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ループ  作者: 蒼和考雪
20/54

loop19 学び鍛える

「一手届いた!!」


 ループの始まりの朝。戻ってきて早々、死神の一撃を剣で防ぐことができたことに感動し大声で叫んでしまった。そのせいで母親が入って来たが、少しの間それに気づかなくてどつかれて現実に帰ってきた。流石に大丈夫か心配された……





「まあ、防げたことは防げたけど、あれじゃあ……駄目だよな」


 戻ってきてすぐにあった出来事のこともあり、出立の雰囲気が微妙な感じになってしまったことを思考の隅の方に追いやりつつ、あらためて死神のことを考える。

 師匠と一緒に魔術師側で待機していたが、あの時死神は魔術師による一斉攻撃を回避していた。いや、回避するだけではなく、自分に当たりそうなものは的確に弾いていた。特に追尾性のあるものは確実に。当たりさえしなければ、自分のすれすれを通るものはまったく気にしていなかった。

 これはつまり自分に当たるかどうかの判断ができると言うことなのだろう。思えば自分が魔術を使った時もうまく避けてたし。その判断がどうしてできるかは色々と謎だけど、これは死神の防御能力についても考察できる。魔術を受ければ厳しい結果が待つゆえに回避を行うと言うこと。であればあの少女の身体能力は一体どういうことなのだろう。


「自分と同じ身体強化、とか? でも身体強化は元の強さが必須になる。銅と銀で強化の差があるのは確かだけど、それでも……仮に身体強化だとするなら師匠よりも実力が上の魔術師でもなければまず無理だろうな。流石にちょっとわからないか」


 死神の強さの理由についてはほとんどわからない。何度も挑み、相対し、殺されてきたのだが、結局死神の情報は碌に得ることができていない。ただ、今回は死神の攻撃を止めることができた。これからは少しずつ攻撃を防ぎ、相手の実力を見定めることくらいはできるだろう。

 とは一手も。あの時確かに言って防げたが、その後の死神の行動は手早い。こちらが攻撃の手を止めたことに驚いた表情をしていたことはどういうことかと思う所であるが、それは置いておく。あの時死神は攻撃を受け止めた剣の上で大鎌を滑らせて上へと持ち上げ、そのままこちらへ振り下ろしてきた。あの時止めたことに感動していたから止められなかった……と言いたいところだが、それを考慮しても止めることができたかと言われると分からないくらいに速い。来るとさえわかれば、次は対処できると思うが。


「……ひとまずどうするか」


 この後の行動はおおよそ決まっている。まず最初に冒険者崩れの三人を殺し、ギルドに向かい冒険者登録をする。そこまではいいがその後どうするかだ。肉体を鍛え魔術師の時では得られなかった可能な限り最大の身体能力で死神との戦いを行うか、それとも師匠の下で魔術師としての実力を高めるか。

 もし前者を選ぶならば、確実に魔術師でいるときよりも対応力は上がる。少なくとも銀の魔術での身体強化であれば、鍛え方が甘くとも銅の魔術での最大の身体能力時とほぼ同等にできた。こちらはこちらで武器や防具を揃えるのに国の後ろ盾を借りれないのが困ることだが。最終的に仲間を生かすことを考えるとこちらでやっていかなければならない以上、必要なことを知るにはこちらの方を幾らかやる必要があるだろう。

 後者を選ぶのであれば、いまだに得られていない魔術に関しての知識を学べる。師匠以外の魔術師から学べることがある……かもしれないが、知識や技術の発展であれば師匠のところが一番いいだろう。応用や呪文による手、師匠も幾らか使えるような隠し玉があるかもしれないし弟子として師匠の手伝いをしながら色々と師匠から知識を得られるのであればかなり戦いに有効な手を得られるかもしれない。


