第六十二話 お巡りさーん!
「朝食ってホテルでとるのかと思ってた」
「あかりさんが断ったそうです。どうせいろいろ回りたかったですし、いいじゃないですか」
どこか楽しげな徹さんに手を引かれつつ歩けば、たこ焼き屋にたどり着いた。
ホテルから徒歩三分。屋台みたいに外で食べるタイプのお店みたい。
「デラせん三つ」
「はいよ」
渡瀬が注文すればすぐに品物が出てきた。
えびせんに、たこ焼きと玉子焼きとチーズがサンドされているそれは、白い紙で包んである。食欲をそそられるソースの匂いがたまらない。
昨夜の飲み過ぎた自分なんて一瞬で忘れてしまった。
「おいしそう」
遠慮なく頬張ると、食べるのが大変。ソースがこぼれて食べにくいったら!
「おっさん。ネギマヨ二つ」
「はいよ」
大量のネギとマヨネーズがトッピングされて、肝心のたこ焼きが見えなくなっているそれを注文した渡瀬は、一つを徹さんに差し出した。
「ありがとう」
「ふん」
仲いいなぁ。・・・私がデラせんを食べている間に、二人はちゃんと全て食べきった。
「食べるの早いね、二人とも」
「お前が遅いだけだ。ああほら、口元ついてんぞ」
紺色のハンカチで拭いてくれる渡瀬は、やっぱりおかんだわ。
「デラせんもうまいけど、大阪は麺類もうまいで」
真後ろから声をかけられて、驚いて振り向けは昨日の田沼さんが立っていた。
「ほな行こか」
え?
「田沼!」
「おいこら!」
徹さんと渡瀬が叫ぶが、彼はそれを無視して走り出した。私のデラせんを奪い、ついでに手を取って。
「田沼さん、起用ですね」
走りながらデラせんを食べるなんて。しかもソースを零さない彼に言う。
「この状況でそれかいな。おもろいなぁ、じぶん」
あはは、と声をあげて笑う彼の足は速く、ついていけるのが不思議なくらいだ。
「あの、どこに?」
「大阪慣れとらんのやろ? 案内したるわ」
「結構です」
ハッキリ断れば、いきなり足を止められてこけそうになった。
「とーこちゃん、やったか? じぶん、八橋の彼女?」
「友達です」
「ふぅん?」
ニヤニヤ笑う男から離れようとしたけれど、握られた手の力が強くて外せない。
「行くで」
「どこにですか」
「案内する言うたやろ?」
頼んでないのに。
「徹さんに、大声をあげるように言われました。叫びますよ、本当に」
睨みながら言えば、何故か更に笑われた。
「そう警戒せんでええよ。ぼく、ええ人やもん」
どこが?
「安心しぃ、大丈夫やて」
なにが?
「それに、おもろいもん見たない?」
「おもしろい、もの?」
どうしよう、本当に叫んだほうがいいのかな。なんだかヤバそうかも。
「八橋のこと、知りたない?」
「・・・」
ちょっとだけ、心がぐらついた。だって私は彼のことをほとんど知らないから。
「ほな、いこか。うまいラーメン屋、知ってんねん」
あ、やばい。更に心がぐらついた。




