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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop15 鍛錬とソロ生活

「根本的な問題だよな」


 死神と相対して大鎌の攻撃を剣で受けようとする。体を鍛え魔術による強化も合わせてその軌道が見えるようになり、大鎌の攻撃でも切断できないような剣を作り攻撃を防ぐ。ここまではなんとかできた。実際に武器の防御力は十分で大鎌の攻撃を受けられた。問題となるのはここからだ。

 問題点はかなり単純な話で、大鎌の攻撃を受けた時に掛かる手首や腕などの体への負荷、それによって武器を持っている状態を維持できなくなったことだ。その勢いのまま剣が弾き飛ばされ大鎌の攻撃が自分の体を抜けてすっぱりと斬られた。

 つまりは自分の力が足りていないと言うこと。こればかりはかなり難しい問題だ。


「……まず問題の一つ。体を鍛えることに関して」


 体を鍛えるのには依頼の受け方を考える必要がある。冒険者としての仕事をしている間はあまり体を鍛えられないので休日をきちんと作る必要があること、依頼の内容を戦闘中心の討伐依頼を行うこと、身体能力を鍛えるのならばそれくらいした方が都合がいい。しかし依頼に関してははチームに入っていると色々と難しい。

 クルドさんのチームに加入し依頼を行う場合、クルドさんが何の依頼を受けるかを決める。リーダーだから。こちらも依頼に関しての意見を言うことはできるものの、チームである以上必要以上に仲間を危険にさらすような無茶は出来ない。特にクルドさんは比較的堅実に依頼を受ける方針のようだし、そもそもチームだと個人でできる行動の自由の限界や制限、休日でもあまり勝手な行動ができないなど都合がつきにくい。そういった理由もありチームを組むのは難しい。


「基本的にはソロで行動するべきか。出来る限り完璧に、徹底的に鍛える。もちろん死なないように注意して。でも死ぬような危険まで追い込んでギリギリまで鍛えないと厳しいか? どこまで肉体を鍛えることができるのか、色々やってみないと分からないな……」


 戦争までの期限は一年間。鍛えるにしても場合によっては休みなし、徹夜するような感じで気合を入れてやっていかないとだめだろう。もっとも……これだけやっても届くかどうかといった所だと思うけど。


「……ソロか」


 ソロを選ぶと言うことはクルドさんのチームに入らないと言うこと。もしそうするならばクルドさんのチームの生存が問題となる。死に戻りすることで状況はリセットされるのだからいいのでは、と思うかもしれないがそれを理由に仲間を死なせることを許容するのはどうだろう。一度許容してしまえばそれ以後も何かと理由をつけて同じことをしかねない。しかしならどうするべきか。


「……いや、もしかして何とかなるか?」


 あらためて考えてみるとあの三人の冒険者崩れたちの相手はどうにかなるかもしれない。今の自分には魔術がある。できれば先手を打ちたいところだが、相手が木の上に登っている場合は先手を打つのは難しいかもしれない。

 でもリーダーが不意打ちをしてくるのであれば、それさえわかっていればこちらでも対処できる。察知できれば先になんとかしてリーダーを潰せば他二人を倒すのはまだやれそうだ。まあこちら一人相手に不意打ちをしてくるかはわからない。

 三人同時に戦うのであれば、魔術を使いリーダーを先に倒す形になるだろう。問題は弱い方のうち二人を相手にさせられるか、一人だけが相手の場合。前者の方が厳しいが、魔術を使い二人同時に倒せれば都合がいい。後者だと魔術がばれてリーダーともう一人を相手に戦うことになるかもしれない。

 一人対複数だから厳しい所は多い。しかし負けても恐らくは殺されるだけ。その場合自分はループするだけで済む……歪で頭のおかしい間違ったやり方だと思うが。自分は死んでも問題ない、最悪の場合死んで終わらせて次に移ることができる。そうだからこそ無茶なこともできる。駄目なら別の方法を、トライアンドエラーという奴だろうか。まあ何だっていい。今までと同じやるだけやってどうにかするだけだ。

 そうと決まればまずは…………


「すみません」

「おう、何だい?」


 少し遠くにいた商人らしい男性に近づき話しかける。この時期の街道は自分のような田舎から出てくる冒険者志望の若者目当ての商人が多い。目的の物を売っているかはわからないが、売っていなくとも何か一つ商品を買って目的の商人を教えてもらえばいい。


