第五十九話 キュートな瞳がたまらない
私達は店を出てホテルの隣にあるコンビニに入った。
そこでビールや酎ハイとおつまみを買ってホテルに戻ろうとした瞬間、渡瀬の提案で斜め前にある小さいゲームセンターに入った。クレーンゲームばかりのその店は、夜遅くても明るく騒がしい。
「か、かわいい・・・!」
「お前さあ、前から思っていたんだが・・・」
渡瀬が言い終わる前に徹さんの腕を掴んで言う。
「あれが欲しいです」
「悪趣味です」
即答された。ひどい。
「だって、可愛いじゃないですか!」
「これが? 透子さん、頭大丈夫ですか?」
先程の二人のせいか、どこか不機嫌な徹さん。
「取ってください。私、こういうの苦手なんで」
二人が嫌そうに私を見るので、問答無用で小銭を機械に投入する。
「さあ!」
「いや、さあ。じゃねえ。お前しっかり酔ってるだろう」
そう言いながら徹さんを押しやる渡瀬。自分はしないつもりなのだろう。
「逃げましたね、渡瀬君」
「知らないな。ほら、やれよ」
「・・・・で、どれが欲しいんですか?」
おお。結局やるのか!
「あの水色がいいです」
水色リボンを付けた、目付きの悪い猫が赤い金魚を口にくわえているぬいぐるみだった。
あの目付きの悪さが素敵だ。
「・・・いや、あれはちょっと」
「駄目です。却下です。聞きません。だって私はあれがいい」
ふはははは。と笑えば横から渡瀬が口を挟む。
「あれなんてどうよ」
「おお!」
金魚を網焼きにして、その前でナイフとフォークをかまえる黄色いリボンの猫。
なんか素敵だわ。
「おお、じゃないですよ。二人して酷いです」
「徹さんが好きなのは金魚鉢。あれは金魚です。ほぅら、問題ないでしょう?」
徹さんはまだなにか文句を言っていたが、結局八回もチャレンジして二つとも取ってくれた。
「リビングに飾りますね」
「イジメですか」
意味がわからないと首を振ると、深々と溜息をつかれた。
ホテルに戻ると、あかりはまだ部屋におらず一枚のメモがあった。
「少しは女だという自覚を持て」
「女の子ですよ? ほら、お酒とおつまみどうですか?」
夜中には多分戻るというあかりのメモを見た私は、先程コンビニで買ったものを持って二人の部屋を訪れた。
二人はすでに着替えており、私を見てギョッとしていた。
ちなみに、徹さんの服は地下街で買った白いティーシャツと灰色の短パン。裸足でベッドに胡坐をかいて座っている。今日は珍しい姿ばかり見ている気がするなぁ。
「俺の酎ハイは?」
「イチゴのやつと、メロンと・・・なにこれ、マスカット・・・甘そう」
袋ごと渡してからふと気付く。
私とあかりの部屋とは違い、狭いツインルーム。二つのベッドもとても近くに並べてある。その距離わずか三十センチ。
「・・・仲良しですね」
近くないですか。そんなに近くて落ちついて寝られますか。
「あ? お前のとこもこんなもんだろ?」
まさか!
そう言えば男たちが動きを止めた。
「ほら、だからおかしいと言ったじゃないですか」
「ああくそ! ぜったいあかりのやつだ! あいつの嫌がらせに決まってる!」
よくわからないが怒っているらしい。
「まあ、休めればそれでいいですけどね」
「いいや、よくない。俺はよくない!」
騒がしい二人を無視してビールを一口飲む。片手には昼間に買ったサメのぬいぐるみを抱いて。
ああ、落ち着く。
「透子さん。ちなみにそのサメは何ですか」
「私の護衛であり抱き枕です」
胸を張れば、二人が呆れたような視線を送ってくるが、もちろん無視。
「ぬいぐるみは護衛になるのか?」
「この凶悪な顔が素敵なの」
うっとりとサメの頬を撫でると、徹さんが恐る恐る声をかけてくる。
「それは、素敵なんですか?」
「素敵です。強そうで格好良いです」
そう、この性格の悪そうなキュートな瞳がたまらない。




