第六十四話 止めてよ、お巡りさん
次に案内されたのは新世界、通天閣の展望台。
「な? すごいやろ?」
「すごいです。あなたの強引さが」
「いややん。褒めてもビリケンストラップしかでぇへんよ」
いらないから。褒めてもいないし。
大阪の街を見下ろしながら、何故か手渡された不細工なキャラクターのストラップ。
「とーこちゃんはわかりやすいなぁ」
「あなたは理解不能です」
「そう? わかりやすいて言われるけどなぁ」
不審者っぽいのはわかるけど。
「ほな、次いこか」
「どこですか」
「とーこちゃん、大阪初めてやろ? ぼくがええとこ教えたる」
ゴーイングマイウェイ・・・なんつー人だ。
「あの、お断り申し上げます。そろそろ戻らないと・・・」
「あかん」
眉をひそめれば、にやりと笑った男と目があった。
そして連れて行かれたのは何故か警察署。え、警察?
「・・・不審者自ら警察に出頭とか。大阪の犯罪者は真面目なんですね」
言った瞬間右肩を軽くたたかれた。
「いや、何でそうなんの?」
「え? あなたのことですよね?」
「なんで!?」
「え。だから不審者・・・」
「酷い!?」
入口で騒ぐ私たちを、制服警官が迷惑そうに見ているが止めない。いやいや、止めようよお巡りさん。
「弥生ちゃんはこう見えても現役の刑事! 花形! ええやろ!?」
何が?
「・・・警察官って、不審者でもなれるの?」
「なんでやねん!?」
「もういいから、戻っていいかな? なんかあなたといると疲れる」
あ、打ちひしがれた。よし、今のうちに・・・
「って、まち!」
待てって意味かしら?
「まだええやん!」
「私、あなたと違って警察の御厄介になることはしていないもの」
「いやいやいやいやいやいや!? ぼくのどこがご厄介になりそう?!」
もう存在が?
ああ、早く戻りたい。ため息をつくと、男はうっと言葉に詰まった。
「かなんなぁ」
小さくつぶやくと、思い切り自分の頬を叩いた。
なにこの人、本当に怖い。
「よっしゃ、んじゃ行こか」
は?
「中案内したるわ」
「結構です」
「そのうち迎え来るから」
「お迎え? 徹さん?」
「あー・・・・うん」
いや、なんだ今の間は!
けれど、ここで逃がしてくれるようには見えなくて、私は仕方なく男について警察署の中に足を踏み入れた。




