第六十五話 私の扱いやいかに
「とーこちゃん。あめちゃん」
田沼は飴を私にくれるようだ。単語だけで言うのやめてほしい。
「・・・どうも。ねえ、いつ徹さんは来るの? いつ連絡したの?」
「とーこちゃん。とりあえず茶でもしばこ」
し、しばく?
「ちょっと。ごまかそうとしてない?」
「ん?」
「徹さんが来るんですよね?」
「うー・・・・うん。今うちの連中が探しよる」
・・・・ん?
「連絡したんじゃないんですか?」
「ぼく、番号しらんもん」
私の携帯持ってんじゃん!
「・・・鞄返して」
「いやん。寂しいわぁ」
「あなたに乱暴されたって叫びますよ」
もうすでに警察署の中だからあんまり意味ないかもしれないけど。
「もうすぐやって」
にやりと笑った男に、どこか薄ら寒いものを覚えた。その瞬間。
「なんやワレ! いてこますぞ!」
野太い男の声とともに何かが落ちて割れる音。
「ちょ、わっ、俺暴力嫌いなんだけど!」
「邪魔です。さっさとどいてください」
「ひゃっ」
小さな女性の悲鳴のようなものも聞こえたけどきっと気のせいだよね?
「ちょお待て! こんギャキャっ! ぐえふっ」
「邪魔だと言っています。渡瀬君も何をしているんですか。とろくさいですよ」
「だから俺は事務方だって言ってんだろ!」
・・・聞き覚えのある声が怒鳴り合ってる。
「ぅっわー・・・」
ちょっと、こんな事態を作り出した張本人。なにドン引きしてんのよ。
「徹さん! しーとん! ここよ!」
「わ、あかんっ」
大きな声を上げると、勢いよくドアが開いた。しーとんが蹴破ったらしい。
「痛い! 俺の綺麗な足が痛い!」
「君は阿呆ですか。どいてください」
なんか恥ずかしいな、あの二人。
二人の後ろにはボロボロになった男の人たちが凄い形相で立っている。
こわっ! 何あれリアルホラー!?
「無事ですか、透子さん」
「はい、なんとか。でもこのチャラ男がうざくて困っていました!」
私はハッキリ、思っていたことを口にした。ギョッとした顔でまじまじと私を見るチャラ男もとい田沼。
「そらないわ、トーコちゃん」
「嘘ついてこんなところ連れてきたあなたが悪いんでしょ?」
あかりがいなくて良かった。最悪なことになってしまう。
「透子さん」
え、と思った瞬間頭と腰を掴まれて、全身で呼吸する徹さんに抱きしめられた。
耳元で響く荒い呼吸に、思考停止したのは仕方がない。気付いた時には何故か渡瀬が私の頭や腕や腰や足、くまなく全身に触っていた。両腕を挙げられて脇の下まで触られた私の扱いやいかに。




