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ループ  作者: 蒼和考雪
13/54

loop13 影を捉える

 魔術の練習のために簡単な討伐依頼を受けその対象がいる台地へと向かう。


「あれだな」


 暴食豚もしくは暴食猪と呼ばれるもの。なぜ二通りの呼び方があるのかだが、その分け方は牙の有無である。牙があると雄なのだが、雌は牙がなく雄でも牙がない場合もあって牙がない豚の性別は分かりにくい。この魔物は雑食……どころではなく岩などの無機物ですら食べる。そういうこともあって通り道にある物は悉くが食い尽くされていると言う。まあ真っ直ぐ食べながら進むので本当に食い尽くすことはない。何気なく横を向いたりして方向転換をしたとき周りの物を食い尽くすことはあるみたいだが。この魔物は食い続けると同時に動き続けることもあり、結構な体力と筋肉を持つ。その体を維持するために食い続けているのか、その行動の結果その体が作られるのかは不明だ。

 それはさておくとして、この魔物は移動速度がそれなりに速くそのため被害規模は大きい。依頼は移動先を予測してその場所に行くように指示を出される。普通はそれなりに面倒な相手でソロで依頼を受けられることは少ないが、今回は出現したのが一体だったのでなんとか受けることができた。魔術の使用ができるからだろうか。


「まずは……火の魔術から」


 火の玉の魔術。魔物の類も基本的に動物に近い本能を持ち火を怖がることが多い。移動先に放ってみる。


「プギィッ!」


 目の前に炎が発生し道を塞ぐ。流石にそれを食べようとはせずに避ける。着弾した火の玉は炎として燃え上がるだけ、数秒で消えた。


「燃料があれば燃え続けるのか? 地面でも少しは燃えてくれるがあまり長くは持たないか。火付けの魔術と火の玉の魔術、違いは?」


 考えることは多いが今は暴食豚を追う。火の玉の魔術を使用しぶつけてみる。魔術の使用は慣れないうちは呪文が必要だったが今ではもうなくてもいい。詠唱無しで発動できる。不意打ちには向くが、魔物相手だとどの程度不意打ちできるだろうか。


「プギャアアアアアアッ!!」

「あ」


 火の玉が当たり暴食豚が大きく鳴き声をあげる。そして攻撃元であるこちらに視線を向ける。当然怒っている。まあここまで何度も使っていれば気が付かれるだろう。直接当たれば尚更だ、

 暴食豚がその体でこちらに突進してくる。暴食猪であれば牙での攻撃があるのだが、現在の豚では突進くらいしか攻撃手段はない。しかしその移動能力と筋肉、ただの体当たりでも攻撃能力は高い。猪と言えば突進だし。


「まあ怒っている状態なら視野狭窄になるものだけど」


 土の魔術を使って向かってくる暴食豚の前に落とし穴を作る。普通ならば先に準備しておかなければならず、掘るのにも体力を使うような落とし穴、魔術ならばかなり高速で作ることができる。突進の勢いのまま暴食豚はその穴へと落下する。怒り状態でなければ気付いて飛び越えられた可能性もあったのではないだろうか。


「……もしかして上手くいってなかったらやばかったか?」


 突進を受けていたら死んでいたかもしれない。というか可能性は高い。仮に死ななくても確実に行動不能になって生きたまま食べられていただろう。死に戻りするだけだが、少々油断が過ぎる。死を覚悟していても軽視するのはよくない。命は使っても無駄にするものではないのだから。

 そういった考えは後に回す。先に暴食豚をどうにかしよう。流石に穴に落ちた程度では強靭な肉体ゆえに死ぬようなことはなく、元気に穴を登ろうとしている。一応ある程度硬めな落とし穴になっているがそれでも少しずつ削られていく。登れるようになるには時間がかかるがこのまま放置するというわけにもいかないだろう。