「どっちを選ぶべきか……まあ、結局どちらも選ぶことになるんだろうな」


 今回で、次の回で。そんな短い回数でどうにかできるはずがない。死神の攻撃を防ぐことができたのは今まで何度も死神の攻撃を受けその攻撃の流れ、規則性をある程度理解できていたという経験則に基づくもの。それだけで同等に戦えるほど甘い相手ではないだろう。死神の魔術攻撃の回避を見ても、自分よりはるかに高い能力を持っているのは間違いないのだから。

 つまり一手対応できるからと言って他もどうにかできるかと言われれば別であるということだ。そもそも防いだ後にすぐに攻撃に移れるか、その後の攻撃にすぐに対処できるかと言われると疑問である。もし何とかするつもりであったなら防ぐのではなく受け流す方向性にした方がいいはず。大鎌を逸らし自分から遠くに追いやったほうがいいはずだ。


「まずは……戦闘能力を高めてどの程度まで対抗できるか、だな。あの時の防御の後で行動できるか、受け流しを行うことはできるか、相手の次の攻撃を防ぐか回避することができるか。そして身体能力を最大まで鍛え銀の魔術で身体強化した場合どれほどまで強くなれるか」


 前回は魔術を学ぶため魔術師になった。だから今回は身体能力、肉体面についてどこまでできるかを知るために冒険者側で活動する。クルドさんのチームに入るか、ソロで行動するか……今回はソロでやるしかない。チームに入ると肉体を鍛えることに制限ができる。

 そういえば……魔術師になるのであれば冒険者としての活動は不可能になる。そして自分の魔力量は銀の魔術師、あの玉で調べた場合確実に魔術師になる道を選ぶことになる。いや、断れるんだったか? どちらにせよ、銀の魔術師相当であるとわかると面倒が多い。つまり魔術に関して冒険者としてかなり制限ができる……ということではないだろうか。


「……色々と面倒だな。まあ、魔術を使うからって魔術師としての能力を調べる必要性はないし」


 その場合どこで魔術を学んだか、と問われることになりそうだが。まあ、そのあたりは魔術師の知り合いがいたことにするなりなんとでもなる。少なくとも使う魔術を銅の魔術に制限すればまだ……なんとかなるだろうか。なるといいなあ。






 そうして今回も冒険者崩れの三人を始末してギルドに登録をする。そして今後は冒険者として活動しつつ体を鍛えることになる。いつの間にか戻ってすぐでもそれなりに戦えるようになってきた。剣術や魔術の経験は肉体に依存するわけではないからだろう。剣術はいくらか肉体に依存するかもしれないが、技術は精神的な経験だけでも幾らか反映できる部分もある。まあ、あくまで冒険者崩れを相手するのに困難ではないくらいなものだ。それでもまだ魔術は必要なレベルだし。

 依頼を受けて魔術の使用と身体能力の適応、感覚と経験を慣らして合わせ、動きを最適化する。戻ったばかりの肉体では完全に経験的なそれといっちさせることができないのでやはり鍛えなければいけない。だから鍛え続ける。途中で前に剣術を教わった強面冒険者に心配されつつも、無視してソロで自分を鍛え続ける。流石に一年であっさりと銅に上がるということはなかったが、少なくとも鉄の冒険者の中では相当に上位であると認められている様子だ。些細なことだが。

 そして風の季節がやってくる。一年が過ぎるのが早い。

 戦争がはじまり、冒険者側ではいつもの一で死神を待つ。この場所だと真っ先に死神に相対すると言うことはなく、冒険者側に犠牲が出るのが少し気になる。今度からは少しでも前の方に出て被害を少なくできるようにするべきだろうか。

 そして冒険者側がボロボロになるなか、死神と相対する。いつもの攻撃、その流れを見極めて防ぐ。またも驚いた表情……魔術師側で見た時と変わらないものだ。それを見届け、すぐに攻撃に移ろうとする。驚いている今ならば隙も大きいと思ったからだ。

