女王の国
ここから本編に入ります。なんども申し上げますが、2014年に投稿していた『背中合わせの女王』の改稿版です。第1章まではそんなに変更はないかと思いますが、その先は変更が加わるかと思います。
読んでから、「前の方がよかった」と言ってくださる方もいるかもしれませんが、その方は以前のバージョンも残っておりますので、そちらをご覧ください。
何があっても大丈夫だぜ! というかただけこの先にお進みください。
気づかなかったのは、私が甘かったからだ。気づいた時には、すでにもう、引き返せないところまで来ていた。
身内だからと、油断した。彼の思惑に気付けなかった。罠にかかってしまった私はどうするべきか? ……ただ死ぬだけではつまらない。彼に、一矢を報いなければ。
だから、私は反旗を翻す。今日まで尽くしてきた女王に対して、謀反を起こす。
これは決して成功しないだろう。私の思惑を知れば、必ず彼女が後を追ってくる。
それでいい。
きっと、彼女なら正しい判断をしてくれる。
ただ、彼女の心に傷痕を残してしまうだろう。それでも、彼女が生きられるのなら、私は彼女が生きられる未来を選ぶ。
このレドヴィナ王国に新しい女王が誕生した。
レドヴィナ王国は王政国家だが、その制度は独特である。王族が存在しないのだ。つまり、王位は血縁相続ではないということである。人々は、この独特な制度を持つこの国を選挙制女王国と呼んだ。
即位するのは必ず女王。初代国王が女王だったから、という話だが、真相は不明である。
女王の任期は二十五年。大体、十五歳から三十歳までの女性が即位する。女王の子どもだからと言って、女王になれるとは限らない。女王は国民選挙で選ばれるためだ。
女王になれるのは大公家、公爵家の娘のみ。女王候補として教育を受け、その上で選挙が行われる。女王候補には国民すべての目が向けられていると言っても過言ではない。頭がいい、美しい、だけでは女王になることはできない。国民は自分たちを治める女性の人柄を見るからだ。見ていない、と思っても、人は結構よく見ているものである。
国民すべて、と言っても、選挙権があるのは貴族と一定の富裕層である平民のみ。選挙権を金で買うのである。まあ、爵位を売買できるのでそんなものだろう。
大公家、公爵家にいつも都合よく女王になれる年ごろの娘がいるとは限らない。だから、ちょうど女王になれる年ごろの娘がいれば、その家は女王を輩出しようと必死になる。
女性である以上、結婚して相手の家に入ってしまうと、女王にはなれない。しかし、婿を取ったり、女王自身が爵位を持つことは可能である。つまり、大公家、もしくは公爵家に名前を連ね、所属していれば女王候補となるのは可能なのである。
先代の女王が即位するときは、陰謀により女王候補の女性が二人亡くなったのだそうだ。そのためか、先代の女王は強い女王だった。
しかし、新しい女王は違う。優しく、聡明で、美しい。だれもが、彼女が女王にふさわしいと認めた。ライバルである女王候補たちでさえ。
レドヴィナ王国の戴冠式は、先代の女王から新しい女王に王冠が引き継がれる。今、先代の女王が新しい女王に王冠をかぶせ、王笏と宝珠を手渡した。
その瞬間、戴冠式の参加者から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
これから、レドヴィナ王国はよりよくなっていくだろう。
人々は、そう信じて疑わなかった。
そして、それはきっと正しい。
だが、その陰に、もう一人の女性の姿があることを、忘れてはならない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。