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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop37 伝承の竜

「……?」

『なんか揺れてる?』


 戦争からそれなりに時間が過ぎた。多分十日ほどだと思うが時間の感覚が薄い。惰性的に過ごしてきたせいだろうか。


『今は二週間ほど、十三日たってるよ。もう、しっかりしなよー?』


 色々とあって、色々と終わらせて、かなり放心気味だったんだろう。自分がこうなってもパティがしっかりと状況を把握してくれているのはありがたい。


「今はどうなってる?」

『なんか揺れてるみたいだね……地揺れ? 外も大騒ぎみたい』

「……地震?」


 少なくとも今までこちらで地震を経験した憶えはない。地震にしても揺れ自体が妙な感じだ。なんというか、地震のように地面の底から揺れるような感じではなく、何か地面に落ちてきてなるような……隕石が衝突した感じと表現するといいかもしれない。それも断続的に何度も起きている。

 何か起きている……戦いなどで大規模な魔術を行使し大爆発を起こしているとか? 戦争が終わったばかり、敗北を宣言したばかりで賠償を支払いたくないから攻め込んできた……というわけでもないだろう。もしかしたら戦争直後を狙った別の国とか? いや、それにしてもいきなりすぎる。大体情報収集していたら安易に攻める気にならないはずだ。


『一度外に出ようよ! 何が起きているか把握しないと何もできないよ?』


 パティのいう通りだろう。仮にまた戦争が起きているのであれば、まともな戦いではない。それなら勝手に出て行って叩き潰して文句は言われまい。今の自分の鬱憤晴らしにもなるだろう。まあ、そういうことを戦争でやるのもどうかと思うが。

 外に出ると特に戦いが起きている、というわけではない。いや、戦い以前に。何もない。見えるものの多くが消えている。


「え?」

『…………街が消し飛んでる』


 街が無い。全てが無くなっているわけではないが、街であった場所の多くが削り取られたように消し飛んでいた。


『っ! 上っ!』


 パティの叫びに思わず上を見上げ、絶句する。


「……………………」


 空を隠すように巨大な影が視界を占領している。その影は大きな翼と小さな翼を広げ、頭上高くの天空から大地を見下ろしていた。顔は厳つく、全体のバランスを考えれば胴体は少々大きめに見え、尻尾は長く太く立派である。奇妙なことにその存在は空に浮かんでいるのに翼を羽ばたかせていない。そもそも全く位置を変えずに浮かんでおり、見るからに異様な存在であることが分かる。

 一般的にその存在を呼称するのにふさわしい名称は竜。この世界に存在しているらしいことは知っているが実物を見たことはない。ただ、前世などで知っている特徴を有していることから目の前のはそう呼称できると思われる。


「……竜」

『正しいけど、間違い。多分……あれは古代の竜だよ』


 古代の竜。恐らくパティの言っているのは、御伽噺や伝説で言われている古代人によって封印された竜の事だろう。寝物語や師匠のところで少しは知っている。とはいえ、興味もなく重要でもなかったため殆ど覚えていないが。


『あとで私が知っていることは教えるよ』

「頼む」


 しかし、その封印されていた竜が空に何故浮かんでいるのか。そしてあの竜をどうすればいいのだろう。何をすればいいかわからないまま竜を見ていると、口を開けてその中に光が集まり始める。嫌な予感がするがどうしようもない。その集まった光を竜は大地へと向け、撃ちだす。


「っ!?」


 大地に光がぶつかると同時に大きく地面が揺れる。そしてぶつかった場所……そこにあった街の一角がぶつかった周辺ごと吹き飛ぶように消し飛んでいた。これを見れば嫌でも先ほどまでの地揺れの原因が理解できる。あの竜の攻撃によるものだ。街が消し飛ぶほどの一撃が撃たれているのだから被害は甚大だろう。冷静に見ている場合ではない……のだが。


「あれを相手にどうすればいいんだ……」

『空を飛べないと戦えないね。魔術も……威力が足りないかな。金の魔術でも豆鉄砲だね』


 豆鉄砲では何の役にも立たないだろう。仮に鉄砲、大砲のレベルだとしてもあの竜の攻撃、光線で吹き飛ばされる可能性が高い。セリアと戦っている時に落ちてきた魔術で攻撃したとして……結構な痛打を与えられるとは思うが、それでも倒しきるのは恐らく無理だろう。


『スィゼ、あっち!』

「師匠」


 師匠を含む複数人の魔術師……それも金の魔術師が、竜に向けて魔術で攻撃しようとしていた。ただ、それぞれで魔術を使う様子ではなく、同時に……一斉に何かをしようとしているような感じだ。


「あれは……」

『魔術師が複数人いないと使えない複合魔術だよ。合成魔術とも呼ばれることがあるみたい。皆で魔術を使い、一人じゃ出せない魔力量で超威力の魔術を強引に使うの。戦争の時に降ってきた魔術もこれと同じ感じのものだったと思うよ。使ってるのを見たわけじゃないからはっきりはしないけど』


 あの時の威力と同等ならば確かにあの竜でも有効打にはなると思う。しかし、やはり倒しきるのは無理だろうと思う。でも、あれほどの金の魔術師に白鋼の魔術師がいれば……


『それは流石に考え甘いよ? 師匠がいるから信じたい気持ちはわかるけど』


 まあ、やはりパティのいう通り、強力な魔術師が複数いた所でどうしようもないのだろう。竜の強さがどれほどのものかはわからないが、古代人ですら倒すことは出来ず封印した相手だ。古代人がどれほどの強さかはわからないが、遺跡などからかなりの能力を持っていたのは間違いない。