 しかし、大鎌を受け止めた時点でかなり状態としてはギリギリであるとわかった。大鎌に籠められている力が消えているわけではない。もし少しでも剣を持つ力を弱めれば大鎌はそのまま自分を斬り裂くことだろう。鍛えても、まだこれほどに差があるということだ。どうするか、他に攻撃手段はないかと思っていると力のかかり方が変わった。鎌が下へと落ちる。死神が大鎌から手を離していた。しかし、すぐに掴みなおし、それを斜めに掬い上げるかのように振るいあげた。

 腰の少し下から入って斜め上に。ほぼ下半身と上半身に分かたれたような状態。そのままずるりと体がずり落ちる感覚を感じる中、二度目の攻撃によって首が飛ばされた。なんともまあ、止めを刺すことに余念がないのだなと一瞬だけ思った。






 死神に殺され最初の日に戻る。そして今度は魔術方面を鍛えることに決めた。師匠から学ぶべきことはまだまだ多い。身体強化ばかりを入念に使っているが、他にもまだまだ銀の魔術であれば使えるようなものも多いはずだ。もっと死神相手に使える魔術があるだろう。回避される可能性も考えておかなければならないが。

 以前教えられたことをもう一度学ぶことになりそうだが、以前学んだ以上これ以上教えることはないと合格水準にすぐに達することができるはず。あの人はかなり厳しかったゆえに。魔術方面は精神や記憶だけでほぼ完結しているのでループの中でもほぼ問題なく状態を維持できる。ありがたいことだ。

 そういうこともあり、魔術は一度覚えれば次以降でも有用的である。代わりに次の周回でかかわる必要性が無くなってしまうのでもう一度触れる機会があっても無駄にしか思えないのが苦しい所だ。

 そして師匠から新しい銀の魔術を学びながら、仕事の手伝いをする最中身体能力を鍛え、武器や防具を揃えて未来に向けた準備を行う。他にも師匠のところにある様々な資料を読み、自分でもなんとかできるかもしれないような魔術の知識や情報を調べる。まあ師匠のところにあるその手のものは本棚で十以上、資料も難解な論文のようなものも多くなかなか読めないのだが。

 また、そういった資料の中には魔術には関係なさそうな昔話や伝承の類、古代の遺跡に関するもの、神話の竜についての伝承や魔物についての資料などもある。いくつか伝承に関しては寝物語で聞くようなものもあり面白いなと思えるが、これらは正直死神を相手するのに関係ない物だろう。

 そうしてやはり風の季節はいつも通りやってくる。

 戦争がはじまり、前と同じように冒険者と兵士達が死神によって突破され、そこに魔術の一斉攻撃を打ち込む。やはり今回も通用はしないが。結局前回と同じように突貫したが、ほとんど変わらない結果だった。師匠に攻撃に合わせて有効打を打ち込んでほしいと頼んだが、それを確認する前に終わってしまった。






 そうして冒険者側、魔術師側をループする中で繰り返していく。前者は肉体方面に関する強化と最適化をしながら、死神との戦闘に慣れていくことをメインに。徐々に相手の攻撃に対処できるようになることを念頭に鍛えていく。後者の魔術師側では主に新しい魔術を学ぶこと、資料を読みながら死神に対抗する可能性の持ち得る手段、手法を探る。全ては死神の撃破のためのものだ。

 とはいっても。一年間の余裕があるとはいえ、そんなことばかりを繰り返せば精神的に荒む。ずっと同じ一年を繰り返せば精神的につらい。そういうこともあり、ループの中で時々クルドさんのチームに所属して仲間との時間を過ごすこともある。最初の仲間である彼らは、自分にとって一番信頼できる相手と言える。だからそうすることで精神的な疲労の回復や癒しになるのである。また、初志貫徹、かれらの生存を目指すことを忘れないことを思い出すためでもある。

 何度もループをしていると少しずつ記憶に憶えのない、なぜこうしたかと思うような、憶えられていない事柄が僅かながらある。ちょっとしたことや問題の無いことならばいいのだが、いつかは限界が来るかもしれない。流石に一年規模のループは記憶量の限界という壁が存在するのだろう。その記憶の限界が来る前に、なんとしてでも死神を倒さなければならないだろう。

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