「火の玉の魔術の威力調査……攻撃に運用できる魔術って火しかないような」


 魔術というファンタジーでもそこそこ現実的だ。水や土や風での攻撃手段が少ない。厳密にはないわけではない。水の刃、風の刃、土の槍。イメージ自体は楽にできるがこれらの魔術は銅のレベルでの使用は難しいようだ。少なくとも自分ではこれらの使用はできない。水の玉をぶつけたり強風を吹かせたり、石礫を飛ばすようなことは出来てもそれくらいなものだ。やはり攻撃要素が高いのは日に集中している。

 穴の中の暴食豚に火の玉をぶつけてみる。火の玉に焼かれ暴食豚は苦痛の鳴き声をだすが魔術により燃えるのは着弾して数秒。当たってから燃え続ける時間は結構短いようだ。その間高熱で燃やし続けるので数秒でも効果が大きい……と思うべきだろうか。少なくとも人間が相手ならば有効だろう。もっとも人間相手の問題は射程と速度だ。射程に関しては既に調べておおよそ五十メートルほど、距離が進むと結構な減衰あり。速度は普通の人が全力で野球ボールを投げたくらいの速度……だと思う。速度の測定に関してはやり方がわからないので正確に測れず感覚的だ。先の射程に関してもおおよその目測である。

 何度か魔術を使用しているとくらりと意識に揺らぎが来た。


「っ……もう限界か」


 魔術の使用限界は意外と早い。時間ではなく回数だが、銅のランクで魔力も少なく結構厳しい。火の玉を数度、落とし穴を一回。この程度でもすぐに魔力がなくなる。


「効率が悪い」


 魔術師としてやっていけるほどではない。せいぜいが不意打ちや奥の手に使えるくらいだろう。それくらいで死神に対し有効打を打てるかは疑問だ。仮にできても一回か二回。


「あまり攻撃関係でない魔術は優秀なんだけど。ああ、あと身体強化は結構長持ちするんだったか」


 身体強化の魔術は魔力が減っていない状態なら一時間程持つ。他の魔術を使うとその分減るが、それでも三十分使い続けることを前提としても三回は他の魔術が使える。問題は身体強化の影響が銅のランクで使えるものだと低いことだろう。これは言われていた通りである。


「身体強化の雀の涙ほどの戦闘能力増加をしながら火の玉や落とし穴での不意打ち、か……」


 あの絶大な戦闘能力を持つ死神相手にどれほど通用するかはわからないが、まずはその手段で挑もう。もっといい手が思いつけばいいのだが、そもそもの魔術の限界があるので難しい。


「っと、悪いな。止めを刺させてもらう」


 穴の中で火により弱っていた暴食豚を放置したままだった。火傷により結構苦しませていたみたいである。少々思考に集中しすぎだった。止めを刺し、討伐の証明として一部を回収し街へと戻ろう。





 そうして魔術を用いた戦闘の訓練、不意打ちの魔術使用の最適なタイミングの把握、身体強化の魔術用に肉体を鍛える、依頼を受けてお金を稼ぎいい武器や防具を揃える。そういった死神を相手にすることに向けての戦闘準備を行った。以前はソロでほぼ見向きもされなかったが、魔術を使えることがばれたからか幾度かの勧誘があった。

 本来はどこかのチームに入ったほうが仕事をするうえで効率や稼ぎがいいのだろう。依頼もいろいろと受けられ利点が大きいのは理解できる。しかし自分にとってのチームは最初に入ったクルドさんのところだ。あそこ以外にチームに入る気にはなれず、それらの誘いは断ってソロで動いた。対死神の準備もあるしチームに入り時間や行動の制限を受けたくないというのもある。

 幸いソロの経験もそれなりにあって魔術も扱えるようになったため、問題なく冒険者として活動できている。そうして過ごし…………一年が過ぎて風の季節が来た。そして戦争の冒険者の招集も。