「剣は売ってますか?」






「ギャッ!」

「ふう」


 森の中を歩くとテナガザルと出くわしたのであっさりと斬り捨てて森の奥へと向かう。あまり狩りすぎると依頼の件がどうなるかはわからないが、情報伝達速度や監視もなかっし、依頼が無くなるのならむしろそっちの方がクルドさんたちは安全な可能性が高いので特にこれといった問題はない。もっとも受ける依頼が変わってしまえばその分別の依頼で危険に巻き込まれる可能性もあるが……その場合はどうしようもないので仕方がないと諦めよう。

 守りたくても守り続けるのは難しい。単に守ると言うだけならばいいのだが、最終的にどうにかできなければ意味はない。何をどうすればいいのか、何度も繰り返し最適解を探すしかない。


「……ゲームじゃなくてリアルなんだけどな。でも、そうしなければ抜けられない。


 人生も、仲間も、生きるために全てを捨てていけば話は違ってくる。逃げることもできただろう。前にやったように別の国に行ったっていい。そうすれば生きることだけならできるかもしれない。


「うじうじ悩んでもな」


 一度答えは出した。自分は自分の守りたいものを守り先に進む。自分、クルドさんたちの生存。その二つを成立させる。そのためにも死神を越えなければならない。生かすだけならば、それこそ監禁や冒険者人生を奪う方法もあるかもしれないが、それはどうだろう。守れれば何でもいいと言うわけじゃない。


「…………こっちか」


 風の魔術は攻撃に向かない魔術だ。強風を吹かせるくらいの事しかできない。しかしそれしかできないというわけではない。冒険者向けの攻撃魔術がそれくらいというだけで他に色々と扱える。例えば今使っている音を集積する魔術。小さく話しているようなことでもその音を拾い耳に届かせる。まあ虫の鳴き声などの雑音がうるさいのがつらいが。これを使えば微かな息使い、ひそひそ話、枝の上でのわずかな動きの音など色々な音を聞くことができる。

 その音を頼りに冒険者崩れを探す。もともと何回かの周回でほぼ相手が気の上にいることは知っている。先ほどのテナガザルからもそれは確実だろう。知ってさえいればある程度は音でどこにいるかわかるし、襲ってきた場合もその音ですぐに動き出せる。

 ああ、あと身体強化も今のうちに使っておくべきだ。同時に魔術を使うと消耗が大きいのであまり早いうちに使いたくはない。近く……それなりの場所で使う。


「…………」


 枝、真上のほうから息遣いが聞こえる。不意打ちをしてくるか、こないか。下りてきて相手をどうするか。少しずつ歩きながら音を聞き動きを感じる。


「っ!」


 枝の揺れる音、微かな蹴りの音を聞きその場から一気に駆ける。ついでに自分のいた場所周辺を土の魔術で落とし穴に変える。身体強化の時間は魔術により減ってしまうが、これで確実に相手を減らせれば大きい。それがリーダーならば尚更だ。


「うおおおおおっ!?」

「リーダー!?」

「でっかい穴が空いてる!?」


 リーダーはまともに穴に落ちたようだ。他二人は上から降りてきて穴を覗く。名前は憶えていないが今はどうでもいい。二人に近づきそのうちの一人を無言で斬り捨てる。襲い掛かろうとした相手から意識を外してどうするの。


「ぎゃっ」

「っ! てめぎぇっ」


 相手が近づいて攻撃してきたのに行動が遅い。まあこちらから意識を外していた時点で仕方のない事かもしれない。そのまま二人は穴へと蹴り落とす。穴はそこそこの大きさですぐに登れる深さではない。落とした二人に押しつぶされてくれるとありがたいが。


「ギム! ベジュー! よくもやりやがったな!」

「こっちを殺す気で上から襲ってきたのにやり返されて文句を言うのは筋違いだろう」


 相手を殺していいのは殺される覚悟があるやつだけ、とは言われるかもしれない。でもそれは微妙に何か違うと思う所ではあるが。でも、まあ相手に手を出すつもりならやり返されることは考えておくべきだろ。まあ今はどうでもいい話。


