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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop39 古代人の残し物

「うわあ…………」


 遺跡の中に入ると開いた口が塞がらない。それほどまでに内部は異様である。


「まあ驚くだろう。俺も最初来た時は驚いた」


 まあ、驚かない方が少ないだろう。この世界の文明程度は俗にいう中世ファンタジー風だ。しかし、この古代人の文明程度は現代……いや、むしろ近未来的と表現するほうがいいと思う。見た目的には。設備的には現代と変わりなく、自動ドアや監視カメラ、クーラーのような空調設備など。前世でも見たことのあるようなものは珍しくなく、高性能な代物もある。エネルギー源は少なくとも電機ではないだろうと思われる。


「これは一体……」

「ここにあるのは古代人が使っていたらしい設備だ。今も動くみたいで使わせてもらっている。鍛冶もこの設備があるからできている」


 確かにこれだけの技術があれば特殊金属も扱えるのかもしれないが……気になることが一つ。


「……それだけの設備があっても食料はダメなんですか」

「植物とか、動物とかそういうのを育てるのは難しいみたいでな。だから外に出て畑を作る羽目になったわけだ。まあ、畑用の肥料とかは作れるみたいだがな」


 男性は苦笑しながら自分の実情を話しつつ、先導する。建物内は何処に何があるかわからない。だから案内がないと道に迷うだろう。また、こちらが勝手にあちこち侵入しないようにということでもあるようだ。先を進みながらもこちらに意識を向けている。

 そうして男性に案内された場所、休憩スペースか何かで椅子に座ることを勧められる。とりあえずここで話をするつもりなようで、男性は飲み物でも取ってくると言って部屋を出て行った。


「…………大丈夫かな」


 一人になって不安が出てくる。今回できることは今のところここにくるしかないという状況である。もしここで何も得られなければ、この先どこで情報を得られるかもわからない。そういうこともあり少々不安が大きい状態だ。


『大丈夫! なんとかすればいいんだよ!』


 パティが励ましてくれる。しかしなんとかとは適当な。でも、それくらいの励ましでもないのとあるのとではあるほうがいいだろう。

 少しして男性が紙コップに入った飲み物を持って戻ってきた。それをお互いの前において対面して話しを始める。


「……さて、まずはこちらから聞かせてもらおう。竜が復活するって話だがどういうことだ?」

「そのままの意味です。次の風の季節に入って二十日も経たないうちに竜が復活する」

「なんでそれを知っているかっていうのがまず疑問だが……妄想ってわけでもなく、封印された話を信じるのはそれなりに知っているってことだ。ならその言葉を安易に否定できん。そもそもこの場所にその話を持ち込むこと自体、相応に理解してるってことだからな」


 竜の眠る谷とそこに存在する古代人の遺跡。そこに関連性を見出さないわけがない。御伽噺程度でも知っていれば余計に。それでもわざわざここに来る人間は少ないだろう。ここまで来るのが面倒だから。故に、本当に必要だから来ているわけである。



「竜についてはどの程度知っている?」

「古代人が封印したということと、六つの属性に該当する竜がいるということ。あと復活するのは光の竜であるらしいということくらいです」

「それだけ知っていれば十分すぎるくらいだな。復活する竜の属性までわかってるのか。しかし……光か。ここの竜ではないみたいだな」


 ここではない? そもそも竜がどこで復活したかについては前回でもわかっていない。まあ、竜が復活したことを知ってすぐに殺されたのだから当然だ。


「……ここに封印された竜は」

「火だ。そうだな……竜が封印された地は色々とあるが、この国近辺だと光と地と火だ。他のはもっと別の所に封印されているはずだ。まあここにある資料に間違いがなければ、だがな」


 かなり重要な情報である。しかしまあ、竜に関しての話はそもそも御伽噺レベルのものなので仮に色々と知ることができても信じる人間は少ない。そもそも知ってどうするという話でもある。根本的な対抗策が無ければどうしようもない。


