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ループ  作者: 蒼和考雪
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loop1 死神の鎌

 目の前に死の影が迫る。暴風のように血と肉片をまき散らす鉄塊が振るわれ戦場で荒れ狂っている。恐怖に足が竦み逃げを選択する事を拒んでいる。自分だけではなく、他の冒険者も似たようなものだろう。

 死を間際に控えたせいか昔のことを思い出す。いわゆる走馬燈という奴だろうか。そんなものを思い出している間に逃げればいいのに、と心の底のどこかで思ってしまう。


 走馬灯で思い出すのは今より過去の話。

 昔話をしよう。自分はもともとこの世界ではない別の世界で過ごしていた。生まれは地球という星の国は日本。ごくごく普通の日本人として生まれ、だいたい十八年ほど生きてきた。

 そんなある日、唐突に意識が黒く塗りつぶされたかと思うといつのまにか真っ白な空間に自分がいた。空も足元も周囲一帯地平線の先まで真っ白で何もない空間だった。いきなりそんな場所にいたためか現実感は薄く、自分の体もあまり感覚がなく、まるで夢の中にいるかのように思えた。しかし夢とは違う妙な現実感や、夢ではありえない認識が夢であることを否定していた。

 ここはどこだ、そんなことを思いながらしばらくその場にいると世界に声が響く。その声は自分が神であると名乗り元々いた世界で俺は死んでしまったと言うことを告げられた。死んだ、と言われても納得がいくはずがない。車にはねられたわけでもなく、病気で死の淵にいたわけでもなく、本当に唐突に死んでしまったためだ。そのうえ死んだ時の記憶は曖昧だ。確かどこかの歩道を歩いている時だったように記憶しているが。

 死を否定する声を上げ、神ならば元の世界に戻せるのではなど様々な言葉を叫び死んだ事実への抵抗をした。しかしそんなことは神にとっては何の意味もないことであったのかもしれないし、そもそもこちらの生死はどうでもよかったのかもしれない。こちらの言葉を聞き入れるつもりがなかったのかもしれない。神はただ一言、「お前の願いを叶えてやろう」と俺に告げただけだった。その言葉と共に、どこからか手が現れて俺を掴み、空中に黒い穴が開いたと思うと俺を掴んだ手が俺をそこに投げ入れた。そして黒い穴を通過しているうちに俺の意識は消失し、次に意識が目覚めた時は生まれて暫くしての赤ん坊だった。離乳食の時期あたりからだったのはある意味運がよかったかもしれない。


 異世界転生は昨今の一ジャンルとして成立し、いくらか二次創作やライトノベルに手を伸ばしていれば一度は触れたことがあるだろう。自分はどちらかというとそこそこ触れている方で、相応に知識がある。だから生まれた所が一般的な田舎の農家だったのは少々残念に思った。

 思えば賢しい子供だっただろう。農家の子供として、農業改革に色々と取り組んでみた。いわゆる内政ものの内容だが農業高校に進んでいるわけでもなく、その手の作品を読んでも知識はそこまで入念に持っているわけでもない人間が革新的な発展を行えるはずもなく、小さな成功と複数の小さな失敗があっただけだった。

 それでも、成功がないわけでもないのだが、農家の子供がしたことが子供自身の評価につながるわけでもなく家の評価が上がるのみ、それによる収穫の増加などがあっても自分自身の運命が変わるわけではなかった。

 自分は田舎の農家の四男として生まれていた。この手の多産の傾向はこの世界の田舎の方では多いが、そこまで多いと言うわけでもない。あまりに多すぎると今度は必要な食糧が足りなくなる。多くて五人、少なくて三人くらいがだいたいの農家の子供の人数だ。

 こうして生まれた子供のうち、基本的に長男が家の畑を継ぐことになる。それ以外の子供では次男が長男のスペアおよび手伝いとして残されることはあるが、多くの場合三男以降の子供は成人と共に家から出されることになる。そうして家を出た子供は自分で仕事を見つけるしかない。


