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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop10 遠き地の遠き智

 国を跨ぐ……国境越えは簡単ではない。なぜかというと、国境は大抵の場合山や川だからだ。明確な国境線というものはまだこの世界になく、大雑把に山脈のこちら側とあちら側、大河のこちら側とあちら側と言った感じの区別だ。それゆえに別の国に行くのは街道沿いであっても中々大変だ。特に山越えになる場合は。

 冒険者時代であれば相応に事前準備もできるしお金もあるから馬車の利用も簡単だが、今は餞別のお金があるにしても国境を超えることは想定していない。さらに言えば、この時期の街道と違い山などでは盗賊の類がいてもおかしくない。武器もなくお金だけを持ったまま、何にも頼らずに歩いて山を抜けるのは難易度が高すぎるだろう。もっと言うならば……身体能力も家を出た直後の一年前のものに戻っているのだから。

 そういうことなので、国境を越える目的を持つ馬車を何とか探した。この時期には中々なかったが、何とか見つけて持っているお金を全部渡して同乗させてもらった。あっちに行ったら直近のギルドに行って登録して依頼を受けるだろうけれど……それまでの間どうしたものだろうか。生きるだけならばなんとでもなると思うが。薬草や山菜などの自然の恵みの知識はあるし。なんだかんだでクルドさんのチームで活動して来たときに受けた依頼の経験が今も生きている。





 そうしてなんとか隣の国、戦争を仕掛けてくる相手国側に侵入し情報収集を開始する。戦争はおよそ一年後、情報収集と言っても何から集めればいいのかわからない。しかし……重要と思われるキーはわかっている。死神、あの最強最悪の存在だ。今まで三回とも戦争で出てきている。

 今まで相手国側に干渉したことはない。当然相手の陣容が変わるはずもないのだから出てくるのは当然と言えるのだが。最前線にいたわけではないから完全にわかっているわけではないが、戦争の状況で考える限り……死神が積極的に、というか死神しか動いていない気がする。つまり相手国……この国側では死神を動かす前提であると思っていいだろう。つまり死神の存在はとても重要な物だ。


「よくよく考えれば……死神の事って全く知らないんだよな」


 直接あの死神と相対して斬り殺されているとはいえ、死神の情報は全く知らない。知っていることと言えば、絶対的な戦闘能力と大鎌を使用していること、後は……最初の時に印象に残った赤い二つの尾。流石に獣人であるとかそういうことではない。そういうものは存在していない……という話であるはず。一応寝物語か何かで聞かされる御伽噺の中では存在していたような気はするが。思考が逸れた……二つの尾、恐らくは髪だろう。ツインテール、ツーテール。


「現状わかることと言えば……大鎌を扱う点、相当な実力者である点、赤髪ツインテール……これはあてになるかわからないか」


 あまり情報としては確度が低いと思う。でも……大鎌、武器に関してはやすやすと変えられるものじゃないだろう。使う人間は少ないし、教えられる人間も碌にいないはず。そのうえあの実力であれば冒険者ならばまず上位……もしくは国の軍に所属している可能性もある。少なくとも物珍しさで噂にならないことはないだろう。何らかの情報を得るのは難しくないはず。


「聞き込みとかそういうの苦手なんだよなあ」


 最初の時とかでもそうだったが……人付き合いは良い方じゃない。対人関係はまず積極的に接触すると言う点が特に苦手だ。でも、やるしかない。自分で決めたことだ。冒険者、商売人、情報屋、何でも使って……可能な限り、やれる限りを全力でやろう。






「ありえない。情報ゼロとかないから」


 冒険者として登録したギルド、その周辺の様々な商店、他の冒険者、色々と聞き込みをしたが全く情報がない。赤髪の実力者という点においては何人か候補は出せるのだが……実力に関する話は自分で見たあの絶対的な戦闘力と比べると聞いた限りの内容では月とスッポンだ。それに見た目が明らかに少女であるとわかってるのだからそれ以外の容貌なら完全に否定できる。つまり情報は外れ、彼女の情報は全く入ってこない。一応大鎌使いという点でも幾らか調べてみたのだが、そちらでも情報は全く入ってこない。

 この世界の情報伝達は当然ながら確実、完全な物じゃない。人から人の噂や、実際にその場所の活動での武勇伝、商人同士での情報のやり取り間での物、情報屋関連からなど、基本的に人から人へと伝わる形でが主だ。そういった伝達の中で思い込みや情報の一部喪失、伝言ゲーム的な変質などが起こり得る。場合によっては必要な部分だけ伝わって他はまったく別の情報になったりすることもあるだろう。そういった、様々な形で伝わったり伝わらなかったりするものであるため、一ヵ所での情報収集では情報が手に入らない可能性は大いにある。

 そういうことで冒険者ギルド間を転々とする。冒険者ギルド自体は各所の大きな街に存在し、登録した国内であればどこでも活動できる。活動できないのは国外の場合だ。そうして仕事をしてお金を溜める。最初の時と同じように現状ソロ冒険者なのでなかなか大変だ。仲間の有難みを思う。情報収集にもお金は必要だ。貯める前にでてばっかりだ。幸いにも冒険者として三年間の知識と経験があるので初心者ながらも初心者以上に活躍させてもらっている。