「竜について少し詳しく話すか。そもそも、竜がなぜ封印されたかはわかるか?」

「一応は。古代人では倒しきれなかったからですよね?」

「そうだ。古代人は竜を滅ぼすまでに至らなかった。理由としては単純で竜が強すぎて殺すには力が足りなかったからだ。そして、今の人間に竜を殺すだけの力があるかというと……まあ、無いな」


 確かにそうだろう。実際に対峙したからわかるがどうしようもない相手だ。


「それは古代人も理解していたようだ。だから古代人は三つの竜を倒すための物を用意した」

「三つ」

「一つは竜を封印した封印そのものだ。竜の封印は単に竜を封じておくだけが役割じゃない。竜の力を封印を通じて少しずつ外へと逃がし弱体化させている。竜が生まれる素の、世界の要素とやらに戻しているわけだ。また、その一部は古代人が作った迷宮や遺跡の動力源にしているらしい」


 迷宮や遺跡……ここの設備のエネルギーや迷宮の仕組みの動力源。迷宮で魔物が復活する仕組みはそこからなのか。しかし……少し待ってほしい。


「弱体化……ですか?」

「そうだ。もし竜が復活すればそれは古代人が相手をした竜よりもはるかに弱くなっている……はずだ。まあ、その時の竜がどれほど強いのかは知らんがな」


 あれで弱体化していると言うのか。まあ、遺跡とか見て古代人の文明があればあの竜相手に簡単に滅ぼされることはないだろうとは思う。六匹いたとしてもだ。それでも十分以上に強い。


「三つのうちの残りの二つは別々だが、二つで組になるものだな。先祖返りと呼ばれる者と、その先祖返りの特殊能力を補助するための武器だ」

「先祖返り」


 ここでその名称を聞くことになるとは。


「先祖返りってなんですか?」


 パティもあまり詳しくは知っていない内容だ。ここで聞けることは聞いておく。


「先祖返りは古代人が俺たち、今の人間を作り出す際に生まれるように設定したものらしい。自分たちと同格の力、特殊な能力を有する存在を今の人間の中に生まれさせるものだ。よくわからんが、その人間は古代人の使っていたのと同じ今では魔術と呼ばれるような力や、普通じゃない肉体の力を持っているらしい。今の人間の魔術と古代人の使っていた力は似ているが別物らしいな」


 もし機会があれば師匠を呼びたくなるような内容の話である。しかし、自分としても多少の興味がある。師匠の代わりに聞いておこう。こんな機会はもうなさそうだし。


「どう違うんですか?」

「今の魔術は世界に存在する要素を使っている物だ。つまりはかつて竜になった、しかし今は竜から排出された力ということだ。魔術は同じ力だから竜に対し有効打にはなり難い。それに対し古代人の持っている力は竜が出てくる前から使っている彼らの独特な力だ。まあ、魔術と近しいものではあるが、竜が生まれる前に完成されたものだから魔術よりは竜に対し有効なんだろう。まあ、俺も研究畑の人間じゃないから詳しく知らんな」


 十分詳しいと思う。しかし、自分の使っている力、魔術がもともと竜の力だと言われると少々複雑だ。


「竜の力、か……」

「魔術が使えるのか。まあ竜に対してあまり有効でないというだけでそれ自体は悪いものじゃない。力は力だ。そもそも元は竜じゃなくて世界の要素だ。本来の形に戻っただけだからな」


 そう言われても感情面では納得しづらい。まあ、あまり気に病んでも仕方ないことか。


「話を戻すぞ。先祖返りは稀にこの世界に生まれる。まあ、そう言われているだけだがな。そもそも先祖返りは竜の復活の予兆を感じて生まれるように設定したらしいんだが……判断基準が曖昧で緩いのか、竜が復活する時期でもないときに現れているみたいでな」

「一応その話は知ってます」

「なら話は早い。特徴も知っているんだろう。そいつらは傍から見たら単純に力が強いだけにしか見えないはずだ。特殊能力は先祖返り単体では完全に発揮することはできない。まあ、全く使えないと言うこともないと思うが、魔術とは別だからな。今の知識で扱えるものじゃないはずだ。だから単に以上に強い程度にしか考えられていないだろうな」


 力が強いだけ……?