 この世界の子供の成人年齢は十五歳。雪解けの始まった季節、年の始まりとされる風の季節の始まりの日、俺は成人し家を出た。家を出る子供には幾らかの支度金を持たされる。この支度金は俺が貰う分は他の子供……恐らくは先に家を出た三男の兄を含めたうえで他の家を出る子供達よりも若干多かったように思う。これは俺が家に貢献し、収穫を増やしたことが影響したのだろう。成功だけではなかったが失敗はダメージが少なくなるように注意していたのでそこまで問題にはなっていなかった。ただ、その成功ゆえに頭がいいと認められていたからか、安心して送り出された。悪いことではないが心配されないのは寂しかった。

 こうして家を出た子供の基本的な就職先は冒険者稼業である。この世界にはよくお話に存在する冒険者ギルドと呼ばれるものがある。自分の知識であれば商売人になることもできるかと思ったが、世の中はそうそう甘くはない。ハローワークのような職業紹介所みたいな場所はなく、商人は基本的に商売関係者でなければなるのが難しく、自分がなる可能性があったとすればむりやり商家に売り込みをかけるくらいしか方法はなかった。

 もっとも自分にはそういったことを考えつかなかったのだが。商売やそのほかの仕事やるよりも冒険者として仕事をする方に憧れがあったからだ。ゲームや小説でしか見られない冒険者稼業を実際にやれるとなると、それが過酷であることを理解していても挑戦したくなるものだ。

 冒険者の仕事は主に魔物と呼ばれる特殊な動物の討伐や、迷宮と呼ばれる過去に作られた多くの遺物がのこる遺跡の類の探索や調査、一部の戦闘能力のない人間では取りに行けない場所にある薬草類の採取など、基本的には危険の伴う仕事である。ゆえに冒険者はいつでも人手不足である。誰でも冒険者になることができるのはそういう事情があるからである。


 初心者冒険者として、最初に選ぶ仕事や仲間というのは意外に重要なものだ。チームに誘い誘われ一緒に仕事をして連帯感が生まれチームの一員となる。ただ、このとき俺は一人で仕事をすることを選んだ。

 初心者冒険者というのは自分たちの強さや冒険者として相対する相手の強さを理解していない。それゆえに最初に選ぶ仕事の選択で身の丈に合わない仕事を選び死亡や失敗をしたり、生き残り助かるものの再起不能になったり恐怖から冒険者をやめることになったり、チーム自体の不和によりチームが解散することもある。それでも五体無事で生き延びられているケースはまだ救いがあるのだろう。

 その手のセオリーを知っている自分は、簡単で誰でもできるような危険のない冒険者向けとは思えないような仕事を選んでしまった。そんな仕事を最初に選ぶ冒険者はほぼ存在せず、ゆえにチームを組むことができなかった。この選択が後々まで尾を引くことになると自分は知らなかった。

 最初にチームに入らず仕事を受けた結果、同期の仲間が連帯感を持ったチームを組んだことで赤の他人である自分がチームに入ることが難しくなり、結果として一年間の間殆どの仕事をソロで行うことになった。時折ソロである自分を仕事に参加できないメンバーの代わりや仕事を受けるうえでチームメンバーだけでは人数が足りない場合の補充要因として他のチームの手伝いをすることはあったが、基本的にはソロでの活動となっていた。いつしか同期でソロをやっているのは自分一人だけとなっていた。仲間がいなくなったことはかなり寂しく思った。


 そうして一年間、冒険者としての活動をしていたのだがそんな折にギルドでの冒険者全員を招集する大規模な招集があった。ギルドでの招集はそこまで珍しいものではなく緊急の依頼が出た時のような場合でちょくちょくあったのだが、全ての冒険者を招集するような大規模なものはこのときのものが初めてだった。

 冒険者ギルドでの仕事というものは基本的に前述した採取や討伐、探索などの冒険が主だが冒険者ギルドには別の顔もある。冒険者ギルドはよくある多くの国家にまたがって独自の権限を持つ自由を謳う組織ではなく、国営の組織なのである。依頼も国が各街からの陳情や要求をギルド側に提供している形だ。

 今回の招集は国にとっての重要な出来事、冒険者を全員要求するほどの戦力が必要な事態。すなわち戦争である。兵士や騎士などもきちんと存在するが、冒険者を戦力としてもともと考慮しているものであるようだ。ギルドも国営、国からの恩恵を受けている以上そうそう断ることもできないし、国防に冒険者を戦力として出さないのもおかしな話だ。

