表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ループ  作者: 蒼和考雪
28/54

loop26 迷宮探索のすすめ

 フレイとエリュの二人と一緒に迷宮内部を探索する。既に二人は結構奥まで探索しているようなので先に進んでも罠の類はなく、魔物もまばらに出会う程度だった。しかしある程度先に進むと徐々に出会う頻度も増えていく。

 自分が途中まで何事もなく進めたのは二人が攻略していたおかげなのだろう。疑問としては魔物の死体が発見できないことだったが。その疑問が解消されたのは魔物の死体が壁に吸収されたのを目撃した時である。


「…………えっと、ちょっと何が起きてるかわからないんだが」

「死体を迷宮に還しているだけよ。見ればわかるでしょ」


 そんなことを言われても、今までこの光景を見たことはない。いや、この世界も不思議なことは多いのだから迷宮にもそんな不思議なシステムの一つや二つあってもおかしな話ではないが……


「ここの迷宮は循環型と呼ばれるものだ。死体を外にでも持っていかない限りは迷宮に回収される。スィゼは今まで他の迷宮はどのくらい攻略した?」

「……それなりに。遺跡の方が多いくらいで迷宮はそれほどでもない」

「ふむ。スィゼは遺跡と迷宮の違いはわかるか?」


 遺跡と迷宮の違い? そもそもその二つは一緒くたにできるものではないのでは?


「さっぱりだ。そもそも、その二つは近いものなのか? 遺跡は古代の施設の名残、迷宮は洞窟とかで魔物がいたりするとかそんな感じなんだと思うが」

「あたしもわからないんだけど。教えてー」

「……エリュも便乗しない。はあ、遺跡と迷宮はそもそも根本的な部分で違いはない。どちらも古代人が作り上げたもの、という点では同じだ」


 古代人。遺跡や迷宮などでも見つかる過去の資料、寝物語でも語られることのある天使や鬼みたいな様々な特徴を有するらしい人間だ。まあ、人間とも限らないかもしれないが、そういう存在が大昔に存在したと言われている。師匠のところの資料でも幾らか彼らについての情報はあった。必要な情報ではないのでそれほど覚えてないが。


「何故古代人は遺跡や迷宮を?」

「それはわからない。遺跡と迷宮のうち、遺跡は古代人の作った何らかの施設で現在もそのまま残ってまだ使えることのある施設も稀にある。それに対し迷宮は何のために作られたのかわからない謎の多い施設だ。例えば先ほども見たように魔物を回収する仕組み。迷宮にいる魔物は内側にもともとから存在する……迷宮が作り出し、死んだら回収する物だ。遺跡の場合は外から入って住み着いたものだけど。そしてこの魔物は迷宮の奥の方から現れる。途中で出てくることもあるけど、大体は最奥からだと言われている。そしてその最奥には、魔物以外にも様々な物……特殊金属や古代に作られた武器や防具などが存在するときもある。何故迷宮にそんなものが残っているのかわからないが、迷宮がそういった物を作り出すのか、それとも迷宮がどこからか回収してきたのか、古代人が残したのか……まあ、正確なところはわからない」

「……へえ」


 遺跡や迷宮について、調査する側の視点、研究する側の視点で触れるのは初めてだ。師匠のところでもそういった資料は今のところ見たことがない。もしかしたらあるかもしれないが、流石に遺跡や迷宮は目的の情報ではないので詳しくは調べなかっただろう。師匠の場合、遺跡はまだ魔術に関する情報が得られるかもしれないが、迷宮は興味が薄そうだ。だけど古代人関連で何かあるならば調べに行く可能性もあり得るかもしれない。

 いや、師匠の行動についてはいい。迷宮についての特徴に関してはわかった。


「……迷宮が魔物を回収する仕組みがあるのはわかったけど、なんで?」

「迷宮も謎が多いけど、何もない所から魔物を生み出すなんてことができると思うか?」

「え? できるんじゃないの? 迷宮でしょ?」


 迷宮だから何でもできると思われると困る。いや、迷宮側の意見ではないが。そもそも無から物を作り出すのは流石にファンタジーの世界でも厳しいのではないか。魔術には魔力を使うわけだし、何もないのに何かを作ることはできない。


