loop14 貧者の抵抗
別にあれだけで勝てるとは思っていなかったがあっさりと魔術を回避された上に防御しようとしたらその防御しようとした剣ごと大鎌で斬り捨てられた。圧倒的な身体能力、大鎌による攻撃能力、今回判明したことだが魔術も容易に察知して回避される様々な能力の高さは脅威だ。だが……それ以上にこちらの防御能力、相手の攻撃を防ぎきれないと言う事実は一番厳しい内容だ。一応攻撃を見切ったわけではないが相手の攻撃に合わせて防御することはできていた。しかしその防御の上から……防御ごとあっさりと切り捨てられている。
まったく攻撃の速度が落ちることなく自分の体を大鎌が切り抜けていった。もともとあの少女……
死神の攻撃は冒険者をあっさりと斬り捨てていたことからも気付くべきだったのだが、並の盾や鎧、剣などの防御では防ぎきれないようだ。
「確か……あの大鎌は国宝なんだったか?」
死神の使う大鎌に関してはあちら側で調べた時にわずかに情報を得られている。あくまで大鎌という情報に関して国宝の情報が得られたというだけで死神がその国宝を使っていると言う確証はないものの、大鎌の使い手や武器として大鎌を作ったと言う情報自体入手できてなかった以上、あの大鎌は国宝であると考えるほうがいいだろう。前提として死神が国に情報を隠されている可能性も考えればありえることだ。
「……国宝ってもっとこう、豪華で華美な物じゃないか? でも……その由来にもよるか。昔の伝説の武器とかなら古臭いかもしれないし」
もし伝説や神話に出てくるような武器であったと考えるならば。まともな武器や防具で相手をすることはできないだろう。少なくとも普通の店売りの武器では難しいと思う。
しかし冒険者になったばかりの初心者が良い武器を求めても中々入手できないだろう。仮に入手するのであれば、攻撃能力が低く使いにくいかわりに防御能力が高いものを探すのがいいだろう。あの大鎌で斬り飛ばされない武器を得られればいいのだから。よくよく考えると武器で防御するから武器の攻撃能力を下げてでも防御能力を上げるというのは変な話だが。
「良い武器の入手となるとお金がいるな……」
自分は武器は基本的にギルドの貸し出し品を最初は使う。最終的に使った武器は買い取りする羽目になることが多いが、そこそこ優秀でちゃんと整備すれば長く使える物だ、ただギルドにあることからも性能はあくまで一般的な基準でいいものでしかない。
なので武器屋や鍛冶屋に専用の物、相応の物を求める必要がある。鍛冶屋はなんというか職人気質で難しい人間が多いので頼むにしてもあくまで最終的、後回しにするとして最初は武器屋を巡っていい武器を探すべきだろう。
いい武器にはお金がかかる。作る技術から必要とする鉱石、有用性からの需要、様々な要素が値段に変わる。初心者はいい武器を入手しにくいと言うのは値段の問題もあるし、初心者が良い武器を使っているんじゃないという嫉妬に近い視線なども影響するだろう。まあ確かに武器任せだと成長しないというのはあると思う。武器に振り回されたり、武器の力を自分の力と勘違いしたり、本人の実力も伸びにくいだろうしあまり良くない結果を招くことになる。
「まあ、そういうことは後で考えよう。別に何を買おうが個人の自由だし」
人がどのようにお金を使っても自由だ。遊ぶお金、食べるお金、物を買うお金、自分のお金で武器を買うのに問題はないはずだ。ひとまずお金を稼げるようにチームを組むことを考えよう。いつも通り……以前の通り、クルドさんのチームに加入する。前回は参加できなかったことが悔やまれる。見殺しにしたようなものだが、その分魔術という新たな力を得ることができたので今回は十分問題なくいけるはずだ。
「……魔術はどうする?」
魔術を覚えている冒険者は珍しいがいないというわけではない。しかし冒険者になったばかりの初心者がいきなり扱えるものではない。使ったら怪しまれるだろう。でも、一応村に魔術師が来た時に才能を調べられてその時教えてもらったといいわけすればなんとかなるだろうか。少々苦しいが真実を確かめるのは難しいはず。今のところ実家に戻るケースはなかったし、隠し事はわざわざ詮索しないのがチームとしては普通だ。誰にだって隠したい事情はある。
基本的に早めに使用しておいた方がいい。隠してもいいが、そうすると使えることがばれた時になんで隠していたんだと問い詰められる可能性がある。なら早いうちに知られた方が楽だ。
おおよそ大きな流れは変わらずその周回は進んだ。大きく変わったことと言えば魔術が使えるようになったことの影響だ。ちなみに魔術に関しては最初のテナガザル討伐の教導依頼の途中で冒険者崩れとの戦いのときにばれた。あいつら相手に手加減して長々と戦うのもと思ってしまったせいだが、それ以上にあの時点でカイザに人殺しを経験させるのが嫌だったからだ。
もっとも逆に魔術が使えること、人殺しをすることに躊躇がないことなどでクルドさんに厳しい眼で見られたが……まあ露骨に怪しいので仕方がない。他に変わったことと言えば、ハンナの恋愛相手が変わったことだ。彼女の相手に関しては恐らく依頼での活躍で変わるのだろう。最初から誰が好きというわけでなくフラットなため活躍した人間がカッコいいとか男気を感じるとかそういう感じで恋情を積み重ねていくのだろう。
そういった多少の変化を交えつつも順当に依頼をこなしお金を貯めて戦争への準備を行う。お金の猶予はそこそこ大きいが、その分体を鍛えるのに時間が足りていない感じだ。チームに入ると自由にできる時間が減るので鍛えるのがなかなか難しく厳しい所である。