 そうやって各地を転々として情報を集めているが……やはりなかなか集まらない、というかまったく情報がない。


「どう考えても変だ」


 あの大鎌を使う死神が本当にぽっと出の存在であるとは考えづらい。仮に突然出てきたのであれば、本当に唐突に戦争が行われたと言うことになる。それにしては相手側の準備は相当に用意周到だった。唐突だったなら何らかの戦争に向けた動きがあって隠しきれるはずがない。それが存在しないと言うことはつまり隠してたと言うことであり、事前に周到に、かなり前から準備をしていたと言うことになるはずだ。

 つまり死神に関してもなんらかの準備があるはずだ。まあ、ここまで完璧に隠しながら戦争の準備をしていたのだから死神に関しても隠しているという可能性はある。

 そうして……どんどん国の頂点、王の存在する王城が存在する王都に近い場所まで来た。ここまで来ると死神っぽいかもしれない冒険者の情報も増えてくるが、やはり合致する大鎌使いの情報はない。しかし少し気になる話を聞いた。大鎌に関しての話……使い手に関しての情報ではなかったのだが、大鎌という武器に関しての情報である。思わぬ形ではあるが、確かに武器が珍しいのであれば、使っている武器に関して考えるべきだった。そして手に入った情報がまた大きなものだった。

 この国の国宝、この国ができる前から存在していたと言われる武器……それが大鎌であるという話だ。それが役に立つ情報であるかと言われると困るところなのだが、しかし何も関係ないことかと言われるとそれは違うと感じる。

 死神はこの国の戦争の時先頭に立っている。絶対的な力を持つ先導者に自分の国の国宝の武器を持たせれば国の象徴、力の象徴としてはこれ以上ないだろう。味方の士気は上がるし、その死神が相手を殺しまくれば相手の士気を下げる。

 そしてこれ以外の大鎌の情報というのが今のところない。普通大鎌という武器を使う人間は少ない、というかほぼいない。だから逆の発想で使い手ではなく武器の方から調べると言うのは悪くない話だと思われる。


「……しかし国宝か」


 国宝ということは王族の所有物だろう。つまり死神に関しての情報は王族が関わっている可能性がある。そもそも国宝に関しての情報を集めると言うのも難しい話だ。何でそういう情報を集めているのか、怪しまれかねない。


「慎重に情報収集だな……」


 慎重に、焦らず情報を集める。そう考えていた。






「あれ?」


 いつも通り情報収集にお金を使い、仕方なく安全性があまり良くない安宿に泊まり寝た……はずだ。三年も冒険者をやっていたのだから身体能力は落ちても感覚や直感に関しては十分以上に優秀なものとなっている。

 しかし……寝たはずの宿ではなく、いつのまにかここにいた。自分の生まれた家、その自分の部屋に。


「戻ってきた?」


 訳が分からない。宿で眠っていたはずなのに、いつの間にか最初の日に戻るなんて。それはつまり何かが原因でループをしたと言うことだ。


「…………まさか」


 今までの時はループは戦争の時に起こっていた。そして最初の日、成人した日の朝に戻されていた。だから戦争までは生きていられる、戦争以外でのループはないと無意識に思っていたのだろう。しかし実際は違う。途中で死ぬことだって当然ある。当たり前のことだが。

 そして、ループしたと言うことはつまり自分が死んだと言うことだ。その理由は何か。安宿故にチンピラにでも襲われたか? いや……流石にそういったものならば気づく。恐らく考えられるのは本物の暗殺者などを使われた可能性。実力が上がっても一般人レベルでの話だ。

 そういった相手に殺され死に戻りをした……それが語る事実は一つ。


「やっぱり都合が悪いってことか」


 死神、大鎌。そういったあの戦争に出てきたあの存在について調べること。一応中心的に調べていたのは大鎌に関してだが、武器を調べれば当然その使用者に関しての情報にも手が届く。もしかしたら所有者である王族に関して調べていると思われた可能性もあるが……それにしてもいきなり暗殺者はどうだろう。ここはやはり死神に関して調べられるのが問題であると考えていたと思うことにする。ちょっと楽観視したい。これ以上の面倒は嫌だから。

 ただ、そうやって死神の情報を集めていたがそれ以外に関しても手は伸ばしていた。戦争に関しての情報もまた重要なことだからだ。そもそも、死神に関して対処するのは重要だが前提である戦争を起こさせなければ全く問題はない。しかし……戦争に関しての情報は集まらなかった。起きる予兆が全然見えてこない。確実に起きることはわかっているのに。恐らくだが、やはり死神に関しての話と同じく隠されているのだろう。王族が関連している以上そうそう手を出せるものじゃない。


「戦争は回避できない……恐らくは」


 あそこまで完璧に隠されていれば事が起きるまでは全く気付かないだろう。仮に戦争が起きるかもと言った所で信じられないだろうから意味はなさそうだ。

 戦争が回避できそうにないのであれば、もう打てる手は少なくなる。死神を倒し戦争に勝つ、もしくは逃げること。自分が生き残ることを最優先にするなら逃げればいい。でも……死んでも次がある自分はいくらでもこの命を使える。なら答えは決まっている。勝つ手立てを見つけるまで戦う。死神に勝って、仲間の五人を生かす。それだけだ。

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