表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ループ  作者: 蒼和考雪
45/54

loop41 神話の実力

「竜? 竜……?」

「あー……もしかしてその手の御伽噺とかも知らないか?」

「知らない。聞いたことないもん」


 セリアは竜に関して全く知らない。通常の御伽噺程度の物すら持っていない。

 そもそも、先祖返りはその高い身体能力や古代人と同じ力を扱えるということくらいしか特徴はない。つまり、竜に対抗するための力なのであり、竜について詳しく知っているというわけではない。

 そして王宮暮らしで戦闘を主に行ってきたためか、セリアの知識にはかなりの偏りがある。一応王宮で過ごしていることもあってそれなりの作法や技術もあるし、頭も悪くないわけだが一般的な常識の多くは欠けているようだ。

 なので竜に関してはこちらの知っていることを教えることになった。


「……へー」

「反応薄いな」

「だって言われても私にはよくわかないし。そもそも、スィゼの方が私よりも強いよね? それでも私の力が必要になるの?」


 確かに戦闘でセリアを下した以上、セリア以上の実力があると言ってもいい。しかし、セリアには古代人の持っていた特殊な力が眠っているはずだ。また、単純な戦闘能力という点では実はセリアの方に軍配が上がる。俺がセリアに勝てたのはずっとセリアと戦ってきた経験があったからこそだ。


「セリアは先祖返りのもつ単純に戦闘能力が高いというもの以外に、何か特殊な力みたいなものは持っていないのか?」

「んー……あー、あるね」

「その力を使えるならどうだ?」

「うん、確かにあれは強いけど……あんまり好きじゃないし、ちょっとね」


 セリアとしてはその力に思う所があるのかもしれない。しかし、こちらとしては竜に対抗するためにその力に頼るしかない。


「頼んでいいか?」

「うん。スィゼが私にそう言うなら、私は言われた通りにするね。もっと、命令してもいいんだよ? 私はスィゼの物なんだから」

「……鋭意努力します」


 そういうのはちょっと苦手だ。






 そうして竜についての話をして、セリアとは戦闘訓練を兼ねた殺し合いに近い戦いをしながら過ごす。やっていること自体はセリアに捕らえられた時と変わらない。当然だが、そんなことをしていれば目立つ。そして当然戦争での功労者であることもすぐにわかるだろう。そこまで戦争していた場所から離れていたわけでもないし。

 使者が来て王宮へと呼ばれる。この辺りは前回セリアを殺して戦争を終わらせた時と大差はない。ただ、タイミングやセリアが一緒にいることが違いか。

 セリア、およびセリアの所有する大鎌に関しては王宮側でもどう扱えばいいかわからない状態であるらしい。そもそも戦争そのものはセリアが脱落した結果あちら側が敗北を認めて終了ということになる。その後捕虜を取り返したりも本来は出来るだろう。しかし、この場合そもそも捕虜としたわけでもない上にセリアは俺に従うということになっているわけであり、戻すこともできないだろう。

 そしてセリアに関してもこちら、王宮で確保することも難しい。彼女を抑えられるのは自分だけだ。そうであるこちらに一方的な命令は出来ない。そもそも……セリアを抑えられるということはセリアに近しい実力があると言うことであり、二人で暴れられればどうなるか。それを考えれば迂闊なことはできないだろう。

 同時に、それほどの実力があるからこそ野放しにもできない。セリアの扱いはともかく、俺に関してはもともとこの国の冒険者だ。それを王宮に招くことはまったくもって問題ない。そしてそれにセリアがついてくることもセリアの意思である以上問題はない。

 なので、今は以前のように王宮で客分としてのんびり過ごしている。もっともやることは基本的にセリアと戦ったり、パティとあれこれこれからについての話し合いをしたりが主だ。すでにセリアにはパティのことを見せている。セリアであれば別に教えても問題はない。こちらに従順なので勝手に誰かに言ったりもしない。なので心配はない。


「やっ!」

「っと」


 現在、セリアと戦闘しながらセリアを鍛えている。セリアは確かに強いが、足りていないものがある。例えば技術だ。戦闘能力は高く、戦闘中に勘で動けたりもするが、やはり正当な戦闘技術というわけではない。

 なので戦い方の指導をする。もっとも自分もあくまで教えられたことをそのまま伝えることしかできないわけだ。それも、言うだけでは理解できないからか戦闘で叩きこむことになる。まあ、当然戦闘ではいつもの大鎌を使って戦うので四の危険があるわけだが。まあ、本気で殺し合いをするわけではないので……それでも死の危険は多大にあるのだが。