「よう。ソロ魔術師冒険者」

「……何か用か?」


 いきなり馴れ馴れしく話しかけられる。熊のような体格に鬼のような強面の顔、もし初めて見たなら怯えてしまうか武器を構えるかしてしまそうな見た目だ。


「何、戦争は初めてだろ? ぶるってんじゃねえかって思ってな。ほら、俺はすごく怖がられているだろう?」

「あんたは見た目が怖いだけだろ。中身はそれほど怖くないからそう言われてもって感じだが」


 この凶悪な見た目だが性格は善良そのもの、他のソロ冒険者にも声をかけて気を使っていたりする。最初の時も二度ほどチームを組んだ記憶がある。今回は魔術を使えるからか、よく話しかけられるようになった。その影響かこの人を怖がってるためかチーム加入の誘いも減った。そういった部分でもやはり気を使ってるようだ。


「ははは。ま、その様子だと大丈夫そうだな」

「……そうでもないさ。こっちからも忠告。死にたくなければ逃げる準備をしておいたほうがいいと思う」

「はっ。誰が逃げるかってんだ。ま、頑張れよ」


 のしのしと自分のチームの所へと戻っていく。どうやら今回は彼等のところとそれなりに近い配置だったようだ。他にも近場にいるソロの冒険者に話しかけている。自分の時最初は後ろからだった記憶がある。

 最前に近い……というのは早くに死神に挑戦できるのでありがたいと思うべきか。本当はある程度後ろからどういった戦いをするのか観察したいところだが、あまり人の死ぬ光景を見続けるのもきついしちょうどいいかもしれない。


「……先に身体強化を使っておこう」


 いきなり始まって不意打ちを受けて死んだら目も当てられない。先にできる限り準備しておく。そうして準備を終らせ開戦を待つ。身体強化の維持をできる時間の問題もあるのでそこはちゃんと考えておかないといけない。程なくして開戦、死神が冒険者達に突っ込んで殺戮を開始した。


「少しだけ動きが見える…………女の子、か?」


 死神が大鎌を振るい、その大鎌が暴風のように高速で振るわれれ続けその範囲にいる冒険者を肉塊に変え血煙を巻き起こす。そんな大鎌の振るい主、それは赤い髪をしたツインテールの少女。髪型はとりあえずツインテールとする。わかればいいのだから。

 その少女の姿は暴風が巻き起こる中で少しだけ存在する攻撃の隙間、その僅かな時間に観測できる。ギリギリ、身体強化による僅かばかりな強化も功を奏してかろうじて見えるがそれなしで見ることは叶わなかっただろう。その僅かな時間も本当に極僅かだ。


「これ、魔術による不意打ちが効くか?」


 見えるからこそはっきりとわかる恐ろしいまでの戦闘力。それまででも十分恐ろしいのはわかるが、改めて確認して本当に魔術攻撃が効くか怪しいとしか思えない。でもやるだけやるしかない。

 死神の攻撃を見てどうするか惑い、少しずつにげつつある冒険者の隙間を縫って近づく。近づきすぎると攻撃に巻き込まれるのである程度の距離まで。攻撃の隙間の姿が見える僅かな時間、攻撃の間が空くタイミング、冒険者達が攻撃に巻き込まれ不可となったその瞬間、そこを狙って火の玉の魔術を発動させる。

 それを見るまでもなく、死神は横へと避けた。それを理解すると同時に、一気に距離を近づけ相手の足元に落とし穴の魔術を使う。距離が離れすぎていると発動が難しいから近づかなければならない。これで落下してくれれば、と思ったのだが……発動する前に死神がその場から跳躍し空へと逃げた。少女のいなくなった場所に穴が開く。

 落とし穴を避けた死神はこちらへと向かってくる。流石に魔術を何度も使っていればこちらの存在に気付くだろう。周囲にいる冒険者を大鎌で切り飛ばしながらこちらへと近づく。一応身体強化されていることもあり僅かながらも死神の攻撃がわかる。少しでも耐えられればと思い、大鎌の攻撃先に剣を構え、受け止め……


「え」


 られなかった。大鎌を受け止めようとしていた剣ごと体が大鎌に切断される。頭が半分程持っていかれ左腕、肩の方もなくなっている。もっともそれを知覚しきる前にすぐに自分は死んで意識が消えていった。

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