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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop11 新しい力

 改めて戦争に参加して死神をどうにかする……そういうことを考えるようになった。しかし、別に妙案が思い浮かぶわけでもはない。そもそもそんなものがすぐに思い浮かぶのであれば最初から実行しているはずだ。情報収集に徹していたのは現状では手詰まりに近かったから。そしてその情報収集は大して役に立たず、前は無知ゆえにどうすればいいかわからなかっただけだが、今はもう頑張ってもどうしようもないという状態になっただけである。

 どうにかする、と考えてもすぐに何か思い浮かぶわけではない。しかし時間は進む。とりあえず今までと同じ……自分が望む未来に近くなるように進めるしかない。二回目の時と三回目の時の流れと同じように街に着き、ギルドに向かう。


「…………ん?」


 ギルドでいつも通り登録を行っていたら横の方に視線が行く。今までも見たことはあるはずなのだが自分には関係のないものと考えていたので忘れていた存在だ。

 冒険者ギルドでは冒険者の登録を行っている。だが実は他にも役割がある。それが今自分の見ている方向にある特殊な受付である。魔術師教練受付……魔術というものは才能がなければできない特殊技能だが、その才能は最初から自覚しているものじゃない。まあ一部の実力者……魔術師でも上位に位置する者などは無自覚に周囲に魔術的な影響を起こすことはあるらしい。

 例えば触れただけで火傷しそうになるくらい熱くなったり、汗や尿などが染み込んだわけでもないのにいた場所が水で濡れている、完全に閉め切った部屋であるのに物を揺らすような風が吹く、いつの間にか周囲が砂や土で埋もれていた、など。赤ん坊や子供の時は自覚はなくとも無意識で魔術が使われることがあるらしい。もっとも前述通り、一定以上の魔術の才能を要する。逆に言えば、そういった現象を起こさなくとも魔力の才能を持っている人間はいる。ただし才能としては低く発見しにくいものだ。そういった才能を発掘するのが魔術師教練受付である。


「すみません」

「はい、どうしましたか?」

「えっと……こっちは魔術師教練受付でいいんですよね?」

「はい、そうです」

「受けたいと思うんですが、どうすればいいですか?」


 既に慣れたギルド登録は問題ないが魔術師教練の方は今回が初めてだ。何度かこちらに来ている人がいるのは見かけたことがあるが、殆どの場合は才能無しと容赦なく事実を突きつけられ方を落として離れていく。まあ魔術の才能を持っているかもしれないと考え期待するのだから戦力外通告されるときついのはわかる。

 しかし……自分が逸れに挑戦する立場になると少し怖い。そもそも今まで受けなかったのは農家の自分にはこっちの才能はないだろうな、という考えがあったから。仮に才能があると言われればそれはそれで今後の指針を決定する助けになるかもしれない。


「少しお待ちください……よいしょ」


 受付の女性が自分の足元の方に手を伸ばし、そこから水晶玉を取り出す。同時にクッションも取り出しており、それを敷いてその上に水晶玉を置いた。


「お手数をおかけしますが、この玉を両手で包むようにお持ちください。あ、持ち上げなくても構いませんので」

「えっと……こんな感じか」


 言われた通り水晶玉らしきもの……水晶なのか、ガラスなのか、ある程度透明で綺麗な球形の玉を包み込むように持つ。よく創作物にある魔力診断法の一種なのだろうか。魔力を流してくださいみたいな話はよく見た覚えはあるが……これだけでわかるものなのだろうか。

 そんなことを考えていると持っている玉に変化が起きた。玉の色が黄色に変わったのである。


「……銅ですね。しばらくお待ちください」


 銅……ランク分けの仕方は冒険者と同じ、鉄銅銀金なのだろうか。色の変化がどういった意味合いを持つのか、そもそもどうして色が変化したのかなどの疑問が浮かぶ。しかし銅であるなら……一応才能があると思っていいのだろうか。


「それもらいますね」

「あ、はいどうぞ」


 持っていた玉を渡す。


「本日から三日後、魔術の才能がある冒険者向けの講習があります。あなたの魔術の才能で有れば受講資格が存在します」


 三日後? そんな講習をやっているのか。今までもやっていたのかもしれないが、全く知らない。まあこちらに来なければ教えてもらえないのならば知らないのが普通なのだろう。


「受講資格……」

「はい。銅以上の魔術才能を持っていること。正確なことを言いますと魔術を使えるだけの魔力量を有すること……ですが」

「魔力……えっと、具体的には」

「私に聞かれても困ります……その、そういった話は講習の方でお聞きください」


 確かに受付の人にあれこれと聞いてもわからないだろう。あくまで受付は受付、誘導向けの知識はあってもいろいろと知っているわけではないだろう。そもそもこの人に魔術の才能があるかはわからないのだから。


「わかりました」

「講習はギルドの隣に存在する教習施設の二階の大部屋で行われます。当日は入り口に案内の職員がいますので、場所がわからなければそちらに案内してもらってください。あ、それとこれを」


 受付の人が黄色い硬貨みたいなものを渡してくる。重さ的には一般的な貨幣に近いが……別物だろう。色は着色されている感じっぽい。


「これは?」

「受講資格があることの証明です。仮に受講資格がなく参加しても恥をかくくらいですみますけど、一応こちらで審査したこを示しておいた方が都合がいいということですので」

「……はあ」


 受講資格がなくても参加していいのか。まあ魔術の才能がなければ結局魔術が使えないのだから参加しても意味はない。知識だけでも学びたいと言うのなら参加する意義はあるのかもしれないが……ああ、だから参加できるのかも?