「っ!?」

「……どうした?」


 戦っている最中にセリアが急に停止する。正確には何かに体が反応した様子だ。


「……今何か感じた。あっちの方で」

「あっち……」


 そう言って指差すが別に何かが見えるわけでもない。


「……このタイミングなら、もしかして竜が復活したとかじゃない? 今は戦争から十二日目、前にここで竜に会ったのは十三日目だったでしょ。一日でここまで来たとかじゃない?」

「竜の復活か」


 前回殺されたことを思い出し体が緊張する。光線で消し飛ばされたこと、痛みなどの感覚は覚えがないが、あの時最初に戻された後の精神状態は自分でもおかしな状態だったと自覚している。


「スィゼ」

「……セリア」

「私がいるよ。スィゼのためなら相手が何だって勝って見せるから。だから大丈夫!」


 そう言ってこちらに笑顔を見せてくれる。心配をかけてしまっているようだ。


「ああ、頼む」


 今までは一人で頑張ってきたからわからなかったが隣を一緒に歩いていくれる人がいるのは大きい。一応パティがいるが使い魔をカウントしてもいいものか。クルドさんたちとか他の人には真実を話せる間柄じゃなかったから、一緒にというのは少し違うのだろう。最後は結局一人だ。

 今はセリアがいる。何を話しても、こちらを信じてついてきてくれる相手。自分と同じだけの力を持つ唯一の相手。だからこそ、最も、一番信頼できる。






「来たよ!」


 竜の姿が確認できた。その威容は前回と何ら変わりない。


「やっぱり飛行してきてるなあ」

「そうだね」


 空にいる相手。たとえこちらが相手と同じくらい強くても、これだけはどうしようもない。魔術を使っても近づくのも容易ではなかった。どうすればいいのか。


「とりあえず、相手の下まで近づくか」

「え? ううん、大丈夫。ここからでも届くよ」

「え?」


 セリアの大鎌に黒い光が纏われる。黒色の光は籠める力を増やしているからか徐々に強くなる。


「スィゼは見たことないよね、私の本当の全力の一撃」

「……戦闘中の攻撃ではなく?」

「手加減はしてないよ。全力で戦うのと、全力を籠めた一撃を振るうのは違うの。だから、今見せてあげるね」


 セリアが大鎌を振り上げる。少し体を逸らし、空に大鎌を振るえるように。


「これが、私の全力の一撃、だよっ!!」


 黒色が強く光りながら大鎌が振るわれる。空中に斬撃が走り、空間を裂きながら一直線に竜まで走る。空間を裂くことから魔術で考えるならば風属性か。風の属性の根幹、空間への干渉。ただそれで考えるには少々特殊な気もする。本当の意味での空間を裂く能力が風の属性にあるのか。

 空間への干渉の魔術として例えば防壁などがあるが、本当の意味で空間、時空間に干渉しているかというとわからない。ただ空気で壁を作るだけのようにも思えるからだ。それに攻撃系の空間干渉の魔術は今のところ知らない。それに、空間を裂くというのは空間に対して上位にあると言うことだ。それは少々魔術でできる力を超えているのではないかと思う。


「古代人の持つ力だからか?」


 魔術に近しいが、厳密には違う古代人の力。確かにこれほどのものならばあの竜に対しても届き得るのかもしれない。ただ、セリアはなぜこの力を自分に使ってこなかったのか。手加減していたのかと少々疑問に思う。

 まあ、それは後で聞いてもいいだろう。さっきセリアが言っていたが、全力で戦うことと全力の一撃を振るうことは別だ。それに、これほどの力を振るうのにはどうしても反動がある。戦闘中では隙も大きいだろう。単に戦闘中に使うのが難しいと言うだけかもしれない。今も全力を籠めた一撃を振るうのには少し時間がかかったわけだし。


 空間を裂く斬撃が竜へと届く。その一撃は竜へと直撃し、傷をつける。そして初めて竜があげる苦痛の叫びを聞いた。効いているようだ。


「……これなら」


 いける、と思いたい。だが、この攻撃で一撃で倒せないなら少々厳しいだろう。竜に傷をつけられるとはいっても、それが致命傷になるまでどれほど振るえばいいか。


「うーん、ちょっと遠いからかな。それに、多分防がれてるみたい」

「防ぐ……か」


 確かに竜は薄っすらと光を纏っている。まあ、はっきりと見えるほどの物ではないのでわかりづらいし、恐らくは以前は光ってなかったと思う。恐らくはあの光がセリアの一撃を軽減したのではないか。自分に跳んでくる攻撃を防ぐのはおかしな話ではないだろう。感覚的にそれが脅威だとわかればなんとか防ぐ手立てを講じる。つまりセリアの一撃はそれほど脅威であったと言うこと。

