loop38 竜と古代の人々
「……どうするか」
いつもの流れとなった作業を終え、ギルドでの登録をしてひとまず宿を取ってそこで休んでいる。何をするにしてもこの先の見通しが立たなければ動けない。
前回最後に起きた出来事、竜の復活。御伽噺で封印されたらしい古代の竜が復活してこの国に来て破壊活動を行う。そもそも竜とはいったい何なのか。
『えーっと、古代の竜は六匹存在していて、古代人が滅びかけながらも封じた存在。世界を滅ぼすくらいに強力な力を持つ存在で、それによって滅ぼされかけたことで古代人の文明が衰退、古代人も数が減って今の人間に世界を譲る形になって現在に至る……ってところみたい?』
「詳しいな」
『あのお爺さんのところにある資料とかにもいくらか載ってるよ? スィゼは必要な情報以外気にしてないから覚えてないみたいだけど。まあ、そこまで多様な情報があるわけじゃないけど』
確かに覚えてはいないが。パティが憶えているのであれば問題はない。しかし、パティが知っている情報がそれだけなら他で得られる情報は少ないだろう。そもそも古代の竜が実在したと思っている方が少ないだろう。
『一応昔話、御伽噺の方も知ってるけど、聞く?』
「必要なものだけでいいんじゃないのか?」
パティの能力的に必要な情報だけまとめて聞かせてくれるだけでもいいのだが。
『私も考えることはできるけど、私だけでなんでもうまくいくわけじゃないよ? スィゼが思いつくこと、考えつくこともあるじゃない。実際に聞かされれば印象も違ってくるから聞いてみたら?』
まあ、確かにそういう所はあるのかもしれない。
『じゃ、行くよ?
むかしむかし、今を生きる人々とは違う古代の人々がいました。頭から角が生え、背中には翼を持ち、他にもいろいろと今の人々とは違う特徴を持っている人々です。
彼らは今は残っていない便利なものをたくさんつくり、すごい魔術を扱える素晴らしい人々でした。
ある日、彼らを生み出した神様は彼らがあまりにも発展し、大地に増えたのを見て、彼らが増えすぎたことに憂いを持ちます。
彼らには敵がいない。彼らに届く力を持つ者がいない。彼らはいずれ自分たちで争い滅びを迎えてしまうだろう。だから彼らの敵となる大いなる力を作り出そう。
そう考えた神様は世界に満ちる要素をまとめ、一つにして、それを六つに分けました。
それぞれの力は火、水、土、風、光、闇を表すものになり、その六つの力は大いなる力を宿すのにふさわしい存在を形作りました。それは竜です。
神によって生み出された竜は神様の望み通り、人々の敵となりました。
その火は全てを焼き尽くし、その水は全てを押し流し、その土は全てを飲み込み、その風は全てを吹き飛ばし、その闇と光は人々を消し滅ぼしました。
人々は慌てます。何もできないまま、破壊されるままであることに。
神様は慌てます。人々があまりにも一方的に蹂躙されてしまうことに。
六つの竜はあまりにも大きすぎる力、この世のすべての力を一つにまとめたもの。それは人々の力を超えるほど大きなものだったのです。
神様は諦めました。世界が滅んでもまた人々と世界を作り直せばいいと。
しかし、人々は諦めません。大いなる力と戦うことを決めました。
古代の人々の扱う力は強力です。空を支配し、あらゆる力を操り、その命と体と心を守り通します。
古代の人々の文明は強力です。大いなる力に負けないくらいの空飛ぶ船、竜の体を貫ける槍や矢、炎を撃ちだす大筒など、様々な力を秘めた武器があったのです。
しかし、それでも大いなる力はあまりにも強すぎます。街が消え、都市が消え、国も消えました。人々も大地を埋め尽くさんばかりにいたというのに、そのほとんどはいなくなってしまいました。
しかし、人々は諦めません。本当に終わりを迎える最後まで。
そして人々は大いなる力を倒す手前まで追い詰めることができたのです。でも、大いなる力を倒すには力が足りませんでした。それだけの力が残っていなかったのです。
しかし、勝てなくとも大いなる力を、竜をどうにかする手段はありました。それは封印すること。
打ち勝つことは出来なくとも眠らせることはできるのです。
でも、彼らは悩みます。大いなる力を後に残してしまうことに。それを自分たちの子孫へと残してしまうことに。
しかし、他に方法はありません。人々はなんとか大いなる力を封印することに成功したのです。
そして世界に平和が訪れました。でも、戦いの中古代の人々は大きく数を減らしました。
古代の人々は残っている人々、その中で一番生き残っていた人々にこの世界のことを託し、いなくなりました。
今も封印された竜は眠っているのかもしれません。そしてその竜は蘇るかもしれません。その時まで、私達は彼らのように強く立派になりましょう』
最後だけ、なにか違う感じ……昔話とは別の感じだ。おそらくは、この昔話の最後にこれから先のことを入れて教訓話的な感じにしたのではないだろうか。竜が復活するかもしれないから体を鍛えて頑張ろうね、という感じで。
『一応私の知ってる限りの伝承や御伽噺をまとめて、真実っぽい感じを語ってみたらこんな感じだよ。そのまま全部御伽噺になってるわけじゃないからね?」
「……ってことは、つまり全部真実か?」
『あくまで恐らくそうかな、ってところ。そもそも神様がミスしたって入っている時点で御伽噺的な物語としてはどうなのって話だしね』
そんなことを言われても。しかし自分もこちらに来るときに神様に会っている。だから何とも言えない所ではある。一応神話の類とかでの神様は知っているが……まあ、そういうこともあるのかもしれない。だから何だと言う話だけど。
『まあ、実際流派復活したわけだし。あれは多分……光の竜。まあ、光の吐息を撃ってきたし』