 だが、そういった意見があったとしても試すまで結果はわからない。自分が見ている中、師匠たちの使った複合魔術が竜へと向かっていく。


「っ!!」


 竜に魔術が直撃し大爆発を起こす。自分の時もそうだったが、そういう性質なのだろうか。それとも火属性の魔術を使ったのか。火は竜には相性が悪そうだが……しかし、まあ攻撃系の魔術は火に偏っているししかたないのだろうか。土の魔術はまだしも水や風では威力が低そうだし。

 そんなことを考えているうちに、爆発の影響は消えて竜の姿が見えるようになる。


「……流石に無傷ではないみたいだが」


 あれほどの威力の攻撃を加えた以上無傷ではいられなかったようだ。しかし、致命傷には程遠く有効打ともいいづらい。せいぜいが当たった部分の鱗を大きく剥ぎ取ったくらいだろう。それでもあの竜を相手にすごいと言いたくはなるが、倒すまでには至らない。何度もできればいずれは倒せるかもしれない。ただ、何度使えるかはわからないし、竜も一方的に攻撃を受けるだけではないだろう。

 師匠たちがまた複合魔術を使おうとする。だが竜はそれを許す気はないようだ。自分を傷つけるような攻撃をしてくる相手を放置するはずがない。先の街への攻撃の時のように、竜の口に光が集まる。師匠たちの魔術は竜の攻撃よりも前に発動したが、竜がその魔術に向けて、光線を放つ。それは師匠たちの複合魔術を貫き、大地ごと師匠たちを吹き飛ばした。


「………………」

『まあそうなるよね』


 あの竜が撃ちだす光線は貫通力が高い。師匠たちの魔術は複合魔術、複数の力を集め威力は高くなっているが、爆発することからもふわっとして広がりやすいものなのだろう。当然一点に集中している光線の方が威力が高い。

 自分は何を冷静に観察しているのだろう。竜をどうにかしなければいけないはずなのに。せっかく……セリアを殺してまで戦争を乗り越えたと言うのに。仲間を生き残らせ、自分も生き残ることができたのに。また死んでやり直さなければいけないのだろうか。


「飛行」

『ちょっと!? スィゼ!?』


 空を飛ぶことは不可能なことではない。風属性の魔術であれば飛行することが可能だ。もっとも飛行と銘打たれているが自由に飛行できるかというとそうではない。内容を正確に表すなら、飛行する魔術というよりは飛ばす魔術だ。それもあまり自由に制動できない魔術である。もう少し自由な操作が可能ならば飛行の魔術としてよく使われたのかもしれないが、師匠でも飛行の魔術の制動を制御するのはかなりの難易度らしい。

 しかし今の自分にはこれくらいしかできるものはない。自分の魔術では竜に通用しないだろうというならば、剣を届かせるくらいしかないだろう。魔銀製の剣で全力で斬りつける、眼などを狙えばそれなりのダメージになるだろう。


「おおおおおおおおおおっ!!」


 大声で気合を入れ、竜に向かい飛行の魔術で一直線に飛んでいく。

 このとき自分は怒りか何かで思考が麻痺していたのだろう。もしくは自暴自棄気味だったか。竜という存在の知能が通常の生物と同じくらい、自分のことなど眼中にないと考えていた。

 竜へと向かい空中を飛ぶ自分を、竜はしっかりと見据える。


「っ!!」


 竜がこちらを意識している。そう理解したところで飛行の魔術は急制動の利くものではない。方向転換をするだけでも難しいもので、一度停止させてからでないと操作できない。それほどに飛行の魔術は制御が難しいもので、一歩間違えれば地面にたたきつけられかねない。

 竜の口に光が集まるのが見える。それを何に向けるのかはわかりきっている。明確に脅威であると認識されているのは嬉しいやら悲しいやら。


「防壁!」


 防壁の魔術を自分の体を起点に発動する。飛行中なので普通にはだせない。防壁の魔術の防御力で考えると竜の攻撃に対しては小さな抵抗でしかない。それこそ吹けば消し飛ぶ薄っぺらい壁。しかし何もしないでいるわけにもいかない。万が一、億が一にでもかけるしかない。とはいえ、すぐに希望は消え去るものだった。

 竜が光をこちらに向けて放ち、一瞬光が見えたように思えた。意識の消失は光がどうなったかを認識するよりも早かった。






「っ!!!!!!」


 意識が覚醒する。今がいつなのか、何が起きたのか、どうしてこの場所にいるのか、何をするべきなのか、精神が加速する。過去の事、直前でやっていたことの考察、これからやるべきこと、考えが一気に溢れてくる。


『スィゼっ!』


 パティの叫び、それと共にがつんと自分にぶつかってくるかのような何かを受けた。


「あ……」

『よかった、戻ったかー。流石光の竜……攻撃性の息吹でも精神向上効果ありかー』


 自分はどうやらかなり混乱していたようだ。それをパティがどうにか元に戻した。


「悪い……」

『いいってことよー』


 パティには感謝しか浮かばない。しかし、竜の存在とその出現。今まではセリアを倒す事を頑張っていたが、まさかここで新しい……それも自分でどうにかできるか怪しいくらいやばい強敵がでてきてしまった。


「これからどうしよう……」


 死を乗り越える、生を掴み取ることができるのはまだまだ先のようだ。正直これからどうするかなんて考えたくないくらいである。竜を相手にすることから逃避したい。

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