第七話 デザート付きでお願いします!
「それにしても、いい男だったわよねえ」
次の週末、あかりと買い物に出ていた。途中で帰った腹いせに、昼ご飯をおごらせた。
「誰が?」
雑誌で見つけたお洒落なレストラン。情報に敏感なOLが集うらしいそこは、少しお値段が高めだけど、味は最高だった。
「あの刑事さんよ、決まってるじゃない」
誰よ。
「わかんないの? あんたが泣いた時、前に立っていたいい男よ」
あの人刑事なの?
「顔はよくても中身が好みじゃないわ」
運ばれてきたシーザーサラダと甘いコーンスープを味わいながら言うと、あかりは冷めた目を私に向ける。
なによその目は。
「あんたねえ、顔がよければ男はいいのよ」
いいのよって・・・あんた、なに断言してんの。
「それが失敗する元とは思わないわけ?」
ここのスープは絶品だわ。生クリームの甘さが後に残らなくて、旨さだけが心に残っていく感じが最高。
「思わないわ。それよりあんた、サラダも食べなさいよ」
シーザーサラダよりはゴマドレッシングのやつが好き。
「好き嫌いしないで食べなさいよ」
「嫌いじゃないもん、好き好んで食べないだけだもん」
そっとサラダをあかりの方へ押しやると、有無を言わさず返された。
「そんなことだから彼氏もいないのよ」
ぐっ、数ヶ月分の心の傷をえぐるなんて、なんて親友だ!
「それにね、男は顔と金よ」
言い切るな!
「金を持っていない男なんて価値はないわ」
大きな声で何を言っているんですかあかりさん!
「そんなことないわ。男は中身よ」
「中身なんて後でどうとでもなるわよ」
なるか?
「いい? 男は顔よ、あんたも早く彼氏作りなさい。休みの度に呼び出されるのは迷惑だわ」
ハッキリ言ってくれるわね。結構傷付くわよ。
「だって出会いがないもん」
「ないんじゃなくて、気付かないだけでしょ。あんた鈍感だから」
酷い言い草だわ。私にだって恋愛経験ぐらいあるわよ。人並みに感情はあるはずよ。
「鈍感じゃないもん。普通だもん」
「はいはい」
まったく聞き耳持たないってどういうことですか。
「はいよ」
一枚の紙切れを差し出されて、素直な私はそれを受け取る。
「何よ」
「顔はいいけど変な男の連絡先」
誰だって?
「金魚鉢持ってた男よ、顔は良かったでしょ?」
・・・ああ!
「あんた、お世話になった人のことぐらい覚えていなさいよ」
そんな、人を軽蔑するような目で見ないでくださいよ。友達でしょー。
「はい、これ名刺。連絡してやりなよ」
「いつの間に手に入れたんですか、あんたは」
あかりは、返された私のサラダを結局手に取ると食べ始めた。あんたのそういう優しさが好きよ。
「ありがと」
「おうよ」
なんて男勝りなあかりさん。
「でも太るわよ」
「・・・あんた、あたしの奢りで食べ物残す気?」
睨まれた。
「あかりさん、デザートは梨のタルトだそうですよ。楽しみですねー」
「サラダは食べないのにデザートは食べるの。それは好き嫌いっていうのよ」
ふっ、何とでも言うがいい。デザートは別腹って昔から決まっているのよ。
「私を置いて帰ったくせに」
ボソッと呟くと、あかりの目が光った気がした。
「だって暇だったんだもん」
女の友達ってこんなもん・・・
「ほら、メインがきたわよ。食べなさい」
まるでお母さんだ。