「講習の開始時間は朝の二の鐘ですので遅れないように行動してください」

「わかりました」

「こちらからお伝えすることは以上です」


 そう言って受付さんは話を終える。これ以上は特に何かあるようではないようだ。少し話が長かったためか、すでにギルドの登録は完了していた。


「……あれ?」


 いつも通りハンナの呼びかけを待っていたが、特に誰も来なかった。何故だろうと思ってギルド内を少し見回ったが……クルドさんのチームが見当たらない。


「……もしかしてもう六人揃ったとか?」


 あり得る。今回は魔術師教練受付で会話し、色々とあれこれやっていた。そのせいで向こうが話しかけるタイミングがつかめず、その間に別の新人に声をかけて回ったのだろう。新人冒険者は自分しかいないわけじゃない。俺の代わりなら誰か一人誘えればそれでいいのだからそこまで難しいわけじゃないだろう。結果として、俺以外の誰かがクルドさんのチームに入ったわけだ。

 別にクルドさんのところに自分が行かなければいけないというわけではないが……もし最初の時と同じ人物だったなら。いや、そもそも新人冒険者にあの教導依頼の時に潜んでいる三人の存在に気づけと言うのは無理だろう。つまりクルドさんのチームはあいつらにやられて壊滅する。一応教導依頼を探してみるが、既に持っていかれてなくなっている。該当する依頼を剥がして隠す……ということももう出来ない。せめてもう一日早く来ていればなんとかできたのかもしれないが、それも結局今更だ。まあそもそも依頼を隠すのは注意の対象になるしどこに隠せという話でもあるんだが。


「……まあ今回は諦めるしかないか。仮に魔術を使えるとしても死神が今回でどうにかできるとは思えない」


 もし次回以降の周回でクルドさんのチームに入らない場合があるとするならば、その場合のクルドさんたちの生存方法をどうするべきか考えておく必要があるだろう。あの冒険者崩れたちが存在することを言う、というのも難しいか。まず信じられる保証がないし、知っている理由がわからない。ループに関して放してみるにしても……流石に妄言とみられるだけだ。

 一つ手があるとすれば先に現場に行ってあの三人に対処しておく。まあ流石に厳しい所だが。仮に対処するのであれば、クルドさんたちがあそこに行くまでの間に何とかしなければならない。あの村の位置を考えると……こちらに来る前に行くとしておおよそ三日ほど。ルート的に街とは別方向なので待ちに来るのは無理だな。

 しかし、問題は相手が三人であること、そして自分の実力。いくら冒険者人生を周回して四年分の経験があると言っても、肉体だけはどうしようもない。一応今回で魔術を学ぶことができたなら、その魔術の能力次第でなんとかできる可能性はあるが、あまり期待しすぎても仕方がない。


「ひとまず今回クルドさんたちが戻ってくるかどうかで後のことは考えるとして、魔術に関しては学んで一年間の間に色々と使って検証してからだな。色々と手は考えてみたほうがいいし、今回のようにチームに入って助けられるとは限らないわけだし」


 それにクルドさんのチームに入った場合死神への対処に問題が発生する。チームでの活動はいろいろと坑道に制限が多くなる。彼らを助けたいと言うのは心からの本音だが、かといって自分が側にいて助けなければならないと言うことでもない。自分が彼らのところにいる必然性はない。


「……しかし、ソロか」


 ソロであることは本来全然かまわない。ちょっと数回のチーム行動を経験したうえで一人に戻るのは寂しい所だが、前回もソロだったわけだしそこまで気にならない。問題はソロで受けられる依頼、可能な仕事だろう。自由度は一人であるため高いが代わりに報酬が問題になる。複数なら報酬がいいわけでもないが、一人でやる以上に難易度の高い依頼も受けられるし、受けられる範囲も広い。ソロだと受けられる種類が少ない。これはかなりの弊害である。

 あと一人であるゆえに危険度も必然的に高くなるが、こちらは依頼内容を考慮しておけばある程度はどうにでもなる。一週目だって初めての一年の経験だったがどうにでもなった。最悪の場合逃げることもできる。一人だし。


「三日後に講習、となると外出する依頼は日帰りできるものでもあまり受けない方が良いか? 帰ってこられなくなる危険のあるもの、行動が制限される可能性がある依頼は受けない……そうなると依頼は街中のものかな」


 ギルドには討伐や採取などの依頼以外にも街中の雑務に関する依頼などもある。しかし……ギルドの依頼って国への陳情とかそういうものだったのでは? まあ、こういった依頼はそのギルドのある街のものだけだ。もしかしたらギルド側でそういった街の人が頼みたいことを聞き入れて依頼として出しているのかもしれない。


「まあ、ありがたいんだけど……」


 依頼する人、依頼を受けて張り出すギルド、彼らの思惑はさておくとして、そういった依頼はこちらとしては余分な時間でお金になる依頼ということなのでありがたい。内容が倉庫内部においてある物の片づけや整理であったり、引越しの物品運搬なんかであったり、街のはずれの開拓開発の手伝いであったり……どう考えても力仕事ばかりなので不安だが。もしかしてこういった依頼は街の人間が自分でやるのが面倒だから出しているんじゃないだろうな……?

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