表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ループ  作者: 蒼和考雪
22/54

loop21 折られた剣

 何度もループを繰り返し、死神と戦い戦闘経験を積み重ねる。攻撃への対処、対処後に行うべき行動の確認、相手の攻撃の癖とその中に存在する隙の調査、防御方法の最適化。また、魔術に関してもどうやってか通用させられないかの模索、戦闘中における最適な応用の検証なども行う。死に戻りという死んでも経験を得られることを最大限利用した行動だが、そうしていくとどんどん色々とすり減っていくのがわかって結構きつい。

 ただ、そうやって経験を積んでいくことで少しずつ死神の動きに慣れて行動に対応できるようになっている。最大限に鍛えた肉体の時での実力では相手が十回攻撃する間にこちらが一回か二回反撃するのが関の山といった具合だが、それでも少しは届くようになってきた。

 そうやって幾度も積み重ねた経験をもとに今回も死神に挑む。

 まず最初に戦争が始まる前に戦列の間を縫って進む。これはいつも配置される後ろ側にいる場合犠牲者が無駄に出ることになるからだ。死神と戦うことは何処にいても変わらない以上無駄は省く。仮に場所移動で後から文句をつけられても構わない。

 いつも死神が突入してくる地点付近で待機し、魔術を使い身体強化をする。身体強化の時間は銀の魔術師になってからかなり伸びていて、銀の魔術での身体強化でもに時間は持たせられる。もっとも他の魔術は使用しない前提だが、少し使っても一時間程度になるくらいだろう。


「………………」


 戦争の始まり、その合図が鳴って戦争が開始する。それと同時に死神が動く。こちらもその動き、大鎌の軌道に合わせ剣を構える。


「っ!」


 いつも、防いだ時に見るのだがやはり死神は最初防いだ時は驚いたような表情、感じできょとんとしている。一撃目を防ぐといつもこうなる。しかしすぐにその状態から普段通りに戻り、戦闘に戻る。このときはあまり動かず、行動を誘導したほうが後々に繋ぎやすい。防いだまま、大鎌を受けた剣を傾けている場合、殆どは上へと大鎌をずらす。

 頭上に持ち上げられた大鎌を振り下ろされる前に右へとずれる。最初に大鎌を振るってきた方向が自分から見て右であり、そちらに逃げる……最初に振るってきた方向にずれると左にずれた時よりも行動が一拍遅くなる。そうして避けて剣を死神へと突き出す。

 突き出した剣は後ろに少し下がることでぎりぎりに近いくらいの回避をされた。そして持っている大鎌を持ち替え柄側を振るってくる。大鎌を振るってくるよりも威力は弱いわけだが、それでも致命的な打撃になる。しかも予想しにくい攻撃で不規則的な動きをするため回避もしにくい。

 そんな攻撃をさらに右に、右にと動き回避する。いつの間にか持ち替えたのか、大鎌が今度は真横に振るわれた。しゃがみながら剣で大鎌を受け止め、斜めに傾け振るった一撃のまま上方へと逸らす。そして魔術で攻撃する。死神は魔術攻撃は威力や種類に関わらず、回避か防御、よけきれない場合は防御で他は回避をしている。攻撃直後などの行動直後であれば避けるのが少しだけ下手になる。もっとも僅かな違いくらいなものだが。

 死神の体の中心線を狙った魔術攻撃、回避しやすい方向はなく一瞬どちらに避けるか迷う所だろう。わからないのはこちらとしても困るところだが、大鎌を振るった勢いのままそちらに避けるか、それとも逆側に避けるかはいくらか方針はあると思う。今回は左に避けたようだが。

 大鎌の動きに逆らう形、死神としては動きの流れが悪く大鎌を振るづらいと思う。そこを狙い、踏み込んで剣を振り下ろした。


「はあっ!」

「……」


 冷静に死神は柄で剣を受け止める。ただ、大鎌の動きを無理に変えたから掴みが弱いはず!