パティの昔話の中に含まれる竜の特徴からすれば恐らくはそうなのだろう。火、というには破壊だけで燃えていないし。それにしても六匹の竜か。
「魔術の属性と一致してるのか」
『世界に満ちる要素を一つにまとめ、六つに分割。魔術もそういう力なら似通るものじゃない?』
まあ、そういうものなのかもしれないが。いや、そこは重要じゃない。御伽噺と古代の人々、竜についての真実に思い馳せるのは悪くないかもしれないが、必要なのは対抗する手段である。
「昔話以上のことは?」
『さあ? お爺さんのところの資料でも古代の人々の話はちょっとあったけど、竜は全然。一応本当にいたのではないかという話だけど、実物の情報はないからね。まあ、そもそもそういう情報があったとしても古代人残したものだから解読自体も難航してるんじゃない? あのお爺さんのところにあるのも本人の趣味の賜物だろうし』
まあ、師匠は魔術を研究している以上他のことがおろそかなのは仕方がない。師匠が調べるなら魔術関連となるだろう。
『古代人の力に関してはねー。それなりにあるみたいだけどね。でも、結局実際の魔術とは違うし、現物で残ってるわけでもないし。あ、でもそこに関連して先祖返りって言うのもあったかな』
「先祖返り?」
『古代人の血を引いている、とか何か知らないけど突然変異みたいに生まれる存在で、特殊な力を持っていて滅茶苦茶強い存在だって。あ、スィゼの場合は先祖返りじゃないからね? 特殊な力はあるけど』
わかっている。自分の場合は神様が関連しているからだ。どちらかというと竜とかの方が関連としては近しいのではないだろうか。
『いや、どうだろー? 神様って言っても、その神様とここの神様が一緒とは限らないし』
「まあ、それはいい。その先祖返りって言うのは?」
『…………さあ。詳しい情報があったわけじゃないし。一応実在した先祖返りの記録がいくらかあるくらいだね。推測できることはいくらかあるけど……まあ、あてにはならないかな』
結局わからないことだらけである。パティの記憶能力は自分で作った使い魔ながら相当な物だ。それで記憶されていてもわからないのであれば仕方がない。パティが知らないのであれば今までの中で得られるものではないのだろう。
「わかった。ありがとう……」
『結論早い!』
「え?」
『とりあえず、今後の方針を先に決めよっか。この先どうするか』
確かにそうする必要があるが、それを決めるために話していたわけである。結局わからないことだらけでどうしようもないわけだが。
『わからないなら調べればいいじゃない』
「でもパティの持っている情報は殆ど得られる限り得たうちの情報だろう? 師匠のところならまだいくらか残っている物はあるかもしれないが、そちらでも厳しいんじゃないか?」
まだ隠している資料や読んでいない資料もあるだろうけど、それらに竜に関して載っているとは限らないし見せてもらえるかもわからない。
『甘い! 砂糖菓子より甘い! あのお爺さんのところだけが情報源と考えているのが一番甘い! サッカリンよりも甘い!』
「……それは一体どういう」
『竜に関して、わかりやすい何かをスィゼは知ってるはずだよ! そこにあるわかりやすい古代人絡みのものについても知ってるはず! もー! なんで思いつかないのかなー』
古代人と竜……その関連……?
『武器作ってもらってるでしょ。あそこだよ』
「…………竜の眠る谷」
確かにあそこには古代人のものかもしれない施設はある。そして竜の眠る谷という竜に関して直球な地名である場所だ。
『そう。そこに行けば何かわかるかもしれない。何せ……あそこは恐らく今も生きている施設なんだから』
いつも武器を作ってくれる人が中に入っていくのを見ている。確かにあの施設はまだ使える可能性があるのかもしれない。そもそも魔銀なんかの特殊金属を加工できる場所自体が稀少である。古代人の施設ならわからなくもないか。
『ひとまず、いつも通りに進めてその遺跡に行こう』
「……わかった」
もしパティがいなかったらどうしただろう。もしかしたら諦めていたかもしれない。これから先何もできずに無駄に繰り返して、無為に生きたかもしれない。パティがいてくれて本当にありがたいと思う。
『別にお礼はいいよ? 私の役割だからね。そういうものだもん、使い魔って!』
少しだけ誇らしげにパティが言った。
「ようこそ客人。こんな山の上までよく来たな」
普段通りに過ごし、魔銀を入手してきて竜の眠る谷まで来た。ここで武器を作ってもらうことは今までと同じで確定しているのだが。
「どうした? じっとこちらを見てきて。武器を作りに来たんじゃないのか?」
「いえ、間違ってはないです……それだけじゃないですが」
そう言うと目の前の男性がふむ、とつぶやき腕を組む。
「武器を作る以外に何か用事があるのか? ここには何もないんだが」
「…………竜について何か知っていませんか?」
その質問を聞いた男性は目を細めこちらを見てきた。探るような視線、そして何か確かめるようなものを感じる。じわりじわりと刺すような雰囲気へと変わり始めた。
「……竜について何かを知っているのか?」
「……近々目覚める可能性があることを」
「………………」
一瞬、お前は何を言っているんだという表情をする。しかし、すぐにその内容に関して何かの確信があるのか、深刻な表情に変わる。
「……わかった。中で話を聞かせてもらおうか。ただ、この中のことは言うなよ? まあ信じる奴は少ないだろうが、言ったら首を貰ってくぞ?」
「あ、はい」
物騒な。まあ、仮にここが生きた古代人の施設ならばそうされてもおかしくないのかもしれないが。まあ、入れてもらえるのならばいい。これで何かわかるといいのだが。