第六十三話 ラーメンおいしい
そこは通天閣のそばのラーメン屋。
「うまいやろ? 店は狭いしあんま綺麗やないけど、ここの最高やねん」
細めの麺は少し固めで、大量の紅ショウガを伸せて食べるのがこんなにおいしいなんて知らなかった。
「おいしい」
「な」
子どものように無邪気に笑う田沼さんは、私と同じトンコツラーメンを食べている。
「とーこちゃん、ラーメン好きなんや」
「はい」
「あ、そう硬ならんで。ぼくのことは弥生て呼んでくれてえぇから」
「全力でお断りします」
ええぇ? と驚いたように声を上げる田沼さん。
「なら、弥生ちゃんでもええよ?」
そういう問題じゃない。
証明の暗い店内で、馬鹿みたいに明るい田沼さん。他のお客さんは気にならないようでそれぞれ味わって食べている。
徹さん達は心配しているのだろうが、いかんせんここのラーメンが美味しくて逃げられない。せめて連絡が取れれば良いが、携帯が入った私の鞄は田沼さんが持っている。
「しっかし、昨日はほんま驚いたなぁ。あの串屋、普段行かのやけど・・・いやぁ、行って良かったなぁ」
ああ、そうですか。
「で? 本命はどっちや?」
飲んでいたスープを噴出しそうになり、慌てて飲み込めば咳き込んだ。
「大丈夫かいな? 水飲んで落ち着き」
誰のせいよ!
「き、昨日から、いったい何ですか!」
「大事なことやん。ほらほら、弥生ちゃんに言うてみ」
何故あんたに言う必要が・・・
スープまで全て頂いて手を合わせた。
「ごちそうさまでした。じゃ、さよなら」
「ちょお待ち! そらないわ!」
立ち上がればまた手をつかまれる。
「弥生ちゃん、今日は暇やねん。可哀想なぼくに付きおうてや」
自分で可哀想とか言うあたり、やっぱり怪しい人だわ。
「八橋がよう行っとった場所、知りとぅない?」
「いえ、まったく」
「え? そやの? ・・・まぁそう言わず、一緒にデートしよ」
言うが早いか、田沼さんは立ち上がって会計を済ませた。
「・・・田沼さん。徹さんを本気で怒らせるタイプですね」
「ぼく、昔から八橋が嫌い。いけ好かん。でも凄い人やと思うとるよ」
金魚鉢マニアだから?
「それより、金魚てどういう意味?」
「は?」