「くっ!」


 無理やり大鎌の柄を手で押し出すようにして振るってきた。殴りつけるような方法で無理やり振るうのはまともな扱い方ではない。しかし、流石に受け止めるしかない。

 剣で柄を受け止める。流石に大鎌の鎌の部分は届かないし、柄であるから幾分か受けやすくはあった。しかしこちらが受け止めた時点ですぐに柄を持ちなおされ復帰する。だが、懐に入ってる今ならば打撃を与えれるのではないかと剣を柄に滑らしながら体を無理やり近づける。それを察知したのか、向こうも同じようにしてきた。


「がっ!」

「っ!」


 互いに体当たりをするような形。身長差があるからか向こうの頭突きが体に入ってくる。みぞおちでなくても滅茶苦茶痛い。だがこちらも一発肘を入れてやった。今までの経験から防御能力はあまり高くないということはわかっている。今の自分は魔術による身体強化を行っているので打撃でもそれなりに高い威力だ。

 互いに一撃を加え、お互い下がる。ダメージを受けているはずなのに死神は先に大鎌を振るってきた。やはりリーチが長いので射程の有効範囲が大きい。剣で受け止めるが、体に頭の一撃が入ったため受ける力が若干弱い。そこに防壁の魔術を張る。

 死神は自分に向けられた魔術にはよく反応するが、こちら側に欠ける魔術には反応しない。おかげで防壁の魔術は比較的使いやすい。これを張ることで大鎌の攻撃を受け止めていられる。もっともすぐに破壊されるし魔術の魔力消費は大きいので使いどころは重要だ。だから一気に攻め込む。


「ふっ!」

「っ!!」


 思いっきり切り込む。もっとも回避されてしまうが、大鎌を抑えられた状態で斬りこんでくるのは予想外だったか。大鎌を振るった状態の体勢のままだったから回避はなかなか難しかったはず。しかし一気に後方へと下がった。そこに追尾の魔術と直線に跳んでいく魔術を仕掛け、追尾に合わせ攻撃を仕掛ける。

 直線の魔術は避けられるだろう。しかし追尾は撃ち落とすしかない。だが、そのあとはどうだろう。追尾魔術に対処した後は大鎌で魔術を弾いた直後。そこならば……


「っと!?」


 追尾の魔術を斬り払った大鎌がすぐに方向を変えて戻ってくる。死神の力は異常に高く、思いっきり振るった攻撃の後でもすぐに真逆に方向を変えてくる。それでも大鎌を翻るのは難しいはずだが……どうやら刃の部分ではなく長い棒部分で叩くのが目的のようだ。当然受け止める。


「はあああっ!!」

「っ!?」


 そんな攻撃の直後、突如殴ってきた! 完全にこれは想定外だ。思いっきり地面を蹴って下がり、さらに咄嗟に魔術を撃ちこむ。魔術はしゃがんで回避されたが、その後の追撃はない。少し疑問符が浮かんだが、下がって死神の次の動きを待つ。


「………………?」


 ……次の動きがない。


「ふ……ふふ、ふふふふ、あははははははっ!」

「っ!」


 唐突に笑い始めた。面白そうに、楽しそうに。今までにない、死神の様子に流石に驚いた。


「あなた強いんだ」


 言葉の意図が読めない。考えが読めない。だから、咄嗟に答えられない。


「もう。少しは何か話したら?」

「戦闘中なのにか?」

「そうだよ。むしろ戦闘中だからこそ、じゃない?」


 同意を求められても困る。こちらは生き延びるのに必死で死に物狂いで戦っているのに、呑気に話す余裕があるかと言われても。


「私ね、強い人と戦いたいと思ってたんだ。だから戦争に参加しろって言われて、そういう人がいるかもって思いながらしかたないなあって思ってた。でもいるのは期待できなかったけど。だから……あなたに、攻撃を防がれた時、凄く驚いたよ」


 随分と戦争への参加理由が軽い。いや、まあ、彼女の感じから使命感とかそういう物をもって戦いに出向いた感じではないだろうけど。そもそも誰に参加しろと言われたのか……死神に関して依然調べたのは……いつだったか。

 まあ、死神ついての情報はほぼ戦争で戦う形で得られるものばかり。つまりどこかに彼女は隠されていたんだろう。そこまで隠せるとなるとやっぱりその相手はよっぽど偉い人、つまりは王族とかその辺だろう。多分。


