いておくとして。

 戦争を経過し、この世界、この周回のセリアを倒し仲間に従えることができた。問題はこれからやること。正直、この行いはあまりにも非人道的なものだ。やってはいけない、許されないような行い。だけどそれをやらなければ先へと進めない。この先の竜との戦いのためにもやらなければならない。でも、まだ迷いは残っている。


「…………」

「スィゼ?」


 言わなければいけない、伝えなければいけないことはわかっている。既にこれまでのこと、ループのことは話している。そして、続けて彼女に伝えなければいけないと言うのに、また俺は迷って言葉を告げることができないでいる。


「あー! もう! ほんっとに! ほんっとにへ、た、れ!」

「っ」

「わっ!」


 前と同じようにパティが勝手に出てきた。


「スィゼは相変わらず。言えないみたいだから私から言うね。さっきループ、死に戻りに関しての話はしたよね?」

「うん」

「その時に、セリアちゃん……あなたじゃない、前回スィゼと一緒だった別のセリアちゃんも一緒に戻ってきているの。でもね、彼女には体がなくて、今はスィゼの精神の中にいるの。それだと何もできなくて困る。だから、あなたの体を使わせてもらおうってことを考えているわけ。本当は、これはスィゼからあなたに伝えることなんだけどね」


 それは今のセリアを殺してしまうことに繋がる。だから、それを伝えることができなかった。やりたくない、やってはいけないと思ってしまっているから。


「そうなんだ」


 セリア……今、俺の目の前にいるセリアがじっとこちらを見ている。彼女がこちらに何を言ってくるのか、それを考えるだけで手に力がこもる。


「スィゼ」

「…………」

「スィゼが望むことなら、なんでもしていいよ」


 セリアが伝えてきたのは許容の言葉だ。否定や罵詈雑言が返ってくるかもしれないと、心の底でありえないとわかっているはずなのに、そう思ってしまっていた。でも、実際に返ってきたのはセリアらしい言葉だった。


「っ! 何で……」

『スィゼ。私はスィゼに何をされてもいいんだよ?』


 目の前のセリアではなく、自分の中にいるセリアが語り掛けてきた。


『その私だって私、同じだもんね。私はスィゼにすべてをあげた。だから、私のすべてはスィゼの思うままに使えばいいの』

「でも……」


 それでも、その精神を乗っ取り殺し、体を奪う。ただ肉体だけを利用するようなことをしていいものだろうか。


『ねえ、スィゼ。なら、スィゼはその私をちゃんと見てくれる?』

「……どういう意味だ?」

『私はスィゼと一緒に居られて、いろんなところに行けて、スィゼにずっと想って貰えて幸せだよ。私はスィゼに負けた時まで、会った時までずっと一人で、傍にいてくれる、同じくらいの存在なんていなかった。でも、スィゼに出会えて、それからはずっと嬉しくて、スィゼは真っ直ぐ、私を、私自身を見てくれるから。傍にいる、ずっといる、それだけでいいの。だから私はスィゼに全部あげてもいいって思った。ここにいる私だって同じ。でも、スィゼはその私を私と同じように……ううん、ここにいる私を、ちゃんと私のように真っ直ぐ見てくれてる?』


 この世界にいるセリアは今自分の中にいるセリアとは別の存在だ。同じセリアでも、別の存在。自分にとって、セリアという存在はは今自分の中にいるセリアのことだ。この世界のセリアは、セリアとは別人だ。だから、この世界のセリアをセリアとして見ることは……完全には出来ていない。


『できないよね。別の私を、私と同じようには見れないでしょ? それは私にとっては……不幸なことなんだよ。スィゼっていう自分が側にいられるような、ずっと求めてきた人がいるのに、自分を見てくれないんだから。それじゃあ、私はもう生きてる意味もないくらい不幸だよ。私は、ここにいる私にも幸せになってほしい。私と、スィゼと一緒にいられる私と同じくらいに。だからちゃんと見えてあげて。私を使ってあげてほしい』