武器に関しては幾らか武器屋を巡り一番攻防力に優れているらしい最高値の武器を買った。実用性を確かめて買ったが、単に高いだけで実際の運用ではそれほどでもないということもあり得る。一応魔物相手で性能を確かめたが、死神相手ではどうなるかがわからない。
そうして武器もそろえて風の季節、戦争が始まった。
クルドさんのチームに入ると位置はいつもより少し後方になる。ソロ冒険者は前寄りに配置され、複数にんのチームは後ろに配置、もちろん全てがそうなるわけではないが。なので戦闘が始まるまでに少しだけ観察する猶予があるのだが、その間にこちらが何も言わずとも死神の存在にクルドさんが死ぬ覚悟を決めて死神に挑みかかる。その際こちらにはお前たちは無理に挑む必要はないと言い残しくれるのだが……こちらを気遣ってくれるのはわかるがもう少しはっきりと言ってほしいし、できるなら一緒に逃げ出してほしかったものだ。
クルドさんに合わせて仲間に逃げろと言って自分は前へと向かう。そして死神に挑み鎌を受けた。一瞬、ほんの一瞬鎌は止まったように感じたがそのまま振りぬかれる。結局前回と大して変わらない死にざまだった。
「やっぱり下手な店売りじゃ厳しいか……」
実家から出て街に向かう道中は毎回これからのことを考えるのにいいタイミングである。出来ることが少なく思考するだけの余裕がある時間だ。
前回武器を整え死神に挑んだのはいいが、結局武器ごと斬り飛ばされた。一瞬止まったように感じたがすぐにそのまま斬り抜けていった。全く無駄ではないようだけど有効だったとも思えない。ただ普通に優秀な物ではどうしても厳しいものがあるのだろう。
ならばやはり性能の尖った武器を探せばいい。以前も少し検討はしたのだが、攻撃能力を下げてでも防御能力、耐久能力を挙げた武器だ。正直武器として使用できるのかはわからない所だが。それこそ剣を持ってくるのではなく鉄塊でも持ってきた方がいいのではないだろうか。
「武器屋に出来損ないでそんなのないか? いや、その手のものは見かけなかったかな?」
まともでない武器が売れるわけもない。売れないものを置く場所は無いだろう。そもそも鍛冶屋が売り物としてそれらの武器を武器屋に渡したりはしないだろう。ならば直接鍛冶屋に出向くべきか。
「基本の流れは前回と同じ、今回は武器屋でいい武器を求める形ではなく鍛冶屋に直接話を聞く。最悪鍛冶屋に作ってくれと頼みこむしかないが……伝手がないのが厳しいな」
いきなり鍛冶屋に依頼するの難しいだろう。それも初心者、仕事人や職人気質な鍛冶屋ならば断わられそうで不安だ。
目的である鍛冶屋に武器を求めて行ってみるがやはり多くの場合は直接出向くこと自体が断られる。理由は大体の場合腕前が足りていないだろうと言うこと、つまり実力をつけてから来いと言うことだ。店に売っているような普通の武器じゃない武器が欲しいと言っても聞き入れてくれない。たまに話を聞いてくれるところもあるのだが、目的の物があるとも限らない。まあどこに目的の物があるかもわからないので聞いてくれるところでどうにかするしかない。
そういう風に考えていたのだが、職人というものはやばい。大体の場合話を聞いてくれるところは一般的な基準の武器を量産するところが主だったが、その中に職人のところもあった。そこで見つけたこれなら悪くなさそうだと言う武器を見つけてそれを選ぼうとしたのだが、その考えが読まれていたのか、表情で妥協したとわかったのか、そんな気持ちで武器を選ばれたたまらんと言う感じでどんな武器が欲しいのかを訊ねられた。
欲しい武器の内容が内容である。伝えにくい内容だったのだが……鍛冶屋の親父は怖い。話してしまう。攻撃力を捨てて防御性能を高めると言う内容に眉をしかめられたのだが、どうしてそういう物を求めるのか、どういう使い方をするつもりなのかなども訊ねられる。
死に戻り、ループ現象に関しての話は今まで誰にも伝えてはいない。信じられないようなことであるし、頭がおかしいと思われると後に響くこと、仮に信じてもまた説明しなおす必要がある。そういった様々な心情が理由で話していない。話がずれたがそういったことが話せない以上、死神のことは伝えられない。だがそれでも必要なことを伝える。強力な攻撃を受け、耐えられる武器が欲しいと。
いろいろ隠していることもあり快くとはいかないが、鍛冶屋は頼みを聞き入れ作ってくれた。硬い鉱石、重さなどの問題も考慮し密度の調整、全体を金属で作るのではなく層状にするなど、色々と様々な試行錯誤をしたようだ。頭が上がらない話である。その結果……その当時の全財産を要求されたが武器を受け取ることができた。自分の全財産では足りていないのではないかと思ったが、そこは向こうの心配りなのだろう。本当にありがたかった。
そしてその武器を持って再び風の季節が訪れ戦争へ向かう。
相変わらずクルドさんが死神に向かっていき戦死、自分も追うように死神に立ち向かう。新しい剣は少し重いものの、身体強化の魔術も合わせれば普段の剣とそう変わらない。死神の振るう大鎌の軌道、その先に剣を構え合わせて防ぐ。大鎌の一撃がぶつかったが剣は耐えた……そう、剣は耐えた。その一撃によってかかった力により自分の手首が曲がりそのまま剣を持っていかれる。手首の痛みを感じる前に剣が吹き飛んでいき大鎌が自分の体を抜けていく。
結局攻撃を防ぐことができても相手の力に押されてしまった。武器が良くても自分の力が足りなければ意味はない。自分の死を経験しそれを理解した。