「ずーっと、ずーっと、戦ってきてばかりだったけど、私よりも弱い人ばかり。つまらなかった。一番強い人だって言われて戦った人もいたけど、その人も……あなたほどまともに戦えなかったよ? だから、あなたみたいにずっと戦えて……とても、とてもうれしい、とっても楽しい」


 まるで恋人に語るように、頬を染めてこちらに言ってきた。何だろう、少し複雑な心境だ。


「もしね、わたしに勝てたら……私の人生、私の命、私の心、私のすべてをあなたにあげる。いうことも何でも聞くよ」

「っ」


 笑顔で、にこりとした笑顔で宣言してくる。怖い。宣言してきた内容の重さが、ではなく、その言葉と笑顔の中に含まれる獰猛な本性、感情が。あの笑顔の裏に、とんでもない激情がある。先ほどまでの攻撃が生ぬるく感じるほどの。冷汗が流れる。緊張が高まる。


「だから」


 死神が大鎌を構えた。死神から感じられる気配、気迫、大鎌が向けられることでそれらが奔流となってこちらに流れ込んでくる。そして大鎌は薄っすらと黒い光に包まれていく。


「本気で行くね」


 死神が地を蹴った。


「っ!!!!」


 圧倒的な暴風。かつて戦場で見た大鎌を振るいつづけていた姿もまるで暴風のようなものだったが、それは今では見える、対処できるものだった。しかし、この一撃はそれを遥かに超える速度と破壊力を伴っていた。今までの経験と、本能的な勘、咄嗟の反応で一撃を防ぐことができたのがまるで奇跡に思えてくる。

 しかしそれでギリギリだ。攻撃を受け、それを支えるので精一杯。そして死神は大鎌をくるりと回す……体を軸に左手側に柄を回した。左手が大鎌の柄を持ち、それがその回転の勢いに合わせこちらへと。それを理解し瞬時にこちらも剣をそちらへと全力で向け、防御を。


「な」


 死神の二撃目、それを剣で受け止めることはできた。防ぐことはできた。しかし、二度の全力の一撃を防いだ剣は……大鎌の一撃でその身を打ち砕かれた。


「ああああああああっ!!」


 その声には苛立ちが含まれていたと思う。それが何なのか理解できる前に、自分の体が薙ぎ払われ次の瞬間には意識が消えていた。






「………………」


 始まりの日。ループの最初。目が覚めて、あの時の死神の声を想う。


「こっちも納得いかないっての……」


 死神は全力を出して戦えること、自分とまともに戦える俺と戦うのを喜んでいた、楽しんでいた。戦闘狂かなにかかと思う所だが、彼女のそれが生まれた理由については知らない。関係ない。ただ、あの時の声は……剣が壊れ、これ以上戦えない。戦い続けられなかったことへの怒りなんだと思う。


「はあ……結局力量もまだまだってことだけど……それ以上に武器が足りていなかったみたいか」


 本気を見せられた以上実力でも負けていたわけだが、それ以上に死神との全力のぶつかり合いとなると武器が持たない。その事実に少し頭が痛い思いだ。武器はなんとか頑張って一年の間でできる限り最高の物を用意したのである。しかし死神の全力はこちらの想定を上回り、その結果砕かれた。師匠の所、魔術師側であればもう少しいい武器が手に入るが……それでも、あの死神の力には恐らく耐えられない。そこまでの差はないだろう。


「……腕のある鍛冶屋を見つけないと。少なくともあの剣以上のものがないとどうしようもない」


 現時点で見つけている鍛冶屋では駄目だ。というか今見つけている所での最高峰があれだ。だからもっといい鍛冶屋、それでいて自分のような実績の足りていない人間でも剣を作ってくれるところを探し出さなければならない。かなりの無茶になるが、そうしなければ死神に対抗するのは無理だ。あともう一つ、肉体の強化も現状足りていない。そちらも今以上を目指さないといけない。


「とりあえず新しい目標……今の物以上の剣の入手、か」


 すべては死神を超えるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