「いや、迷宮でも何もない所から作り出すのは無理だろう……魔物の死体を回収し、再利用して魔物を生み出しているということか」

「迷宮によっては回収しない所もあるらしい。そこでも同じように魔物が生み出されるから実際はどうなのかは不明だったりするけどね。エリュの言うように迷宮だから何でもできるのかもしれない」


 流石にそれは冗談かとも思うが、迷宮も古代人も謎が多い。本当に無から有を作り出すことができてもおかしくないかもしれない。そんなことを考えていると、フレイの動きが止まった。腕を横に出してこれ以上進むなと示している。


「罠だ、解除するから少し待っててくれ」


 俗にいうシーフやスカウトみたいな役割をフレイが受け持っている。迷宮内における探索では重要な役割と言える。その代わり戦闘能力は高くないのか、途中でである魔物との戦闘はこちらの二人、自分とエリュの担当となっている。ここで出てくる魔物は六足の犬型の魔物、五体でまとまって行動している。数の増減は今のところ見られずどの群れも同じ印象を受ける。恐らくはこの迷宮内で生み出された人工的な魔物なのだろう。


「なあ、フレイ」

「どうした?」

「さっきから分かれ道を迷わず選んで進んでるけど、大丈夫なのか?」


 何度か道の分かれているところに出るが、迷わず別れているうちの一つを選択して進んでいる。今のところ進む先が行き止まりになっているということはなかった。フレイは何か確信があるのかもしれないが、こちらとしては本当に大丈夫なのか不安だ。


「迷宮のことを話しただろう? 魔物は最奥で発生する。途中で発生することもあるが、ほとんどは最奥で生まれる。ならば……」

「……魔物の来た方向がわかればそちらに進めばいいと」

「そう。魔物の足跡を確認してそちらに進んでいる」


 魔物が来るのが一番奥から、ということであるのならば魔物の移動経路の最初は迷宮の最奥ということになる。魔物がどちらから来たのかわかれば来た方向へと進めば最奥へ進める。まあ、魔物がまっすぐ迷宮の入口へと進んでくれるとも限らないのではないかと思う。

 しかし、フレイも冒険者として結構な実力者のようだ。罠もそうだが魔物の痕跡もわかる当たりかなり優秀だろう。クルドさんのチームではそういう役割の仲間はいなかった。まあ新人で初心者の冒険者である彼等にその手の技術を期待するわけにもいかないが……まあ、技術無しで遺跡や迷宮の探索はかなり厳しい。自分で直接経験しているからわかる。クルドさんに話を持ち掛けても全く遺跡や迷宮へと向かわないのも当然か。うん、ごめんなさい。


「……? え? 魔物が一番奥で生み出されたからなんだって言うのよ?」

「…………」

「…………」

「ちょ、ちょっと!? なによその視線! 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!?」


 エリュは頭脳労働が苦手なようだ。はっきりと馬鹿……とは言えないのだが。戦闘時では、判断が速いし最適な行動、迅速な行動をしっかりとってくれる。ただ、本当に戦闘以外の頭を使うことは駄目なようだ……なんていうんだったか、こういの。脳筋だっけ?


「兄さん!」

「たまには自分で考えなさい」

「スィゼ!」

「右に同じ」

「兄さんはスィゼの右にはいないでしょ! 教えなさいー!」


 掴まれてぶんぶん振られる。ちょ、持ち上げないで!


「ちょ、とりあえず、放せっ!」

「おーしーえーなーさーいー!!」

「わかった、わかったから! とりあえず放してっ!」


 そういった所でぱっと手を離される。ちょっと上に持ち上げられて揺らされてたから頭がぐるぐるしている上に、地面に落とされたのでちょっと痛い。受け身もうまく取れてないし。


「さあ教えなさい!」


 びしっと指差してくる。うん、教えを受ける側なのにその態度はいかがなものか。教えるけど。


「魔物が生み出されるのは一番奥。目的地も一番奥。これはわかるな?」

「あたりまえよ。そこまで馬鹿じゃないわ」

「じゃあ、魔物がどこから来るか、どこを移動して来たか、魔物の痕跡を調べることでわかるだろう。魔物が生み出された場所から移動してここまで来たとするなら、魔物がどこを通って来たかさえわかれば、魔物の動いた痕を見てその始まりを追えば迷宮の奥にたどり着く。そういうこと」

「なるほど………………多分わかったわ!」


 実はわかってないんじゃないの? と思わなくもない間があった。まあ、エリュがわかっていなくともフレイだけでもわかっていれば最奥にはたどり着けそうだし問題はないだろう。