「遺言はあるか? 聞いておくけど」

「はっ! 言ってやるかよ! お前はここで殺してやる!」

「それが遺言でいいんだな」


 持ち物から購入しておいた油を取り出す。夜の明かりや料理など、火元は相応に必要である。カンテラなどに火を灯すのに使うのが一般的だが、ちょっと余分に買っておいた。色々と利用できるので。全部使うのはちょっともったいない所ではあるが、最後の手向けというやつだ。中身を全部冒険者崩れにぶっかける。そういえばリーダーであるこいつの名前は知らないような気がする。


「うあ!? 何しやがる……油?」

「死ぬなら早く死んだほうがいいぞ。熱くて苦しいだろうからな」


 火の魔術で油に火をつける。距離的に遠くまで飛ばせる火の玉の魔術。魔力の残りから火を灯す魔術にしたいところだったけど、しかたない。現時点で他にすることがないのでまだ問題はないだろうけど。


「ぎゃああああああああああああああっ!!!」


 熱気を感じる。火に焼かれて苦しむ男の声が聞こえる。正直気分は宜しくない。次回以降はもう少し殺し方を考えよう。殺すのに慣れるのはどうかとも思うが……この三人はここで殺しておかなければいけない。そうしなければクルドさんたちが殺されるから。善悪なんてものを考えてはいけない。

 人の焼ける臭い、声をあげることもできなくなった穴の中の焼死体。殺した三人をこのまま放置するのも問題になりそうだし、痕跡が残るが埋めておこう。少しだけ残った魔力を使い魔術で穴を埋める。埋葬というわけではない。単なる……単なる後処理だ。そう思うことにする。


「……っはあ」


 気が滅入る。クルドさんのチームに入らないのであれば、毎回一人で相手をしなければならない。もっともクルドさんのチームに入ってもこいつらを相手にするのは変わらないか。今後の状況次第だが、これでクルドさんたちが戦争まで生き残っていられるならば毎周回この流れで行こう。死を軽く思うな、殺す事に慣れるな、心を停めるな、惑うな。全てを終らせるまで。





 クルドさんたちが死ぬ一番の要因と思われる冒険者崩れ達を始末し何食わぬ顔で冒険者ギルドに向かう。朝の二の鐘が鳴る前にクルドさんの姿を見かけた。いつもの朝の集合、つまり今日が依頼の日なのだろう。今回から彼等とかかわる頻度は少なくなると思う。ただ、最初に決めた目的を忘れないように、時々彼らのチームに入るかもしれない。ループはこれで精神を削る。仲間との一時は数少ない精神的休養になると思うから。

 ソロで依頼を受け、体を鍛え、戦闘で武器の扱いを学ぶ。もちろん強さは目標に及ぶ者ではないが、自分に向いている最適を見つけられればそれでいい。もっともこれだけじゃあ足りない可能性はある。しかし学べるような相手もいない。伝手が足りない。だから独力で学ぶしかない。

 冒険者活動でお金を貯めて武器を揃える。防具もそろえたいところだがソロの依頼では厳しい所もあるし死神相手に防具がどの程度役に立つのかを考えるなら防具を揃える意味もない。もともとほとんど武器に費やされるし防具は諦める。

 そして戦争の日。戦場にてクルドさんのチームが来ているかを探す。生存確認だ。いつものチームの位置を考えそちらの方を探すと見つかる。そこそこ後ろの方だ。こうしてソロの時とチームの時とで位置に差があるのを考えると色々と面白い。前の方なのは都合がいい。死神にさえ勝てれば、クルドさんたちは守れる。まあ勝てればだけど。

 戦争が始まって死神が一直線に向かってくる。いつも通りその大鎌で死体を作り血と肉が戦場を汚す。あの少女の姿を身体強化した目で追いつつ、近づく。魔術を避けられるのは魔術を覚えた時の集会でわかっているが、どこまで避けることができるのだろう。有効打を出せる可能性があるのか、それともないのか。いろいろと試すのもありだろうか。

 もっともそれは次回に持ち越そう。今回は前と同じ、大鎌をなんとか受け止められるか試さなければ。大鎌の軌道に剣を差し込み、一撃を受け止める。剣はその一撃を耐え、手首の方も、一応は持った。しかし一瞬受け止めた大鎌もそのまま死神が力で押し込んでくる。その力に負けて剣が流されそのまま大鎌によって切断された。どうやらまだ足りていない、そう認識し自分の命の火が消える。また最初からやり直しだ。

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