 そして、竜がその脅威を大人しく見逃すはずがない。


「っ! 逃げるぞ!」

「えっ!? ちょ、ちょっと!?」


 竜の視線がこちらに向いた。それを見てすぐにセリアの手を取って全力で離脱した。その直後、自分たちがいた場所に竜が撃ちだした光線が着弾し周囲を吹き飛ばす。光線に当たるだけでも危険だが、その威力に巻き込まれるのは危険だ。だから逃げながら避ける。セリアもすぐに状況を理解して自分で逃げだす。


「もう! これ、ずっと避けてるわけにはいかないよ!?」

「くっ……よし、こっちが魔術で空を飛んで引き付けるから、セリアは地上からの攻撃を頼む!」


 そうセリアに言って自分は風の魔術で飛行する。一直線にしか飛べないが、うまく使って相手の前をうろちょろして気を引くしかないだろう。セリアが何かこちらに向けて叫んでいるのが聞こえるが、今回は無視させてもらう。後で聞いてやるから。

 今のところ竜に対し有効打を与えられるのは単独ではセリアのみ。それならば俺が命を張って竜の気を引き付けてその間に彼女に攻撃をしてもらうしかない。


「うわっ!?」


 風の魔術での飛行、飛行の魔術の制御は難しいから解いたりかけなおしたりで少し変則的に扱いつつ竜の気を引き付ける。目の前で飛ばれると流石にウザったいからか気は引けているようだ。だが、それも一時的な物だろう。

 セリアの攻撃が来たことでそちらに竜は意識を向ける。攻撃もしてこないで周りを飛び回っているだけのこちらには見向きもしなくなった。それでも何度か気を引くことができたが、それも攻撃をある程度受けた時点まででそれ以後はまったく気を引けなくなった。


「……どうするか」


 セリアの攻撃は距離がある故に減衰される。纏っている光による防御もあるかもしれないが、やはり竜との距離は結構な問題なのだろう。ならばセリアに飛んでもらい近くで一撃を振ってもらうのも一つの手なのかもしれない。

 しかし、空中と地面では力の勝っても違う。地面という支えがない。その状態では全力の一撃を振るえるかちょっとわからない。その場合防壁の魔術を足場にするのもありかもしれないが、その場合の問題は発生地点。改良すれば空中に出せるかもしれないが、まだそれは無理だ。それに足場に使うには強度も問題だろう。

 そんなふうに竜に対抗する手立てを考えながら飛行する。だからだろうか。セリアの攻撃が止まっていたことに気づかなかった。そして竜の視線がこちらに向いていることにも。気づいた時には遅かった。


「あ」


 光線が目の前に。






 竜の眼のまで考えすぎ、セリアの死に気づけ、もっと他に何でもできただろう、気を引く方法はあったはず。身体ごとぶつかっていってもよかった。魔銀の武器で突撃してもいい。魔術で無理に気を引くこともできた。目を狙え。いくらでもやりようはある。もっと考えて行動しろ!


『スィゼ!』


 パティの一喝、そしてその衝撃で混乱が晴れる。


「……わるい、パティ」


 パティは闇の属性の使い魔。闇の魔術はお手の物。基本的にパティの能力は精神に寄生して記憶を管理することだが、闇の魔術も自由に扱える。闇の魔術の根幹は精神に対する負の影響。それで正の影響を中和したのだろう。

 竜の属性は光、光の魔術の根幹は精神に対する正の影響。竜は魔術に近しい……もしくは逆で魔術は竜に近しい。ならば根幹の作用も同じ、あの光で正の影響を付加されたのだろう。それをパティが解消してくれたようだ。

 ある意味相手の属性が光でよかったのかもしれない。まあ、そもそもあの攻撃で精神に影響が出るなんてわかるはずもないのだが。死んでもまた次のある自分だからこそその作用がわかるわけだ。嬉しくないが。闇属性だったら負の影響が出るが、それだと危なかったかもしれない。パティに負の影響が取り除けるのかどうか。できるかもしれないが、わからない。


「……はあ、とりあえず対策を考えないと」


 セリアの攻撃は確かに通用するが、しかしまだ竜を相手にするには届かない。色々とセリアの能力や戦い方の検証、準備が必要になるだろう。安穏とした生活にはまだまだ遠い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