第六十話 十分酔っ払い
「・・・俺はあんたが一番変人だと思っていたが、こいつも相当だ」
「いや、これはあれですよ。ブサ可愛いとかいう存在なんですよ、きっと」
チーズスティックの袋を開けて一本口に入れる。
「それにしても、あかりはどこに行ったんですかね?」
ブサ可愛くてなにが悪い。サメの頬を撫でながら口を開く。
「あいつか・・・まあ大丈夫だ。殺そうとしても死なねえ」
「殺人鬼だって恐れおののいて逃げますよ、あかりさんなら」
二人とも、なんて爽やかな笑顔で言うのだろうか。
「だいいち、なんで急に大阪なんだ?」
「彼女のすることに無駄はありませんよ。きっとなにか理由があるのでしょう」
徹さんはどうやら、あかりに一目おいているらしい。
「いや。それはないだろ。あいつは自分が楽をすることしか頭にない女だぞ」
そうかなぁ? 首を傾げていると、二人が同時に私を見た。
「お前、なんであれと友達なの」
あれ呼ばわりですか・・・
「それは確かに、ずっと不思議でした」
徹さんの言葉に首を傾げ、ビールを一口飲んで天井に目を向けた。あかりと出逢ってからあった、いくつかのことを思い出すために。
「そうですねぇ・・・あかりって、昔ストーカー被害にあったことがあるんです」
「あいつにストーカーする変態がこの世に二人もいるなんて驚きだよな」
それってもしかして正月に捕まった、あかりの恋人の元上司の事だろうか?
「でも当時警察はなかなか動いてくれなくて、あかりがついに切れちゃったんです」
「高校時代の彼女はバットで男を殴り飛ばせたのに、ストーカーは無理だったんですか?」
徹さんの中であかりの立ち位置って・・・・
「流石にこそこそ付きまとう正体不明の相手にはちょっと・・・」
でも彼女はあきらめなかった。使えるコネを総動員して問題を解決したんだ。普通の女子高生では出来ない事をした彼女は凄い人だと思った。
でも別に、彼女は怖くなかったわけじゃない。
誰もいない時は不安そうにしていたし、ただ誰かに甘えるのが下手なんだ。
そう言えば、男達は何か考えるように黙り込んだ。
「他にも、文化祭の時クラスでお化け屋敷をしたんですけど、貞子役になったあかりが楽しそうにお客さんを追いかけて行って、阿鼻叫喚だったこととか」
あれも楽しかった。高校二年生の文化祭の事は一生忘れない。
「あ、あと、校外学習の時ハイキングの途中で猿が出たんですけど、他の生徒が逃げ回る中あかりだけが猿と睨めっこして勝っちゃったんです! 最後は猿が逃げて行って拍手喝采貰ったあかりの笑顔がすっごく可愛かったんですよ。あかりと居ると、毎日が楽しくて、時間が経つのが早いんです」
ふふふ、と笑うと渡瀬が低い声で言う。
「お前さ、馬鹿?」
「なにがよ」
イチゴ味の酎ハイをちびちび飲みながら渡瀬は続けた。
「そういうのは可愛いとは言わねーよ。むしろ怖いわ。野生のサルとガンつけあうとか、普通の女はできねーから。つーか、毎日楽しいっていうより毎日恐怖だわ!」
酔っているのだろうか、いつもより物言いがキツイいような気がする。
「えー、そうかなぁ。心強いと思うけどなー」
「まあ、流石あかりさんということで。あ、透子さん。そっちのするめ下さい」
徹さんが私の前に置いてあるするめに手を伸ばす。
「おい、チョコは?」
「袋の中にあるから自分でとって」
私の言葉に頷いて、白いレジ袋からチョコレートでコーティングされたクッキーを取り出して食べ始める渡瀬。
「・・・見ているだけで胃がもたれそうな組み合わせですね」
あなたの顔と酒の銘柄も驚くべきものですが。
「徹さん、今日はお酒強いですね」
「ふふふん。驚きましたか?」
「いや、十分酔っ払いだろ」
あんたが言うな。