「力が強いって」

「ああ。見た目は普通の人間にしか見えない。だがその身体能力はとても高い。そうだな、大岩でも軽く持ち上げられるし、鉄の剣で力任せに叩き斬ることができるくらいだろうな」


 恐らく、その存在、先祖返りである子に心当たりがある。まあ、後回しにしよう。


「それで、三つ目は?」

「先祖返りは古代人と同様の力を持つ。しかしそれを扱えない。だが、制御を担う物さえあれば話は違ってくる。先祖返りの中にある古代人の力を制御し操るための武器、それが三つ目だ。魔銀や神鉄などで作られた物らしいな。できれば俺が欲しいくらいだが」

「……魔銀に神鉄ですか」

「基本は神鉄製らしいな。魔銀製もあるようだが、それほど作られていない。世界鉱はそもそも発見自体が容易じゃないからな。一つ作られているかどうかだろう」


 確かセリアの使っている大鎌は国宝の武器。黒色の光を纏う武器、その特徴は魔銀で作ってもらった武器に似ている。ならば……


「神鉄って何か特徴がありますか?」

「……例えばどんな特徴だ?」

「黒い光を纏う……とか」

「……………………………」


 鋭い眼でこちらを睨んでくる。まあ、そういうことなのだろう。


「神鉄は魔力を通さない性質がある。だから魔銀のように魔力を通すことで光を纏うことは本来ならばない」


 魔銀に魔力を通すと光るのは既に経験済みだ。まあ、どうして光るのかは謎なんだけど。


「だが、特殊な加工法や精製手段を使うことで魔力を通すことはできるらしい。まあ、かなり特殊なやり方だし、その方法は今はほぼ失われている上に、通すことのできた魔力は当時の人間のものだ。何の魔力かわかるよな?」

「…………古代人の魔力」


 まあ、話の流れ的にそれ以外はないだろう。


「そうだ。つまり先祖返りの魔力も対象だな。お前、先祖返りに会ったことがあるんだろう? それも古代人の作った武器、神鉄製のものを持っている奴に」

「まあ、はい、そうです」

「詳しく教えろ。そいつは竜が復活するようなら確実に必要になるぞ」

「……手を貸してくれる子ではないんです」


 セリアは……戦争があるゆえに、戦わなければいけない相手だ。


「そんなことはないでしょ」

「っ!? 誰だ!」

「パティ!?」


 今まで自分の中にいたパティが勝手に外に出て姿を見せる。今まで精神内で話してくる様子すら見せなかったのに本当に唐突に出てきた。


「初めまして。私はスィゼの使い魔のパティ。先祖返り、セリアちゃんについての話を聞きたいんだよね?」

「ああ……そいつについて何か知っているのか?」

「彼女は自分を倒した相手に従うって。自分から強い人に向けてそう言いだす変な子だよ。スィゼなら、一応勝てなくもないんだけど……殺さずに勝てるほど楽な相手じゃなくて、困ってるわけ」

「……先祖返りに勝てるのか。それが本当ならとんでもないな」


 厳密な意味で実力で勝てるわけではない。今までの経緯と経験があったからこそだ。


「勝てると言っても、それでもまだスィゼは弱い。今の状態であなたと戦ったらあなたが勝つ程度には。だから、鍛えてあげることはできない?」

「え? ちょ、何勝手に」

「そうだな……こいつを鍛えなければ先祖返りを味方につけることができないなら鍛えてもいいか」

「え!? 本気で言ってます!?」


 変な流れになっている。


「そういうことだ。これからお前を鍛えてやろう。俺はアルベルド。まず最初に……お前の実力を確認させてもらうか」

「え、ちょっと!?」

「いってらっしゃーい。私はその間にここにある資料を読み込んでおくからねー」


 もしかしてそれが目的なんじゃないだろうな、パティ。こちらにアルベルドを押し付けることで自分が資料を漁れるようにするために! まあ、こっちにとっては損ではないだろうけど、勝手に決めないでほしいんだけど!

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