第六話 素直に白状します
中はやはり蒸し暑くて、けれど先程よりは人が減っていた。
あの感じ悪い警察官はやっぱりその場にいたけれど。
「落ち着きましたか」
この顔で女嫌いか。
「俺の顔が何か」
いけない、いけない。ついジロジロ見てしまった。
でもこの顔で女嫌いって、かなり損してると思う。
顔だけはいいのよ、顔だけは。
「・・・べつに」
「渡瀬君、この人は僕が担当しましょう」
八橋さんがそっと私と渡瀬さんの間に入る。紳士的な男の背中につい見入ってしまう。
「結構です。今は他にいませんから俺が話を聞きます」
えー。絶対やだ。
私の考えが顔に出たのか渡瀬さんはムッとして、八橋さんは苦笑しつつ私を振り返った。私ってそんなに考えが顔に出やすいかしら。
「僕も暇なんだよ。駄目かな?」
「駄目です。これはウチの仕事です。もう人手不足ではありませんので応援は必要ありません」
即答かよ。この人、融通ってもんがないのか。それより八橋さん、お手伝いでここにいたんだ。本当はどういう仕事をしているんだろう?
「でも君、顔が怖いから。彼女が怖がっていますよ」
うわあ、そんな本人を前にしてハッキリと。
「は?」
ああ、声に怒りが・・・私を睨まないでよ。いくら女嫌いだからって。
ところで、あかりのヤツはどこに行ったのかしら?
「お友達なら先に帰られましたよ。暇そうだったので帰るように勧めました」
だから何故私の考えがわかるの!
「ともかく、こんなことはさっさと終わらせましょう。他にも仕事があるので」
渡瀬さんは淡々と言うと、持っていたファイルに目を落とした。
この人、本格的に嫌いになりそうだ。
「君のための取調べじゃないだろう、そういう態度はどうなのかな」
八橋さんが言いながら私に金魚鉢を手渡す。いや、あんた。こんなもん持たされても困るんですけど。私にどうしろと・・・
「あ、汚さないでくださいね。壊しちゃ駄目ですよ。調書とる間でいいですから」
じゃあ私に渡さないでよ!
「ということで僕がやりますから、書くもの貸してください」
八橋さんは、渡瀬さんの持っていたファイルを取り上げた。
「・・・」
何故か、渡瀬さんは私を睨みながら身を引いた。だから何で私を睨むの!
「大丈夫ですよ。言葉も態度も最悪ですが根は悪くないはずですから」
ニッコリ笑顔で、しかも本人が近くにいるのに言わないで八橋さんっ、私が睨まれるんですってば!
「・・・俺も立ち会いましょう。どうせ暇、ですからね」
渡瀬さんが戻ってきてしまった。
「渡瀬君。暇なら書類整理でもしていてくださいよ」
ふふふんと、睨み合いをしつつどんどん近付く二人の距離。男同士が十センチと離れていない近距離で見詰め合うって、なんだか妙に迫力がある。
「道岡さん、そんなに見つめないでください」
私は道長よ、八橋さん。
「俺たちの顔に何かついていますか」
だって男同士で見詰め合う現場に立ち会うなんて滅多にないじゃない、渡瀬さん。
「いえ・・・こう、なんとなく」
二人揃って「は?」と不審そうな声を出した。
二人の視線が痛くてたまらない。
その後、何故か二人の男に両端を挟まれ、私は素直に白状して解放された。
彼らは私を挟んだまましばしば睨み合っていた。やっぱり仲が悪いみたいだった。