「…………」


 同じセリアでも、自分の中のセリアと目の前にいるセリアは別物だ。自分の中のセリアへの想いは今自分の中にいるセリアに向けられている。それは……それだけになってしまうのは、セリアとしては望むところではないのだろう。同じ、自分自身だから、自分と同じように別の自分をちゃんと見てほしい。そういうことなのだ。

 だから、自分のなかにいるセリアの言うようにこのセリアを望み通り、使うことが一番なのだろう。こちらの、俺の望み通りにセリアを使うのが、彼女にとって一番望ましいことだから。自分がそうすることで初めて彼女を正面から、真っ直ぐ見ることになるのだから。


「セリアちゃんとの話は終わった?」

「え、私?」

「あ、えっと、こっちのセリアちゃんじゃなくて……あーややこしい!」


 パティはどうやらセリアとの会話に口出しせずに待っていてくれたようだ。よくよく考えればここにいるセリアとパティからは独り言を言っているようにしか見えなかっただろう。今ここに居るのが事情を理解している身内だったからまだよかった。それでも結構恥ずかしい。


「……セリア」

「なに?」

「セリア……俺の中にいるセリアを、セリア……お前に移す。そうすると、多分お前はいなくなるかもしれない。でも、それが、この先には必要なんだ。だから、やらなくちゃいけない」

「うん」

「そうしても……いいか?」

「もちろんだよ」


 笑顔で答える今回のセリア。


「私はスィゼの物。スィゼのためになら、何だってできるよ。何をしてもいい、私殺しても、私の体を好きに使っても、私がこの世界から消え去っても、スィゼがそれを望んでいるのなら、私は構わない。だって、私の望みに応えてくれた人が、私に望んでくれたことだから。私は私のすべてでその望みを叶えるの。それが私のやるべきことだから」


 セリアの望み、願い。それは何だったのか、自分は正確に理解しているわけではない。だけど、なんとなく彼女の言葉や今までの中で知ってきた彼女の事から予想は出来る。でも、それを聞くことは

しない。それはセリアだけが持っているべきものだろうから。


「とーこーろーでー」

「……どうした?」

「別に今のセリアちゃんが消えるわけじゃない、よ? 一応ね。性格には融合、二人が一緒になるの。だから消滅とは厳密に違うんだからね!」


 そう言われても。上書きと言われるとやっぱり消えてしまうんじゃないかと思うのだが。






 そうしてセリア達との話が済んで、この周回のセリアに自分の中のセリアを移す作業がパティによって行われた。そもそもからして理解の外にある内容だ。イマイチわからない。


「んー……」

「大丈夫か」

「大丈夫だけど……変な感じー」


 変な感じと言われても。


「どういう感じだ?」

「わかんない。うーんと……スィゼと戦った時の、その時の記憶が二つある感じ。それ以外もいろいろと違うかな?」


 セリアとの戦闘は今ではかなり近しいものとなっているが、それでも毎回違ってくる。セリアの強さはこちらに合わせて変わるので戦闘中に行う奇抜な行動も変化する。なので今回と前回では戦闘内容が違い、その二つの記憶を持っている状態なのだろう。


「精神的な部分はどうか? どっちのセリアなんだ?」

「わかんない。でも……どっちでもある、のかな?」

「セリアちゃんの記憶はスィゼと会う所までは一緒でしょ。差異なんてほとんどないんだからわかんなくてもしかたないよー」


 パティがセリアの現在の状態について説明する。そもそも、精神構造や魂的に同じ存在であり、記憶もわずかな部分を除きすべてが一致するため融合しても精神的に大きな変化がおきることはほぼないらしい。

 一応前回のセリアと今回のセリアで一緒に過ごした一年分の記憶が多いということもあり、どちらかというとそちらのセリアの精神性が強くなるが、結局自分自身との同一化であるためどちらかがベースになるということもないらしい。

 そのパティの話を聞いて少しだけ思う所がある。しかし、自分にとってそれはかなり大きな影響になるので心の奥にしまい込んでおく。

 これからはセリアを……その周回のセリアを使うことに迷わない。セリアを、セリア自身をしっかりとみるために。それに、融合しても消えるわけではないのなら、今の自分と一緒に、融合したセリアという存在はずっと生きることになるのだから。

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