 あんな風に教えたけど、そもそも迷宮の魔物の生活はどういったものなのだろう。そう考えるとエリュに教えたことがどれほど信用できることなのかはわからない。餌もわからないし、糞もするものか。毛も生え変わったりするのか? 迷宮に回収されているんじゃないだろうか。そのあたりはさっぱりわからない。

 まあ、仮に魔物痕跡を発見できなくとも、ある程度は自分でも判断できる。魔術を用いての身体強化、音の収集を行う風の魔術。これらは今もある程度の感覚で使っている。魔物の足音や気配なんかがわかればそれである程度は判断できる。まあ確実ではないからやはりフレイ頼りだ。


「おーい、二人とも遊んでないで先に行くぞー」

「遊んでないわよ! ほら行くわよ!」

「ちょっ! 首はやめて! 死ねる!」


 流石にこんな形で死に戻りはしたくないからっ!






 結構奥まで来た。道中何度も魔物と出会い戦うことになり、幾つもの罠もフレイが解除して、分かれ道の魔物の痕跡を辿ってここまで来た。迷宮の奥まで一日二日で到達できるほど簡単ではない。まあ、それくらい簡単ならば二人でも半年もかけていれば到達できただろう。

 自分が今まで経験した迷宮は、短いもので三日、長いものだと一ヶ月近くで一番奥まで行ける感じだった。まあ、攻略も含めると長くなるのは当然か。ここではもう二週間ほど迷宮内にいる。罠の解除や魔物の討伐、魔物の発生点を考えれば行きと帰りはかかる時間が違ってくるだろう。それでもやはり往復で一ヶ月はかかるのではないだろうか。

 この長期の攻略の場合における問題は食料や水の生活必需品の確保だ。フレイやエリュも何度か全部消費して拠点に戻っているらしいしある程度は余裕を見て持ってきているようだ。自分も一人分だから一ヶ月くらいは持つように持ってきている。ギリギリ、だけど。


「……魔物の数がやばいな」

「どれくらいの数がいる?」


 フレイが聞いてくる。音を集める魔術による魔物の数の把握、位置の把握は正確に判断できないとはいえ、結構優秀だ。おおよそでわかるだけでも十分使える。最初この魔術について話した時は半信半疑といった感じだったが、何度か実際に結果を示して今ではきちんと信じてもらっている。まあ、こちらの手の内を明かしてしまう形になるので不安もあるが、ここまできて裏切るということも……多分ないだろう。


「十や二十じゃないな。恐らく全部で五十はいてもいいと思う」

「……どこかに移動したりは?」

「いや……ほとんど移動してない。一か所に集まっている感じだ」


 魔物の群れはなぜか入り口の方へと向かって動く。しかし、これらの魔物はその場所から動かない。待機しているかのようだ。それがどういう意味を持つのか。


「ようやく最奥か」

「はあ……やっとか。時間がかかったわね」

「本来ならもっと時間がかかっただろうね。スィゼがいるから戦闘も楽になったし、先に進むのが楽になったからかなり早く到達できたわけなんだけどね」


 こちらとしてもフレイたちがいたからこそ楽に最奥まで到達できたのだからお互い様と言える。


「でかい魔物は……いなさそうだな」

「単なる魔物の群れか。それでも五十はいるとの話だし、それだけの数が群れて一斉に襲ってきたら厄介かな」

「全部叩き潰せば問題ないわよ! 早く行って終わらせて回収して帰るわよ! ずっと迷宮内部で探索ばっかりだったもの! 帰ってしばらくはのんびりとしたいわ!」


 フレイとエリュは帰ったらしばらくは休養でもするのだろう。半年以上も迷宮攻略に勤しんでいたようだし。こっちは魔銀を手に入れたら鍛冶屋に私に行かないといけない。もう雪の季節も近い。雪が降ってくるようになれば道の往来も大変だ。あの鍛冶屋は山にあるわけだし、さらに大変なことになるかもしれない。時間的に大丈夫かな。


「……静かに。最奥だ。魔物がいっぱいだな」


 フレイがこちらに向けて言ってくる。ついに迷宮の最奥まで来たようだ。静かにフレイの側まで近づき、彼がのぞき込んでいる奥の方へと視線を向けた。ひしめき合う魔物の群れ。迷宮内で出会ってきた六足の犬型の魔物の群れがそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