 最も戦争は戦国時代の合戦のように場所を選びそこで戦いを行い勝敗で国奪りを決めるようなものであるようなので本当にそれだけの戦力が必要であるのかは疑問だが。

 自分もそれに参加することになった。自分も冒険者なのだから当然である。冒険者の仕事として、人を殺したことがないわけでもない。戦争で人を殺せないということはない。大規模な人と人の殺し合い、それに参加する覚悟はできていた。






 ただ……その戦いに問題があった。その戦場にすべてを殺しつくす死神の化身のような化け物が存在すること、それを誰も知らなかったということである。







 死神と言ってもそれは比喩表現だ。本当の意味で死神というわけではない。状況的にそう呼称するというのが正しいというだけだろう。もっともその暴風のように振るわれているのが大鎌だからというのもあるのだろうが。

 その大鎌が振るわれ冒険者が一瞬で血と肉塊に変わる。斬られて上半身と下半身が泣き別れする、首が空高くに跳んでいく、真っ二つに切り裂かれる、それくらいならば残酷であってもつらくはないだろう。あまり長く痛みに苦しむことはないのだから。遠くに見える死体の中には、四肢のうちの二つが欠損したものや腹や胸を切り裂かれ内臓がでているもの、切り裂かれ大きなけがを負っただけですぐに死ぬことはなかったのだろう死体もいくらかある。あれらは恐らく苦しんで死んだのだろう。中には大鎌を鈍器として扱われひしゃげた死体も存在していた。実に多芸な暴風である。

 暴風と表現しているが、そう表現するしかないくらいに大鎌が振るわれている向こう側が見えない。見にくい。それは大鎌が多くの冒険者を巻き込み血煙を作っているからだろう。今は彼らが肉壁となって暴風を抑えているが、いつかあの暴風は前方に存在する冒険者の肉壁を超え、ここまで来るだろう。

 冒険者たちの多くは勇敢に死神の暴風に立ち向かい、その体を肉片に変える。もちろん全ての冒険者が勇敢であるわけもなくあれだけの死体を生み出す死神の暴風を見て逃げ出す冒険者も少なくはない。もっとも逃げられるかどうかは逃げることを選ぶことへの躊躇やそれを選んだ時の冒険者の位置によって違ってきているが。大半は逃げを選ぶ前に暴風に巻き込まれ死んでいる。

 しかし、そうして逃げを選んだ者、勇敢に立ち向かっていた者、そういった者達が行動したことで冒険者たちの間に空白の地帯ができる。それゆえに、死神の振るう大鎌の暴風がよく見える。自分の周囲の冒険者はその空白ができたこともあり、どうするべきかの選択に迷いや躊躇が感じられる。あまりに酷い惨状ゆえにまごついているのだろう。自分がそうだからこそよくわかる。腰を抜かした者や恐怖で足が動かない者もいるかもしれない。そんな中で悲鳴のような叫びが上がる。


「化け物だあああああっ!!!」


 声の主の方を振り返ると叫び声をあげながら死神の方向とは逆に逃げていた。それに追従し、何人かの冒険者が逃げ始める。その恐慌は周囲の冒険者に伝染し、逃げる冒険者が加速的に増え始める。

 自分はどうするべきか、一瞬迷うがあの死神に立ち向かうという選択を選ぶのは自分の実力では難しい。ならば逃げるべきだと考え逃げようと決める。しかし、その選択を選ぶのが自分は少し遅かったようだ。空白地帯が生まれ、死神の周囲の冒険者がすべて刈られたことで死神が一気に地を駆けこちらへと向かってくる。それはまるで流星のようだった。逃げ遅れた自分の前に死神が迫り、その鎌が閃く。一瞬で上半身と下半身に分けられ、自分が死に向かう実感が生まれた。一度死んだことはあるものの、あの時は本当に唐突で死んだなんてことが分からないくらいだったが、今回は本当に死に向かうのが実感できた。その死の一閃の時の記憶は強烈で、脳裏に焼き付いた。その時見た、二つの赤い尻尾が強く印象に残った。







 それが生きていた自分の、最後の記憶となった。

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[気になる点] >冒険者の仕事は主に魔物と呼ばれる特殊な動物の討伐や、迷宮と呼ばれる過去に作られts多くの遺物がのこる遺跡の ここのtsはもしかして「ta(た)」でしょうか?
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